"シンギュラリティーは着実に近づいている"〜SXSW 2017で考える未来

2017.03.16 10:15

『SXSW 2017』インタラクティブ部門のセッションを中心に、今年のトレンドを伝える現地レポートをお届けする。

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『SXSW 2017』が開催されているテキサス州オースティンにあるコンベンションセンターが会場だ

ミュージック・フィルム・インタラクティブの祭典『SXSW 2017』。テキサス州オースティンで3/10-3/19開催の当イベントに参加する日本人は年々増えている。理由は、様々なジャンルのトップランナー達による示唆に富んだセッションと、企業やスタートアップの取り組みを一気に体感できるからだ。

■イノベーションと政治、新しい働き方が語られる場

セッションはファッションデザイナーのマーク・ジェイコブス、人工知能研究のレイ・カーツワイル、元宇宙飛行士"月に降り立った男"バズ・オルドリン、ゲノム編集/化学者生物学者ジェニファー・ダウドナらが注目のセッションとして登壇し最新動向を紹介した。多様性に満ちたセッションを聞くと新しい発見ばかりで、自分の視野の狭さを思い知らされる。その刺激を求めて毎年世界中から10万人以上の"未来が気になる"人々が集まってくるのだろう。セッション内では「イノベーション」について語られることが多く、ある年などは「イノベーション」という言葉が65万回語られたほどだ。

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「大統領の服をデザインしないのか?」と会場からの質問に「NO」と答えたマーク・ジェイコブス

今年のセッション動向は引き続きイノベーションについて語られることは多かったが、トランプ大統領登場後の混乱の時期ということもあり政治について語られる回数も多かった。例えばファッションデザイナーのマーク・ジェイコブスは会場からの質問で「大統領のファッション担当にならないのか?」という質問に対して「NO」と答えるシーンや、アップルの初代エバンジェリスト ガイ・カワサキなどは対談途中からトランプ政治について語りだす次第だ。ただ、前年の基調講演ではオバマ前大統領が登壇し、ホワイトハウス関係者の登壇する回数も多くSXSWではテクノロジーだけではなく政治も含めて未来が語られる。

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レディ・ガガやダフト・パンクなどの楽曲プロデュースを手がけるナイル・ロジャース。
SXSW 2017の音楽基調講演をつとめた

また、今年の動向として「新しい働き方」について語られる回数も多かったこともトレンドだろう。企業の枠を超えて働くことが多い時代のデザインについて語るセッションや、投資会社デロイトのジョン・ヘーゲルは人工知能が仕事を取って代わる時代の働き方として「多様な人とつながること」「知識の共有」「情熱を持って取り組むこと」の重要性を語った。ミュージック基調講演をつとめた音楽プロデューサーのナイル・ロジャースは相手を思いやる「パートナーシップ」が今後より大切になると述べた。経済効果だけを求める時代は終了し、人間中心のプロジェクトが始動しはじめている、IDEOが語る人間中心、デザイン思考的な考え方が浸透していることが背景にあるように考える。

■シンギュラリティーは近づいている

"シンギュラリティー"について語られるようになって久しいが、その発信源である人工知能研究のトップランナーであるレイ・カーツワイルは 「シンギュラリティーは着実に近づいている」とセッションで語った。人工知能の画像認識率の向上(人工知能は猫と犬を区別できるようになっている)、自動運転精度向上などを例にあげて、人工知能が十分に人間レベルに近づいている証であるというのだ。Googleの人工知能プロジェクトの指揮をとっている人間が語る言葉のひとつひとつに未来が隠れているので聞き漏らしたくないという聴講者が多数いて会場は入場制限が出るほどの人気だった。

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「シンギュラリティーは着実に近づいている」と語るレイ・カーツワイル

■VRにより我々は複数のアイデンティティを持つようになる

レイ・カーツワイルはVRの浸透により「何が現実・真実なのか?」という定義も変わっていくと語った。VRデバイスの普及やコンテンツの質の向上により我々の没入体験はより深くなっている。一つひとつの没入体験の中でアイデンティティを持つことにより我々は「複数のアイデンティティ」を持つようになるというのだ。 そのレイ・カーツワイルの言葉を裏付けるかのように没入体験に優れたVRが複数展示されていたのも今年の特徴だろう。Facebook OculusはVRのキラーコンテンツとして、メキシコの環境問題、ロサンゼルスの教育問題、LGBT含む多様性に対する偏見についてなどNGOや国連が取り組む社会的な問題を短編ストーリー(5分〜10分)として展開していた。テキストや写真、ニュース映像で見るよりも短尺で一気に問題の深刻さを理解できるのはVR没入感のおかげだろう。シルク・ド・ソレイユもVRでコンテンツを提供しており、ステージで見るよりも役者一人ひとりの顔がしっかり見えてドキドキする体験ができた。一冊の本を数時間、数日掛けて読むよりも短尺で強力にメッセージが伝えられるのはVRの強みかもしれない。コンテンツ制作方法も改善されておりVR酔いなどの問題も感じないコンテンツが増えている。VRを見る度に自分のアイデンティティを一つ増やす気持ちで見ていくと、自分の中の多様性が深まったように感じるのは私だけではないだろう。

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ストーリーテリング型のVRコンテンツが中心に集められたVRゾーン

「イノベーション」を語る場所から「働き方」「政治」についても語られるSXSW 2017。人工知能やロボットにより働き方が代わり、人間としての働く、生きる価値を改めて考え始めた時代を肌で感じたのが今年のSXSWの感想だ。

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日本でもSXSWのような語り合う場が増えてきている。来週に控えた『SENSORS IGNITION 2017』でも人工知能や働き方について多く語られるだろう。会場に展示されるVRコンテンツからも新たな"アイデンティティ"を感じてもらいたい。また、SXSWに展示していたプロダクトでSESNSORS IGNITIONでも見られるプロダクトもあるので是非チェックしてみてほしい。

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ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後外資系企業のフィールドマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブ会社のプロデューサーを経て2014年株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集、ベンチャー向けのメンターを行う。Mistletoe株式会社フェロー。

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