"あ〜" "あぁ..." 触れ方しだいで感情が変化し、声を発する「あ」の形をした物体【SENSORS WONDER】

2015.09.15 20:00

今は、まだ誰にも理解されないものかもしれない。しかし、それが時に世界を動かす大きな発明になるかもしれない...そんな思いの元、学生・企業・研究者達による「不思議な」プロダクトを紹介するコーナー「SENSORS WONDER」。OAではミニコーナーなのだが、そこで紹介するプロダクトの開発の裏には、様々なストーリーが存在する。OAで紹介しきれかなかったこのストーリーをSENSORS.jpでも公開していく。

今回はその名も「あ」。「あ」の形をしたこのプロダクトは、内蔵したセンサにより距離や加速度といった軸で触れ方を感知し、その触れ方に応じた様々な感情の「あ」を発声する。発声パターンはなんと200種類以上。「つつく」「なでる」「たたく」「まげる」「ゆさぶる」「ほうち(放置)」..といった様々な接し方によって、この「あ」の感情も変化していく。例えば、なでると徐々に喜んだり、ゆさぶると怖がったり、放置しているとかまってほしがったりするような「あ」を発するのだ。

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この「あ」には「SENSORS WONDER」コーナーを発案したディレクター・岡田も「プロダクト自体もとても面白いし、誰もがなぜこれを作ったの?と思うだろうし...」と強く興味を持ち、開発メンバーの穴井佑樹氏(team Panai)に取材を敢行。穴井氏は慶應義塾大学大学院在学中に「Reality Media Project」メンバーの一員としてこの「あ」を開発。メカニズムや、その先にある野望まで聞くことが出来た。

■「あ」に決めた理由からメカニズム・素材選びまで、開発者に聞く

--なぜこれを作ろうと思ったのでしょうか?

穴井:
2年前に所属していた大学院の教授に、IVRC(国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト)というコンテストへ応募を勧められたことがきっかけでした。私達のチームはエンジニア・建築家・デザイナー・敏腕ショップ店員・トラックメイカーなど、多様なバックグラウンドを持つ学生のチームであったことから、それぞれの興味や知見が組み合わさり、自然に「言葉に触る体験」をつくりたいというテーマが生まれました。さらに、「文字とのやりとりを通して意味を理解することのできる、今までにないタイポグラフィ(文字をテーマにした作品)があったらおもしろいのではないか!」というひらめきから、この作品をつくることにしました。

--なぜ「あ」なのでしょうか?

穴井:
「あ」は、私達がふとした瞬間に発する言葉です。人と話していて納得したときの「あぁ〜」や、驚いたときの「あ!!」など...その発し方次第で多種多様な感情を表現することができます。また、日本語は世界で最もハイコンテクストな言語の1つだと言われているため、私達が目指す「あ」の多様性の表現に、日本語の「あ」が最も適切なのではないかと考えました。

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--色々な接触動作によって出る「あ」の音が変わりますが、どのような仕組みなのでしょうか?

穴井:
「あ」は特殊なシリコンで作られていて、中は空洞になっています。空洞の中には、ねじり、曲げ、ゆさぶり、たたく、なでといったアクションを判定するためのセンサが入っています。具体的には、距離センサ、加速度センサ、マイクが入っています。距離センサは、LEDを内部に照射し、その反射の明るさを距離に変換するセンサです。外部から押し込まれることで光が反射してくる面がLEDに近くなるので、明るくなる(=距離が近くなる)といった処理を行っています。これをもとに、一カ所だけ押し込まれている場合は押された、複数箇所が線形に距離が変化している場合はねじられている、といった感じの判定を行っています。加速度センサでは、X,Y,Zの3軸の加速度を判定することが可能です。一定時間内に、1つの軸にたいして大きく振動している場合は、ゆさぶられていると判定し、瞬間的なゆれは叩かれたと判定しています。三つ目のマイクは、表面をなでられた時のノイズを検出しています。

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--「あ」の素材はどうやって決めたのでしょうか?

穴井:
開発当初から、多様な入力が行えるよう,シリコンをつかったやわらかいものにしようという考えがありました。しかし、樹脂に関する知見がないため、ホームセンターでお風呂掃除用のシリコンボンドを大量に買ってしまったり、うまくシリコンが硬化せずにブツブツができてしまったりとかなりの試行錯誤をしました.最終的には,舞台の特殊メイクに使用しているシリコンをつかって製作を行いました.

--「あー」の声は、どこから出ていますか?

穴井:
当初は内蔵スピーカーでやっていたのですが、出力が小さいため、今はPCを経由して外部スピーカーを設置。外部スピーカーを「あ」を置く筐体の中に隠し、そこから出しています。

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--ちなみに、「あー」の声はどなたの声でしょうか?

穴井:
声は、劇団員を目指していた大学の知人の声です。他の人の声でも、録音パターンが多くて大変ですが、不可能ではないです。

--将来、こんなことに発展させたい...という具体的な野望はありますか?

穴井:
「あ」を2つ用意し、それぞれの異なる体験者に使ってもらい意思疎通が可能か試してみたいです。イメージとしては、人間の声を機械的に再現したボコーダー(感情はなく、情報のみを伝える手段)の逆(感情のみで、情報が抽象的な伝達手段)に関する研究に位置する思想だと思います。コミュニケーションにおいて、言語化することで、構造化されたり、厳密さを求められてしまい、正解が出てきてしまうことに疑念を感じることがあるのです。非言語で、感情のみのやりとりでコミュニケーションが成立するようになったら、もっと幸せになるのではないかと考えています。

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このプロダクトの先に見据える「感情のみのやりとり」。人同士はもちろん、どんな生物(もしかすると宇宙人まで?)ともコミュニケーションがとれる、そんな一助になるかもしれない。見た目はその名の「あ」の通りの不思議なもの、しかし中身はセンサを駆使した本格派、そしてその先に見据える野望。こういった「不思議な」プロダクトを今後もSENSORS WONDERでは紹介していく。

聞き手:岡田麻里奈

SENSORS ディレクター兼アシスタントプロデューサー。日本大学芸術学部 放送学科 テレビ制作専攻卒。大学時代は映像を作り続ける傍ら塾講師としての経験も。「ZIP!」や各種特番の担当を経て現在に至る。「あなたの熱い想いを皆様へ」をモットーに、取材ではしつこいくらい...いや、仲良くなれてしまうくらい、真意に迫ります。

構成:市來孝人

SENSORS WEBエディター
PR会社勤務の後独立。福岡やシンガポールのラジオDJ、東京でのMC・ナレーター、ライターとして等の活動を経て、メディアプランナー・プロデューサーとして活動中。

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