突破のキーワードはクライアントとの"共犯関係"〜突破クリエイティブアワード2015授賞式

2015.12.21 16:00

「その企画よく通したな!」と思わず唸る企画やコンテンツ。 "GOを出した"クライアントやクリエイターの勇気を讃えるべく、面白法人カヤックとバーグハンバーグバーグが開催した第一回「突破クリエイティブアワード」。その授賞式が12月3日に行われた。応募作品155作の中から見事グランプリに選ばれた作品とは...。

世の中には「え?それ、どうやって通したの!?」と思ってしまう、斜め上のコンテンツが存在します。
そんなすごいコンテンツの裏側には、きっと同じくらいすごいドラマがあるはず。企画を通したクリエイターや広告会社もすごいし、それにGOを出したクライアントもすごい。
あらゆる障壁を突破し、世の中に送り出されたコンテンツを発掘し、その勇気を讃えたい。
そんな思いから、この突破クリエイティブアワードをはじめました。
この世に冒険的で尖ったコンテンツが増えますように! 引用:「突破クリエイティブアワードHPより

司会を務めたのは面白法人カヤック所属でもバーグハンバーグバーグ所属でもなく、なぜか電通ブルー・中川氏。完全なる友人キャスティングとのこと。

ユニークなコンテンツやイベントなどで度々Webを賑わせる面白法人カヤックとバーグハンバーグバーグ。今回両者がタッグを組んで行われた「突破クリエイティブ」アワードは「クライアントからの承認、上司の説得、炎上リスク、法律による規制など、さまざまな困難が予想でき、それらを突破できているか?」「アイデア、クリエイティブで突き抜けているか?」という二点の審査基準から"突破"している作品を選定、賞が贈られた。

応募作は150を超え、賞にノミネートされた作品は12作。(突破クリエイティブのHP上で全ての作品を見ることができる)
今回は銅賞、銀賞、金賞、そしてグランプリに選ばれた作品を取り上げ、何が突破のポイントだったのかを探っていく。

◼︎銅賞:ロマンシング佐賀2

スクウェア・エニックスの大人気ゲーム「ロマンシング サガ」とコラボし、佐賀県をワールドマップで表現したほか、佐賀県を走るロマンシング佐賀ラッピング列車など様々な形でコラボを企画。熱狂的なファンを持つ作品のため、愛を持って制作することを心がけた。企画者の一人は36回ゲームをクリアした大の「ロマサガ」ファン。クライアントのみならず、ファンのハードルを突破することが成功の鍵だったという。

審査員を務めたシモダテツヤ氏から表彰状を受け取る、スクウェア・エニックス 市川雅統氏。

授賞式のために佐賀から駆けつけたという佐賀県庁職員 江口健二郎氏は、「知事が倒れるという演出は県庁内部でも議論になったが押し通し、結果的に良い作品になって良かった」と感想を述べた。
手がけた博報堂、博報堂アイスタジオの企画者である野田氏、丸本氏は、Web、ポスター、飛行機ジャック、ラッピング列車、サッカークラブ「サガン鳥栖」とのコラボスタンプラリーなど新しいゲームの主人公になったような一連のストーリーができた際、現地で集うであろうファンの姿が想像できたそうだ。

「月並みな言葉になってしまうかもしれない」という留保をつけた上で、『進撃の巨人』などの担当を行う週刊少年マガジン編集部の川窪慎太郎氏は36回クリアしている、その"愛"が突破のポイントにあったのではないかと語った。

◼︎銀賞:Canon with Body Builders

ひたすら大勢のボディービルダーたちがお互いの肉体をキヤノンのカメラで撮り合い、"シェアすることの楽しさ"を伝えるグローバルムービー。「大切に作ったものを、写真で残す」というカメラメーカーとしてのメッセージの本質は残したまま、「大切に作ったもの=筋肉」と置き換えたことが表現上の突破ポイントだという。

「否定することは誰でもできる。それを通すことが一番難しいこと」と今回の企画を通して気付けたというキヤノン宣伝部 和田訓子氏。「歳が上目の方が混ざっているのは購買層に向けたものだったのか?」「あのハイタッチは何だったのか?」審査会においても今作に一番時間が費やされたそうだ。

銀賞を受賞した「Canon with Body Builders」チーム。

以前自らも「ゴールドジム」に通いトレーニングを行っていたというカヤック・柳澤大輔氏は「反対していた人をいかに説得したのか?」という疑問を投げかけた。

和田:
私がまず言ったのは、「この対象は18歳から34歳、かつグローバル広告。あなた(社内)たちが対象ではないですよ」ということでした。言いたいことも言えているし、面白いから良いかと全員の意識も徐々に変わっていきました。このプロジェクトの成功が、これからキヤノンで楽しいことをやるきっかけになるかもしれません。

◼︎金賞:シンフロ

「おんせん県」としての大分をPRするために、大分県内のさまざまな温泉でシンクロをするというWebコンテンツ。元・日本代表藤井来夏氏が率いるプロのシンクロチーム「RAIKA ENTERTAINMENT」が、大分県の11箇所の温泉でシンクロを披露した。
「温泉でシンクロをする」というのは、温泉のマナーからすれば、あきらかにタブー。しかし、「絶対に真似できないくらいスゴイものだったら、エンターテイメントなコンテンツとして認めてもらえるのでは?」という気持ちで、「ふざけている、けれど美しい」映像を目指しますとプレゼンした結果、理解していただき、突破することができたという。
本当は納得していなくても、"それらしい"大義名分を用意しておき、騙されたふりをしてくれるクライアントとの共犯関係が素敵だと審査員のシモダ氏は述べた。

おんせん県おおいた公式(大分県広報広聴課)
https://www.youtube.com/watch?v=20ZWZJgixtw
シモダ:
今、マナー違反や炎上に社会が敏感になってきていますよね。「子供が真似したらどうするんだ」とかクレームがすぐにきたりして。テレビでもよく「この後美味しくいただきました」とすぐにテロップが出たり、つまらない世の中になってきている中、大分県がちょっと勇気を出して、風呂場でシンクロをするのはすごい冒険だと思うんです。すごい勇気をもらいました。

金賞を受賞した「シンフロ」チーム。

実はこの企画、大分県庁内でも反対はなかったのだとか。というのも、数年前に「おんせん県」を標榜したところ、群馬県や静岡県から「うちもだ」という反対をもらい、商標登録も落ちてしまった。そこで自虐的なCMを作り始めるなど、炎上を逆手に取りながらエッジの効いたものを作っていくという地ならしが数年かけてなされていた。

◼︎グランプリ:ンダモシタン小林

宮崎県小林市の移住促進PRムービー「ンダモシタン小林」。あるフランス人男性の視点を通して描きだされる、その素晴らしくもちょっぴり不思議な小林市の風景。ラストには衝撃の結末が待ち受けている。
突破のポイントはとにかく小林市流の「のんかた」(飲み会)で市長も巻き込み、夢を語りまくり「チームになること」だったという。

小林市公式チャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=jrAS3MDxCeA

ここまで全ての受賞者が壇上に上がり、表彰状とトロフィーをもらう中、まさかのグランプリ受賞者が会場に不在という事態が発生。なんでも突発的な「戻し」が発生してしまったんだとか。

「ンダモシタン小林」の列だけ綺麗に空席になっている。

緊急事態として電話をつなぎ、受賞者に突破エピソードを伺った。審査員の土屋敏男氏は「最後まで西諸弁ということに気づかない。思わず頭からもう一度見てしまう。僕は小林市を存じ上げなかったのですが、強烈に頭に刷り込まれました」と評した。

緊急の「戻し」対応に追われていた受賞者に電話で結果を伝える。

土屋:
人口4万3千人の小さい街も一つのクリエイティブで有名になれる。アイデアの力が証明される素晴らしいCMですよね。

◼︎"逃げ道"、"地均し"、"共犯関係"、そして最後は一歩踏み出す"勇気"

授賞式の後には、5名の審査員によるトークセッションが行われた。作品を振り返りながら、"突破"するクリエイティブの共通項、突破の社会的意義などが語られ、そこでは3つのキーワードが浮かび上がった。

土屋:
"突破する"ということはすごく面倒くさいわけじゃないですか。「コイツがこんなこと言うかもな」「あの人にお断りしない」エネルギーを使いますよね。要するに、まずは楽をしようとする自分との戦いなわけです。今日は"面白いことをやりたい"が勝って、第一歩を踏み出せた人たちの集まりというかね。

【審査員、左から】シモダテツヤ氏(バーグハンバーグバーグ代表)、川窪慎太郎氏(週刊少年マガジン編集部)、鹿毛康司氏(エステー株式会社 執行役)、土屋敏男氏(LIFE VIDEO株式会社代表)、柳澤大輔氏(面白法人カヤック代表)

上記では紹介しきれなかったが、審査員特別賞を受賞した「シャープ株式会社、゜の消失」に関しては、それまでの4年間Twitterを運営してきた実績や信頼があってはじめてできた行動だったという指摘が出た。

鹿毛:
"突破"といっても色んなアプローチがあるわけですが、広告主側はOKを出すというよりも"主犯"なんですよね。作る側は"共犯"。(こちらも審査員特別賞を受賞した、株式会社雨宮による)「ハトに困ったら雨宮」も一見意味不明な映像だけど、しっかり商売を伝える内容に感覚が整えられているのは、主犯と共犯がうまくお互いに連携しているからなんですね。
審査員特別賞を受賞した「鳩に困ったら雨宮」
https://www.youtube.com/watch?v=Ymnfiq0BtAY
土屋:
あとは"知能犯"ですよね。必ず逃げ道を作っておく。タブーのギリギリというか、コーナーを衝いていく。そのためには技術が必要です。だから技術があるところに"突破"があるというか。
川窪:
本当にそうですよね。面白いものを作り出すまでは簡単で、あとはそれをいかに実行に移すのか。実現を至らせるところにどれだけ努力できるか。
柳澤:
シモダさんが一番多くの作品をじっくり見られていたと思うのですが、多くの突破エピソードも読む中で何が突破のポイントなんでしょうかね。
シモダ:
やっぱり"共犯関係"までどうやって作っていくかということがすごく重要で、クライアントさんもクリエイターさんもそこに信頼関係がないと切れちゃうと思うんですよ。「こっちに逃げろ〜!」「ここに隠れろ!」とかクライアントさんと阿吽の呼吸で実現に至れるかが大切ですよね。

今回は紹介しきれなかったが、惜しくも賞からは漏れてしまった4作品もノミネート作というだけあり、一度見たら忘れられないインパクトを持つものばかり。ぜひHPで確認してほしい。

数々の突破歴を持つ審査員の講評をまとめるなら、突破に必要なキーワードは3つ。すなわち、クライアントと"共犯関係"を結ぶこと。これは"信頼"とも言い換えることができる。次に︎逃げ道(言い訳)を用意しておくこと。あとはシャープやシンフロの企画でみられた"地均し"。実績をコツコツ積み上げておくこと。これら全てに通底するのは最後の一歩を踏み出す"勇気"を持てるかどうかということだろう。
来年以降も「突破クリエイティブアワード」がその勇気を後押ししていく賞として定着していくことを期待したい。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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