Syn.は脳になる(後編) ~けんすうの考えるネットの限界~

2015.01.09 11:50

「中心のない」スマホ時代の新ポータル構想「Syn.」。
10月にKDDIが発表したこの構想は、元Facebook Japan副代表だった森岡康一氏がKDDI移籍後初の大きなプロジェクトということもあり、大きな注目を集めた。
KDDI新規ビジネス推進本部担当部長の森岡康一氏とSyn.allianceに名を連ねる株式会社nanapiの代表取締役社長である古川健介氏に、「Syn.」とエンターティメントの未来についてお話をうかがった。
今回は、その後編です。


大元 : Syn.の構想は凄く良くわかるんですよね。

PC時代にはポータルサイトがあって、大半の人はそこに訪れるだけで十分な情報に触れることが出来た。

これが、スマホの時代になってポータルサイトからアプリに移行すると、「ここに来れば、必要な物が揃っていますよ」という世界から「オープンな世界なんで、自分で自由に探して下さい」という状況になってしまった。

接触出来るコンテンツの数は増えたけど、何が良い物なのか探すのが大変になってしまった。

そこで戸惑っている人達に、スマホでもポータルサイトの安心感を提供しようというのは、ごもっともなお話かと思うんですよね。


しかし、一方で世の中の動きはIoTの文脈が出てきて、アプリに留まらずデバイスまでもが分散する兆しが見えてきました。

この領域ではアプリを起動するという概念が無くなるかもしれません。

スマホのような万能型のデバイスから、ウェアラブルデバイスのように活動量を計測するのが目的といった、特定の機能に特化したデバイスが増え、人の動きや周辺機器を検知し、自動的に実行する機能が切り替わっていく。


こういったIoTの時代に対しては、どのように考えていますか?


森岡 : その話は、けんすうが専門なんで(笑)


古川 : まさにおっしゃる通りですね。

そもそも、人間しかインターネットを使ってない時代なんて超ダサイじゃないですか。

最近、僕が一番腹が立っていることは「ティッシュペーパが無くなる度にAmazonで注文する」という行為なんですよね。

ティッシュ箱からティッシュが無くなったことを僕という人間が検知して、Amazonでカートに入れるわけですけど、ティッシュ箱からティッシュが無くなったことなんて機械が検知すべきことだと思うんです。


わざわざ人間が判断する必要の無い物は、機械化することで無駄を排除できる。


いろいろなモノがある中で、人間だけがインターネットに繋がっているより、色んなモノがインターネットに繋がっていて、人間がインターネットに繋がっていなくても生活が便利になる、それが本来あるべき姿なんじゃないかなって思うんですよね。


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インタビューに答えるけんすう氏


大元 : そうすると、けんすうさんの次の事業は、IoTティッシュ箱ですかね。


古川 : ははは(笑)。

IoTと呼ばれる分野の製品を、自分向けに作るのは簡単に出来ると思います。

でも、「ティッシュ箱がネットにつながっているデバイス」という製品は売れないと思います。

IoTの時代は来ると思うんですけど、IoT的な製品を作って売るというビジネスをするのではなく、今そこに向かって新しいデバイス作るより、デバイス作りたい人向けのプラットフォームを作る方がいいと思うんですよね。


大元 : ヤフーさんがIoT用BaaSの提供を始めましたね。


古川 : そうですね。

また、ソニーが実験的に作っている「MESH」とかも、発明のプラットフォームを作っている感じがします。


たとえば、「雨が降ってきたら光る傘立て」を作るより、それを作りたいと思う人が必要とするキット集やプラットフォームを提供する、そういう方向が成功するんじゃないですかね。


森岡 : Syn.も将来を見据えた大きな構想としては、そういう方向なんです。

Syn.menuやSyn.adがSyn.というわけではなくて、Syn.のつながりから生まれたデータや、コンテンツがSyn.を作っていく。

スマートデバイスから産まれる新たな取り組み全体をSyn.と言っていきたいですし、スマートデバイスの新しい動きをリードしていくプラットフォームでありたいですね。


■nanapiを何故売却したか?


大元 : ところで、けんすうさんは何故nanapiをKDDIさんに売却したんでしょうか?


古川 : 元々次の展開を考えていて、資金調達や事業拡大の話をさせて頂いていたのですね。

その時にSyn.の話を聞いて面白いと感じ、こちらからグループ入りの相談させて頂きました。

なぜ面白いと思ったかと言うと、三点あります。

まず、一つ目は、「スマホのアプリって、実はみんなそこまで使っていないよね」という点を解決しようとしているところです。


森岡 : これは本当に大事だと思っています。

みんなが頑張って作ったアプリがもっと色んな人に使われる仕組みを作りたいんですよね。

スマホ利用者の平均アプリダウンロード数は38個で、そのうち平均的に利用されるアプリは8個。

250万以上のサービスがある中で、利用されているのは8個しかない。

これを16個利用して貰えるようになればスマホの価値は2倍になったとも言えます。

そうなれば多くのアプリ開発者にもっと多くの成功するチャンスが回ってくるんですよ。


古川 : 二つ目はオープンにし過ぎると多様性が無くなるということを、nanapiをやっていて課題に思ったからです。

たとえば、App Storeのランキングは、同じようなアプリが上位に来やすい。

ゲームとかパチンコネタとか、ちょっとエッチなやつとか(笑)。

オープンにして、ランキングにすると100万件あっても、上位にならないとダウンロードされないので、みんな人気が出るものを作るようになり、最終的に同じようなアプリばっかりになりやすいのでは、と最近感じています。


そういうオープンの限界みたいなものを感じていて、モヤモヤしてた時にSyn.は「アプリを限定する」って言われて、グっときたんですよね。

オープンな世界で多くの人に利用してもらおうとすると、人気のでるものを作るしかない。ところが、プレイヤーが限定されていると、色んなことにトライ出来るようになるんです。

例えば、テレビ局では、チャンネル数が限定されているから、多様な番組作りにトライ出来るわけです。

しかし、インターネットの世界の中では、見つけてもらうのが大変なので、人気がでるようなものを作る傾向にあります。

尖ったものを作っても、少なくても数万人以上見てくれるテレビ局の世界と、人気がでないと、それこそ数人しか見てくれないインターネットの世界では、やれることが全然違ってくる。


そういうのがモヤモヤしていて「オープン」だけがインターネットの進む道じゃないんじゃないか、と思っていたところに、Syn.の「つながり」という構想は「次のインターネットの形」として「これはあるな」って直感で感じたんですよね。


大元 : 確かに、インターネットはオープンと言われてきましたが、つながる技術が発展する一方で、世界が狭くなっていく、そう感じることも多くなってきましたね。

Twitterが日本で流行しはじめた2009年、2010年頃は気軽につながれることに世界中の人が興奮しましたが、つながった結果、出会う人を選ぶようになって、むしろリアルに回帰している気がするんですよね。

オープンの対極である、クローズドの世界も求められている気がしますね。


では、三つ目の理由は?


古川 : 日本にはYahoo!JAPANという偉大なサービスがあるわけですが、あの規模に成長するサービスを手掛けてみたいという「ロマン」ですね。

あれくらい人が集まる所だったら、こんなことも出来るなとか、半分嫉妬もあるんですけど、ヤフーさん大好きなんですよ(笑)。


森岡 : ヤフー良いよね(笑)。

Syn.は、そういう「ロマン」持った人の集まる梁山泊になれたら良いですね。


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大元 : KDDIさんと一緒に仕事をするようになってどうですか?


古川 : サービス的に変わったところや、ワークスタイルで変化したところはありません。

初めは大きな会社に参画することで自由度が損なわれたり、それを嫌がって退職したりする人が出てくるかなとか心配したんですが、拍子抜けするくらい、そういうことはないです。


むしろ、nanapi目線ではなく、Syn.目線でみんなが考えるようになって、nanapiで働くみんなの視点が一段上がったのはポジティブな効果が出てきています。

nanapi目線だと、nanapiのユーザだけを対象として考えていたわけですけど、Syn.目線だとその対象が一気に拡がるわけです。


■けんすうの考えるネットの限界


大元 : けんすうさんが、次に手掛けてみたいサービスはありますか?


古川 : 具体的に何かというのは無いのですが、「インターネットで人々の生活をどう変えることができるか」が興味のあるテーマですね。

最近インターネットの限界を感じることが多いんです。

インターネットでPVを稼いだり、「いいね」をいくら押して貰っても、実際の人が動くかというと別の話じゃないですか。

でも、テレビでデパ地下の特集をしたら、みんなデパ地下に行くじゃないですか。

ネットの世界で現実社会への影響を感じられる物ってヤフーニュースじゃないですかね。


大元 : ヤフーニュースに掲載されると、マスメディアが取り上げて、そこで現実社会に波及するというのはありますね。

そうすると、けんすうさんの次のステージはマスメディアへの挑戦ですか?


古川 : マスメディアと言ってしまうと、媒体が限定されてしまいますし、少しイメージは違います。

僕は、そもそもインターネットは、メディアでは無いと考えているんですよね。

マスメディアにはマスメディアの人の動かし方があって、インターネットにはインターネットの人を動かすやり方があるんじゃないかと思っているので、メディアという枠に捉われて考えてはいません。


そもそも、インターネットをメディアとして見てしまうと、「テレビ並みの人を集めるメディアを作ろう」といった話になりがちなんですけど、それを求めるんだったらテレビが一番なんですよね。

テレビはテレビ、インターネットはインターネットらしい集客の仕方や役割があるんじゃないかと思っています。

できるなら、インターネットらしいことをやりたいですね。


もう一つは、ネットって顕在化されたニーズにしか対応出来ないので、人のニーズが顕在化する前に何か出来ないだろうかと考えています。

例えば、何かのやり方を調べたいと思ったらネットで検索するわけですが、大半の人は「調べたい」とも思うことも少なかったりします。

ネットのサービスが、検索経由でユーザに接触出来るのって「調べたい」というニーズが生まれた時なので、そうじゃない状態の時にどうすれば接触出来るのかなと。


大元 : ネットを舞台に活躍してけんすうさんだからこそ感じる、ネットの限界。大変興味深いですね。

森岡さんは、Syn.を成長させることがミッションだと思いますが、サービスを手掛ける時に意識することは何ですか?


森岡 : 大きなうねりを作れることが基準ですね。

Facebookを日本で始めようとした時に「実名のSNSなんて流行らない」ってみんなに言われたんです。

でも、受け入れられた。そして、受け入れられるとみんなの生活が変わったことが実感出来るんです。

メールじゃなくてFacebookのメッセージで仕事の段取りを決めていますとか聞くと、生活が変わったなって実感出来るんですよ。

あの体験が今の自分の行動の源泉になっていますね。


そういう「世の中を変える」ことって、初めは、たいてい批判されることも経験しました。

だから、Syn.の構想を話すときも、Facebookが否定された時と同じような反応を頂くこともあるんですが、Syn.が普及した時に変化する社会の姿を想像出来るし、自分には信念があるんですよね。


世の中を変えるほどの大きなうねりを生み出す、これが自分の仕事です。そのために自分はブレずに演歌歌手のようにコブシを効かせて言い続ける。


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大元 : Syn.が創りだす「うねり」、とても楽しみです。お二人とも貴重なお話ありがとうございました!


前編(Syn.はスマホ時代の脳になる)はこちら


(取材・文: 大元 隆志 ITビジネスアナリスト)

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