やっと技術が追いついてきた。VRのパイオニア・水口哲也が語る「バーチャルを超えた」未来

2016.11.28 18:30

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1980年代、学生の頃からVRを研究し、「ゲーム×VR」の可能性を模索してきた水口哲也氏。映像と音を融合させたシューティングゲーム『Rez』など数々の先鋭的なゲームを生み出してきたほか、映像表現と音楽を融合させたユニット「Genki Rockets」のプロデュースなどの活動も行ってきた。また「アルスエレクトロニカ賞」をはじめとした世界的な賞も数多く受賞している。

VRの醍醐味である「さまざまな感覚の融合」をいち早く世の中に提示してきた「VR研究・実践のパイオニア」でもある水口氏は、今年2016年、『Rez』の完成版と言える『Rez Infinite』を発表する。VRで楽しめるようになったゲーム『Rez Infinite』の制作を通じ、彼が現在考えているVRの可能性とは。そして、30年近くVRに触れてきた水口氏が描く、VRのある未来とはどういったものなのだろうか?

※この記事は、「新しい東京をつくるビジネスプラットフォーム HIP(Hills Ignition Program)」の記事を転載したものです。

"頭の中にある発想は、音も映像も触覚もつながっている。その発想を顕在化できるものがVRだった。"

HIP:
水口さんは学生時代からVRについてリサーチされていたそうですね。1980年代というと、まだVRという言葉さえも知る人は少なかったのでは。
水口:
そうですね、当時は「Virtual Reality」という言葉が出てきたばかりでした。アメリカ航空宇宙局(NASA)のエイムズ研究センターが開発した「仮想環境表示システム」というVRの実験映像を見たときに「なんだ、これは?」と衝撃を受けましたね。
HIP:
当時は水口さんの中で、どのようにVRを捉えていましたか?
水口:
僕の中には「シナスタジア=共感覚」というテーマがあって、音、映像、触覚が組み合わさった体験をエンターテイメントに置き換えることをいつかやってみたかったんです。大学ではメディア美学を専攻していたのですが、表現は「映像メディア」や「音のメディア」のように、それぞれ切り離して考えられることが多い。だけど頭の中にある最初の発想や妄想は、もともと音も映像も触覚もつながっていて、境目はない。いつかその発想をエンターテイメントとして顕在化できるものとしてVRを見ていました。
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HIP:
そんななか、セガに入社されたのはなぜだったのでしょうか?
水口:
当時はインターネット前夜だったこともあり、個人が創作活動を行うにはいまよりも難しく、VR開発に必要なUnityなどの開発エンジンも一般化されていなかった。個人で何かを始めるには大変な時代だったんです。思い描いていたような新しい形のエンターテイメントを作るにはゲーム会社かなと、この世界に飛び込むことを決めました。
HIP:
入社後はどのような仕事をされていましたか?
水口:
テーマパーク用のアトラクションの企画などを作っていましたが、すぐに「VRを使ったゲームを作りましょう」という提案をしましたね。
HIP:
1990年代、まだエンターテイメント分野ではVRが活用されていない時代ですよね。
水口:
新しいものなので、社内で説明するのが大変でした(笑)。それから、すでにVR機器を開発していた英国や米国の会社などを視察して、海外の技術者も巻き込んで実現の可能性を検討しましたが、上手くはいかなかったですね。ディスプレイの解像度、それを生成するグラフィックエンジンの性能、センサーなどあらゆる技術がチープでしたし、デバイスも重くて......技術面が追いつくまでVRをやるのは難しいな、とテストの段階で判断したんです。今回の『Rez Infinite』は、テクノロジーが追いついて、「やっとこの時代が来たな」という思いで作った作品です。

"VRではまったくフレームがない世界が実現できる。そして、映像は立体視、音響も立体音響。まったく違う体験ですよね。"

HIP:
今回発表された『Rez Infinite』の前身となる『Rez』(2001年)も、映像と音が融合した先鋭的なゲームでした。『Rez』はどのような思いで作られたものだったのでしょうか?
水口:
音楽って、世界中どの言語の人でもつながれるものですよね。音楽を聴いたり歌ったりすると、その場にいる人たちが自然と盛り上がる。音楽の力を使えば、そういった人の能力をうまく引き出して、面白いだけではない、最高に気持ちがいいゲーム体験が作れるのではないかと思い、実験を重ねました。みんなの音楽に対する経験をちょっと使わせてもらって、新しい体験を生み出したいと思って作ったゲームです。いろいろなDJやミュージシャンにも開発に参加してもらいました。
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HIP:
発売後の反響はいかがでしたか?
水口:
最初は爆発的に売れたわけではないんですが(笑)、ちょうどネットが普及し始めた頃だったので、ゲームのファンになってくれた人たちが世界のあちこちでエバンジェリストのように感想をずっと発信し続けてくれたんですよね。それは15年経ったいまでも、続いています。『Rez』を何度もやり続けてくれる人が多いのは、この音楽に根ざした本能的な体験がプレイした人に何かプラスの影響を与えているからだろうなあと、時間が経てば経つほど感じるようになりました。
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HIP:
『Rez Infinite』は、『Rez』の続編としての位置づけですか?
水口:
いや、完成版みたいなものです。もしVRの時代が来たら、真っ先にVRで『Rez』を作ろうと決めていたので、いまのテクノロジーでできる、でき得るものを作りたかった。もともと『Rez』の制作時も、頭の中ではVRのようなイメージを描いていましたから。しかしどんなにイメージを膨らませても、最後は3:4のテレビ画面のフレームに押し込めないといけなかったですし、解像度も当然低かった。それが、VRではまったくフレームがない世界が実現できる。そして、映像は立体視、音響も立体音響。まったく違う体験ですよね。

"画の力、音の力、振動の力......VRは統合的なイマジネーションを爆発させられるものだと思います。"

HIP:
水口さんにとって、VRでフレームという概念がなくなるという点はやはり大きなイノベーションでしたか?
水口:
「頭の中でこんなイメージを持っているのに、この中にはめなければいけない」というのはやはりストレスですし、もどかしさを感じていました。そのフレームの中だけでは、表現のイノベーションも起きないのではと思っていましたね。120年ほどの映像の歴史を振り返ると、白黒の映像から始まり、そこから音がついたり色がついたりしても、フレーム自体は四角形のまま。その四角形という制約の中で表現を磨いてきたというのが映像演出の歴史ですが、これが初めて取っ払われるわけです。VRやARでようやく映像表現が新しいフォーマットにいく......そりゃエキサイティングですよね。
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HIP:
フレームの制限がなくなったことで、新たな表現の時代がやってくると。
水口:
そうです。VRは感覚を統合するものだと思うんです。映像と音や触覚は常に絡み続けるものだと思いますし、すべてが融合してできる体験がVRで花開くと思います。音がなくても映像は成立するけれど、音が絡むことでその映像が力を持つ。さらにそこに触覚などが加わっていくと、すべてが絡み合う体験を作ることができますよね。画の力、音の力、振動の力......すべてを統合的にデザインしていくことが可能になる。VRは統合的なイマジネーションを爆発させられるものだと思います。

"VRを「バーチャル」と言っているのはきっと最初だけ。そのうちすべてが「リアル」なものになっていくのだと思います。"

HIP:
「共感覚」のエンターテイメントを実現できる環境がやっと整ったということですね。
水口:
逆に言えば、もう言い訳はできないです(笑)。技術がようやく追いついてきて、これからもっと進化すると思うので、どんなイメージでも実現できるようになります。
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HIP:
そのような環境で、これからどんなことにチャレンジしていきたいですか?
水口:
新しい発想を持ったいろんなジャンルのクリエイターとセッションすることで、新しい体験をデザインしていきたいと思っています。いまはやりたいアイディアがいくつか決まっているので、その具体的な実現方法を検討しています。VRは音楽ライブや、スポーツイベントなど、エンターテイメント全般においてあらゆる可能性があると思いますが、それだけでなく、「日常の世界を豊かにするもの」になっていくのではないでしょうか。仕事上でのコミュニケーションの仕方もずいぶん変化していくと思います。
HIP:
すでにSkypeなどのツールを使えば遠隔でのコミュニケーションができるので、VRが加わることでより会議の仕方も変わっていきそうですね。
水口:
先日、ハワイ島の農場に2週間ほどいましたが、オンラインでコミュニケーションしながら開発具合をチェックできて、まったく不便さを感じませんでしたね。今後はVRを使って現場とつながれるでしょうし、例えばVRで確認しながら「ここから見たときの、このラインを削らない?」といったデザインのやり取りもできるでしょうし。「会議をするためにヘッドマウントディスプレイを被る」という時代もすぐに訪れるでしょう。
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HIP:
これからVRはどのように発展していくのでしょうか?
水口:
よくシンギュラリティ(技術的特異点。人工知能が人間の能力を超え、生活が大きく変わると言われている)が訪れるのは2045年と言われていますが、もっと早まる可能性がありますよね。最近、変化のスピードが速いと感じませんか? VRも、4Kクオリティは3年ほど、8Kクオリティも5年くらいで実現するのではないでしょうか。ちなみに8K以上になると人の目では判別できなくなり、つまりVR上の映像と現実の光景がまったく同じクオリティで見えるようになる。そこから先は、センサーやAI、IoTなどがどんどん進化していくでしょう。VRを「バーチャル」と言っているのはきっと最初だけ。そのうちすべてが「リアル」なものになっていくのだと思います。

記事提供元:
新しい東京をつくるビジネスプラットフォーム「HIP(Hills Ignition Program)」

HIPは、森ビル株式会社によるイノベーションの核となる次世代プレイヤーの発掘や育成、交流の促進を目的にした、 スクール、トークセッション、ウェブマガジンからなるプログラムです。未来をつくる志のある人=HIPな人々が集まる場を目指します。
http://hiptokyo.jp/

Profile:水口哲也(クリエイター・ゲームデザイナー)

1965年生まれ。ビデオゲーム、音楽、映像など、テクノロジーを駆使したインタラクティブな創作活動を続けている。2001年、ビデオゲーム『Rez』を発表、2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、Ars Electoronicaインタラクティヴアート部門名誉賞などを受賞。その後、音楽の演奏感をもったパズルゲーム『ルミネス」(2004)、キネクトを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした『Child of Eden』(2010)、VR作品『Rez Infinite』(2016)、VRと共に音を全身で触覚体感する「シナスタジア・スーツ」(2016)などを制作。2006年には全米プロデューサー協会(PGA)が選ぶ「Digital 50」(世界のデジタル・イノベイター50人)の1人に選出される。米国法人Enhance Games/CEO、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授。

取材・文:市來孝人 写真:大畑陽子

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