ポルトガル発のクリエイティブコミュニティが日本初上陸。草野絵美の「THU Gathering Tokyo」レポート

2018.07.09 18:00

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「Trojan Horse was a Unicorn(トロイの木馬はユニコーンだった)」ーーなんともユニークな名を冠する団体、通称「THU」はポルトガル発のクリエイティブコミュニティだ。

2018年6月27日、THU体験を世界各国で再現するイベント「THU Gathering」がポリゴン・ピクチュアズ代表取締役社長 塩田周三氏の主催で東京に初上陸した。ゲストスピーカーとして登壇したのは、20年以上に渡り『スター・ウォーズ』シリーズのデザインエキスパートを勤めてきたダグ・チャンである。

THUは他のカンファレンスイベントと異なり、"Tribe"と呼ばれるクリエイターのコミュニティ形成を最大の目的にしているという。塩田氏が「THU Gathering Tokyo(以下、Gathering Tokyo)」をホストするに至った経緯、そしてTHU Founder / CEO アンドレ・ローレンソ氏がTHU体験を通して描く未来について、SENSORS MCの草野絵美がインタビューを行った。

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THUには、デジタルエンタテインメント業界のあらゆる分野のクリエイターが集結する。登壇するスピーカーは"Knight"、クリエイターたちは"Tribe"と呼ばれ、6日間の体験を通じてコミュニティを作り上げていくプログラムである。

2013年のスタートから6年目を迎える今年のTHUは、マルタ島にて開催される。テーマは「Tales of the Unknown(知られざる物語)」で、開催国のポルトガルを離れるのは初めてだそう。日本初開催である「Gathering Tokyo」は、東京にいながらTHUの世界観を体感できる特別な一夜となった。

THUは「エクスペリエンス」であって「カンファレンス」ではない

当日は開場前からすでに行列ができており、異様な熱気が漂っていた。ホストである塩田氏とTHU Founder / CEO ローレンソ氏はお揃いの法被を着て登場。鏡割りからイベントがスタートした。

ローレンソ氏は、草野の「クリエイティブとテクノロジーの関係性について、どうお考えですか?」という問いかけに「未来だ」と独自の見解を示す。

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(左より)アンドレ・ローレンソ氏、MC草野絵美

アンドレ・ローレンソ(以下、ローレンソ):
クリエイティブとテクノロジーの出会いは、まさに「未来」と言えるでしょう。テクノロジーは、決してアーティストの敵ではありません。実際に、多くのカンファレンスイベントでテクノロジーの要素が取り入れられた発信が行われています。

アーティストの方々には、テクノロジーが私たちの武器になり得ることを知ってほしいですね。
草野:
なるほど。THUは、「カンファレンス(会合)」ではなく「エクスペリエンス(体験)」だと主張されていますが、どのような違いがあるのでしょうか?
ローレンソ:
カンファレンスと一番異なる点は、クリエイター同士の盛んな交流が生まれることです。アーティストにはシャイな人が多いですが、THUの6日間のプログラムは人を変えます。開催されて終わりではなく、活発なコミュニティが形成されるのです。

世界各国から参加者が集まり、THUが終わる頃には75ヶ国に友人ができます。"Tribe"は、世界一のクリエイティブネットワークといえるでしょう。
草野:
私も大型カンファレンスに参加する機会は多いですが、せっかく世界中から多様な業種の人たちが集まっているのに、話しかけられずに終わってしまうことがよくあります。
ローレンソ:
他のイベントと違い、"Knight"たちはマインドセットが根本的に違います。皆が出会いを求め、自分の作ったものをシェアしに来ているからです。クリエイターの可能性を広げることこそが、私たちの役割だと自負しています。
草野:
私もぜひいつか"Knight"として参加したいです!Gathering Tokyoを皮切りに、日本のコミュニティも盛り上がりますね。
ローレンソ:
まさに、僕たちの夢です!どうもありがとう!

不安の共有が、クリエイターを結びつける。Gathering Tokyoが"クールジャパンの幻想"で終わらない理由

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(左より)塩田周三氏、ダグ・チャン氏

続いて、塩田氏にTHU Gatheringを日本で開催した背景を伺った。

草野:
THUに集まるクリエイターは、どのような人たちなのでしょうか?
塩田:
既にエスタブリッシュされた人もいれば、まだまだ無名な人たちまで、世界各国からさまざまな世代のクリエイターが集まります。現在日本からの参加者はとても少ないので、ぜひ参加してほしいです。
草野:
今日のGathering Tokyoを体感して、私も参加してみたくなりました。塩田さんがTHUを日本に持ち込まれた経緯をお伺いできますか?
塩田:
きっかけは、過去2年間のTHUで"Knight"として講演したことです。「この素晴らしい体験を日本の人たちにも知ってほしい」と思い、開催に至りました。日本ではクール・ジャパンの決まり文句とともに、多くのカンファレンスが行われていますが、THUのように熱量のあるコミュニティが形成されにくい実情があります。THUの場合、開催後にFacebookなどのSNSを通じてクリエイター同士の交流が生まれます。

クリエイティブに関わる人たちは、誰しもが新しいものを生み出したいと考えていますが、それには不安が付きまといます。THUはクリエイターたちが抱えている不安を表に出し、お互いが真摯に向き合える空間を提供します。日本だとそのような場はなかなか見つかりません。

THU Founder / CEO であるアンドレは日本のクリエイティブに大きなリスペクトを抱いており、それが私の課題意識と合致し、今回のGathering Tokyoが実現しました。
草野:
なるほど。今年は何人くらいがTHUに参加されるのですか?
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塩田:
1,000人ぐらいのクリエイターが参加します。1,000人の"Tribe"の中で、講演を行う"Knight"は100人ほどです。この人数比によって、参加クリエイターと登壇者のコミュニケーションがとても緊密になると私は考えています。

ピクサーやディズニー、EAなどから訪れる有名クリエイター、それこそダグのような人物とも、友人のようにコミュニケーションできるのは大きな魅力です。そのような空間で、新しい関係性や気づきが生まれていくのです。
草野:
それは素晴らしい体験ですね。ますます参加したくなりました。
塩田:
ぜひ、いらしてください。ありがとうございました。

草野絵美が「キュンとする」THUのコミュニティ設計術

当日参加していたSENSORS MCの齋藤精一、今回インタビューを担当したアシスタントMCの草野絵美の二人にイベントの所感を伺った。

齋藤精一:
今夜は各国からテレビや映像、VFXやCGなどさまざまなプロダクションのクリエイターが集まっています。日本では他にない貴重なネットワーキングの機会だと考え、来場しました。

今はオンラインで人とつながれる時代ですが、実際に人と会ってみて初めて気がつくことは相変わらず多い。イベント自体が楽しいことも勿論ですが、多様な業界の人々とオフラインの接点を持てることが、THUの一番の醍醐味ではないでしょうか。今日この場で出来たつながりがきっかけで新たな価値が生まれる予感がしています。
草野:
団体名の「Trojan Horse was a Unicorn(トロイの木馬はユニコーンだった)」や、"Tribe"、"Knight"などの参加者の呼び名をはじめ、ファンタジックな世界観の作り込みにキュンとしました。

参加者の多くは、イベントの一番の魅力は人のつながりだと考えていて、コミュニティを求めて集まっているのではないでしょうか。私自身もSXSWやAdobe MAX、SIGGRAPHなどのイベントを通じて知り合ったクリエイターとMVを共同制作した経験があります。このような場がきっかけで動き出すプロジェクトは多いはずです。

また、THUのように魅力的なコミュニティの中でライブパフォーマンスしてみたい欲求が生まれました。ぜひ、パフォーマー枠としても参加してみたいです。

多様なコンテンツ群が証明する、THU独自の世界観

ダグ・チャンのトークショーをはじめ、当日は多様なコンテンツが用意されていた。"創造性を刺激する場づくり"を徹底して追求する姿勢は流石というほかない。ケータリングにも抜かりはなく、「ごはんとおとも」による『おにぎりBAR』は大盛況であった。

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前後半二度のトークショーで登壇したゲストスピーカーのダグ・チャン。『スター・ウォーズ』や『ターミネーター』など人気シリーズの初期デザインイラストがスクリーンに映し出され、制作当時を振り返る。レアな資料の数々に、会場からは歓声が上がった

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5人のDJが在廊し、会場のボルテージは最高潮に

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シンセサイザー・カルテット『Hello, Wendy!』によるライブパフォーマンスも行われた。澄んだ歌声が特徴的で、参加者たちも会話をやめて聴き入っている様子だった

当日、会場では往々にして名刺交換がされる様子が見られ、ネットワーキングが盛んに行われているようだった。Gathering Tokyoが開催された背景には、コミュニティが形成されずじまいな日本のカンファレンスに対する塩田氏の課題意識があった。会場の様子から察するに、今回のイベントは塩田氏の狙い通りに動いたのではないだろうか。

Gathering Tokyoを通じて、日本からの参加者は間違いなく増加するだろう。THUのコミュニティ"Tribe"によって、日本のクリエイターたちの可能性も広がりを持つに違いない。

Gathering Tokyo:https://tokyo-meets.trojan-unicorn.com/
公式サイト:https://trojan-unicorn.com
マルタ島本開催関連:https://trojan-unicorn.com/purchases/thu-2018/buy

構成:岡島たくみ

95年生まれのライター。神戸大学経済学部在学中。ビジネス・テクノロジー領域を中心に執筆しています。
Twitter:@tkmokjm



編集:オバラミツフミ

1994年、秋田県出身。2016年からフリーランス。各種メディアでのインタビュー連載・ブックライティングがメイン。
Twitter:@obaramitsufumi

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