【エンターテックが世界を繋ぐ】#1"違い"を意識すれば、国際感覚が磨かれる

2016.11.09 16:45

エンターテック・アクセラレーターとして、2016年に起業。エンターテインメント、テクノロジー領域を中心に世界中のカンファレンス出席、日本のプロダクトの海外展開支援などを行う、ParadeAll株式会社 代表取締役 鈴木貴歩氏。本連載は、「エンターテックが世界を繋ぐ」と題し、「エンターテインメント×テクノロジー=エンターテックはカルチャーを創る」をビジョンに世界中を飛び回り、仕事をする鈴木氏が実際に見て、聴いて、体験したことを伝えていく。

第1回は鈴木氏のキャリア・国際感覚について語ってもらった。

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ParadeAll株式会社 代表取締役 鈴木貴歩氏

■「エンターテック」という言葉を生み出すまで

--まずは,鈴木さんのキャリアについて教えてください。

鈴木:
1995年、最初に入社したのはタイトーというゲーム会社でした。
入社してすぐ京セラマルチメディアコーポレーションという会社に出向になり、京セラ社長の稲盛和夫さん発案による家庭用通信カラオケ機の販売を担当していました。稲盛さんは、インターネットの普及に先んじて通信カラオケは当時ある意味HTML的なものとして、その中で情報コンテンツを配信していこうという考え方でした。
そこで、病院やテーマパークの情報配信を企画し、家庭用にハードとソフトを販売していくことをやっていました。

その後、2001年、MTVでは携帯公式サイトビジネスを担当し、常に新しいデバイスやメディアにエンターテインメントを載せていくというキャリアを積ませてもらってきました。タイトーではプラットホーム側でしたが、MTVでガラケー向け公式サイトや着メロ、ブロードバンドが普及する中での映像配信プロジェクトを手がけた経験を活かし、世界でも日本でも新しい音楽の楽しみ方を推進している会社であるユニバーサル ミュージックに2009年、入社しました。

本業の傍ら、2014年に日本初の音楽×テクノロジーのカンファレンス、「THE BIG PARADE」を始め、発信する場を設けました。それまでエンターテインメントビジネスのカンファレンスも日本ではあまり多く開催されていませんでした。
プラットホーム側だけが「イノベーション」と讃えられるのに、サポートしているレーベル、アーティスト、事務所に脚光が当たらない。でも業界側がサポートしないと新しいメディアにコンテンツは流れてきません。やっぱり業界にいる人が発信していくことが重要だと感じましたね。世界でもシンガポールの「Music Matters」、イギリスの「THE GREAT ESCAPE」、フランスの「MIDEM」等様々なカンファレンスが開催されています。日本にカンファレンスが無いのは凄く勿体ないと思っていました。

--その後「エンターテック・アクセラレーター」と名乗って起業されましたが、「エンターテック」という言葉にはどういう意が込められているのでしょうか?

鈴木:
例えば、"Fintech"その言葉によって、ファイナンシャルとテクノロジーが結びつき、大手銀行が動き出すという状況ができましたよね。エンターテインメントという場でもそうなればいいなと思い、「エンターテック」という言葉をつくりました。

■国際感覚を養う為に

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--独立された後、海外出張や視察なども多く行われていますが、海外で仕事をしていくということは、やはり意識されていたのでしょうか?

鈴木:
ライフワークのひとつとして考えています。ユニバーサルでは海外のアーティストを日本で売り出す仕事を担当していました。そういう経験から、日本のプロダクト、サービスを海外で売り出すということもやりたいと思っており、現在は「KAGURA」の海外展開もサポートしています。

世界に日本のプロダクトを打ち出すときには、日本らしさを前面に出すのではなく、そのプロダクトのコンセプトの良さが世界に浸透し、それが実は日本のプロダクトだったというほうが、結果的に受け入れられるんじゃないかと思っています。

例えば、ロンドンではワンプレートランチボックスの事を「BENTO」と言いますが、それが日本の言葉ということを誰も意識していません。「edamame」もヘルシーだから食べているけど、それが日本かどうかは誰も意識していません。テクノロジーのプロダクトもそれでいいんじゃないかと。

--そういった考えを持つようになったきっかけは何だったのでしょうか?

鈴木:
ひとつはユニバーサル ミュージック在籍時、グローバルの会議に出席したときのことです。メディアを通して日本らしいものの一つとして「ビジュアル系」という言葉が海外に浸透していると知り、会議で「ビジュアル系」という言葉を使ってみたんです。すると、全員シーンと(笑)。誰も認識していませんでした。一方で、「edamame」のように浸透しているものもある。ひょっとしたら、日本らしい特別なものとして言わない方が浸透し、ビジネスとして大きくなるんじゃないかと思うようになりました。

もうひとつは6月にイギリスの「UK Trade& Investment」という団体がリバプールで主催した「IFB(international festival for business)2016」というイベントに呼んでいただき、「イギリスのアーティストがアジアでブレイクするにはどうしたらいいか?」というテーマのカンファレンスで、登壇させていただいたときです。
「イギリスが日本でアーティストを売り出す際も、その逆をやればいい、カルチャーギャップはローカルのカルチャーやテクノロジーとコラボレーションすることで、飛び越えられる」という話をしたら、凄く出席者のみなさんが共感してくれました。

例えば、僕のユニバーサル時代の経験では、日本でアリアナ・グランデを売り出すとき「新人、可愛い、歌が上手い、NEXTマライアと言われている」というアメリカからの情報がありました。
しかし、日本の10代はそもそもマライア・キャリーを知りません。そういう人にどうアリアナの魅力を伝えていこう?と考えた時に見つけたのが、ネットで話題になり始めた頃のざわちんさんでした。まだ、板野友美さんなどのメイクを自主的にやっている頃で、アリアナのメイクをしてもらうようお願いしました。それがバズって、アリアナの顔と名前が一気に10代に広まりました。

KAGURAでも「Sónar+D Startup Competition 2016」(以下 Sónarソナー)でピッチするにあたり、Sónarにいるオーディエンスとのカルチャーギャップをどう埋めればいいかという点にアドバイスしたことがあります。

--具体的にはどのようにしたのでしょうか?

鈴木:
最初にアイデアの一つとしてあった浴衣。日本らしさを出すべく浴衣を着ると、それだけで現地の人との距離感ができてしまうんです。更に、短いピッチの持ち時間の中で浴衣の説明をする時間も勿体ない。だから普通にKAGURAのTシャツを着てピッチに立つことにしました。

もうひとつ、スペインだからとフラメンコのサウンドセットというアイデアもあったのですが、実際には使用しませんでした。Sónarの会場であるバルセロナはスペインの中でも独立性の強い地域です。フラメンコはまた別のアンダルシア地方の音楽なんですね。またSónarはエレクトロニックミュージックのフェスティバルなので、エレクトロニックミュージックやゲーム音楽のサントラを使ったサウンドセットを使おうとアドバイスしました。何が最適か?常にコンテクストを意識しています。
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KAGURAを開発するしくみデザインCEO 中村俊介氏(左)と

--そのような国際感覚はどうやって養われているのでしょうか?

鈴木:
ヨーロッパの国民性の違いを書いてある本が好きで、よく読んでいました。まず「違う」ということを意識するということですね。 日本人はどうしても「欧米」と一括りに言ってしまうけど、例えば「Spotifyが世界を席巻」といってもアメリカも、イギリスも、ドイツも、フランスも違う。それぞれが「違う」ということから出発しないといけないです。

--鈴木さんはよく、ヨーロッパとアメリカの違いをおっしゃっていますよね?

鈴木:
はい、それは凄く重要です。アメリカだけ見ても、サンフランシスコとニューヨークでも違う。ヨーロッパもそれぞれで違う。 これはユニバーサル時代に培いました。ストリーミングサービスが日本に参入する時「ストリーミングサービスが展開したら、パッケージ市場やレンタル市場が壊れる」という声がありました。
でもそれをきちんと分析している人はほぼいなかったんです。ユニバーサルで各国の力を借り調べてみると、国ごとにパッケージとデジタルの割合や、流行っているサービスもが違うということがわかったんです。「どの国のシナリオが一番日本に近いのか?」と考えました。

iTunesでの販売楽曲のDRMを外す決断をした時も、「そんなことしたらコピーし放題で売上げが下がってしまう」という声がありました。では、日本と状況が近い地域でフランスを例にとり、DRMを外した時に市場がどう変化したか?それを日本に置き換えシミュレーションしたら、結果売上げがプラスになったんです。

凄くラッキーだったのは、ユニバーサルのグローバル会議の中では、同じ英語を使っているはずなのに、アメリカ人とイギリス人の会話が全然かみ合っていないこともありました。そういう場面をリアルに見ていると、「あ、みんな同じなんだ」と思えたことです。自分の喋っている英語が通じないことがあっても、全然慌てる必要がない。リアルな経験の中で学ばせてもらいました。

ビジネスの中のリアルな経験で国際感覚を養われた鈴木氏。あえて「ジャパン」を意識させない海外進出戦略は参考になる方も多いのではないだろうか。 各国を細かくマーケティングして、コンテクストを意識しカルチャーギャップどう埋めていくのか。本連載では引き続き、「エンターテック」の拡張に邁進する鈴木氏の世界中でのリアルな体験をお伝えしていく。

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ライター:gako

ネット企業、通信キャリアを経て、音楽業界。 マーケティング・戦略・新規事業立案などを担当。 エンターテインメント×テクノロジー(EnterTech)分野で 企画・プロデュースを行い、世の中に新しい楽しみを提供することに挑戦中。
Twitter:@gakoara ブログ:http://gakoara.com/

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