『東京女子図鑑』『東京人生ゲーム』連載の舞台裏〜「東京カレンダー」菅野代表が語るストーリテリングの極意

2016.02.09 10:00

昨年の秋、東京をざわつかせたWebコンテンツがあった。それが「東京カレンダー」で連載された『東京女子図鑑』や『東京人生ゲーム』といった"東京"という街で人生を歩んでいく若者が大人になっていく中での等身大でリアルな心象を描いた物語だ。そのストーリーは様々な反響を呼んだ。グルメ情報の印象が強かった「東京カレンダー」がなぜ、このようなコンテンツを作ることを決めたのか。「一方的に作られた価値観ではユーザーの心は動かせない」と言い切る、東京カレンダー代表・菅野祐介氏に"ストーリーテリング"の極意について話を伺った。

■「一方的に作られた価値観ではユーザーの心は動かせない」ー『東京カレンダー』は"リアル"を突き詰める

グルメやファッションなどを中心にラグジュアリーな東京カルチャーを発信する「東京カレンダー」は昨年の大幅リニューアルを実施。PV数では1500%超の成長を記録。とりわけ、その中で大きな印象を残したのは『東京女子図鑑』や『東京人生ゲーム』といった連載コンテンツだ。

昨今キュレーションメディアで見受けられるように、今のWebの世界では、あるニュース情報をベースに二次的、三次的に作成されたコンテンツが発信されることが目立つ。例えば、コンビニが発売する新商品をあらゆるメディアが横並びに一斉発信するのはその典型だ。そんな中で、ストーリーテリングという手法を用い、一次情報にオリジナリティを織り交ぜた「東京カレンダー」のコンテンツ群は一躍注目を浴びた。躍進を続ける「東京カレンダー」の強みは、代表を務める菅野氏のキャリアにも見える。

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菅野祐介氏:東京カレンダー代表取締役。
慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、フューチャーアーキテクト株式会社に入社。
スーパー、百貨店、コンビニエンスストア、通販などの大型プロジェクトのマネジメントで豊富な実績を積む。現在はディレクターとして流通・小売業を中心とした複数のプロジェクトを統括。また、楽天でスポーツジャンル大賞を連続受賞している株式会社eSPORTSの取締役、ネットショッピングマガジン「#Cart(カート)」を運営する株式会社ネットコンシェルジェの取締役も務める。

菅野:
私は長らく、フューチャーアーキテクト(大企業向けITコンサルティングを提供する企業)でスーパー、コンビニ、百貨店などビッグクライアントの企業システムを導入する仕事に携わっていました。昨今、テクノロジーというと、B2Cの取り組みが目立つことが多いと思うのですが、実際にはB2Bシステムの方が技術難易度や業務への活用レベルが高いのではないかと私は考えています。
インターネットのコンシューマサービスの世界では"データ解析"がもてはやされていますが、先鋭的な流通・小売の企業の中では以前から行われてきたことなんです。これまで培ってきたITのノウハウを、コンシューマー向けコンテンツを作っている「東京カレンダー」に注入することで次のステージに進めることができるのではないかと思い、参画しました。

ーー東京カレンダーさんの雑誌でのイメージは、非常に洗練され、整えられた世界観というメディアの印象があります。一方で、Webにおいて今回の連載のような「リアル」の要素を含むコンテンツを仕掛けることにしたのは、どのような理由でしょうか。

菅野:
「ユーザー全員が自由に情報を手にすることができる」というのは今の時代よく言われることですが、私はこの状況を真摯に受け止める必要があると思っています。つまり、私たちは100人が100人しっかり自分の価値観を持ち始めた時代の転換期にいる。なので、テレビにしろ、雑誌にしろ、情報を発信する側が「これがトレンドです」というような絶対的な価値観を届けても伝わらないのが実情です。
そんな中での「東京カレンダー」の強みは、外食や都会での上質な遊びといった、読者の皆さんの人生をより豊かでアクティブなものにするコンテンツをずっと発信し続けているメディアであるという点です。つまり、そもそものコンテンツが"イメージ"ではなく"リアル"であり、主体はユーザーにあるものなのです。例えば、今読んでいるページにあるレストランは今日の夜にでも行けるわけです。「東京カレンダー」のコンテンツを突き詰めていけばいくほど、「リアル」になっていくという自然な流れもあるんですよね。

■「東京というビッグシティで、生きとし生けることそのものが"パワーになる"」

「東京カレンダー」の、東京という街で"リアル"な取材を行ってきたというメディアのあり方そのものがコンテンツの優位性になっているというわけだ。
単なる机上の設定ではフィクションの域を出ず、読者の琴線に触れることもできないが、毎日、東京中を取材で駆け回る中で出会い、耳にした人々の日常の送り方、遊び方、ビジネスの仕方、それらが連載の物語の着想・設定にも繋がっているそうだ。

ーー『東京女子図鑑』『東京人生ゲーム』といった連載コンテンツはかなりバズりましたよね。こうした反響は想定通りだったのでしょうか?

東京女子図鑑』三軒茶屋に住む、主人公の綾。彼女の等身大の生活や日々の葛藤を描きながら、ライフステージごとに恵比寿、銀座、豊洲へと街を移ろいながら物語は進行していく。

菅野:
なぜあの連載を始めたかというと、東京というビッグシティで人が生きとし生けること自体にパワーがあるという確信があったんです。人生って、ドラマの主人公みたいなハッピーエンドばかりじゃない。東京には1,300万人を越える人々が住んでいて、スターになれる人なんて、ほとんどいないわけです。『東京女子図鑑』の主人公・綾もメディアを賑わすわけでもなく、堅実にキャリアを積んで、世間からある程度の評価を得ながら、人生を進んでいく。ただそれだけなのです。でも、そのリアルな物語(コンテンツ)自体に十分なパワーがある。
とりわけ我々のメディアは非常にローカライズされているので、読者の皆さんにも近い人やシチュエーションが多かったのではないでしょうか。Webにおいてはユーザー側にパワーシフトが起こっている中で、それをうまく活用したこのコンテンツは反響を頂けるのではないかという予測がある程度ありました。

■引き算の発想で"余白"を残すことが話題を生む

ーー舞台となった実際の街や、具体的な人物像の設定、なんとなく見覚えのある社名の設定まで...「自分にも当てはまる」だとか「こんな設定有り得る?」だとか、読者の皆さんそれぞれ思うところは少なからずあったと思います。

菅野:
解釈の幅というか、余白は大事だと思います。皆が議論できる土壌や、行間にスペースみたいなモノを持たせることで、ユーザーがコンテンツに対してイニシアティブを持つことができる。我々も今回は究極的に加工したらどうなるのかを考えた上で、引き算をしていきました。

ーー確かにSNS上での様々な反応を見ていると、「あえて、突っ込みどころを残しているのかな」と思う部分もありました。

菅野:
「そんなのあり得ない」というお声も頂いたのですが、それが現実。逆に「こうした方がナチュラルだ」と話を書き換えていくと、どんどん作り物になって現実から離れてしまうんですよね。
わりと成熟してきた現在のWebの状況をみても、もしかしたら皆さん"加工された"綺麗で整った情報に触れることが多すぎて、ある意味、臨界点に達していたのかもしれません。よくよく考えたら、綾のような人って身の回りに1人や2人いるはずじゃないですか。

ーーメディア業界からの反応はいかがでしたか。

菅野:
こうしたコンテンツを出すことは、アイデンティティの喪失と捉えるメディアさんも少なくない気がします。ただ、完璧なモノを作れるならば、それを分かった上で、引き算の発想からやっていくことも"編集力"なんじゃないかなと思いますね。

東京女子図鑑』と並んで人気を博した連載『東京人生ゲーム

ーー"コンテンツマーケティング"や"ストーリーテリング"の例としても注目を浴びていますが、こういったコンテンツのつくり方は、今後ネイティブアドにとっても大きなヒントになるのかもしれないなと感じました。

菅野:
まだ「これ」という正解がない中で、今回の連載が一つのきっかけになれば良いなとは思いますね。
もはや「良いものを作れば売れる」という時代ではないので、メーカー側も商品を作り終えてパブリッシングする際、そのストーリーに力があるかないかをワンセットとして商品開発されるようになると思いますね。ストーリーとのセットでの開発が進むようになり、10年くらいも経てば、「新商品のコンテンツが一番面白いコンテンツだ」っていう時代が来るかもしれません。

後編「PVだけでは測れないKPI〜読者の体験をコンバージョンする「東京カレンダー」のメディア戦略では、「東京カレンダー」が持つITへの強み、PVを追い求めるのではなく読者の人生を豊かなものにするという使命、そして今後の展望について話を伺った。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

聞き手:市來孝人

SENSORS Managing Editor
PR会社勤務ののち、かねてより旅行でよく訪れていたロサンゼルスに在住。帰国後、福岡やシンガポールのラジオDJ、東京でのMC・ナレーター、ライターとして等の活動を経てメディアプランナーとして活動中。また、タレント・企業トップなど個人に特化したPR・ブランディングにも携わっている。

Twitter:@takato_ichiki
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