大西卓哉宇宙飛行士の宇宙でのミッションは?--"宇宙飛行士を目指すタレント"黒田有彩が解説

2016.07.12 18:30

中学生の頃NASAを訪れたことをきっかけに宇宙の魅力に惹かれ、宇宙のことを学ぶためには不可欠な物理を学ぶべく、大学では理学部物理学科に進学。大学在学時から現在まで、"宇宙の魅力を発信する"という立場から活動。宇宙飛行士を目指すタレント・黒田有彩による連載。
今回は、約4か月ISS国際宇宙ステーションに滞在する大西卓哉宇宙飛行士の、宇宙での活動にフォーカス。大西飛行士はどのようなミッションに取り組むのか?宇宙飛行士を目指すタレント・黒田有彩が分かりやすく解説します。

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私も取材で参加させて頂いた機関誌「JAXA's」。現在の発行号は大西飛行士が表紙です

黒田有彩です。7月7日、日本時間午前10時36分頃、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地からロシアの宇宙船「ソユーズ」が打ち上げられ、大西卓哉宇宙飛行士が、ロシアのアナトーリ・イヴァニシン船長と、アメリカのキャスリーン・ルビンズ宇宙飛行士とともに、ISS国際宇宙ステーションへと旅立たれました。

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画像:JAXA/NASA

■"日本にしかできない"ミッションも

今回のミッションテーマは「信頼を、さらに強く。日本にしか できないことがある。」

"日本にしかできないミッション"を確実に遂行することで、日本がISS計画の根幹を支えるパートナーとして欠かせない存在であることを示すミッションです。では、"日本にしかできないミッション"とは、一体どんなものなのでしょうか。

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画像:JAXA/NASA/Bill Stafford

大西宇宙飛行士が長期滞在中に実施されるJAXA利用実験活動は、約20ミッションあります。
テーマを分野別で分けると、生命科学実験が5つ、応用利用が1つ、宇宙医学実験が4つ、物理科学実験が2つ、有人宇宙技術開発が2つ、船外利用が6つなどとなっています。その主なミッションを、この連載でも何回かに分けてご紹介します。

生命科学実験の一つとして、小動物(マウス)の長期飼育があります。
微小重力環境では体を支える骨や筋肉が弱くなり、免疫機能が低下するといった変化が見られます。これらは高齢者にみられる加齢による疾患によく似ている上、宇宙では骨の量が減る速さは10倍、筋肉については2倍と言われ急速です。つまり、宇宙環境は加齢に似た変化が急速に進行する環境といえるのです。
その環境で、ヒトと同じ哺乳類であるマウスを、約30日間飼育可能なケージで飼育・観察します。飼育装置は微小重力区(0G)と人工重力区(1G)に各6個ずつセットし、純粋に重力のあるなしの影響を比較していきます。
将来的には、この結果をもとに、さまざまな病態状態のマウスによる宇宙での創薬研究などに生かされていく予定です。これからの日本の課題である高齢化対策、そして健康長寿社会の実現へと導いてくれるひとつが、このマウスの実験なのではないでしょうか。

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小動物飼育装置(MHU) 画像:JAXA

この実験装置は2015年9月に、油井宇宙飛行士が設置したもの。日本実験棟「きぼう」にあるため、この飼育環境は"日本にしかできない"と言われています。大西宇宙飛行士は、マウスの飼育、装置のメンテナンス、状況観察を担当します。日本人宇宙飛行士のミッションのリレー、頼もしいですよね。

また、船外利用でも"日本にしかできない"ミッションがたくさんあり、その中のひとつが、宇宙空間に超小型衛星を放出することです。こちらは大西さん滞在中の放出が間に合うかどうかは未定とのことですが、これは、ISSのモジュールの中でも「きぼう」だけが、専用のエアロック(宇宙空間と船内をつなぐ、気圧を調節できる小部屋)と専用のロボットアーム(船内から動かすことのできる船外アーム)を装備しているからできるという点で、"日本にしかできない"と言われています(ISS本体は、より汎用性の高いカナダ製ロボットアームを装備しています)。
超小型衛星はいろいろな種類がありますが、CubeSatと呼ばれる10cm角の大きさの片手で持てるサイズのものが、代表的なものです。

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小型衛星放出機構に関する作業について説明する星出彰彦宇宙飛行士(星出宇宙飛行士が手に持っているのが1UサイズのCubeSat) 画像:JAXA

CubeSatは通常の衛星と比べて短期間で開発でき、費用も安いことから、大学などの教育機関や民間企業、フィリピンなどの海外宇宙機関など含め広く利用しているものです。現在、JAXAではこの放出機能の拡大を進めているそうです。今後さらに多くの方に利用され、"宇宙"が手軽に利用できることを知られることで、小型衛星放出という日本の技術がなくてはならないことを感じられると思います。
地球で暮らす私たちが宇宙利用の恩恵を受けているのは、人工衛星をはじめたくさんの機器を開発された方々、地上からミッションをサポートする方々、そして実際にミッションを遂行する宇宙飛行士の方のおかげなのだなと、改めて感じます。

その他にも高品質タンパク質の結晶生成など、様々なミッションがあります。今後もこの連載では、大西宇宙飛行士での宇宙でのチャレンジについて紹介していきます。

■日本食も食べられるように--最近の宇宙食事情

さて、ミッションももちろんですが、宇宙飛行士の方がどんなふうにISSで生活をしているのかも気になりますよね。今回は最近の宇宙食事情についても調べてみました。
現在、ISSでは16日間のローテーションメニューになっていて、基本はアメリカとロシアの宇宙食が半々なのだそう。また月に一度はボーナス宇宙食を利用することができるそうで、冷蔵が不要でNASAの微生物検査をパスしたものなら市販品の食品でも好きなものを含めることができます。2008年からは日本宇宙食もメニューに加えられるようになったり、ヨーロッパの宇宙食も開発されたりしていて、国際色豊かな食事を食べられるようになっています。

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認証された宇宙日本食の例(赤飯) 画像:JAXA

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認証された宇宙日本食の例(マヨネーズ) 画像:JAXA

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認証された宇宙日本食の例(羊羹) 画像:JAXA

大西宇宙飛行士は2015年1月1日からGoogle+を更新。その中では訓練の様子やミッションが進められていく過程、宇宙飛行士の風習などが伝わってきます。その中で、宇宙食に関する言及もありました。

「メニューの試食・選定が行われました。全部で17種類の缶詰の宇宙食を試食して、10点満点で見た目や風味、おいしさなどの項目を評価していきます。『ESAの宇宙食は、ミシュラン常連のフランスの有名シェフが担当しているんだ』という担当者の一言で、俄然やる気も湧いてきます。(オイ)」(大西宇宙飛行士 Google+アカウントより) (編注:ESA→欧州宇宙機関)

宇宙食をミシュランシェフが...。ぜひ食べてみたいですよね。

軍のパイロット出身が多い宇宙飛行士の中で、民間航空機(全日空)パイロット出身という非常に珍しい経歴の大西宇宙飛行士。Google+ではパイロットでの経験も踏まえた訓練の様子も綴られており、とても興味深いです。

今回の大西宇宙飛行士の長期滞在ミッションのロゴマークは、バックグラウンドのパイロットから、"翼"をモチーフにデザインされています。

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画像:JAXA

ロゴマークの中にあるISS、月、火星は、『ISS・「きぼう」の利用をさらに推し進め、その先にある将来の宇宙開発を見据えて日本の有人宇宙活動を拓いていくこと』を表現しています。
これからの大西宇宙飛行士の活躍、見逃せませんね。

文:黒田有彩

タレント。1987年生・お茶の水女子大学理学部物理学科卒。
中学時代のNASA訪問をきっかけに宇宙に魅せられ、宇宙飛行士になることを目標とする"宇宙女子"。数々の宇宙に関連する番組への出演や、NHK教育「高校講座 物理基礎」MC、読売テレビ「ハッカテン」(ハッカソン番組)ゲストなど、研究や教育に関するメディアへの出演も。「宇宙女子」(2015年・集英社インターナショナル)共著。
Twitter:@KUROARI_RTTS
Instagram:@arisakuroda

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