嶋浩一郎×山本由樹×佐渡島庸平が語る"未来型"編集者の条件【後編】次の10年で最もセクシーな仕事はコンテンツメーカー?

2015.10.02 09:30

SENSORSではこれまでにもメディア変革期の"編集者像"について取材を行ってきた。今回は今月3日、オンラインサロン・プラットフォームを運営する「Synapse(シナプス)」が山本由樹氏のサロンオープンを記念して開催したトークイベント「メディアの変革期に編集者はどんな夢を見るか」をレポートする。『DRESS』編集長・山本由樹氏をモデレーターに、コルク代表取締役の佐渡島庸平氏、『ケトル』編集長の嶋浩一郎氏が登壇。トップ編集者たちが語った"未来型"編集者の条件とは?前編に続いて、後編をお届けする。

■山本「編集者は欲望を言語化し、共感できる形で伝える」

【左】佐渡島庸平氏(コルク)【中】嶋浩一郎氏(ケトル)【右】山本由樹氏(gift)

山本:
いま嶋さんが言っていたようにものを伝えるプロフェッショナルが編集者だとは思うのですが、そこから先にどういう芸風、ジャンル、世界を持てるかどうかで強さが変わってくると思います。強みを持っている編集者には依頼が来る。だけど、そこにとどまっているとそれで終わっちゃいます。じゃあそこから出て行くためにはどうすればいいのか。
僕は『週刊女性自身』という雑誌を16年間やっていました。そこで学んだことは人の"欲望"を知るということ。編集者としては欲望を言語化して、共感を得るような形で伝えるということではないかと思っています。
さて、メディア変革期の今、"編集"をお二人はどのように捉え直していますか?
嶋:
テクニックに過ぎないとは思うのですが、乗り物(=メディア)が変わったことで情報編集のお作法が変わったことは重要ですよね。滝川クリステルさんが初めてラジオに出たとき、「ラジオをお聴きの皆さん、こんにちは」と言ったら、リスナーにそれは違うんじゃないかと指摘されたことがあったそうです。つまり、「ラジオをお聴きのあなた」が正解なんですね。これは乗り物が変わったら喋り方が変わるという象徴的な例だと思うのですが、CMで流すのか、YouTubeで流すのかでもだいぶお作法が変わってきます。乗り物を乗り換えたときに編集の作法を変えられる人が今の時代の編集者としてすごく重要なことだと思います。

昔は週刊誌の記事をネットニュースにするときには、コピペしてニュースにしてましたが、それだとPVが伸びないんですね。それは週刊誌とネットニュースで編集作法が違うからですよね。一つの例を挙げると、週刊誌はねちっこいんです。「安倍政権いかがなものか」とか書いていいわけです。読者の溜飲が下がるので。だけど、ねちっこい判断をそのままネットニュースにすると、ネットの住民たちは「いやいや、それは俺に判断させろ」となる。ようするに、主観的な判断が入ってると嫌われるわけです。なので今では週刊誌の記事をネットニュースにするときは、主観部分を全て取るようにリライトされることが通例になっています。

なので、今はブルドーザー、大型二輪と様々な乗り物の免許が求められます。乗り物が変わったときに話し方を変えられるスキルは今の時代の編集者にすごく要求されると思います。だけど、それはあくまでテクニックなので、先ほど山本さんがおっしゃっていた言語化できていない欲望を見つける嗅覚がまずは非常に大事かとも思います。
山本:
乗り物がいっぱりあるというのは受け手側にとっては恵まれていると思うのですが、コンテンツを作る側にとっては必ずしも幸せではないですよね。そこはどう思われますか?

■嶋「言語化できている欲望にGoogleやAmazonは強いが、そうでないものはまだまだリアルが強い」

佐渡島:
そうですかね?大変かもしれないけれど、色々な形で話題にして敗者復活戦の道があるという意味でいうと、良い時代だと僕は捉えています。三人とも"編集者"について別々のことを言いましたよね。"ホテルマン"という職業を聞いて多くの人がイメージできるのに対して、"編集者"と聞いてもいまいちピンとこないのが出版業界の弱さではないかと思うんです。例えば、出版社には良い編集者かどうかを見極める3つの質問とかって皆無だったりしますよね。
僕が今経営をしていく中で、経営陣にとって社員が何をやるのかを定義していくのってすごい重要なんですよね。なんとなく優秀な人に集まってもらって、「今の時代に対応して頑張ってね」っていうのは経営じゃないと思うんです。出版社では流通の仕組みやメディアを作ったわけですが、社内で「とにかく自由にやってくれ」っていう形でやりすぎて、編集者自体を定義できていないから、編集者を育てるための仕組みすらもないわけですよね。
山本:
僕は光文社に入社して、配属された初日に電話番をしようと思って、デスクに座っていたら上司に「ここに座られても迷惑だから、外に出てきて。映画観てもいいし、パチンコやってもいい」と外に出て何かを探すことを指示されたんです。以来、会社にあまり居ない習慣が付いちゃったんですが、あれはあれですごい良い教えだった気がしますけどね。さっきの嶋さんの"無駄を探す"みたいなことにも通じるような。
佐渡島:
何でもシステム化しちゃうと無駄が入らないっていうことも起きがちなことではあるけれども、例えば今インターネットが挑戦していることって検索でしか探せないものだけではなく、セレンディピティみたいなものにネット上でいかに出会うかっていうことですよね。
嶋:
言語化できている欲望に対してはGoogleやAmazonは強いけど、まだ自分が分かっていないけど何かしたいっていう潜在的な欲望に対してはリアルな本屋、雑誌、テレビ番組の方が勝っていると思っています。
佐渡島:
作っているもの自体は勝っていても、見つけてもらえないとコンテンツ自体が価値を持てない状況にはなってきていますよね。メディア自体が細分化していて、Facebookの1つのポストにしても記事の1ページだったりするわけですよね。以前まで作家にとって本を出す以外に表現方法がなかったけれど、今はFacebookがあって、Twitterがあって、メルマガがあって、本があって、イベントがある。これは全部乗り物が違うわけだから、全部違う情報を見せていくわけですね。このトータルで自分の才能を世間に見せていく。というわけで、昔は化粧したものだけで勝負できたのが今はトータルで勝負しなければいけないので、本物だけが生き残りやすい形になってきているとは思っています。
山本:
そこって文脈作りとコンテンツは分かれている?
佐渡島:
完全にセットですね。例えば山本さんという人物が、服を剥いで真っ裸のときが本物の山本さんなのか、服を着ている時点も含めて山本さんらしいのかってけっこう微妙ですよね。例えば『宇宙兄弟』であればSNSを通じて付加される情報も含めて全部コンテンツ足り得るわけです。なので、ツイッターが宣伝文だと宇宙兄弟らしくないわけですよ。全てを宇宙兄弟らしく演出しないといけなくて、そうするれば作品理解も深まるので全てが同じ作業なんだと思います。
嶋:
雑誌と本屋は自分の中でちょっと特別で、今の世の中ってコンテンツを消費するときに効能とかを求めすぎている気がするんですよね。自分で『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2007年)などビジネス書を出していてなんなんですが、この本を読めばアイデアが出るとか、何かを得るためにコンテンツを消費するって良いのかな?って思うんですね。20代くらいの若い子たちと話したとき、「この音楽使える」とかすごい言葉を使っていたんですね。音楽は"感動する"とか、"すげえ"とかじゃないのかと。"使える"という形容詞を音楽につける世代が現れたかと思いました。本屋にしても、基本は本を読むまでそれがその人にとって役に立つか立たないか分からない。でもそれでいいじゃんとも思っていて、無駄なものはいっぱい消費した方がいいし、無駄なものを消費している人の方が絶対に豊かになれるんじゃないかという勝手な仮説で雑誌と本屋をやっている感じですね。

■"未来型"編集者に必要なスキルはマネタイズ、そしてコミュニティ形成力がその鍵となる

山本:
この先を見据えて、未来型の編集者とはいかなるものか。編集者としての戦略ってありますか?
佐渡島:
先ほどセブンイレブンの話もしましたが、アップルがすごく上手く行ったのはアップルストアがあることがすごく重要だと思うんです。ユニクロもニトリも同じです。ようは出口が用意されているところでものを作るのか、ものを作ってから出口を作るのかで全然違ってくる。どうしてもコンテンツを作る場合ってコンテンツに興味があるから、出口への興味がほとんどなかったりしますよね。そもそも出版社、テレビ局、映画なんかは出口が確立した業界だったんですよ。
じゃあインターネットは良いのかというとそんなこともなくて、リアルな書店とは比べものにならないくらい広いのでしっかりと出口を作る作業をしないといけない。ではその出口をどう作ればいいのかの答えがコミュニティだろうなと思うんですよ。コミュニティを形成して、そこに最適なコンテンツを提供する。
嶋:
コミュニティを作るのは編集者の一つの能力だと思います。それも含め、僕は未来型の編集者に必要なスキルはマネタイズ能力だと思っています。広告業界では今までコミッションビジネスで仕事をしてきました。でも今は僕も含めてフィービジネスで仕事をする人が増えてきています。単純に枠を売ったり、広告をメニュー化するのではなく、毎回毎回結果が異なってくるのでそのインパクトで報酬は握り合っていくしかない。そのためには一層クライアントの課題を理解しないといけないし、媒体が提供できる特性にも精通しないといけない。新しいプロフェッショナルな売り手が必要なんですね。
佐渡島:
基本的に僕は決済の問題だと思っています。インターネット以前の決済のタイミングって全部物の移転なんですよ。所有権の移転のタイミングにお金を払う仕組みで、人間もそれに感覚的に慣れているので払いやすかった。今DeNAがやっている「SHOWROOM」にしても、アイドルのCDは買ってくれないけど、彼女たちの順位を上げるためには1日1万円使う人っていますよね。とにかく"決済"というものがシリコンバレーで今一番研究されている技術だったりしていて、超音波を使ったり、赤外線を使ったりして様々な形で決済がどんどんできるようになっていく。そうすると人が所有権の移動ではなくて、満足した瞬間に払うっていうふうなことが起こる可能性もあると思っています。

■山本「メディアやデバイスが変わっても、情報に接するとはつまり"体験"である」

山本:
ところで紙メディアがそのものが持っている価値はこれからどうなると思いますか?消えちゃう?それとも残り続ける?
嶋:
この情報とこの情報を詰めているからこの視点は面白いっていうものは絶対に残ると思います。『BRUTUS』編集長の西田善太さんがよく言っていますが、ブルータスが特集しているのはコーヒー、犬、猫、ニューヨークみたいな一見誰でも特集できそうなものなんだけど、Googleで検索したときに出てくる羅列とは全く違う情報がそこにはあって、「あ、NYって今こうなってるんだ」っていう一つの視点がそこにはあるわけですよね。この視点が面白いと思う人がいる限りはパッケージメディアは残ると思います。
山本:
メディアやデバイスは激変しているのですが、情報の受け手側から考えると、メディアってそのものが"体験"じゃないですか。だから、紙にしろウェブにしろどういう体験を提供すればいいのかっていう逆の発想をすると分かりやすいのではないかと思うんですよ。
嶋:
乗り物が変わったら編集作法が変わるっていうのはこれからも延々と起き続けていくことで、欲望を発掘できるスキルが大切なんだと思います。それに関していうと、『羊たちの沈黙』のレクター博士が「欲望というのは自存するものではなく、それを満たすモノが目の前に現れたとき発動する感情なのだ」とすごく良いことを言っているんですよ。
これって二つのことを言っていると思っていて、一つは人間の欲望は自存するものではない、つまり人間は不器用で自分の欲望を言語化できていないと。もう一つは人間は超都合が良いっていうこと。目の前にそれが出現すると、「私、実はこれ欲しかったんだもん」って都合よく言うんですね。

ビッグデータっていうのはすごいとは思うんですよね。でもビッグデータは言語化された欲望を整理しているだけだと思うんです。チョコレートが好きな人はポテトチップスも好きといった欲望の相関関係を見つけることはできるかもしれないけど、それはすでにデータ化された欲望を整理整頓してるだけですよね。言語化されていない欲望を先回りして気づかせてあげるというのはビッグデータにはできないので、僕はコンテンツを作る人の方が統計学者よりもセクシーな仕事じゃないかと思うんですよね。

"編集"の文脈においても語られることの多くなってきたビッグデータや人工知能。たしかにそうしたテクノロジーは便利なものである。三人の編集者も乗り物(=様々なメディア)に応じた編集テクニックをキャッチアップし、使い分ける力が今後は必要になると強調した。その上で、編集者にとって普遍の資質、すなわち、"まだ言語化されていない欲望を発掘し、共感される形で伝える力"は当面、メディア環境の変化に左右されない編集者の条件であり続けるだろう。

【前編】トップ編集者たちの"編集観"

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

[登壇者プロフィール(2015年9月時点)]

山本由樹| YUKI YAMAMOTO
1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後2002年「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年まで同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、2010年から「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に㈱giftを設立すると共に、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊し、女性が自由に輝ける社会を実現するための情報を発信中。


佐渡島庸平| YOHEI SADOSHIMA
2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを設立。現在、漫画作品では『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『インベスターZ』(三田紀房)、、小説作品では『マチネの終わりに』(平野啓一郎)の編集に携わっている。


嶋浩一郎| KOICHIRO SHIMA
1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業の情報戦略に関わる。01年朝日新聞社へ出向。スターバックスコーヒーなどで発売された若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター。02年〜04年博報堂刊「広告」編集長。04年本屋大賞設立メンバーの一人。コンテンツビジネスも多数てがけ、カルチャー誌「ケトル」の編集長もつとめる。03年東京下北沢にビールの飲める書店B&Bを開業。最近の主な仕事 資生堂企業広告 レクサス J−WAVEなど。


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