嶋浩一郎×山本由樹×佐渡島庸平が語る"未来型"編集者の条件 【前編】トップ編集者たちの"編集観"

2015.10.01 09:00

SENSORSではこれまでにもメディア変革期の"編集者像"について取材を行ってきた。今回は9月3日、オンラインサロン・プラットフォームを運営する「Synapse(シナプス)」が山本由樹氏のサロンオープンを記念して開催したトークイベント「メディアの変革期に編集者はどんな夢を見るか」をレポートする。『DRESS』編集長・山本由樹氏をモデレーターに、コルク代表取締役の佐渡島庸平氏、『ケトル』編集長の嶋浩一郎氏が登壇。トップ編集者たちが語った"未来型"編集者の条件とは?(【後編】次の10年で最もセクシーな仕事はコンテンツメーカー?

9月3日、株式会社ミクシィにて行われたSynapseのトークイベント「メディアの変革期に編集者はどんな夢を見るか」(Synapseイベントページより)

■それぞれの編集者としてのスタイル

今回のモデレーターを務めた山本由樹氏は光文社にて『週刊女性自身』の編集を16年務めたのち、『STORY』の編集長を6年間つとめ(2005年〜2011年)、2010年には『美ST』編集長として美魔女ブームを仕掛けた。2013年、株式会社giftを設立し、現在は月刊誌『DRESS』の編集長を務めている。
登壇したのは2013年に講談社を辞めクリエイターのエージェント会社「コルク」を立ち上げた佐渡島庸平氏と、カルチャー誌『ケトル』の編集長を務める嶋浩一郎氏。それぞれ紙のメディアに出自を持ちながらも、新しいメディア環境の中で新たな挑戦を続ける三人が語り合った"未来型"の編集者像とは?

山本:
僕は光文社という会社で『STORY』や『美ST』という雑誌の編集長をやっていました。2010年に「国民的美魔女コンテスト」を主催して、「美魔女」っていう言葉が広く知られるようになりました。そういう意味で、自分は"大衆扇動型"の編集者と言えるかもしれないです。嶋さんは自分を何型の編集者と捉えていますか?
嶋:
クライアントの仕事をしているので、依頼に応じて変えられるっていうところはあるかと思います。対して、自分の事業としてやっているB&B(下北沢にある本屋)や『ケトル』という雑誌はどちらかというと、世の中に無駄なものを量産しようと思ってやっています。"こんなものが何の役に立つんだろう?"っていうことがすごく大事だと思っているので、そういうものをいっぱいほじくり出して見せたいと思っちゃうんですよね。
山本:
『ケトル』の缶詰特集(2015年6月発売)面白かったです。佐渡島さんは自分の芸風を一言でいうと、何型の編集者だと思われますか?
佐渡島:
今、自分の中で"編集者"というのが一番上には立っていなくて、"経営者"だなと思っているんですよ。どちらかというと、IT企業になりたいというか、出版をエンジニアリングするとはどういうことか。今年はエンジニアをしっかり採用するし、CTOになれる人も採用したいなと思っています。
山本:
僕が会社を作ったのは2013年の9月なので、佐渡島さんと会社を辞めた時期が近いんですよね。多分、お互いに出版の未来はこのままではダメだっていうのを感じていたと思います。
佐渡島:
そうですね。でも講談社にいたときはそれほど危機感はなかったんですよ。講談社の場合、野間さんも電子書籍に積極的だったりしたので出版の中では先進的な方だと思っていました。ただ、出版業界の中にいるとどうしても出版業界の考え方に固まってきます。独立してから色々な業界の人と会うようになってから、考え方も変わりました。例えば、以前まで広告代理店がコンテンツ局の下にスポーツやら食事やら、様々なカテゴリを一緒くたに置いているのが分からなかったんですよ。
山本:
でも今は普通に"コンテンツ"って使っていないですか?
佐渡島:
"俺らが作ってるものはもっとすごい"と思っていたんですが、今は逆に全部並びで思っています。よく「スマホが現れて雑誌が苦しくなった」なんて言いますが、全て業界の財布のあり方、人の消費行動、時間の使い方から考えると、スポーツも食も全てライバルなので、コンテンツ局の中に含まれているのも当たり前なんですね。

■佐渡島「経営者として、編集者として、"社会を編集"する」

【左】佐渡島庸平氏(コルク)【中】嶋浩一郎氏(ケトル)【右】山本由樹氏(gift)

山本:
"編集者"というのが今回のテーマなのですが、そもそも編集者とはどういうことをする人なんでしょうか。たぶん三人とも違うタイプなので、違う答えが聞けると思うんですが、佐渡島さんはどうお考えですか?
佐渡島:
僕は情報の出す順番を考えることが編集者として一番大事なことではないかと思っています。例えば、世間のどこかで話題になっているから本を買ったりするわけですね。書店に行って表紙を見て、帯を見て、裏側を見て、普通の本だったら目次を見て、それで買うかどうか決めるわけですよね。それぞれの部分でどういう情報を出していくと良いかということをコントロールしていく。今度は物語の初めから最後まで読ませるのはどういう順番で、出来事を伝えるのが良いのかを考える。コンテンツ自体の考える順番を考えるのも重要なんですけど、作品を創るとき、この作家に対してこのデザイナーを組み合わせるかっていう人のマッチングを考えるのも編集だと思っていて、これは経営にも通じることだと思います。
経営もあるゴールのビジョンを描いたときにどういうふうな戦略でいくのかを決定するのは編集に似ています。僕の場合、編集者であり経営者でもあるんですけども、実は似てるようなことを社会全体に対してやっているから、最近は"社会を編集"してるんだなと思っています。
山本:
社会か、大きいですね。
佐渡島:
実は"経営"っていう言葉と一緒だと最近は思っているんです。僕が本当にすごいと思っていることの例でセブンイレブンがあるんですけど、セブン銀行や金の食パンみたいなものをやっていますよね。これはセブンイレブンの店舗数が少ないときにやっても上手くいかなかったと思うんです。セブンイレブンはとにかく物事の順番が全部最高に正しいんですよ。Amazonも一緒で本から始めて、商品を増やしていきました。あれをいきなり全部やっていたら、全然違うビジネスになっていたでしょうね。
山本:
それはどちらかというと"戦略"という言葉に置き換えた方がいいですか?
佐渡島:
ビジネスでいうときには戦略に近いですけど、やっているビジネスを世間が結局面白いと思うかというか、共感してくれないことにはビジネス自体は上手くいきませんよね。

■嶋「無駄が企画を生み、情報の組み合わせから視点は生まれる」

山本:
順番ということは最終的に漫画でいえば、感動させるとか、落とし所を目指していくわけですよね。ということは"文脈作り"と同じということですか?
佐渡島:
そうです。正解はたくさんあるんだけれども、正解へとたどり着く道を世間が納得する文脈で提示できている企業だけが生き残る。今、ベンチャー企業がボコボコ現れている中で、同じことをやっている企業がいっぱいありますよね。世間の文脈に合わせることができた企業だけが生き残ると思っています。最も正しい解を見つけられたというよりは、正しい文脈を見つけるっていうことの方が意味があって、その文脈を見つける作業っていうのがかなり編集者的作業だと思います。
山本:
嶋さんはどうですか?
嶋:
僕は「無駄万歳」な人で、無駄が世の中にとってすごい大事だと思っている変な人なんですよ。僕は元々、広告の企画を考える仕事をしていたのですが、無駄なことをしていた方が絶対に良い企画ができると思っています。例えば、「出版不況を解決する」っていう課題解決のためにGoogleで"出版業界"とかだけを検索していても課題解決ってできないと思うんですよ。でもファストフードのキャンペーンの仕方とか調べていると、「あ、これは使えそうだ」とか違うアイデアが全然違うところに飛んでくるっていうのがすごい素敵なことだと思います。ビール工場を見学しに行った人が「あ、これ面白い」と思って回転ずしを作った話とかよくあるじゃないですか。
山本:
そうなんですか!
嶋:
そうなんです。Amazonって自分の欲しい本しか探せないんですよね。でもリアルな本屋って無駄な本がいっぱいあって、「あ、実はこれも欲しかったかもしれない」っていう無駄な本と出会う場所だと思うから本屋を経営してるんですよね。Amazonでは「あなたが買った本で他の人はこんな本も買っています」っていうリコメンデーションもあるんですけど、しっかりつながっちゃってるんですよね。そんなものではなく、全然関係ないものを大量に見れる本屋が大好きで、それは雑誌も同じだと思うんです。雑誌って"雑"ですからね。このページを読もうと思ったのに、全然関係ないこの記事も読んじゃったみたいな。一見無駄なものをいっぱい配り届けられるかっていうのが今自分のやりたいことだったりします。
山本:
無駄の中に宝探しをするみたいなことですか?宝がどうかっていうことまでは判断はしない?
嶋:
でもそこに一つの視点があると思うんですよね。ネットは情報をスライスするから、例えば『週刊ダイヤモンド』に載っている情報は一個ずつ分解されてもネットニュースでは成り立ちますよね。でも『BRUTUS』はこの情報とこの情報がパッケージになって載っているところに今の世の中のブルータスなりの視点というか見方があるわけですね。情報を組み合わせることによって世の中で起きている新しい現象とか新しい視点を呈示できる人が編集者だと思います。
山本:
嶋さんは真っ直ぐ家に帰らず、いつもどこか寄り道してますもんね。
嶋:
無駄な動きはわざとやるようにしてますね。人と映画に行くときは絶対に自分で決めないで、相手に選んでもらうようにしています。連れ去られる感覚ってすごい大事だと思います。イラストレーターのみうらじゅんさんは、月に一回EXILEのコンサートに行くとか、松田聖子さんのディナーショーに行くとか(新たな世界を見る)"修行"というものをやっているそうです。僕もそういう修行はけっこうやるようにしています。

この後は"マネタイズ"や"コミュニティ"具体的なキーワードに沿って、"未来型"編集者が備えているべき素質について事例を交えて語られた。その模様は【後編】「次の10年で最もセクシーな仕事はコンテンツメーカー?」にてお届けする。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

[登壇者プロフィール(2015年9月時点)]

山本由樹| YUKI YAMAMOTO
1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後2002年「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年まで同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、2010年から「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に㈱giftを設立すると共に、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊し、女性が自由に輝ける社会を実現するための情報を発信中。


佐渡島庸平| YOHEI SADOSHIMA
2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを設立。現在、漫画作品では『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『インベスターZ』(三田紀房)、小説作品では『マチネの終わりに』(平野啓一郎)の編集に携わっている。


嶋浩一郎| KOICHIRO SHIMA
1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業の情報戦略に関わる。01年朝日新聞社へ出向。スターバックスコーヒーなどで発売された若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター。02年〜04年博報堂刊「広告」編集長。04年本屋大賞設立メンバーの一人。コンテンツビジネスも多数てがけ、カルチャー誌「ケトル」の編集長もつとめる。03年東京下北沢にビールの飲める書店B&Bを開業。最近の主な仕事 資生堂企業広告 レクサス J−WAVEなど。


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