【エンターテックが世界を繋ぐ】#3 ベルリンは音楽×テクノロジーの街となり得るか--現地滞在記

2017.02.01 16:30

エンターテック・アクセラレーターとして、2016年に起業。エンターテインメント、テクノロジー領域を中心に世界中のカンファレンス出席、日本のプロダクトの海外展開の支援を行うParadeAll株式会社 代表取締役 鈴木貴歩氏。本連載は、「エンターテックが世界を繋ぐ」と題し、「エンターテインメント×テクノロジー=エンターテックはカルチャーを創る」をビジョンに世界中を飛び回り、仕事をする鈴木氏が実際に見て、聴いて、体験したことを伝えていく。
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第3回は鈴木氏も初めて訪れたという、ドイツのベルリン。ベルリンは記事: Kickstarterに出品・欧州音楽フェス「Sónar」ピッチ優勝--「KAGURA」はどのように海外に打って出るのか で「ベルリンはSoundCloudやNative Instrumentsもありますし。北欧の音楽系スタートアップが「エコシステムがあるから」と移住したり、アーティストやエンジニアも数年前から移住したりしているようです。私はベルリンには注目しています。」と鈴木氏が語ったように、音楽×テクノロジーの観点からは注目の街と言える。今回は、Ableton(エイブルトン)社が主催する「Loop」という音楽制作カンファレンスに参加した様子を中心に語ってもらった。

■これからの音楽表現を語るカンファレンス「Loop」

--今回のLoopというカンファレンスは、DTMソフトメーカーのAbelton社が主催していますね。

鈴木:
ベルリンにある歴史的建造物のFunkhausで開催された「Loop 2016」は、僕も今回初めて参加することができました。音楽、テクノロジー、創作実践に関するアイデア、テクニック、インスピレーションが共有される場となっています。入場口のすぐそばで、足で演奏する楽器等、新しいタイプの楽器がプレゼンされていたり、ワークショップもスタジオセッション形式で、アーティストがコラボするものがあったりと独特で楽しかったです。
中でも面白かったのは「JamRoom」という部屋が。狭い部屋にいろんな楽器が置いてあり、来場者が自由に触っていい部屋です。みんなが勝手に楽器を触り、その場でJamセッションも出来て、これは面白かったですね。

「フィールドレコーディング」や「ロボット演奏」などのトークセッションもあり、盛りだくさんの内容でした。音楽制作者だけでなく、研究者も集まって、表現としてはまだまだな途上な表現方法をプレゼンテーションし、一緒に音楽表現を作るパートナーをLoopに探しにきている、という感じでした。
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「JamRoom」の模様

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Funkhaus

■クリエイティブの刺激になる数々のトークセッション

--印象に残ったトークセッションやパフォーマンスはありましたか?

鈴木:
mi.mu gloves」というプロダクトのプレゼンテーションとパフォーマンスです。これはグローブ(手袋)にセンサーが付いていて、手の動きで声や楽器にフィルターやディレイをかけたり、エコーをかけたりできます。既にアリアナ・グランデとコラボして、本人が着用して歌っていたりもしているようです。

僕がKAGURAの海外進出をお手伝いしているというのもあって、すごくいいインスピレーションになりましたね。このプロダクトはImogen Heap(イモーゲンヒープ)というテクノロジーを使った最先端の取り組みをしているアーティスト他によるものです。パフォーマンスとしてもかっこ良くて、面白いだけでなく表現の域まで到達していて印象的だったし、僕がお手伝いしているKAGURAもこうならないといけないなという思いで観ていました。パートナーシップを組んでいるアーティストも何組もいて、普通に表現として利用されるまで到達しているのが、これから僕らが目指すべき方向性の一つだなと感じましたね。
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「mi.mu gloves」のプレゼンテーション

--その他にはありましたでしょうか?

鈴木:
イギリスの音楽雑誌『The WIRE』に、有名なアーティストを招き、関連のある楽曲や、そのアーティストが知らなそうな曲を、曲名やアーティスト名は伏せて聞いてもらい、その曲について印象を語ってもらう「Invisible JukeBOX」という名物企画があるんです。日本でも『めかくしジュークボックス』という本になっています。
その「Invisible JukeBOX」企画を、このカンファレンス内で毎日やってたんです。本で読んでいたものを、実際に見る事ができて楽しかったです。

--他のカンファレンスとは違って、クリエイティブなカンファレンスですね。

鈴木:
そうですね。トークセッションのテーマも「The Art of Sampling」とか「Art of Interface」など、音楽制作はもちろん、将来的な可能性にまで言及していましたね。展示コーナーにはまだ販売されていないコンセプチュアルな楽器も並んでいて、観ているだけでも楽しかったです。会場のFunkhausという建物の渡り廊下を歩くと、廊下がシーケンサーのように光り音が鳴るインスタレーションがあり、フェスのような高揚感もありました。

■世界一入場困難!?な最高峰のクラブベルクハイン

--その他、ベルリンではどういう経験をされましたか?

鈴木:
世界最高峰と言われるくらい有名な「Berghain(ベルクハイン)」というクラブに行きました。金曜夜から月曜の朝までぶっ通しで営業していて、休日前は入るのに3時間ほど並ぶ位なのですが、ようやく入り口にたどり着いても、バウンサーがお客さんを評価し、そぐわないと思ったら、帰らされるというクラブです(笑)。ただ単に観光で来ている人は帰らされちゃうんですよ。僕は土曜日の昼間にチャレンジしにいったのですが、前の5人くらいが入場を断られて、自分もダメだなぁと思いながらも、バウンサーの目を、気合いを入れて見つめてみたら入る事ができました。気合いを試されるクラブです(笑)。

入る時にスマホを出せと言われて、カメラのレンズにシールを貼られるんです。選ばれた人だけが入れるという高揚感と、誰にも撮影されない、邪魔されないということから、中にいるお客さん達はすごくその場を楽しんでいるんですよね。僕も「やっと入れた!」と思ってフロアに入った瞬間、自分の好きな曲がかかっていて、ベルリンに迎え入れてもらったという気持ちになりました。
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夜の「Berghain」

■クリエイターのコミュニティに入る重要性

--今回の初ベルリン滞在は総括するといかがでしたでしょうか?

鈴木:
Loopで経験したように、エンターテックをビジネスにする僕たちがクリエイターのコミュニティに入るということがとても大事だなと再認識できました。サポートしているKAGURAについても「クリエイターによって、僕らの想像を超えた使い方をされた時こそが、本当に受け入れられたと言える」という思いがあります。これからもっとクリエイターのコミュニティに入って、その為の機会を作っていきたいと感じた滞在でした。

--注目しているとおっしゃっていたベルリンですが、今後音楽×テクノロジーという観点で、この街ではどのような動き・発展が予想されますでしょうか?また、滞在して体感された、ベルリンにおける音楽×テクノロジー分野の発展を支える風土等がありましたら、教えて頂けますか?

鈴木:
SoundCloudが産まれたベルリンは、スタートアップが集まる前はクリエイティブ都市として知られていました。元々1960〜70年代に空いた建物やスペースが勝手に占拠=スクワットされ、そこに芸術家他のクリエイティブな人々が集まった歴史がベルリンにあります。70年代後半に西ベルリンに住んで「ロウ」他の"ベルリン3部作"を制作したデビッド・ボウイもこの流れとリンクしています。ちなみにBOØWYの3rdアルバム「BOØWY」が録音されたのも、「ロウ」と同じハンザ・スタジオでした。

またロンドン、パリといったヨーロッパの主要都市に比べて、物価や家賃が低い事もスタートアップには有利に働き、人の集積とローカルコミュニティの交流からスタートアップが数多く設立され、GoogleのR&D施設ができるなどスタートアップ都市として認知されています。

ドイツは今回カンファレンスに参加したAbletonや、Native Instruments、Steinbergといった音楽制作ソフトの殆どが産まれる国でもあります。前述のクリエイティブとスタートアップが自然に共存する都市だからこそ、SoundCloudのようなクリエイターオリエンテッドなサービスが産まれたと思います。
今後のベルリンは、BREXITの影響でロンドンがEU圏から離れる事でベルリンに更なる注目が集まることでしょう。実際にベルリンに人が流れているという話を現地の人間から聞きました。また周辺のポーランドといった国とも、ファッション、クリエイティブといったポップカルチャーの交流が活発になっているようです。ベルリンが東欧も含めた次世代の経済と文化の中心地になる予感がした今回の滞在でした。
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ライター:gako

ネット企業、通信キャリアを経て、音楽業界。 マーケティング・戦略・新規事業立案などを担当。 エンターテインメント×テクノロジー(EnterTech)分野で 企画・プロデュースを行い、世の中に新しい楽しみを提供することに挑戦中。
Twitter:@gakoara ブログ:http://gakoara.com/

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