「いかにクリエイティブでいられるか」が重要に。平成生まれで結成・Tokyo Recordings流 "音楽レーベルのあり方"

2016.06.23 12:30

「レーベル結成から2年経ち『いかにクリエイティブでいられるか』が重要になった」そう語るのは、平成生まれだけで結成された新進気鋭の音楽レーベルTokyo Recordings代表・小袋成彬氏。Tokyo Recordingsは以前SENSORSでも取り上げた綿めぐみや、Capesonといったアーティストを輩出し、水曜日のカンパネラの楽曲「ナポレオン」を手掛けたことでも知られ、いま東京で最も注目を集めるレーベルのひとつ。レーベル設立から2年近くが経ち、Tokyo Recordings代表・小袋成彬(以下、OBKR)氏の今までの歩みと、レーベルの変化について話を伺った。

小袋成彬氏(Tokyo Recordings代表)

■レーベルの代表は経営者、プロデューサー、作詞家、シンガー 4つの顔を持つ

Tokyo Recordings設立前はR&Bユニット「N.O.R.K.」でシンガーとして活動していたOBKR氏。現在は綿めぐみなどの楽曲の作詞を担当したり、80kidzのライブツアーにシンガーとして同行したりと多方面で活躍している。経営者、プロデューサー、作詞家、そしてシンガーと4つの顔を持ち、多彩な方面で活躍するOBKR氏の原体験には「歌」があるという。

OBKR:
野球をやっていた高校時代、ホームベースに先輩がいる中で、センターの奥に立って校歌を歌わされたことがあるんです。他の皆は先輩に怒鳴られているのに僕だけ拍手されて(笑)、自分はその時歌がうまいんだと自覚して、仕事にしたいなと思いました。

その後、大学生になりR&Bユニット「N.O.R.K.」を結成。アーティストとして活動しようと思ったきっかけは「作品をつくらないと次につながらないと思ったから」と語る。

OBKR:
当時は自分の将来なんて全然見えてなくて、とにかく自分の得意なものを何か発表しようと。実際に一緒にN.O.R.K.をやっていたメンバーには作曲の話が来たこともあって、動き出せば次につながっていくんだなと実感しました。N.O.R.Kを解散した時は、人前で歌いたい時期ではなかったので、曲づくりの体制をつくりたいと思ってレーベルをはじめました。

--原体験である「歌」から一度離れたんですね。

OBKR:
そうですね。プロデューサーになって皆で一緒に仕事をするようになってから、音楽を聴く時も歌を中心に聴かなくなりましたね。それよりも、歌がトラックとどう絡み合っているのかに関心が向くようになって、視点が広がったなと。

--現在は自らの中で「歌」の立ち位置はどう変化しましたか?

OBKR:
曲をつくっている時は自分をどう表現するかが一番大切で、他人にどう思われるか、何を言われるかが二の次になってくるんです。なので、歌をうたうことに興味がなくなった。けれどもアーティストのプロデュースをする際に、歌詞を書くためにその人の人生について深く話を聞くことがあって、人の人生をのぞくと自分が歌いたいことが見えてくる。なので最近は「歌いたい」欲求が強くなってきています。

最近では、環ROYやTaquwamiと共同で楽曲をリリースするなど、シンガーとしての活動も幅広い。続いて話を伺ったのは経営者・起業家としての側面。大学時代は経営学を真剣に学んでいたOBKR氏。意外にも大学で学んだことがレーベル運営や「歌詞づくり」に活きているという。

OBKR:
大学でビジネスモデルにまつわるフレームワークを習ったことで、レーベル立ち上げの際に、流通やチャネルといった、何が足りていないのかを体系的に理解することができました。

また学問は関係ないんですが、大学のゼミでプレゼン資料をよく作ってていたことが歌詞づくりに活きています。資料を先生に見せる度に「短くしろ」と言われていて、試行錯誤しながらまたプレゼン資料を作りなおしていました。実はこの削る方法論が、歌詞を書く時にも活きたんです。例えば「雨が降っているのに傘がなくて、私は濡れている」といった情景を描写したい時に「濡れて冷えた身体」とギュッと短くまとめることができるように。

--レーベル内で作詞をOBKRさんが担当するようになったのはなぜですか?

OBKR:
他のメンバーが曲作りに長けているので任せたいのと、僕は作曲よりも作詞が好きなんです。「人が歌に感動するのはどういう時か」と考えると、ストーリーや物語に感動していると思うんですよ。楽曲とストーリーが合わさってひとつの世界観ができあがる。歌詞を書くことによって、その感動の一端を担いたいんです。

--先ほど「人の人生について深く聞いて歌詞を書く」とおっしゃっていましたが、もう少し具体的に教えてもらってもいいですか?

OBKR:
基本的には、色んな人の人生や考え方を聞いて、それを歌詞にします。最近では、ある女性アーティストに自身の半生を1万字書いてもらって、それを削ってアルバムの歌詞にしていきました。綿めぐみの『ブラインドマン』は自分の体験を詞にして綿ちゃんに歌ってもらったので、これは例外ですね。

■Tokyo Recordingsの3つの特徴

さて、OBKR氏が代表をつとめるTokyo Recordingsには「変な奴がいる」「スタジオを持っている」「インディペンデントである」 という3つの特徴がある。

OBKR:
Tokyo Recordingsには、ケータイを捨ててしまったから連絡がとれず、広告案件を頼むのにも苦労するやつがいます。「彼は芸術家肌だからそういうものには属さない」とクライアントには説明していて(笑)。簡単に扱えるようなやつと何かをつくっても面白くないですし、そういった仲間と一緒に楽曲制作ができるのが俺の強みかもしれないです。

またレコーディング・スタジオがあるのも特徴的ですね。録音した楽曲について皆で時間を気にせずに議論できたり、いま流行っている音を研究する会を開催したりしています。すると、「このフレーズはあの時にかけた、あの曲だよね!」と共通言語を持てる。スタジオで過ごす時間が全てつながってくるわけです。

もうひとつの特徴として、どこの資本にも属していないインディペンデントなレーベルであることが挙げられます。最近は取引する額が一桁増えてキャッシュがまわってきたので、レバレッジを効かせるためにどこかの資本を入れることも考えているんですが、今までは基本的に自己資本でやってきました。

では、実際にTokyo Recordingsはどのような仕事を手がけているのだろうか。綿めぐみ、Capesonといったアーティストのプロデュースの他に、大手企業のCMソングの受託なども担当している。そしてTokyo Recordingsが特徴的なのは、海外アーティストとの楽曲の共同制作や、曲を英語でつくり海外向けに販売していることだ。「皆が思っている以上に、日本で仕事をしていない」と語るOBKR氏。

Tokyo Recordingsのスタジオを訪れたミュージシャン達が残していったサイン

--なぜ海外アーティストの楽曲制作を手がけるようになったのですか?

OBKR:
きっかけは、Capesonの楽曲をリリースしたことで音楽出版社の方に僕らが英語で曲をかけることを知ってもらえたことです。極東のアジア人が英語で曲をかいて、歌詞にその思想が出ていたら面白いじゃないですか。それに、英語でコミュニケーションがとれて、日本に来た際に海外アーティストが楽曲をつくって帰れる環境はこのスタジオくらいしかないんです。なので海外案件が増えていきましたね。

--日本での活動についてはいかがですか?

OBKR:
日本の音楽市場はシステム的に面白くない。何かを表現しようとすると、それ以上に"付き合い"に気を使わなければいけない。また、日本ではクリエイティブよりもキャッシュがまわることが重要視されて、クリエイティブが売上につながらないと思っている人が意外と多い。その発想自体が他者の視点が入っていて面白くないですし、俺らはクリエイティブは売上につながると思っています。だって、グラミー賞をとったSam SmithだってFrank Oceanだって、聴いてみてカッコいいじゃないですか。

■クリエイティブでいるためには「暇人」でなければいけない

--レーベル結成から約2年が経ち、Tokyo Recordingsはどのように変化してきましたか?

OBKR:
僕たちは最初、レーベルとしてどう目立つか、どうやってプロモーションをするかに腐心していたんです。でも今はプロモーションや流通は全て外部委託していて、曲をつくることに集中している。今のTokyo Recordingsで最も重要なのは「いかにクリエイティブでいられるか」なんです。携帯を捨てて入間の山奥にこもって曲作りをしているメンバーの酒本にいま僕が電話をしたら、彼の集中力が切れて組織としてクリエイティブではなくなってしまう(笑)。

--「クリエイティブに集中する」ために心がけていることはありますか?

OBKR:
ヒマでいることですね。この前『WIRED』編集長の若林さんが「メディアやジャーナリストは皆の代わりに事件が起きている場所に行って、それを皆に伝えるのが仕事。だから暇人でなくてはいけない」という旨のことをおっしゃっていて、全くその通りだなと。僕らはいつもヒマですし、それがクリエイティブの源泉になっています。

--最後に、今後のレーベルとしての目標を教えてください。

OBKR:
「今っぽさ」がわかるようになると、その人の本質的な強さを見抜けるようになるんです。パッと見ではわからないけれど「この人は絶対売れる」と思えるダイヤの原石のような人を見つけて、手がけていきたいですね。

時代の最先端の音を探求し、素晴らしい音楽を世に生み出してきたTokyo Recordings。綿めぐみやCapesonといったアーティストが目立つ裏で「海外案件が増えている」のは驚きでもあり、新しい音楽レーベルのあり方をTokyo Recordingsが示していくのではないかという期待が生まれた。素晴らしいクリエイティブがビジネスにつながり、世の中に大きなインパクトを与える。Tokyo Recordingsの目指す未来を、引き続き取り上げていきたい。

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取材・構成:岡田弘太郎

1994年生まれ。『SENSORS』や『greenz.jp』で執筆の他、複数の媒体で編集に携わる。慶應義塾大学在籍中で、大学ではデザイン思考を専攻。主な取材領域は、音楽、デザイン、編集、スタートアップなど。趣味は音楽鑑賞とDJ。

写真:藤井陽平

Instagram:@_yofu_

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