ギタリスト・TAKUYAが見据える「福岡をアジアの音楽ハブに」スタジオ建設計画の現在地

2016.06.01 12:00

昨年のSlush Asiaで、元JUDY AND MARY ギタリスト・TAKUYA氏によりプレゼンテーションされた、「福岡に、アジアの音楽市場のハブとなるようなスタジオを建設する」という計画。TAKUYA氏に、プレゼン後一年経った今、最新の状況を伺った。(画像提供:TAKUYA)

■福岡に注目した理由は「周波数」「アジアへの近さ」「ラーメン屋」

まず「アジアの音楽市場のハブ」を日本に作るにあたり、福岡に着目した理由とは。TAKUYA氏が注目したのは「周波数」「アジアへの近さ」「ラーメン屋」の三点だった。

「周波数」は、日本国内における東日本と西日本の周波数の違いだ。東日本が50Hz、西日本が60Hz。この差は楽器の音の出方に実は大きな影響があるという。
「アジアへの近さ」は、福岡を中心にすると東京・上海・ソウルなど様々な都市がおおよそ1,000km圏内という、アジア各都市への移動が日本の都市の中でも容易と言える都市であること。さらに福岡は市街地から空港へのアクセスが良い(10分程度)という点もある。
「ラーメン屋」は、夜遅くまで作業をすることが多いミュージシャンが夜にご飯を食べるとなると、自ずと遅くまで開いているラーメン屋になりがち。そんな中でラーメンが盛んな街という点も、実は大きな要素になるそうだ。

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2015年のSlush Asiaでのプレゼンの模様

そもそも、日本国内にそういった拠点を作ろうと考えた背景には、TAKUYA氏も視察を重ねる中で強く感じているというアジア、特に中国などでの音楽熱の高まりがあるという。そんな中で、音楽ビジネスの途上国においては機械を揃えてもスタッフが使いこなせない・教える人がいないというシチュエーションも多いそうだ。
一方日本国内では、都内のレコーディングスタジオなどの施設が徐々になくなり、東京で長年活躍してきた音楽関係者が活躍する場を作っていくべきだという点も課題意識としてあったという。また、若手にとっても東京一極集中は、コストの高さが障壁となってしまう。 そうした国内外の課題を解決すべく、アジアに近い福岡でハブとなるスタジオをつくるというのが今回の計画だ。

■ナッシュビル視察で感じた、福岡との共通点

TAKUYA氏がこの春、視察とレコーディングで訪れた都市の一つがアメリカのナッシュビル。
アメリカでも「ニューヨークであえてやる必要がない」と、1970年代〜80年代に活躍したプロデューサーなどが、デジタル技術の進化もあいまって、大都市から国内の様々な都市へ散らばる動きが出てきていると語るTAKUYA氏。ナッシュビルも、そんな"移る"先の都市として注目されているようだ。

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ナッシュビルのblackbird studioにて

--なぜナッシュビルへの視察を行ったのでしょうか。

TAKUYA:
元々カントリーも盛んな"ミュージックシティ"だったのですが、ニューヨークやロサンゼルスでの音楽産業が盛り上がるにつれ一旦盛り下がってしまった街なんですね。でも、今「大都市じゃなくても出来るじゃないか」と思った人が新しく施設を建てるなど、再び盛り上がってきている街なのです。 大都市から人材が移り始めている、という点が福岡のスタジオ構想実現後のイメージに近いなと感じました。

--実際に視察して印象に残った点はありますか?

TAKUYA:
ニューヨークやロサンゼルスといった大都市と比べて土地が安いのがやはり大きいですよね。新しいスタジオや施設や、移住してきている人も増えているようです。 また、レコーディングしているとアップルミュージックの担当者が来るなど、音楽面での人材交流も盛んでした。 さらに印象に残ったのはナッシュビルの施設ではアシスタントまでちゃんと育成されている点です。アルバイトでも気配りがしっかりしていて、運営するスタジオの意識の高さがわかるし、掃除なども行き届いていて、そこでまたミュージシャンが仕事をしたいと思う環境でした。
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視察時、ナッシュビルの市街地の様子

■音楽以外のクリエイティブ業界の会社とも組めたら面白い

昨年のSlush Asiaでのプレゼンから一年。計画自体の進捗、今後の展開についても伺ってみた。

TAKUYA:
スタジオについては準備万端です。数字の試算や、誰に具体的な施工をお願いするかも決めています。さらに、せっかくだからアジアに向かって仕事をしたい音楽以外のクリエイティブ業界の会社とも組めたら面白いなと思っています。またIT業界の方で興味を持って頂いている方とも今よく打合せをしています。現在は良い事業計画の提案をお待ちしています、というところですね。

--最近では、TAKUYAさんご自身も中国のアーティストに楽曲を提供されたそうですね。



TAKUYA:
昨年現地のソングライティングキャンプに参加した時に、その場で売れた曲です。アーティストが「これいいね」と言ったら決まるのが早いので。福岡でも世界のアーティストが日本向けにキャンプをやるという可能性も有り得ますよね。 アメリカ視察中もアジア市場を狙っている人とも話しましたが、やはり中国を狙っていて、その為にまずは距離の近い台北に行きたいとみんな言っていました。 台北、北京、上海、香港、シンガポールあたりは比較的クリエイティブ面での人の行き来があるんですが、日本だけその輪に入れていない。だから、福岡のスタジオが出来たら福岡がその輪に入る街として回り出していけたらいいなと思っています。
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ナッシュビルのblackbird studioにて

■スタートアップ都市づくりを掲げる福岡市にとっても、マッチしている計画

また、TAKUYA氏が直々にプレゼンを行った福岡市の高島宗一郎市長も、この計画については前向きな意向を示している。他分野での成功事例として、福岡市がスタートアップの拠点として運営している「スタートアップカフェ」を挙げる。

高島:
今、福岡市はスタートアップ都市づくりを進めているわけですが、その拠点となるのが「スタートアップカフェ」です。TSUTAYA BOOK STORE TENJINの中にあるこの施設は、徹底的に敷居を低くすることで様々な業界の人、閉塞感を打ち破っていくんだという熱い気持ちを持った人たちが集まってきて、シナジー効果によって大きなスタートアップのムーブメントを巻き起こしています。
スタートアップの本質は何かと言えば、新しい企業を増やすことではありません。新しい価値を、時代を創っていくこと。これまで、「俺たちが時代を変えるんだ」、こう叫んでいたのはまぎれもなくアーティストでした。そういう意味でも今回のスタジオがプラットフォームとなって、時代を変えていくアーティストやクリエイターたちが集まり、音楽の分野でも新たな価値を生み出していくことは、間違いなく福岡市が目指す方向性とマッチするはずです。
全国の政令指定都市の中で唯一、一級河川がなく、大規模な工場の設置には不向きであるという地勢上の特性から、知識創造型産業の集積・振興に力を注いでいる福岡市にとって、才能あふれるクリエイティブな人たちの集積を促していくことが、産業を発展させるうえで非常に重要です。新たな音楽や価値をアジア、さらには世界に向けて発信していく。こうした大きなうねりを作っていけるよう、福岡市として、ぜひ協力させていただければと考えています。
これまでたくさんの有名アーティストを輩出してきた福岡市に、一見して分かる象徴的な物があれば...という思いをかねてから抱いていたところでもありますし、今回のTAKUYAさんのスタジオ計画に、大いに期待しています。

プレゼン後、官民を巻き込み着々と準備が進む当計画。「アジアに発信していく上での拠点として、今なら良い事業計画が合えば、自由度高く動けます」と語るTAKUYA氏。福岡を拠点にアジアへの進出を目論む企業やクリエイターをさらに巻き込んでいくことになりそうだ。

取材:市來孝人

SENSORS Web副編集長
PR会社勤務を経てフリーランスのWebエディター・PRプランナー・ナレーターなどとして活動中。「音楽×テクノロジー」の分野は特に関心あり。1985年生まれ。
Twitter:@takato_ichiki / Instagram:@takatoichiki

取材:小松里紗

福岡のITベンチャー・株式会社エニセンスを経て、Webメディアの立ち上げや運用に携わりながら福岡で会員制バー「Bar Sumica」を経営。Webや飲食業にとどまらず、MCやライターとしても活動。
Twitter:@komatsu_risa

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