10代で「Maltine Records」を創設--ネットレーベルの先駆者 tomadが語るインターネット時代の音楽

2015.09.10 10:00

いま、数々の新進気鋭アーティスト達を続々と世に輩出している音楽レーベルがある。その名は『Maltine Records(マルチネレコーズ)』。一体どのようなレーベルで、他とどう違うのだろうか。今年で10周年を迎えるというマルチネレコーズを主宰するtomad氏に話を伺った。

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Maltine Records主宰・tomad氏

tofubeats、三毛猫ホームレス、AvecAvec...彼らの名前を耳にしたことがある方もいるのではないだろうか。これらは、マルチネレコーズからデビューし幅広いファンを獲得した代表的なアーティスト達である。

それぞれ個性のあるDTMで、クラブミュージックの流行もあり今人気急上昇中の彼ら。彼らが所属するレーベル・マルチネレコーズの代表がtomad氏だ。一見普通の青年のように見えるtomad氏。そんな彼に"マルチネ"を立ち上げた経緯から色々な角度で質問を投げかけてみた。

--tomadさんは、どうしてマルチネレコーズを始めようと思ったんですか?

tomad:
最初のきっかけは、高校1年生の頃に同級生と一緒に音楽を作っていたところでした。DTMという、パソコンに電子楽器を繋いで音を打ち込みながら作る音楽をやっていたんです。しばらく音楽を作っているうちに、せっかくできた音源をみんなに聴いてもらいたいと思うようになってきて、どうやったら多くの人に聴いてもらえるか考えるようになりました。

そのときに、"あ、インターネットだ"と。その時はまだレーベルでも何でも無かったのですが、一番最初はインターネットのサイト上に音源データをアップロードして、たくさんの人達に聴いて欲しいという動機から始まりました。

--高校1年生で音楽を!

tomad:
技術が長けていたわけではなかったんですけど、とりあえずやりたいがままにやっていましたね。高校で音楽というと軽音楽部とかが思い浮かぶと思うんですが、軽音楽部って学内のヒエラルキーが高いじゃないですか。僕とかは、それに対して"ナニクソ!"って思っていたんです。(笑) だから僕はそっちではない方向で、家に引きこもって音楽を作っていました。

DTMってパソコン1台あればできるので、結構ハードルが低いんです。楽器がなくても音楽は作れるということが自分の嗜好にあったので、友達と一緒にやろうということになりました。

--マルチネレコーズは、そこからどういう歩みを経ていたんですか?

tomad:
最初は僕と友達で音源を配信していたんですけど、そのうち僕らの音楽を聴いてくれて、嬉しい事にマルチネから音楽を出したいと言ってきてくれるアーティスト達が増えてきたんです。

それが徐々に増加していって、マルチネを始めて2,3年後には僕自身が音源を作るということはなくなりました。自分で音源を作って配信するのではなく、良いアーティスト達を、マルチネを通じてリリースしていく方向に切り替わっていったんです。そんな感じで、今に至りますね。
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話を聴くSENSORSブルー・岩本(左)とtomad氏(右)

--マルチネレコーズにいるアーティストの方々は、どうやって集まってくるのですか?

tomad:
僕がTwitterなどウェブサイト上を確認して、アーティストがアップしている音楽を聴いて良さそうだなと思ったアーティストには直接声をかけてスカウトしています。マルチネに来てもらいたいアーティストは、音が良いだけではダメ。人事みたいですけど、結構人柄も重要視しています。ブログやSNSなどをひと通りチェックすれば、大体人柄は分かりますし、東京に住んでいたら会ってみたりもしてます。

ここ2,3年は海外のリスナーの増加に伴って海外のアーティストからのコンタクトも増えてきました。今はアーティストがアメリカやイギリスにもいて、国境は一切関係なくマルチネに参加してもらっている状況です。僕たちは、国境で音楽を区切ることはしていません。良い音楽であれば、世界中どこでも声をかけています。これはネット上だからこそできることなので、そういう部分を強みにしていきたいですね。

--アメリカなど欧米と日本では、音楽を取り巻く環境はまた少し違いますよね。アメリカの人からは、マルチネはどのように映っているのでしょうか。

tomad:
海外から見るからこそ、マルチネというのは面白い存在なんだと思います。ビジュアルも東京っぽいイメージにこだわっているので、J-POPのイメージに憧れて日本のリスナーを増やしたい欧米のアーティストがよく参加してくれています。

音楽に国境はないけれど、海外のアーティスト達は何か東京っぽいものを求めているんですね。僕自身が東京で育ったということもあり、自分たちの個性を出しつつ世界に発信していきたいなと思っています。欧米圏のメインストリームから離れているからこそ今まで僕達に無かった要素がたくさん入り込んできて、面白いものがたくさん生まれてきているのではないでしょうか。
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創立当初から全て無料配信にこだわってきたというtomado氏

--現在はアプリなどで色々な音楽定額配信サービスが出てきて、CDは買わなくなってしまったけど音楽にお金は払っているという時代。音楽を無料配信しているマルチネとして、そんな現状をどのように考えていますか?

tomad:
確かに、いまは色々なサブスクリプションのサービスが次々と出てきました。マルチネはこの10年間、それらの先駆けのような形でやってきたので、やっと同じ環境になってきたなと思っています。

ただ、新しい音楽を作り出すアーティストにとっては結構厳しい世界になってきたと思いますね。以前にミリオンセラーになった過去の楽曲などとページ内で同列に並べられてしまうので、それだけだと音楽のシーン全体として新陳代謝が進まず、つまらなくなってしまうんじゃないかなと。

なのでマルチネは、新人のアーティストによりフォーカスを当てて"こんな面白い音楽があるんだぞ"ということを世の中に知らしめる事ができる場所になっていけばいいなと思います。

--CDが売れない時代において、同じ業界にいる人間として危機感はあるのでしょうか。

tomad:
CDが売れなくなったのは、ある意味当たり前のことだとは思います。どんどんCDの価値は下がっているとうのは、いち消費者として実感しているところ。今の若者だと、CDプレイヤーを持っていないのは当たり前じゃないですか。パソコンもどんどん小さくなってきてディスクを入れる場所もないし、パソコンさえ持っておらずスマホが当たり前で、音楽はYouTubeで聴いたほうが良いというのが普通になっています。だからCDの、モノとしての価値は昔から感じていませんでした。

マルチネの作品をCDにしたいとはあまり思っていませんが、時々、何かの区切りに形のないことをモノとして残しておくのは大事なことなのかなと思う時もあります。なので10年目の節目となる今年は、マルチネの今までの歩みをまとめた本を作ってみました。

そういう節々で、モノとして記録や記憶を残していくのは良いですよね。けれど、根本的にはCDは不要なのではないかなと思っています。
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10年の節目を迎えて作った雑誌・SWITCHの特別号を読む岩本

--tomadさん自身が、将来こうなっていたいという理想はありますか?

tomad:
あまり将来のことを考えず、とにかくいま面白いと思うことをやり続けるタイプなんです。将来はそのモチベーションが続くように、どんどん良いアーティストやモノを作る人達と出会えていけたらと思います。それで、今までに聴いたことのない新しい音楽を聴いてみたいというのが一番の原動力ですね。

彼らによる、どうしようもなく格好いい哲学と感性から成立しているその世界観。いままでまるで触れたことのないような"異質"な音楽を聴いてみて欲しい。目の覚めるような衝撃と同時に、自分のサブカル心が心地よくくすぐられる感覚が味わえる。

激変する音楽業界の中で自分たちの軸をぶらさず、良いと思う音楽だけを追求し続けるマルチネレコーズの姿勢は、業界全体に一石を投じる存在としてこれからも在り続けるのだろう。


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文:石原龍太郎(いしはら りゅうたろう)


ライター・編集者。 テクノロジー・ファッション・グルメを中心に、雑誌やウェブにて執筆。本と音楽とインターネットが好き。@RtIs09

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