「漫画をより身近に」新時代のコンテンツ漫画家・山科ティナの挑戦

2016.05.09 15:00

メディアをとりまく環境の変化によって、漫画表現はどう進化していくのか。次世代の漫画家として注目を浴びつつある、山科ティナさん。Web媒体やTwitterを通して作品を発表する中で感じている、今の時代に受け入れられる"漫画像"を探る。

山科ティナさん

漫画家としてデビューしたのは紙媒体。高校1年生の時に集英社に持ち込んだ漫画が『別冊マーガレット』に掲載され、16歳でのデビューということもあり反響を呼んだ。

現在はLINE 谷口マサトさんと手掛けた広告マンガ『プレゼントハラスメント』や『どうしてパパは、カメムシになったの?』は100万人以上に読まれ、Twitterでは「#4スラマンガ」という新しい表現に挑戦しているなど、新時代のコンテンツ漫画家として活躍する山科ティナさん。

■150万人に届いた広告漫画「プレゼントハラスメント」の魅力

山科さんが手掛けた広告漫画の中でも特に話題になったのが、LINEギフトとコラボした『プレゼントハラスメント』だ。プレゼントハラスメントをともに手掛けたLINE広告企画の谷口マサト氏とは、『9人のクリエイターが作った「自由すぎる年賀状」』のクリエイター募集を通じて知り合い、その後はローソンとコラボした『自由すぎる「おにぎりLINEスタンプ」を6人のクリエイターに作ってもらった』などを手がけている。

--自分の漫画が150万人に読まれた時はどういう気持ちでしたか? 

山科:
あんまり数字に実感はなかったです(笑)。ただ、漫画が載っていたのがLINEアプリ内のフリーコインコーナーで、そこに直接感想を書くところはないのに、わざわざTwitterでコメントをしてくれた人が多くて嬉しかったですね。「広告だと気づかずにビックリ」「プレハラを自分もやっちゃっていた」など、感想の種類も幅広かったです。

今年の3月には新作『どうしてパパはカメムシになったの?』も公開され、公開後わずか半日で100万人に読まれた。こちらは親子愛がテーマで、亡くなったはずのパパがカメムシの姿で娘の成長を見守る話だ。クライアントはライフネット生命保険だ。

--作品づくりのインスピレーションはどういったところから得ていますか?

山科:
『どうしてパパはカメムシになったの?』もそうなんですが、やはり感情を描くことが多いので、自分の思ったことはその都度メモしたり、アイデア出しの時は感情を何かに例えることを意識してやっています。

--こういった広告漫画はどのようなプロセスでつくられるのですか?

山科:
広告漫画をつくる流れとしては、まずクライアントまたは制作会社さんから企画を頂き、クライアントの方の要望をおさえてから、自分の案を加え打ち合わせしながら最終的に企画を決定させます。そこからようやく漫画制作に入るのですが、脚本やプロットを具体的に練っていき、ここで大きくクライアントチェックが入ります。そしてネーム、再びチェック。作画完了した初校、最後のチェックで、完成していきます。 通常の漫画制作よりも確認作業が多いですね。

それまでの"説明的な広告漫画"だと、ウェブでは読まれにくいので、漫画として面白いものを作らなければいけないというプレッシャーを感じつつも、ある程度自由に作家性を発揮できるので楽しく作れました。最初に広告として気をつけるポイントを意識して守っていれば、あとは普通に漫画を描くのとそこまで変わらないんじゃないかと思います。

--紙とウェブで表現する際に異なる点はありますか?

山科:
ウェブだとクリックされなければ意味がないので、漫画のタイトルやアイキャッチでいかに読者の興味を惹けるかに気をつけています。タイトルは、以前紙媒体で描いていた読みきりに比べて何度も直しますし、アイキャッチの絵は拡散された時に漫画記事の顔となるので、SNSで流れた時に"パッと見で気になるかどうか""内容をどれだけネタバレさせるか"を意識して書き直しもしました。

■Twitterを使った新しい表現への挑戦

山科さんが手がけているのは広告マンガだけではない。自身のTwitterを活用し、4枚でサラッと読める『#140字のロマンス』『#アルファベット乳』などの「#4スラ漫画」という表現にも取り組んでいる。


--Twitterで「#4スラ漫画」をはじめたきっかけを教えてください。

山科:
Twitterは、誰をフォローするかによって自分でタイムラインをカスタマイズできるじゃないですか。それって、タイムラインが好きな人の新作を読める"自分だけの雑誌 "になることだなと思ったんです。なので、自分も色んな人がつくる、かつ日常的に読んでしまう"雑誌"の中に入り込みたいと思って、Twitterで連載漫画を描いています。

--Twitterで漫画を描く際に気をつけていることはありますか?

山科:
最初はTwitterなので「画像1枚にセリフ1つ」といったような、ほとんどイラストの漫画を投稿していたんです。でも、最近ではちゃんとコマを割った複数セリフのある漫画も楽しんでくれることがわかり、まだまだ表現の実験中です。

--Twitterで「これは面白い」と感じた表現はありますか?


山科:
ウェブ漫画家の吉本ユータヌキさんがつくったgif形式の4コママンガが面白いです。最後のコマだけがパラパラと変わるgif形式の画像で、停止を押すタイミングによって結末が変わるんです! Twitterの環境を最大限活用して表現しているのが良いですよね。

■「漫画をより身近なものにしたい」

広告と漫画、Twitterと漫画など、漫画を何かを掛けあわせた作品をつくってきた山科さんは、自らを「新しいコンテンツ漫画家」と名乗る。そんな彼女は、これからの時代の表現をどう考えているのだろうか。

山科:
スキマ時間に読まれやすい、短い漫画のブームが来ると思っています。自分も忙しくなると長いものが読めなかったり、人気作品でも何十巻もあるとなかなか手を出しにくいなと感じます。なので、短編漫画であったり、長編漫画だとしてもどこからでも読み始めることができるものが流行ると思いますね。

長編漫画はキャラクターを作り込むのが大切だと言われていますが、短い漫画はよりエピソードやシチュエーションが大切なのではないかと思っています。「4スラ漫画」としてもツイートしている『#140字のロマンス』のように、読者が短い時間でも漫画に入り込んで、自分に当てはめたりして楽しんでもらえる漫画になるよう心がけています。疲れた時にサラッと心を癒してくれる、気付いたら生活に寄り添うようなものを描けるようになりたいですね。

その一方で、漫画の根本的な価値である「絵と台詞とストーリーで人に楽しい時間を提供する」ことは変わらないと踏まえつつ、「ウェブでできる幅広い表現や、予想外の漫画の使い方を用いて、漫画をより身近なものにしたい」と新しい表現の先にある野望を語ってくれた。

--最後に、新しい表現を目指す中で漫画に活用したいテクノロジーについて伺った。

山科:
最近は「忍者インク」というインクに興味があります。フラッシュで光を当てると発色し、普段は忍者のように隠れていて見えないインクで、パリコレで使用されて話題になりました。このテクノロジーに感銘を受けて、それに近い画材を使い、実は先日、展示会に「スマホのフラッシュで撮ると本音が見える漫画」を出展したんです。

展示の場合、ネットや紙媒体でも読める漫画を、いかにして"わざわざ足を運んでても見に行きたい!"と思ってもらえるのかを考えた結果、この表現を見つけました。

"言えない本音を認めてあげること"をコンセプトに作った漫画作品「本音に光を」。フラッシュをたいていない状態だと白い文字(主人公の全てのモノローグ)は見えないようになっている。

4月に東京藝大のデザイン科に再入学し、新たなスタートを切った山科ティナさん。「デザインと漫画は通じるものがあるので、新たな表現を学んでいきたい」と語ってくれた。新しい表現に挑戦し続ける新時代のコンテンツ漫画家・山科ティナさんから目が離せない。

取材・構成:岡田弘太郎

1994年生まれ。『SENSORS』や『greenz.jp』で執筆の他、複数の媒体で編集に携わる。慶應義塾大学在籍中で、大学ではデザイン思考を専攻。主な取材領域は、音楽、デザイン、編集、スタートアップなど。趣味は音楽鑑賞とDJ。
写真:藤井陽平

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