小室哲哉と"視覚"の関係--絵を描くこと・映像表現・自らのパフォーマンス

2016.10.12 12:00

オーストリア・リンツで30年以上の歴史を持つメディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ」。9月に行われたばかりの今年の"アルス"では、小室哲哉氏が、慶應義塾大学環境情報学部教授 脇田玲氏とともに作り上げたオーディオビジュアルインスタレーションを発表した。

SENSORSでは、この作品の制作舞台裏や現地での模様をOA・Web連動で紹介。10月16日(日)1:25~(土曜深夜・15日25:25〜)の放送(日本テレビ)でインタビューを放映、OA後も当Webサイトでインスタレーションの制作裏話を公開する。

これに先駆けて、音楽家・作曲家・音楽プロデューサーである小室氏が"アート"に興味を持つまでに至った理由を探るべく、まずは彼と"視覚"に関わる様々な質問を投げかけてみた。

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■絵を描くこと

--まず、視覚、映像、絵..."見るもの"と小室さんとの関わりについて聞かせてください。近年のTM NETWORKのライブでも、まず絵を描くことから構想を練っていったそうですね。

小室:
そうですね。実は、三歳の時に母親にバイオリンと絵画の両方を一緒に習えるところに通わされていたみたいで、たまたま僕は音楽の方に行った、ということらしいです。小学校5-6年頃に、東京都の何かの絵のコンテストで2番になったこともあるんです(笑)。
2015年「TM NETWORK 30th FINAL」ダイジェスト

■映像×音の原体験

--続いて、音と視覚の関係を意識するようになった原体験についても聞かせて頂けますか?

小室:
冨田勲さんと手塚治虫さんによる「ジャングル大帝」のオープニングが最初ですね。カラーにはなっていたとはいえモノラルで、よく今でも仲間達とも話すんですが、記憶の中では"壮大なアフリカの草原"として残っているんですよね。それは手塚さんの絵と様々な音像が組み合わさってこそだったと思います。その後もやはり冨田さん。大阪万博での空間像ですね。
その後プログレッシブロックへの関心を持つんですが、ピーター・ガブリエルの映像と音が融合したパフォーマンスや、その頃はデヴィッド・バーンのパフォーマンスも印象的でした。

--TM NETWORKやglobeなど、ご自身が出るライブでも、視覚についてはやはり意識されてきたのでしょうか?

小室:
そうですね、目をつぶって聴いてほしくないので。もちろん、それも素晴らしい聴き方なんですけれど、やっぱり五感を全てフルに使ってもらいたいと思ってやってきました。

■自らのパフォーマンスの"魅せ方"

--視覚という面では、小室さんのライブパフォーマンスは、リズム感であったり、派手な演出で見せ場を作ったり、見ていても印象に残りますよね。やはり意識されていましたか?例えばショルダーキーボードの破壊も印象的です。

小室:
あれはウッドストックでのジミ・ヘンドリックスからです。アメリカ空軍のB-52の爆撃音をギター一本で再現して、アメリカ国歌をあれだけ"壊す"ことでベトナム戦争に反対した。数分の演奏ですけれど、未だにシンセサイザーで、ギターとペダルとアンプだけで出したあのような音は出せないんですよ。それに近づこうとする何十年でしたね。いわゆる"デストロイ"の演出は全てジミ・ヘンドリックスからですね。キース・エマーソンもそうですね。
大掛かりな演出が仕掛けられた、1997年のglobe4大ドームツアーの模様を収録した「globe@4_domes」ダイジェスト

-キーボードの破壊にとどまらず、1997年のglobeの4大ドームツアーでは、ショルダーキーボードの先からレーザー光線を放って、その光線で天井にぶら下がったハモンドオルガンを破壊するという大掛かりな演出までありましたが...キーボードで奏でた音が盛り上がるとレーザーが出てくるようになっていましたが、音に連動していたのですか?

小室:
いや、(レーザーも、ハモンドオルガンの破壊も)全部マニュアルでした(笑)。21世紀はこうなるだろう、こういう演出が全てオートマティックになるだろうというのをマニュアルで模倣していたのが20世紀ですね。

■視覚表現は21世紀型に到達しているのか

--21世紀と20世紀の比較という点についても聞かせてください。今の技術があれば、例えば当時(1997年)のような、20世紀のライブでやってきた映像表現や、演出などをアップデートすることも可能なのでしょうか?レーザーの演出も印象的ですが、ステージ上にはかなりの数のビジョンが鎮座していたことも印象に残っています。

小室:
もうあと何年か先かな。今が、"当時の映像表現"の延長線上にある最高のところに来ているのかなと思います。LEDはまだLEDですし、ステージ上に物体として残っていますよね。それが消える所までいくと、本当の新時代だと思います。例えば、プロジェクションマッピングもまだ精度が課題だったり、VRもヘッドマウントディスプレイが必要だったりと、何かしらまだ負荷はかかるなという感じです。あと一歩、本当の21世紀の映像といいますか、全てのシステムを刷新する所までは行き着いていないのかなと思います。
何もないステージに映像をホログラムで浮かべるようなこともそろそろ始まってきていますよね。僕らは「映像を背負って」という言葉を使いますが、自由に映像の前に行けたり、後ろに行けたりするといいですよね。自分がプレイしているのを全部撮って、ホログラムで見てみたいですもんね。
音もスピーカーの精度は上がってきていますが、まだステージ上にスピーカーは見えるもの。これが何もないところから聴こえたりすると、新時代だなと思います。

■アルスエレクトロニカに参加したきっかけ--"アート"という言葉がしっくり来るように

このように、音楽を視覚も含めて楽しんでもらえるべく意欲的に表現を続けてきた小室氏が今回取り組んだのが、オーストリア・リンツで行われるメディアアートの祭典・アルスエレクトロニカでのインスタレーションだ。

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小室哲哉氏・脇田玲氏

--改めて、アルスエレクトロニカへの参加のきっかけを教えてください。

小室:
一言でいうと、年齢ですかね。年相応というか、これまでエンターテインメントの範疇に入る音楽をやってきたんですが、そこに"アート"はなかった。この歳になって、アートという言葉と年齢がちょうどぴったりというか、やっとそこまで来たのかなと思います。20〜40代なら「まだエンターテインメントでやらないといけない」と思っていたと思うんですが、今回はすごく落ち着いた気分で出来ました。"アート"という言葉の響きだけで、落ち着くんですよね。"エンタメ"という言葉の響きだけで焦るんですよ(笑)。スタッフも含めてワサワサしていかないといけないのが、"エンタメ"のイメージなので。
脇田:
幸運としか言いようがない出会いです。今年のフェスティバルに8Kの映像作品を出すということはアルスからのコミッション(作品の依頼のこと)として決まっていたのですが、DeepSpace8Kという映像空間にふさわしい音楽も作らなければいけないのでミュージシャンを探していました。そんな中今年の5月に、冨田勲さんが亡くなられました。冨田さんは1984年に、アルスで「トミタ・サウンドクラウド」という壮大なパフォーマンスをされました。その冨田さんを追悼する機会にしたい、そんなマインドを持ったミュージシャンにお会いしたいと考えていた時に、小室さんとお会いしたんです。小室さんは冨田さんに対するリスペクトがすごいし、シンセサイザーを操るという面でもポピュラーミュージックとアートを繋ぐ存在としても冨田さんと共通している。日本人の中では小室さんしかいないと思いました。

--冨田さんがお二人を繋いだんですね。

小室:
冨田先生は不思議な方で。今年亡くなられたばかりなのでもっと失望感で一杯のはずなのに、なぜか下を向くような感じにならないんですよね。それは、冨田先生の生き方だと思います。最後の最後まで好きなことをやってきたといいますか、どこを切り取っても自分のやりたい音じゃないと妥協しないといいますか。手に入れたい楽器は手に入っていたり、Billboardにも注目されたり...凄く幸せな方なんですよね。確かに亡くなったけれども、いまだに幸せを皆さんに振りまいていると感じます。ここ数年著名なミュージシャンの方が亡くなることも多いですけれど、冨田先生だけは"ピースフル"という言葉が似合うので、僕もリンツにはその気分で行けました。冨田先生がパフォーマンスをした地に立ったらしゅんとするのかなと思ったら、「あ、ここでやったんだなぁ、すごいなぁ」という感覚でしたね。

このアルスエレクトロニカでのパフォーマンスはどのようなものなのか。そしてその制作の裏側は。10月16日(日)1:25~(土曜深夜・15日25:25〜)の放送(日本テレビ)、または続編のWeb記事でお届けしていく予定だ。

取材:市來孝人

SENSORS Web副編集長
PR会社勤務を経てフリーランスのWebエディター・PRプランナー・ナレーターなどとして活動中。「音楽×テクノロジー」の分野は特に関心あり。1985年生まれ。
Twitter:@takato_ichiki / Instagram:@takatoichiki

写真:松平伊織

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