【SXSW 2016】米WIRED生みの親ケビン・ケリーが語る「20年後の未来を作るテクノロジー」

2016.03.17 18:45

米・テキサス州オースティンで開催中のミュージック・フィルム・インタラクティブの祭典「SXSW」。「SXSWインタラクティブ」はテクノロジーについて多く語られるイベントです。未来をつくるテクノロジーは何か?テクノロジーをカルチャートレンドのようにわかりやすく伝えてくれる米「WIRED」生みの親 ケビン・ケリーのセッションを紹介し、今後我々の生活に浸透するテクノロジーを考えていきたいと思います。

■SXSW 2016 レポート
#1【SXSW 2016】オバマ大統領らが語った "21世紀型の生き方"
#2【SXSW 2016】スタンフォードのフューチャリストによる「人工知能と仕事」
#3【SXSW 2016】自動運転車が初めて起こした事故から、Googleが得た教訓
#4【SXSW 2016】『スター・ウォーズ』最新作 監督 J・J・エイブラムスが語る「テクノロジーとストーリーテリング」
#5【SXSW 2016】水曜日のカンパネラ 米国での初パフォーマンスにオーディエンスは熱狂

kevin1.jpg

ケビン・ケリー。彼のセッションを聞こうと長い行列ができていました。

ケビンのセッションは2016年夏にリリース予定の新書「Inevitable」(日本語版も準備中とのこと)で取り上げる「今後20年で我々の生活に浸透してくる12テクノロジー」の中から3つのテクノロジーを特別に教えてくれるものでした。ケビンが語った3テクノロジーについて紹介します。

■未来をつくるテクノロジーその1 CONGNIFY(コグニファイ)


「今後20年の話をします。我々が今後一緒に生きていくことになるテクノロジーを暖かく受け入れましょう。 今日は未来をカタチつくるテクノロジーから、3つを特別に紹介しましょう。」とスタートしたケビンのセッションで最初に挙げられたテクノロジーは人工知能、コグニティブコンピューティングらを包含する「コグニファイ」でした(注:「コグニファイ」の言葉の定義については日本語翻訳も絶賛進んでいるという新著「Inevitable」の登場を待ちたいと思います。ここではSXSWでのケビンのセッションの流れを伝えることを目的とし、以降は「人工知能」という単語に「コグニファイ」を包含させていただきます)。

cognify.jpg

コグニファイ(Cognify)はケビン・ケリーが開発した言葉で、人工知能やコグニティブコンピューティングなどを人間が利用する様を指しているようです。

既に我々は人工知能に助けられて生活し始めています。身近なものとしてはApple Siriなど音声認識。さらに医療、ドキュメント管理、飛行機、自動車など人工知能に助けられる分野は広がっています。最近ではAI碁が人間に勝ちましたし、人工知能はどんどん進化しており今後20年も我々の生活を支えてくれるテクノロジーであることが間違いないでしょう。ケビンの話で面白かったのは「IQ as Service」という考え方です。今後、人工知能はどこかの企業や研究所のものではなく、人々がインフラのように使えるようになるという概念です。確かに100年前に電気が出来た時に我々は興奮し、そこから様々な仕事が生まれました。今では電気代を払えば、家庭内で気軽に電気を使えます。同じように 人工知能=IQもサービスとして利用できるようになるというのです。

iq-as-service.jpg

電力のようにIQ、人工知能を支える時代も近いとケビンは言います。

今後のスタートアップもゼロ→イチではなく、人工知能にプラスαをつけることにより生まれてくるかもしれません。そのように個人やスタートアップ、企業がIQインフラを使えば使うほどサービスIQが高くなり、人工知能自身が進化し続けることができるようになります。
よくある議論として人工知能が進化することにより仕事がなくなるのではないか?ということがありますが、ケビンは「人工知能を搭載したロボットが、新しい仕事を生み出す」と言います。生産性・効率性が求められる作業は人工知能に、人間は人間にしかできない仕事をするようになるといいます。今存在しない仕事が生まれてくるのです。祖母の世代に我々がやっている仕事を伝えても理解されないように、我々の孫世代がやっていることは想像もつかないことになっているでしょう。

「我々はロボット・人工知能と一緒に仕事し、生きることになるので、今後は『どれくらい人工知能を使いこなせるか?』が採用試験で問われるかもしれない。」と語るケビンの言葉には現実味を帯びています。私も早速人工知能を使い始めたくなり、セッション後に「今から始めるならどの人工知能と仲良くなっておくべきでしょうか?」と個別にケビンに質問したところ「現在はまだまだどこも同じような感じだね」との回答だったので、まずは自分の身近にある人工知能に触れてみるのがいいかもしれません。個人的にはGoogleのDeepmindからかな、と思っています。

20世紀の我々は「生産性」を求められました。企業が作るソフトウェアも人々の生産性をいかに上げていくのか?ということに注目されていましたが、今やその視点はナンセンスになりつつあるようです。

ケビン:
「人間が従事する仕事に生産性・効率性を求めるのは重要ではなくなります。人間がどれだけ頑張っても我々は食事をし眠る必要があり、生産効率はロボットや人工知能にはかなわないからです。人間は非効率でも良いクリエイティブなものに従事するようになるでしょう。サイエンスは効率性を求めません。イノベーションを生み出すことも、非効率なプロセスのいい例です。そしてアート、子育て、人間関係などは効率化だけを考えていたらやっていけません。効率性を求めるものは人工知能やロボットに任せ、効率性が求められない仕事を我々は選んでいくべきです」。

■未来をつくるテクノロジーその2 VIRTUALITY(バーチャリティ)


ケビンがVRヘッドマウントディスプレイを始めて試したのは1989年のこと。その当時「今後、5年後にVRはくる!!」と思ったらしいのですが、長い時間がかかり、ようやくVRテクノロジーが生活に浸透し始めそうだと言います。

1980.jpg

ケビン「1980年のVRと現在のVRの違いは、スペックではなく価格が安くなったこと」

クオリティ自体は1980年代から変わってないそうですが、値段が安くなったのが大きな進化です。スマートフォンの進化・普及によりプロセッサー、ディスプレイなどVRを支えるテクノロジーが安価に実現できるようになってきていることにより、VRが現在のスマートフォンのような存在になるのではないか、つまりは誰もがVRを楽しむ時代が来るのではないかと考えているようです。

確かに今年のSXSWではVR Expoができたり、トレードショーや企業ブース始め様々なブースでVRを紹介したりしていました。その種類も豊富で自分の頭を動かして楽しむSwivelタイプ、NASAブースでも紹介されていた一定空間内を移動することにより体験するローミングタイプ、SAMSUNGはシミュレーション4Dと組み合わせて楽しむタイプ、など様々なタイプのVRが出始めています。ケビンはファーストパーソンビューFPVゲームも「ファーストパーソンビュー」ではなく、そのバーチャルの世界に自分が存在する「YOU-PERSONビュー」に変わるのではないか?とも考えています。

ケビン:
「VRはヘッドマウントディスプレイをつけて『見る』体験から、バーチャル内で起きている『ハプニングに参加する』という体験にシフトしています。この「体験のシフト」を受け入れることがテクノロジーにはとても大切です。」

日本では東京大学舘教授やKMD南澤准教授が取り組まれている「テレイグジスタンス」もVRの延長上にはあります。物理的にそこに人がいなくてもVRや触覚を組み合わせると、バーチャルに存在する人をリアルに感じることができます。遠隔地にいる友達も身近になります。ケビンはこの現象からVRが普及する理由の一つとしてソーシャル性をあげます。アバターを使って本人よりもちょっとカッコイイ男性になりきって好きな女の子に話しかけることもできるのです。ソーシャル、コミュニケーションの刷新もVRの未来には待ち構えているようです。

■未来を作るテクノロジーその3 トラッキング

ケビンが3つ目に挙げたテクノロジーはデータトラッキングでした。Apple Watchなどウェアラブルデバイスで、人間のアクティビティデータが取れるようになりました。このパーソナライズされたデータに対して、個々人に最適化された処方箋などを受け取れる時代が来ます。今年のSXSWでは医療系MedTechの展示会場が昨年よりも充実していましたが、そこでパーソナライズされたビタミンが作れるプロダクトが展示されていました。データを活用し、一人一人、毎日違うコンディションに合わせた最適なサービスを受けられるようになります。また身体データだけではなく、ソーシャル上でのアクティビティももちろんトラッキングされます。 「取得できるデータは活用できる」このデータを使ったビジネスが増えていくのでは?とケビンは示唆していました。「ビッグデータ」そのものではなく「トラッキングできるデータをつかむ」ことが大事と言います。どのようなデータをトラックするか?を考えることにより次の仕事が生まれてきそうです。

セッションのクロージングとしてケビンは以下のように述べました。

ケビン:
「変化は起き始めていますが、まだ旧約聖書でいうところの第1日目という感じです。我々はこれから信じられないような現象を多く受け入れていくことになるでしょう。そして今後の20年をカタチ作る素晴らしいプロダクトはまだ発明されていません。未来を開発するのは我々です。」

様々な最新のテクノロジーに触れているケビンをもってしても、まだまだ第1日目の状態とのことで今後のテクノロジーの進化を恐ろしくも楽しみに待ちたいと思います。来場者からは残りの9テクノロジーについても教えて欲しいと質問が出ましたが、夏に出る新著まで待って欲しいとのことです。

kevin2.jpg

「未来を信じるのは難しい」と言いつつも、未来を見続けるケビン・ケリー氏

前作「WHAT TECHNOLOGY WANTS(邦題:テクニウム)」の中でケビンは「人間が最初に出会ったシンギュラリティは、言葉を使い始めた頃に起きた」と述べていました。我々はまた次のシンギュラリティに出会うチャンスを得たラッキーな世代としてテクノロジーを積極的に理解し、良き仲間として扱っていくべきであると感じます。パニックやネガティブにならないでテクノロジーを受け入れていきたいものです。同時に「非効率なもの」にものんびりと取り組んでいくべきであることも感じます。アート、哲学、人間同士のつながりを大切にするなど「人間らしさ」を追求していくことにより我々は"第2日目"以降も乗り越えていけるのではないでしょうか?

取材・文:西村 真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。IBMでエンジニア、Adobeにてマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブカンパニー(株)バスキュールにてプロデューサー従事後、2014年に株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×クリエイティブ×マーケティングを強みにプロデュース業や執筆活動を行う。スタートアップ向けのデザイン&マーケティングアクセラレーションプログラム「HEART CATCH 2015」総合プロデューサー。 http://events.heartcatch.me/

最新記事