テレビ界の伝説の男・土屋敏男がVRにときめく理由

2016.09.13 18:45

『進め!電波少年』にてそれまでタブーとされていた家庭用ビデオカメラでテレビ番組を作ったり、CGやインターネットなどをいち早く活用したり、様々な斬新な施策を行ってきた伝説のプロデューサー・日本テレビ土屋敏男。 彼は「既存のルールに囚われずに、テクノロジーを活用することが新しいエンターテインメントを生み出す」と語る。VRを軸に彼の挑戦とそこから我々が学ぶべきテクノロジーと表現者の関係を紐解く。

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6月に新設された「日テレラボ」所属の土屋敏男(右)と
日テレダベア(左)。

■「新しいテクノロジーが新しいエンタメ企画を生む」

読者は『進め!電波少年』という番組をご存知だろうか? アポなしロケ、突撃などさまざまな無茶に挑戦した伝説的バラエティ番組だ。 松本明子と松村邦洋の顔がCG世界に浮かぶ特徴的なスタジオ部分や、有吉弘行ら(猿岩石)のヒッチハイク、なすびの懸賞生活など常識をぶち破る企画の連続がテレビ界の伝説として今も語り継がれる。 その伝説の番組の演出・プロデューサーとして、自らも番組内で出演していた"T部長"こと日本テレビ土屋敏男がこの6月に日本テレビ内に生まれた「日テレラボ」に所属し、最近ではVRの可能性を探っているという話を聞いた。 名テレビプロデューサーはVRやテクノロジーにどのような可能性を感じているのか?取材した。

--SENSORSではいままで何度もVRについて取材しております。例えばゲームクリエイターの水口哲也氏のVRシナスタジアスーツビョークのVR体験など。その度に現場で土屋さんをお見かけし、名プロデューサーの土屋さんがVRのどこに魅力を持っているのか伺いたく思っておりました。VRのどこに可能性を感じているのか?教えていただけますか?

土屋:
最初にOculus Riftが出てきた時も気になってはいたんだけど、VRすごい!とインパクトを受けたのは水口哲也氏のVRコンテンツや、2015年秋マカオのホテルで体験したバットマンVRでした。

「新しいテクノロジーが新しいエンタメ企画を生む」ということを『進め!電波少年』を経て実感した自分としては、水口さんやバットマンVRインパクトがあってから、一気にVR研究を進めています。

--『進め!電波少年』の際に「新しいテクノロジーが新しいエンタメ企画を生む」を実感した、とのことですがどのようなテクノロジーが番組を作るキッカケになったのでしょうか?

土屋:
SONYのHi8という家庭用ビデオカメラの登場が僕のテレビ制作スタイルを変えそれが今のテレビのバラエティの現場を変える流れを作ったと思っています。それまではテレビ番組を制作するためには、ディレクター、カメラマン、照明、音声・・・と10名近くの関係者が不可欠だったのですが、SONYのHi8は持ち運びが出来るサイズなのに、画質も良いのでディレクターがカメラマンを兼任できる、と初めて製品に出会った時に衝撃を受けました。

Hi8で撮影すればいままでにない番組が作れそうだという期待感と、下手なカメラマンと一緒に仕事しなくてもいいんだという開放感を今でも覚えています。

私は28歳の時にテリー伊藤さんと『元気が出るテレビ』でご一緒させていただいたのですが、その時にテリーさんから「ディレクターはモニターを覗き込みながら、どのような絵が撮られているか意識して番組を作れ」と教えこまれたのですが、ディレクターの意図を介してくれるカメラマンと、そうでないカメラマンとが居て。 後者のカメラマンに番組を作る上でフラストレーションを感じることもあったので、Hi8を使えば自分がカメラマンを兼任しつつディレクターができ番組が作れることが嬉しかったんです。

--ディレクターがカメラマンを兼任できるメリットはどのようなモノがあるのでしょうか?

土屋:
ディレクター一人で撮影ができるとなると、企画の幅が広がります。「ヒッチハイク」は旧来の撮影体制では物理的に実現不可能でした。なぜなら演者含めて総勢10名程になるテレビ番組スタッフの移動をヒッチハイクで追うには、毎回バスをヒッチハイクしなければ成立しない。これがディレクターがカメラマンを兼任できれば、演者とプラス1名で成立するので、今までの不可能が可能になる。

ということで、出来上がったのが有吉弘行らのコンビ・猿岩石によるユーラシア大陸横断ヒッチハイク企画でした。猿岩石とディレクターと、SONYのHi8。音声はピンマイクを改良してカメラに付けて決行しました。

■既存のルールを突破し、ピンマイクを普及させた萩本欽一

--ディレクターが一人でディレクション、撮影、音声をこなすことができたのはSONYの家庭用小型ビデオカメラのおかげ、テクノロジーの進化のおかげだったのですね。

土屋:
それまでは家庭用カメラでテレビ番組を作るなんてありえないとみんな思い込んでいたんですよね。「テレビ番組は、プロ業務用のカメラで撮影するものだ」という定説からみんなが抜け出せないところから発想のジャンプがあったと思います。もちろん放送技術セクションからは「こんな画質の粗いものは放送できない」とクレームが来たのですが、「この映像使わなければ(他には映像が無いから)テレビ画面が真っ黒になる!」と。技術から非難轟々受けながらも進めました。

--リアルタイムに『進め!電波少年』のヒッチハイク企画を見ていましたが、その当時の他番組に比べて画質が悪かったという印象は受けませんでした。企画の面白さが圧倒的に突き抜けていたので、画質について気にする隙は1mmもなかったです。

土屋:
やってみればできるんだよね。もちろんそれまでのテレビの基準の数値はクリアできてなかったけど、基準・ルールは企画や中味が面白ければいくらでも変更できる。 既存のルールを突破することにより新しいエンターテインメントは生まれて来るんだよね。

欽ちゃん(萩本欽一)もテクノロジーを活用して既存のルールを突破した人なんですよ。欽ちゃんの時代、音声はスタンドマイクやガンマイクで拾うか、首からひもでぶら下げた大きなワイヤレスハンドマイクで拾うか?という選択肢のみだったのですが、ある時、欽ちゃんがニューヨークに行ってステージを見ていたら、舞台上の演者はマイクを持っていないのに綺麗に音声が拾えている。不思議に思ってステージ終了後、舞台裏で音声をどのように拾っているのか質問したらピンマイクを利用しているとのこと。しかもアメリカの演者に「知らないのか?この技術はお前の国のものだぞ」と教えられたようです。

ニューヨークのステージではSONY製のピンマイクを利用していたんです。それで欽ちゃんは帰国後にピンマイクを使わせて欲しいとお願いしたのですが、音声チームからは「音質が悪いから使い物にならない」と断られる。でも、欽ちゃんは「使っていくうちに技術は進化する」というのを信じて譲らない。しぶしぶ音声チームもガンマイクで補助しながらピンマイクの利用を許可したのですが、それで放送されるとSONYの開発者が「欽ちゃんがSONYのピンマイク使っているぞ!」となる。

当時の超売れっ子芸人がピンマイクをつけているのにその音声が悪いとは何事だ、とSONYチームも改良に力を入れたらしいんです。いまピンマイクが当たり前に使われている背景には、ルールを破ってでもピンマイクを使った方がエンタメとして優れていると判断した欽ちゃんの意思とテクノロジーの進化があるんですよね。もちろん欽ちゃんが存在しなくてもピンマイクは進化したと思うけど、テクノロジーのジャンプは起きなかったでしょう。

ここでお伝えしたいのは、既存のルールに囚われずにテクノロジーを活用した新しいジャンプをすることが、結果として新しいエンターテインメントを生み、テクノロジーを進化させるということです。

■伝説のテレビプロデューサー≒メディアアーティスト

--土屋さんのお話を聞いていると、現在のメディアアートとテクノロジーの関係を彷彿とさせます。テクノロジーの進化が激しい現在、企業が新しいテクノロジーを採用する前にメディアアーティストがテクノロジーを使ってみて世の中に問う、という。 土屋さんはテレビマンという意識でやってらっしゃったとおもうのですが、メディアアーティストの活動とも言えますね。

土屋:
テクノロジーを考える人とモノを作る人のバトンリレーが必要だと考えています。 SONYウォークマンの初代には、イヤフォンジャックが2つあったって知っていましたか?恋人同士が聞くように2穴開けたんだけど、結果としてあまり使われずに終わってしまったんですよね。以降イヤフォンジャックは現在の1つになったんだけど、開発者が「これだ!」と思い込んで作ったものがそのまま世間に受け入れられるわけじゃないんですよね。このウォークマンの例はものすごく開発者のロマンを感じるから好きな話なのですが、俯瞰してみるとテクノロジーとモノづくりの関係って常にバトンを渡しあうのが必要なんだよね。

--「バトンを渡しあう」ことについて詳しく教えてください。

土屋:
テクノロジーとエンドユーザー(視聴者)と、その間にいる表現者がバトンを渡す役割を担わなきゃいけないということ。テクノロジー企業が作った技術とそのルールを、そのまま利用したらエンドユーザーは幸せにならない。クリエイターや表現者は新しいテクノロジーをどうしたらモノづくりに活かせるか?考えなきゃいけない。

家庭用ビデオカメラはプロが使っちゃいけない、ピンマイクは音声が拾えない、というみんなが陥りがちの固定概念をひっくり返すところに新しいエンタメが待っているんですよね。もっとガキっぽくテクノロジーで遊んでみるのがいいんじゃないかな、と常々思っています。

--土屋さんは他にもテクノロジーをエンタメに変換した例をお持ちですか?

土屋:
芸人のなすびが懸賞生活をする番組が人気になるにつれて、あれはヤラセじゃないのか?という噂が立ち始めて。本当に24時間懸賞生活しているんだ、というのを見せるためにインターネット生放送を行いました。1998年頃の話です。まだADSL前のISDNの頃ですね。そして番組を見てもらうために課金をしてもらいました。

--90年代後半にインターネット生放送、しかも課金モデルだったとは。ものすごい先駆けですね。

土屋:
ヤラセじゃないことを証明したかったし、お金も取ってみたいな、と思って。 結果として500万人がホームページには来てくれたのですが、課金まで辿りつけたのは100人程度でした。

■テレビマンのミッションは「人を楽します、人の心を動かす」

--接続する側のネット環境にも依存しますしね。それよりも当時で500万人が一気にストリーミングまでやってきたら、サーバーパンクしていたと思うので結果として良かったのかもしれませんね。

土屋:
YouTubeが出てきたときにはYouTubeを使ってしかできないアースマラソンを行ったり、第2日テレを立ち上げたりと、新しいテクノロジーは常に取り入れてきているので、VRもその延長上にあるんですよね。

VRは新しい映像体験だなぁと魅了されています。だけど、残念なのはテレビの人間にとってはいわゆるテレビの四角いスクリーンではないので、VRは関係ないって思っちゃっているところ。本当はスクリーンが四角いのか360度なのかは小さな問題なんですけどね。

「俺たちテレビマンの仕事は人を楽します、人の心を動かす」というのがミッションなので、その広い概念で考えるとVRだってテレビマンの仕事にあてはまります。

■バカだな、と思ってもやってみることが大事

--土屋さんは、いまどのようなVRコンテンツを考えてらっしゃるのでしょうか?

土屋:
誰でも考えられることはしない、と心がけています。例えばVRは報道やスポーツ、ライブで活用できる、という技術デモンストレーションがあるじゃないですか?それはもう多くの人がテクノロジーのバトンを受け取って考え始めているので、そこはもう参戦する意味がないと思い考え無いようにしています。 なるべく、VRではやらないだろう、というVRから一番遠いところを目指しています。

色んな方とブレストしていると、ビデオやテクノロジーの普及はエロ系コンテンツから普及することが多いという話があり、既にVRでエロ系を攻めているものもあります。なので、エロ系はやらない。考えるのは「みんなが向かうエロの真逆ってなんだろう?」ということ。例えば宗教とかもあるのかもしれないなぁ、などと常に考えています。

そしてテレビと違ってVRはパーソナルな体験になるので、シニア向けに若かりし頃の自分に会えるコンテンツとかもありじゃないか?などとも考えています。

--他人が考えること・考えそうなことは徹底的に排除していくのですね。

土屋:
バカだなと思ってもやってみる。バカだなぁと思う方が意味があると信じているので。
なので、VRってテレビの人が考えるべきものなの?と思われている今、VRを考えるのが面白いです。
幸いにして私が所属している日テレラボは「バカだなぁ」が許される立場なので、ここからテレビマンが作るVRはじめ新しいテクノロジーを活用したエンタメコンテンツを生み出していければと思っています。

--貴重なお話、ありがとうございました!

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既存のルールを突破してテクノロジーを活用することが
新しいエンターテインメントを生み出すと語る土屋敏男(左)。

取材して強く感じたのは「テクノロジーを"自分ゴト化"して考える」姿勢だ。生まれたてのテクノロジーをどのように面白く調理してやろうか、という貪欲な姿勢とも言える。 この貪欲さが人々を楽しませ、感動させる根底にあるのだろう。テクノロジーはテクノロジーを生み出す企業だけでは成立せず、表現者/クリエイターが解釈し世の中に届ける必要がある。 VRをはじめ数多生まれるテクノロジーを"自分ゴト化"してエンドユーザーに届けたものが新しい波を作るのだろう。これは他人事ではない。もっと貪欲になりたい、と強く感じさせられた取材であった。

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ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後外資系企業のフィールドマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブ会社のプロデューサーを経て2014年株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集、ベンチャー向けのメンターを行う。Mistletoe株式会社フェロー。

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