「現美新幹線」TRANSIT中村貞裕がヒット作を出し続ける理由

2016.05.06 17:00

"世界最速芸術鑑賞"走る美術館として話題の「現美新幹線」が2016年4月29日、運行開始となった。蜷川実花氏が外装を手がけ車内ではアーティストや写真家7名の作品が展示される。
このプロジェクトを仕掛けているのが"世界一の朝食" bills、"世界一のかき氷"ICE MONSTERを運営し、著書『ミーハー仕事術』で若者に圧倒的支持を得ている中村貞裕氏率いるTRANSIT GENERAL OFFICEだ。手掛けるプロジェクトはなぜいつも話題になるのか?現美新幹線は何故生まれたのか?中村氏に取材した。

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常に人々がワクワクする体験を生み出し続ける中村貞裕氏にTRANSIT GENERAL OFFICEでインタビューを行った。

--現美新幹線は何故生まれたのでしょうか?

中村:
JR東日本との取り組みは「現美新幹線」の前に「東北エモーション」を手がけていたのでまずはこちらから説明します。こちらは青森県八戸から岩手県久慈駅(編集部注:NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」の舞台駅)を走る3両編成車レストラン列車です。震災後のこの区間を盛り上げるために何かできないか?という依頼があり「レストラン列車などいかがでしょうか?」と提案したことがキッカケです。

全体インテリアは目黒のホテル「CLASKA」を一緒に手がけたintentionalliesにお願いし、グラフィックスに関しては現在はダイアグラム 代表取締役の鈴木直之さん(当時タイクーングラフィックス)に、料理に関しても東京でも予約が取れない一流人気シェフにお願いしております。

僕は東京生まれ東京育ちで、ずっと東京でプロジェクトを仕掛けていました。東京ではメディアを使ってどのように話題を生むか?どれだけ多くのメディアを巻き込むか?というノウハウが溜まっていたのですが、地方には東京ほどメディアが無いので、東京での手法が活用できるか最初は疑問でした。しかし「東北エモーション」では、東京のメディアを巻き込み、地元の方も多く方が乗車し、結果は大成功。僕ら自身も予約できないぐらい人気の車両となっております。JRの方からも感謝状をいただきテープカットにも参加させていただきました。

国をあげて地方創生に取り組んでいるので東京のメディアも地方の話題を取り上げるようになっていますし、インバウンドで海外からの旅行者を狙う場合には東京も地方もそれほど差が無いので現在も継続的に地域を選定して、また地方に仕掛けて行っています。
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越後湯沢〜新潟間を走る上越新幹線にて現代アートを新幹線で移動しながら鑑賞できる世界最速美術館、最高速度210kmで走る「現美新幹線」。外装デザインを手掛けるのは写真家の蜷川実花氏。列車全体をキャンバスに見立て、夏の夜空を彩る長岡の花火が描き出される。(写真提供:TRANSIT GENERAL OFFICE)

中村:
さて、「現美新幹線」ですが「東北エモーション」の成功があり越後湯沢~新潟間を走る上越新幹線を面白くして欲しいという依頼が来たのがキッカケです。 TRANSITの企業理念には「ファッション、建築、デザイン、アート、音楽、飲食などをコンテンツに遊び場を創造する」という一フレーズがあるのですが、まさに「遊び場」を作ろうと思い取り組みました。 着眼点としては、新潟ではアートトリエンナーレ「大地の芸術祭」を実施していることと、該当区間を実際に乗車してみるとトンネルばかりで外の景色が見えなかったこと。ここから、走る美術館を作ったらどうだろう?というコンセプトが生まれました。外装は蜷川実花さんが良いと直感的に思ったのですが、相談した後に彼女がずっと新潟 長岡の花火を撮り続けていることを知り、長岡の花火で外装ラッピングをしよう、と意気投合し実現しています。グラフィックスは「東北エモーション」での成功を元にダイアグラム鈴木直之さんにお願いしたのですが、実は彼が新潟出身だということをこれまた後から知りまして。出身地のためにやります!と快諾いただきました。
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「現美新幹線」6両編成の車両は注目のアーティスト7組の現代アートが展示されている。唯一の指定席11号車は松本尚氏が担当し五穀豊穣、祝祭、光をテーマに触れられるアートとして車両シート、車両カーペット、カーテンに至るまでデザインされている。(写真提供:TRANSIT GENERAL OFFICE)

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13号車には本格的なカフェが併設されている。古武家賢太郎氏による上越の風景に描かれた色鉛筆画と共に地元の素材にこだわったスイーツや新潟・燕三条で人気の「ツバメコーヒー」監修のコーヒーも楽しめる。(写真提供:TRANSIT GENERAL OFFICE)

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同じく13号車には現代アートに直接触れることができるキッズスペースも準備されている。林泰彦氏と中野裕介氏によるアートユニット、paramodelが担当した子供たちが自由に楽しめるプラレールが置かれ、青と白を基調とした壁面にはプラレールをモチーフにしたインスタレーションを設置。遊び心満点だ。(写真提供:TRANSIT GENERAL OFFICE)

--TRANSITそして中村さんが手掛けるプロジェクトは何故いつも話題になるのでしょうか?プロデュースのコツを教えてください。

中村:
「インプット」がまず必要です。僕は趣味が立ち読みといっていいほど雑誌をよく読みます。特集は何か?見開きは何か?いま時代は何を求めているのか?とにかく沢山の旬の情報を仕入れています。そして担当するプロジェクトに当てはめてどのようなキャスティングをしていくのか?考えていきます。キャスティングとは人だけではなく、企業、ブランド、メニューなども含めてのキャスティングです。そしていろんなメディアにひっかかるような話題作りのコアを考えていきます。

どうしたらキャッチーになるのか?"走る美術館"、"世界一の朝食"、"待ち合わせカフェ"...などメディアがキャッチーだと思うコンセプトとキャッチフレーズはプロジェクトの冒頭で決めます。 そして我々の仕事のスタイルとしてプロフェッショナルと仕事をするということがあるのですが、外部のクリエイターと仕事をする際にも自分達が目利きである必要があり、そのためにはマーケティング活動、インプットが大事なのです。ニューヨーク、北欧など海外にも年の三分の一は行きひたすら真剣にインプットします。暇さえあれば立ち読みしますがこれは暇つぶしではなく、真剣に情報収集しているのです。

そして「インプット」以上に「アウトプット」が大事です。実はインプットは楽しいので誰でもできるのですが、アウトプット力を高めるのがプロとしては大切です。出来るだけいい話があれば人に話す、メディアに話す、とにかくアウトプットしていくことが大事です。良い情報は隠しても意味が無いと思います。良い情報であればあるほど出して行く、そのことにより更に良い情報が入り良い人が集まってくるんですよね。

ただアウトプットはインプットと違ってトレーニングが必要だと思っています。自分で意識して積極的に出していかないといけないので日々意識していないといけません。「アウトプット力を高める」ことはマーケティング力PR力を高めます。

Facebookでポストしていくのもいいと思います。Facebookに食べ物の写真を上げている人のところには良いレストラン情報が集まってくる例もありますし。とにかく良い情報はアウトプットしていくのが大切です。
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中村貞裕氏の取材を行った青山TRANSIT GENERAL OFFICEエントランス。
(写真提供:TRANSIT GENERAL OFFICE)

--中村さんは多くの方に支持されていますが、特に20代男性に人気があるとお聞きします。SENSORSの読者も20代男性が多いです。中村さんに憧れる方々にアドバイスをいただけますでしょうか?

中村:
20代前半は「やりたいこと」だらけなのでミーハーに色々と首を突っ込んでいいですが、ある時本当に「やらなきゃいけないこと」が出てきます。「自分が出来ること」が「自分がやること」になってくるタイミングがあるんですよね。僕の場合は人を集めることが得意だったので、飲食だったら出来るかもしれないという選択肢でまずカフェを立ち上げました。ちょうどカフェブームもありお店も成功し、「自分が出来ること」に自信がついてくると自分の周りに優秀な人が増えてきます。日本初上陸のお店を作ることも得意になってくると沢山手がけることが出来るようになってきます。

そして「自分が出来ること」が「自分がやること」になった先には「自分がやらなきゃいけないこと」になってきます。「僕がやらなきゃ誰がやるんだ!」というステージになってくる。アーティストの村上隆さんも「俺がやらなきゃ誰がやる」という発言をされていますが、そういう使命感を得た時が一番いいものが生まれてきます。僕が仕事をする方々も「自分がやらなきゃ誰がやる?」というステージの方々でそういう方と仕事をすると良いプロジェクトになります。

また、仕事をする上では相手が何をしたら「ありがとう」と言ってくれるのか?考えながらブッキングしていくのが大切です。現美新幹線でご一緒したダイアグラムの鈴木さんも素晴らしい仕事をしてくれたので僕がお礼を言わなければいけないのに「地元新潟に関わる仕事をくれてありがとう」って言ってくれたんですよね。 何をしたら相手が喜ぶのか?を考えることも、仕事を成功させる上では大事です。

今後の展望を聞くと2020に向けて「東京を面白くしたい」、世界最先端のイケてる都市として東京を位置づけて行きたいと語る中村氏。グローバル最先端都市を維持するためにグローバルな視点を持ち続けたいとも語る中村氏が手がけるプロジェクトに今後も注目していきたい。そして、プロジェクトの表面だけではなく、中村氏率いるTRANSITが手掛けるプロジェクトの背景には沢山の「ありがとう」が詰まっていることもじっくりと味わっていきたい。

ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。IBMでエンジニア、Adobeにてマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブカンパニー(株)バスキュールにてプロデューサー従事後、2014年に株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×クリエイティブ×マーケティングを強みにプロデュース業や執筆活動を行う。スタートアップ向けのデザイン&マーケティングアクセラレーションプログラム「HEART CATCH 2015」総合プロデューサー。 http://events.heartcatch.me/

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