Web編集者は"バズ"を越え、"文化"を創り出せるか?〜佐渡島庸平×塩谷舞 @ TOKYO DESIGN WEEK

2015.11.18 17:30

TOKYO DESIGN WEEK 2015で行われた、クリエイターや文化人が様々なテーマで討論し合うトークイベント「ソクラテスカフェ」。10月24日は、紙とWebそれぞれ異なった出自を持つ編集者、佐渡島庸平(コルク代表)と塩谷舞(PR・WEB編集者)が登壇。"バズ"の亡霊を追いかけ粗製乱造されるコンテンツ。運良くクリックされても、秒速で消費されていく。そんなインターネットの中で、心に突き刺さるコンテンツを生み出すための"編集術"とは何か?インターネット×編集で"文化"を創造しようと最前線を走る二人の編集者が語った。

朝目覚め、まず初めにあなたがすることはなんだろうか?枕越しの携帯をとりあえず開き、SNSのトップフィードに目を通す。出勤退勤時はニュースアプリで気になったタイトルを消化。就寝までにおそらく数十タイトルの記事を読んでいる人も少なくないのではないだろうか?
そんな、繰り返されるサイクルの中で、コンテンツの消費速度は加速の一途をたどっている。前日、目にしたコンテンツのうちいくつが記憶に残っているだろうか。

インターネットに出自を持つWEB編集者、塩谷舞氏(通称"しおたん")は今年独立してから数々の"バズ"コンテンツを手がけてきた。そんな彼女が今回のイベントの前に美大生向けメディア「PARTNER」にアツい筆致で問いかけたのは、ネットコンテンツ消費文化への挑戦状だった。

小さなムーブメントを見つけて伝えて、大きな大きなうねりにしたい。あなたが知らない「まだ見ぬ何か」を熱烈に好きになってもらうために、えぐり突き刺さるような言葉を届けたい。100年後の文化史として、鮮やかに残るものを築きたい。そして、地球上にある希望の数をできる限り増やしたい。そのために宣伝屋さんになりました。だから、刹那的に消費されてちゃ、駄目なんだ。 引用:もうバズらせることに疲れたよ。ネットの消化・消耗文化にガチで勝負いたします。より

そんな彼女が今回対談の相手に選んだのがクリエイター・エージェント「コルク」の代表、佐渡島庸平氏だ。佐渡島氏はコルク設立前、講談社の敏腕編集者で『バガボンド』『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』など人気漫画の編集を担当。
紙の編集に出自を持つ佐渡島氏だが、"バズ"を生み出すことに躍起になっている現行のWEB編集をいかに捉えているのだろうか。

■「深夜ラジオのパーソナリティー風」...WEBと紙の文法の違い

「紙に比べてWEBは質が低い」という言説を聞くことが多い。WEBはPV偏重主義に陥っており、質が担保されていないのではないかというのがその主な理由に挙げられる。だが、佐渡島氏はコルクを立ち上げて以降、WEBサイドの人々と仕事をする中で"質"ではなく、"文法"が違うことに気がついたという。盲目的に「質が低い」と評されてしまう原因の一つとして、紙に比べ歴史も短いWEB編集の中で、個として名の立った編集者がまだ出てきていないことも挙げられる。その点、塩谷氏には期待を寄せ、コルクの多くの仕事も依頼しているのだとか。

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【左】佐渡島庸平氏【右】塩谷舞氏

紙とWEBの間に隔たる"文法"とは具体的には何を指すのだろうか?その例として、佐渡島氏はFacebookやTwitterといったSNS運営に成功している作家がごく少ないという事実を挙げる。実際の知名度のわりにフォロワー数が少なく、伸びない。この背景には、言わずもがなメディア業界の構造変化がある。情報へのアクセス経路が爆発的に広がり、ネットに最適化された個人のインフルエンサーが登場した。そんな中で、テレビや雑誌で知名度を上げた作家が文法を変えずに情報発信していても、上手くはいかない。

佐渡島:
情報へのアクセス権自体の価値がすごく下がってきていますよね。だから、一対多の発信の仕方をネット上でやると、ほとんどの人がシラけてそれを読むんです。これは話し方の問題で、深夜のラジオのパーソナリティーを思い浮かべてほしいんですが、彼らは一対一の喋り方をしますよね。Twitterやメルマガでもそういう発信の仕方をするべきなんですよ。(一対多の)テレビより、(一対一の)ラジオのパーソナリティーの方が、よりその個人のキャラクターを感じますよね。

WEBの中では「親しい友だち」のような振る舞いが人気を得る。ネット出身の塩谷氏もそんな印象を与えるが、意識的に行っていることがあるらしい。

塩谷:
SNSでの発言が、上から目線......というか、「神サマ目線」にならないように、気をつけています。企業アカウントなんかは、この「神サマ目線」になりがちなんですよね。「皆さまに当社の素晴らしい情報を与えます」...というような(笑)。
とはいえ、下から目線に徹するのではなく、しっかりと自分のオピニオンも発する。そしてどんなオピニオンにも反対意見はつきものですので、私がやるのは、とにかく一番反対意見を言う人の思考回路を考えて、考えて、憑依するところまでやってみる。反対意見を自分ゴトのように理解してから、自分の意見を主張すると、結果として賛同してくださったり、興味を持ってくれる方が生まれるんです。

■思考過程さえもアウトプットできるWEBと、2種類の炎上

こうした反対意見に対しては校正前に"360度チェック"することでリスクを避けるのが一般的だ。だが、作家と編集者が協力して作品を作り上げていくとき、あえてリスクを一部残しておくことも、編集者の仕事にも含まれるのだと佐渡島氏はいう。

佐渡島:
炎上には、嫌いになってしまうものと、そうではないものと二種類ありますよね。議論を起こすこと自体はすごく良いことだと思っているので、ネットやメルマガでは、嫌いになってしまう炎上は避けながらも、(議論を起こす為の)炎上させることを考えていたりします。

実際、佐渡島氏が編集を担当した『働きマン』(安野モヨコ作)にも「働けない人の気持ちが分からないのか?」という批判も来たという。佐渡島氏は作品のために、そういった意見は気にしないほうがいいと安野氏にアドバイスした。でも当事者である作家は全ての人に楽しんで読んでもらいたくて、反対意見を簡単には無視できず、真面目に向き合う人が多いそうだ。

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『働きマン』1巻より

そんな最中、出来上がった安野氏の新作が『オチビサン』だった。作中には負の描写がない。鎌倉の消えゆく自然や日本文化が描かれていく。

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『オチビサン』より

20世紀にフランスで確立された版画技法"ポショワール"を採用し、原稿一枚一枚丁寧に仕上げていく。まるで『働きマン』と対極にあるような作品だ。安野氏がそうした作品を生み出すまでを探った、塩谷氏によるインタビュー記事「漫画を生み出すことに疲れた私は、漫画を描くことで元気になれた」には、当人の言葉はもちろん、夫である庵野秀明氏(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ監督)や佐渡島氏、さらにはPARTYクリエイティブ・ディレクター川村真司氏などの言葉がキュレーションされつつ、漫画の印象的な場面が散りばめられている。

■︎WEBならではの文法:キュレーションと対談形式

こうした編集法に佐渡島氏はWEB編集の独自性をみたという。こうした手法は紙媒体では意外に採用されておらず、ジャーナリスティックな文脈でわずかにノンフィクションライターが採ってきた程度だ。

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塩谷:
今は読者も、私も、自然とNAVERまとめのような「まとめ記事」に慣れています。個人の強い主観よりも、色んな主観が混じり合った多角的な意見のほうが、信憑性が高いと感じちゃうんですよね。私が書く記事の多くにはたくさんの登場人物が出てきて、動画もあるし、イラストも、GIFアニメーションも、Twitter引用もあります。このへんは、WEBライターの常套手段でもあります。
安野モヨコさんの場合は、周囲から彼女や彼女の作品に向けられた「愛」のパワーがすごい!って感じたんですよね。それを表現したくて、そのためには多くの方の情報を伝える「まとめ記事」形式が一番でした。

WEBと紙では記事の作り方一つ取っても大きな相違がある。その最も分かりやすい例が、糸井重里氏が主宰する「ほぼ日刊イトイ新聞」だろう。多くの対談記事には糸井氏の「うんうん」や「あ、そうだね」といった細かい同意語は省かれることなく掲載される。紙媒体では真っ先に省略される部分も、できるだけ全てそのまま掲載されるのだ。

もう一つ、佐渡島氏がWEB編集の文化と潮流として挙げるのが"対談形式"だ。5年ほど前まではインタビュー本の大半が一人語りだったのに対し、最近のWEBコンテンツの多くが対談形式になっているのだと指摘。

佐渡島:
これはまだ僕もしっかり言語化できていないのですが、インターネット上でリアルな感情を生み出すのは一人語りではなく、対話形式をそのまま出すというのが"ネットの中でリアルを保つ"上での一つのキーワードなんじゃないかと思っているんです。

■︎実はノンリニアなインターネットで、編集者はあらゆるメディアのグランドデザインを描く

田端信太郎氏は『MEDIA MAKERS』という著書の中で、雑誌が1ページ目から最後のページまで直線的に読んでいく"リニア"なメディアであるのに対して、インターネットは"ノンリニア"なメディアだと主張している。これに対し、佐渡島氏はインターネットこそノンリニアなのではないかという持論を呈示する。つまり、ネットには雑誌でいうところの"1ページ目"が存在しない。誰がどこで初めにアクセスするかで、必然的に出口も変わっていく。

以前、SENSORSで取り上げた編集に関するイベントでも佐渡島氏は、Facebookの一つの投稿さえもコンテンツと捉え、FacebookやTwitterなどのSNSに加え、メルマガ、本、リアルイベントなどメディア(=乗り物)を総体として捉え、トータルデザインし勝負することが編集者に求められていると語った。

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佐渡島:
塩谷さんのツイートを見て今日のイベントに来ている人は、これが推理小説だとすれば、ツイートを見た時点ですでに一つのヒントを渡されているんですよ。一つだけではないヒントがトークショーの間に次々と渡されていって、そこで終わるわけではなくこの後にまた塩谷さんがつぶやいたり、まとめ記事を書いたりするから、どこが完結か分からない。縦横無尽に移動していくから雑誌みたいに分かりやすくないんですね。

こうした縦横無尽なコンテンツの成功例として佐渡島氏が挙げたのが"ニコニコ"だった。ニコニコ動画、ニコニコ超会議、ニコニコ超パーティー、ネットとリアルを交互に移動しながら文化を創出することに成功しているのだという。

佐渡島:
こうしたことは、一歩引いた目がないとダメなんですね。出版社は一冊の雑誌を魅力的に編集しますが、社会全体を編集するという意識はない。例えばFacebookで始めて、途中にLINEを挟む、さらに盛り上げるためにリアルを挟み込んで、最後の課金は実はネットみたいに全て分けながらやっていく必要があるんですね。

■︎愛をKPIに、編集×インターネットで"文化"を創る

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SENSORSではイベント終了後に、登壇を終えた二人に単独インタビューを実施。改めて今回のイベントの狙いを塩谷氏に聞いた。

--今回のイベントを開催することを通じて、伝えたかったメッセージを改めてお聞かせください。

塩谷:
「PVが全てではない」というのはどこのメディアでも言われていることですし、Webメディア関係者の共通認識でもあります。ただ、コルクからの仕事を通して、『宇宙兄弟』や『オチビサン』のファンの人たちと触れある中で、PVで計測できないファンからの「愛情」を目の当たりにしたんです。数字で測りづらい「愛」で育まれるコミュニティ。これを自然発生的ではなく、編集者主導で作れている会社ってなかなかないですよね。むしろ、そういう「愛」が貯まっていく仕事を編集側がやっていなかないと、良い作品や作家さんが消えて、文化が死に、消費文化に取って代わられてしまいます。感動する超大作を作ることも大事。でも、小さな感動をたくさん、日常的に伝えていくことも大事。コルクの編集者はその両方に挑戦していて、「愛情」をKPIとしているように見えます。そんな文化創造的な編集のしごとが、もっと広まってほしいと思いました。愛がKPIだなんて、言葉にすると少し痛々しくって恥ずかしいんですけど。でも、夢と現実とインターネットをしっかり見て、文化を作っていくぞ!という気概が、私たちの世代にも絶対必要だと思います。

最後に、この記事の主題に戻りたい。「Web編集者は"バズ"を越え、"文化"を創り出せるか?」という問いだ。

佐渡島氏はトーク中、ネットの長所として、思考過程を際限なく全て呈示できるという特徴を挙げていた。ネットとリアルにある様々な乗り物(=メディア)のグランドデザインを描き、コンテンツ、そしてコミュニティを育てていくのが、これからの"編集者"に求められる力となっていく。その地道な仕事の上に、バズを越えた"文化"が生まれるのだろう。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近の関心領域は「人工知能」。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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