【エンターテックが世界を繋ぐ】#5 SXSW 2017--これからアーティストに求められる"データドリブンなキャリアの築き方"

2017.03.29 17:00

エンターテック・アクセラレーターとして、2016年に起業。エンターテインメント、テクノロジー領域を中心に世界中のカンファレンス出席、日本のプロダクトの海外展開の支援を行うParadeAll株式会社 代表取締役 鈴木貴歩氏。本連載は、「エンターテックが世界を繋ぐ」と題し、「エンターテインメント×テクノロジー=エンターテックはカルチャーを創る」をビジョンに世界中を飛び回り、仕事をする鈴木氏が実際に見て、聴いて、体験したことを伝えていく。
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ミュージック・フィルム・インタラクティブの祭典『SXSW 2017』。テキサス州オースティンで3/10-3/19に開催された当イベント。今回は10日間全ての期間を参加した鈴木氏に、音楽セッションを中心に現地で体感したことを語ってもらった。

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Keynoteセッションに登壇したNile Rodgers(ナイル・ロジャース)

■データドリブンでアーティストがキャリアを築く時代

鈴木:
今回の音楽セッションで全体的に感じたのは、「アーティストのキャリアの積み方がデータドリブンになってきている」ということです。
面白かったのは「Transforming Online Popularity to Offline Success」という、YouTuber等のオンラインで注目を集めたアーティストがどのようにオフラインでキャリアを積んでいくのかというテーマのセッションです。 このセッションには日本の『千本桜』『ゼルダの伝説』等のカバー動画で知られるLindsey Stirling(リンジー・スターリング)というバイオリニストのマネージャーが登壇していました。リンジーは『アメリカズ・ゴット・タレント』というアメリカのオーディション番組出演をきっかけに、YouTubeにアップしたミュージックビデオで人気が拡大したのですが、リンジーのチームでは、YouTubeにアップしたMVの試聴結果を、アナリティクス機能を使って分析し、ツアーの開催場所を決定していったそうです。その結果が、グッズ販売にも貢献しているといいます。また、そうやって得た収益を、クオリティの高いミュージックビデオの制作資金に充てたそうで、YouTubeで人気を博したアーティストが動画に再投資していくというのは、すごく自分の戦い方が分かっているなと感じました。その他、州や都市など地域毎のFacebookページを設け、小さなコミュニティでのミートアップ開催や、Spotifyのツアー情報表示機能も活用しているということでした。
同じセッションにはSpotifyを活用して有名になったRon Pope(ロン・ポープ)という独立系シンガーソングライターも登壇していました。彼もSpotifyのFan Insights機能を活用してツアー場所を決定し、各地でまずチケットでプリセールスし、ライブを開催するそうです。そういったマーケティングを継続することでブラジルのフェスに出演し、ニューヨークのRadio City Music Hallという5000人規模の会場のイベントでライブを開催するという結果に繋がったといいます。彼もファンとのエンゲージメントの構築には、地域毎のFacebookページやメーリングリストを活用しているということです。

--ネットで人気に火がついたアーティストが、オフラインでのキャリアの築き方まで考えているのは興味深いです。

鈴木:
そうですね。オンラインがきっかけのアーティストがそれだけで終わるのではなく、そこからきちんとキャリアを築いていくということが重要です。グローバル市場でも地域毎に多様性があるので、YouTubeやSpotifyのアナリティクスデータを活用しながら自分を売り込んでいくというのはとても参考になりますね。
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セッション「Transforming Online Popularity to Offline Success」

--音楽マーケティングの観点で、他に気になったセッションはありましたか?

鈴木:
このセッションとリンクして僕がSXSWで見た中で音楽マーケティングのアイコニック的な存在だと感じたのは、「Tech Matters: A Blueprint for DIY Musicians」のセッションに登壇していたMadame Gandhi(マダム・ガンディ) という女性アーティストです。彼女はハーバードでMBAを取得した経歴の持ち主なのですが、SpotifyのFan Insightsを使って、それぞれの都市での自分の人気度を分析し、その数字を持って各地のイベントプロモーターにプレゼンテーションをしに行くそうです。硬派な音楽批評メディアとして知られるPitchforkのフェスにもそれで出演したそうです。またStemというクリエイターが著作権等の収入管理ができるサービスを活用し、自分の作品の流通や入金を透明化していると言っていました。
更にTipsとしてはアメリカではFacebookページとInstagramを連携させると、アナリティクス機能が利用できて便利だとか、彼女の場合はYouTubeの収入はSpotifyの約10分の1しかないから、プロモーションはSpotifyに寄せるように意識しているが、映像のクリエイティブが重要な作品ではYouTubeを活用するよう使い分けているそうです。
また、同じく登壇していたForbesのCherie Hu(シェリー・フー)は、Facebookの現在のアルゴリズムで重視されている360度動画を活用すべきという点や、音楽におけるソーシャルメディアの使い分けとして日々のパーソナルな投稿はFacebookやInstagramを活用し、Twitterはアイデアをシェアしファンとコミュニケーションする場として使い分けるべきだと明確に発言していました。その他セッション内では、テクノロジーを使うことが目的になってはいけない、ツールの向こうにいるファンを意識し、どういう人をエンゲージしているのか理解してツールを活用すべきだということが話されていました。そうした実践的なアドバイスもSXSWでは多く聞くことができます。
日本でも音楽ストリーミングサービスが活用され始めていますが、SpotifyのFan Insightsのような機能が必要だし、そのデータを活用してアーティストを売り出していこうという意志をもった人がマーケティングしていくような透明性が必要になっていくんでしょうね。
印象的だったのは、このセッションには100人位の聴衆がいたのですが、登壇者が「ミュージシャンの人、手挙げて」と言ったら、ほとんどがミュージシャンだったんです。SXSWの音楽期間だけの参加費でも日本円で10万円くらい必要ですから、それだけの投資をして参加してきている訳です。
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セッション「Tech Matters: A Blueprint for DIY Musicians」

■TwitterやSoundCloudもアルバムの一部

--「Apple Music」のラジオ局Beats 1のメイン DJを務めるZane Lowe(ゼイン・ロウ)が、MUSICのKeynoteセッションを務めましたが、いかがでしたか?

鈴木:
音楽をバックにセッションが開始するという、ラジオDJらしい始まり方でした。自らの音楽との関わり方を、生い立ちと共に語っていたのですが、それはポップミュージックの歴史ともリンクしているものでした。彼が今迄インタビューしたアーティストとのエピソードトークがあったのですが、Kanye West(カニエ・ウェスト)に代表されるような今のアーティストは、毎月の楽曲リリースやTwitterでのTweet、未完成バージョンの曲のSoundCloudへのアップなど、様々なことを矢継ぎ早にやるじゃないですか。カニエはそれを"ノイズを出す事で世の中が無視できない状況を創り出している」と意識的にやっているんです。アルバムだけが作品なのではなく、TwitterやSoundCloudやYouTube等...そうした一挙手一投足も全部含めて、作品なんだという感じになっていると思いました。
それとリンクする形で印象的だったセッションが、「Digital Revolution: A Look at Music's New Frontier」です。NYハーレム出身のアーティスト集団、 A$AP Mob(エイサップ・モブ)のメンバーであるラッパーA$AP Ferg(エイサップ・ファーグ)が登壇していました。そこで「ストリーミングが主流の中で、リリース戦略をどう考えているのか?」という話題があったのですが、彼は「今はお金を稼ぐだけだったら音楽を売る以外にも何百通りもある。アーティストとして音楽を新鮮に提供するには明日リリースしたのでは遅い。一番は、俺はスタジオで曲ができた瞬間にリリースしたい。できた瞬間の新鮮な気持ちをシェアして、コミュニティからのフィードバックをもらう事がベストだ。」と。
僕は、カニエのエピソードやA$AP Fergの話を聞いて、生き様を出すということが、よりアーティストの創作性とリンクしていると理解しました。生き様を表現するということが、デジタルツールによって加速しているし、ある種素直に表現できるようになりましたよね。
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Zane Lowe(ゼイン・ロウ)

--アーティスト自身の考え方がすごく戦略的ですし、世の中の動きやファンを理解していますよね。

鈴木:
そうですね。また同セッションでAdam Alpert(アダム・アルファート)というThe Chainsmokersのマネージャーが、The Chainsmokersが立て続けに曲をリリースしたのも、ファンとのカンバセーションをキープするためだと。そうやって常に語りかけ、ファンからのリアクションを受け取ることで、ファンベースを広げていくといいます。
日本のアーティストはビジネスを考えているということを、表に出さないことで、ある種ステイタスを保っていたけれども、逆に考えていることを公に言ったほうがステイタスを保てるような時代になるんじゃないのかなと思いますね。A$AP Fergの発言も今のテクノロジーの在り方や、文化や世相も彼なりに理解をして話していますよね。アーティストがこういうことを話すような場を僕自身も作って行かないといけないなと改めて思いました。
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The Chainsmokers

■共通点は「データの重要性と活用法」と「Dream Big」

--その他に、SXSWの音楽セッションで語られていた共通点はありましたか?

鈴木:
まず一つはここまでお伝えしてきている「データの重要性と活用法」です。音楽を聴く手段やコミュニケーションがデジタル化することによって、そのデータの活用を他人任せにせず、かつチームとして深く取り組む必要性があると思います。データを使ってどうアーティストのキャリアを築いていくのかを考え、データを読み解けるスキルと持ったチームが必要ですよね。
もう一つは「Dream Big」です。これはKeynoteセッションでNile Rodgers(ナイル・ロジャース)も言っていたんです。「若い頃は自分がかっこいいとい思う音楽をやれればいいと思っていたが、ある尊敬する人に言われたのは、ヒット曲は素晴らしい"曲の構造"を持っている。それを持っていれば何百万人の知らない人に語りかけることができる。何百万も売れるヒット曲を作ろうという"大きな夢"を持とうと思った」と。 またThe ChainsmokersがSONYブースでのライブMCで語っていたのは「俺たちは数年前、SXSWにただの参加者で来ていた側だった。それが一生懸命頑張っていれば、こんな素晴らしいステージに立てる」ということでした。
SXSWはそういったDream Big を実現する為のノウハウのセッションがいくつもあり、何かを摑み取ってやろうという駆け出しのアーティストが集まってくる。そして同じ場に大成功を収めたアーティストも参加している。そういった空気を一緒に体感できるSXSWはというのは貴重な空間だと思います。

--今回で「エンターテックが世界を繋ぐ」連載は最後となります。鈴木さんの、エンターテックを掲げ2016年に起業されてから現在までの活動と、これからの活動について教えてください。

鈴木:
今回の SXSWを通して、エンタメ側からスタートアップやテクノロジーへ投資するエコシステムを作ろうと活動している人たちのネットワークが繋がったんです。LA、NY、ベルリン、ロンドン、そして僕が東京と、エンターテックのネットワークが出来ました。これからはこのネットワークをきっちりアクティベートして、グローバルレベルの面白いことを仕掛けていきたいと考えています。
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ライター:gako

ネット企業、通信キャリアを経て、音楽業界。 マーケティング・戦略・新規事業立案などを担当。 エンターテインメント×テクノロジー(EnterTech)分野で 企画・プロデュースを行い、世の中に新しい楽しみを提供することに挑戦中。
Twitter:@gakoara ブログ:http://gakoara.com/

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