オープンイノベーション、デザイン思考、2020〜日本企業がSXSWを目指す理由

2017.03.17 09:30

『SXSW 2017』出展の日本企業は、何故SXSWを目指すのか?その出展内容と現地にてヒアリングした結果をお届けする。
前回レポート記事はこちら:「"シンギュラリティーは着実に近づいている"〜SXSW 2017で考える未来

日本からSXSWに参加する人数は年々増加している。日本からの参加者のストーリーは1994年に麻田浩氏(現SXSW日本代表)が一人参加した年からはじまる。90年代後半から2000年前半までは日本のメジャーレコード会社が行くようになり毎年200人程の音楽関係者が参加していたが、2011年にシリアルアントレプレナー井口尊仁氏らが参加し始めてからインタラクティブ部門の人数が増え、筆者が初参加した2014年が436人、2016年が約700人で今年は1,000人近くが日本から参加している(有料チケット購入者数約800人)。特に今年は出展社としての日本企業数が増えていた。

■ソニーやパナソニックは製品になる前のプロトタイプを紹介

SXSWではいままでもGoogleやYahoo!、IBMなどのグローバル企業がライブハウスを借り切って、世界中から集まってくるSXSW来場者とコミュニケーションを取っていた。昨年などはSamsungがVRゾーンを構えて話題を呼んだが、今年は日本企業が存在感を示していた。

panasonic-entrance.jpg

パナソニックはSXSW 2017に『Game Changer Catapult』として出展。 

パナソニックは『Game Changer Catapult』(ゲームチェンジャーカタパルト、以下GCカタパルト)という名称でSXSWが開催されるオースティン市ダウンタウンの目抜き通り6th Streetの中心にブースを構え、製品になる前のプロトタイプ製品を紹介していた。"家電領域を中心とした新規事業の創出と、それらをリードする人材育成の加速を目的とし、社外との協創によるオープンイノベーションや、社内でのボトムアップによる新しい事業アイディアの発掘・育成を強化、推進する"ことを目的に2016年7月よりスタートしていた取り組みの発表の場といえる。

panasonic-amp.jpg

テレビ部門のメンバーがテレビのコモディティ化を課題に考えた新しいディスプレイ「AMP(Ambient Media Player)」 

panasonic-suzuki.jpg

Panasonic GCカタパルトの鈴木講介氏(右)とAMPプロジェクトを手がける谷口旭氏(左)。 

出展内容はニューヨークの美大パーソンズと取り組んだプロトタイプ製品の発表や、社内公募で集まった新しい製品アイデア44個のうちから選ばれし6製品アイデアがプロトタイプとして紹介されていた。テレビ部署の谷口旭氏はテレビのコモディティ化を背景に、約3年前から危機意識を持ち始めディスプレイの新たな可能性を探るべくGCカタパルトに参加し、今回AMP(Ambient Media Player)というディスプレイの新しいあり方を紹介していた。家庭内の巨大ディスプレイをテレビ受信機だけではなく、額縁としてアート映像を投影するものとして、また、高品質のサウンドを提供するスピーカーとして利用することを前提としたデザインになっている。その他にも元冷蔵庫部署の方が考える新しいお弁当デリバリーの仕組みやレンジサイズのカロリー測定器なども展示されていた。スタートしてから3ヶ月ごとにチェックポイントを設けてブラッシュアップしており、この3月もSXSW後にレビューが入るとのことで市場の声を拾うことを目的に出展している。指標の一つとしてソーシャルメディアでの拡散や、来場者アンケートなどを実施していた。

panasonic-survey.jpg

来場者にプロトタイプ製品を紹介し、何を目的に利用したいか?アンケートも実施。(欲しくない(Other/NO)は価格が未設定なのでなんとも言えないという票が含まれている) 

今年の1月にラスベガスで開催されたCESでもパナソニックはスタートアップとの協業製品を展示しており、今回のSXSWでのGCカタパルトの紹介を通して"開かれて来た"パナソニックへとブランドイメージが進化している。

sony-entrance.jpg

ソニー SXSW 2017『The WOW Factory』エントランス

これまでもソニーは、研究開発段階のコンセプトプロトタイプを世の中に紹介する"Future Lab Program"や、新規事業創出プログラムから生まれた"MESH"など、プロジェクト単位でSXSWに参加していたが、今年は最新体験型デモを集結させたブースをソニーとして大々的に出展していた。 『The WOW Factory』という名称で倉庫を貸し切った空間で、最新技術を活用したプロトタイプや研究開発段階のプロジェクトにエンターテインメント要素を追加し、来場者に遊んでもらえるインタラクティブな空間を作り上げていた。「SXSWはミュージック・フィルム・インタラクティブの祭典であり、ソニーはそのすべてにおいてビジネス展開している数少ない会社。今回はグループ間のシナジーと外部クリエイターとのコラボを通じてソニーが考える新しいテクノロジーとエンターテインメントの可能性を感じてもらえたのでは。」とビジネスディベロップメント部門統括部長の上川衛氏は語る。

sony-vr.jpg

ソニー『The WOW Factory』内のコンテンツの一つ、VRで宝探しに出かけるアトラクション。まるで遊園地のように楽しめる体験型コンテンツだ。 

パナソニック、ソニーという日本を代表する企業のSXSW出展を確認し、オープンイノベーションとデザイン思考プロセスが日本を代表する企業に浸透している成果を感じる。外部と積極的にコラボをし、社内の人材のモチベーションアップを大切にし、ユーザーからのフィードバックをもらいながら製品を作り上げるプロセスが起き始めている現場に遭遇できたのは嬉しいニュースであり、今後も応援をしていきたい動きである。

■2020を見据えて

AOI Pro.プロデュースのもと開催された『Japan Factory』では、大阪大学 石黒浩教授と NTTシニアリサーチサイエンティスト東中竜一郎氏によるアンドロイドと人間によるディスカッションのデモンストレーションや、日本人スピーカーを中心としたステージが展開されていた。

ishiguro-android-booth.jpg

大阪大学 石黒浩教授と NTTシニアリサーチサイエンティスト東中竜一郎氏によるアンドロイドと人間によるディスカッション

『Japan Factory』ステージの目玉として行われたのは東京とオースティンをつなぎアーティストコラボを行う「"CYBER TELEPORTATION TOKYO at SXSW"」(サイバーテレポーテーション)だ。NTTのイマーシブテレプレゼンス技術「Kirari!」を利用し、オースティンにいるDJと東京にいるアイドルやボーカルらが遅延を感じずに演奏を奏でるものである。まさにテレポーテーションされたかのように、東京に居るアーティストをオースティンで感じることが出来たライブだったのだが、この技術を使うと2020東京オリンピックのスポーツ・ライブ視聴体験が変わりそうだ。 "NTTは、2020年に向けて、世界各地でスポーツの感動を共有することに貢献する"と「Kirari!」の発表資料にも記載されていたが、その実証実験の場として世界80カ国以上から10万人以上が集まるSXSWを選んだのである。

teleportation2.jpg

手前に見えるのが呂布氏(kandytown)、奥に居るのがオースティンでプレイする音楽プロデューサーstarRo氏

サザンオールスターズが東京オリンピック決定をキッカケに作った楽曲「東京VICTORY」に乗せて東京空中・時空散歩を楽しめる「8K:VRライド」は、SXSWトレードショーの中でもひときわ異色を放っていた。ヘッドマウントディスプレイを使わずに8Kで没入感体験を提供するものだが、コンテンツは東京をテーマに過去から現在、2020年に向かう様子を紹介する。2020を意識したコンテンツとテクノロジーの掛け算をSXSWトレードショー展示ブースに来た方々に体験いただけたのだろう。

8K-VR-RIDE.jpg

"8K+ドーム型ワイドスクリーン+モーションライド+5.1ch"の空間でサザンオールスターズの「東京VICTORY」を楽しめる 

■選ばれし5組のアーティストの一人は日本のアーティスト

今年からSXSWではアートプログラムをスタートさせる。世界中から数百の応募があったなかで、選ばれし5組のアーティストの一人は日本人アーティストの後藤映則氏だ。後藤氏の作品は昨年のSENSOR IGNITION 2016でも展示していたので、彼の成功はSENSORSチームとしてもとても嬉しいニュースである。
さて、そんな後藤氏に客の反応伺ったところ「日本よりも海外の人の方が、作品を見たときの反応が良いのですぐにフィードバックがもらえるのはアーティストとして嬉しい。」とのことだった。

この「SXSWに出展するとユーザーの反応がすぐにもらえる」という点がSXSWに日本企業が参加する大きなメリットではないか?と考えている。先述のパナソニック、ソニーの出展者もフィードバックがもらえることがプロトタイプを製品化していく際にとてもありがたいと述べており、わかりやすい反応をしてくれるアメリカで展示するというのも企業がSXSWを選ぶ理由になりそうである。 ただ、そのためにはフィードバックを引き出しやすいプレゼンテーション、紹介方法なども必要であり、来年に向けて検討していくべきポイントかもしれない。

goto-artist.jpg

SXSWとして初めて開催するアートプログラムに選ばれた日本人アーティスト後藤映則氏。彼の別プロジェクトは『SENSORS IGNITION 2017』にも出展予定だ。 

昨年SXSWに視察に来ていたHIP LAND MUSICはミュージシャン「The fin.」のライブをSXSW 2017で手がけており、昨年の視察が今年の実現に結びついている。今年もたくさんの日本企業が視察に来ており来年以降の出展を狙っている。

今年SXSWに出展した企業各社にお願いしたいことはSXSW出展効果がどうだったのか?その成果も可能な限りシェアしてもらいたい。効果的にSXSWを活用していく日本企業が増えていくことにより日本企業のブランド向上(間接的には売上貢献、元気な日本経済)につながることを期待する。

■関連記事
■"シンギュラリティーは着実に近づいている"〜SXSW 2017で考える未来
■IoT、自動運転、音声認識..小笠原治に聞く【CES 2017】イノベーション動向
■ヒーローが救おうとしていた人がいまの世界を救う『ひるね姫』神山監督インタビュー
■「バラエティ番組は人工知能でより面白くなる」 メディアアーティスト落合陽一が語るテレビの未来
■人間をつなげるためにテクノロジーをハックする〜 モーメントファクトリー×ライゾマ齋藤精一 対談

ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後外資系企業のフィールドマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブ会社のプロデューサーを経て2014年株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集、ベンチャー向けのメンターを行う。Mistletoe株式会社フェロー。

最新記事