宇野常寛 様々なメディアでの発信を行う理由と「在宅/現場」の概念

2016.01.14 18:30

政治からサブカルチャーまで幅広いジャンルをカバーしながら、各業界のトップランナーの声を伝え続けてきた雑誌『PLANETS』が2015年で10周年を迎えた。この節目の時期に、『PLANETS』を主宰し評論家としても名高い宇野常寛氏。今回は、テレビ・ラジオ・Webなど、宇野氏が活躍するする各メディアについてどう捉えているのか、そして今後のメディアとの関わり方について伺った。

前編「宇野常寛が出版物に手間・時間をかける理由〜『魔法の世紀』誕生秘話」では、宇野氏が編集を務めた落合陽一氏初の単著『魔法の世紀』出版秘話や、宇野氏の考える出版業界の課題などについて伺った。
後編では、テレビ・ラジオ・Web...様々な舞台で活躍する宇野氏の「出版」以外の範囲への関わり方について掘り下げていく。宇野氏が今関心のあるメディア、そして今後考えているメディアとの関わり方とは。

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宇野常寛氏:評論家として活動する傍ら、文化批評誌『PLANETS』を発行。主な著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『日本文化の論点』(筑摩書房)、ほか多数。

■コアな読者が、ラジオを通して増えた実感

まずは、日本テレビ「スッキリ!!」コメンテーター等でも活躍するテレビ、そしてJ-WAVE「THE HANGOUT」月曜ナビゲーターを担当しているラジオについて伺うことにした。

宇野:
テレビは2,3年前から関わることが多くなってきましたが、まだまだ昭和から平成初期の日本の中流文化が続いていて、現代の多極化して「メジャー」な存在がないという時代の多様なリアリティから遠くなってしまっているので、そこに僕のような空気も読まなく「ちょっとそれ違うんじゃないの」って言う人間が混じっていることも、やっぱり大事なのかなと思っています。

ラジオは実は、ライフワークにしようと思っている程好きです。2013年に「オールナイトニッポン0」を1年間やって、そのあと、J-WAVEに移って「THE HANGOUT」という番組がスタートして2年目に突入していますが、自分にこんなに向いていたんだという位、ラジオは好きですね。それはやはり、放送という回路を使って個人的なことを語ることが出来るのはラジオが唯一だと思うので。ラジオは、パーソナリティーの権限がすごく大きいメディアです。かつ、放送なので書くものと違って、僕の名前や僕の扱っている題材に興味がない人でも偶然に聞くことが多いんですよね。なので、僕の本を買ってくれたり、僕の主宰するイベントにきてくれるコアな読者が、放送を通して増えた実感があるんですよ。

--偶然に聞いたというところから、コアな宇野さんファンになっていったということでしょうか?

宇野:
そうです。偶然、若い人も含めた新しい方と出会えて、かつありったけ個人的なものを込められるなんて、本当に良いメディアだなと。

--「THE HANGOUT」はリスナー層としても若い方が多いのでしょうか?

宇野:
若いですね。ターゲットがもともと大学生で、実際に中高生も含めた若い人からのメールも多いですし、非常に手応えを感じています。

テレビは「社会改良」と「宣伝」、ラジオについては偶然の出会いも含めた「コアな読者との出会い」と位置づけているそうだ。

■今後のメディア展開の構想と、「在宅」と「現場」の概念

もちろん今のメディア環境においてはWebとの関わりも不可欠。宇野氏の個人事務所である株式会社PLANETSによる求人情報で「宇野常寛のつくる新メディアの編集スタッフ、もしくはそのアシスタント」という記述があるが、やはりWebを軸とする構想のようだ。

宇野:
今のTwitterやFacebookの文化の外側に、Webでまとまったものを見たり、聞いたり、読んだりできるような世界を作っていきたいですね。僕らが90年代に夢見たインターネットの世界に近いようなものをしっかりと実現していきたい。いまの社会の閉塞感をかたちづくっているテレビ的な紋切り型社会とTwitter的なツッコミ型社会、その双方の共犯関係の外側に世界を作らないといけないと思っています。

今、インターネットが本当につまらなくなったと思うんです。結局、Webで動員の革命だと言ってやっているようなことは、いわば"センスが20歳若いテレビ"を作っただけのような気がしています。結局、その世界で空気を読まない奴を見つけて、石を投げるという。そして読んでいる人間は彼らの意見をリツイートして「自分は大丈夫な側にいる」という安心をすると。

いわばワイドショー文化をTwitterで再現しているだけのような気がしているので。一方、Facebookは基本的には自慢しか載っていないので、どちらも心地良い世界ではないなと。

--「新メディア」プラットフォームとしては、基本的にはWebメディアという形にはなるのでしょうか?

宇野:
そうですね。もちろん今何かを作るとなったら、Webを抜きに考えることは難しい。その新たなメディアには「在宅」が最強になれる世界がある。つまり東京でイベントや飲み会をハシゴしているよりも、このサイトに載っかっている読み物や動画を全部見ればもう最強になれる、そんなメディアになれたらいいなと。
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--「在宅」の概念について、詳しく聞かせて頂けますか?

宇野:
僕らアイドルオタクの間では、「在宅」と「現場」という概念があります。そんな中で今のアイドルブームは基本ライブ、「現場」ありきです。いかに現場に行けるかどうか。インターネットが出来たことによって、マスメディアを介さなくても文化的なものに触れて自分で発信していける時代。それと今のアイドルブームは結びついているんですよね。

今はフェスや握手会の売り上げは上がっていても、CDの売り上げは落ちていっている。情報が飽和してしまって、自分しか体験出来ない、コピー出来ない体験にしか値段がもう値段がつかなくなっていると。

そうすると、どんどんイベント化が進んでいくわけですが、僕は経歴的・職種的にメディア側の人間なので、情報を扱う立場から何かしなければいけない。また地方出身者という立場から見ると、やっぱり「体験」つまりイベントは東京になります。そのイベントに行くことが文化の中心にあるという状況は自分自身の力で何としても抗いたいというか、抜け道を作っておきたいなと思っています。今は東京に出てきて7、8年経ちますが、もし今自分が20歳の学生で地方にいたら、今のこの(東京での「体験」が中心になっている)状況は許せないと思います。僕は父親が転勤族なので、4, 5年で色んな地方を移ってきているんです。

--色んな街からの東京の見え方を体感されてきた、ということですよね。

宇野:
そういう立場だからこそ、「在宅」に力を与えたい。つまり「在宅」でも「現場」100回と同じくらいのリテラシーを与えたいのです。どんどんライブに出かけて行って、ファンコミュニティに接続して、飲み会で話をして盛り上がっているよりも、家に引きこもってひたすら情報を消費しているやつのほうが強くなれるような環境を作らないと、物書きとしての自分の人生に敗北しているような気がしています。「在宅」がもっと有利になれる世の中を作らないと、メディアを作ることを職業にして自分で本を作ってきた人間として、負けな気がするんですよ。時代に対して。僕自身がこの数年で、すっかり「現場」型の人間になってしまったので、少し初心を取り戻したいというか、バランスを取りたいんですね。

メディアに関わる理由としては、「在宅」の側につきたいということが大きいです。やはり僕は元々「東京で飲み会ばかりやっている業界人たちより、地方でひたすら色んなものをチェックしている自分たちの方が、今本当に面白いものが何かを分かっている」という強烈な自意識の元に東京に出てきた人間なので。

そういった構想と合わせて、紙の「PLANETS」も10周年を期に再編も考えていますし、Webと紙とラジオとイベントを組み合わせていけたらと思っています。また、これからも『魔法の世紀』のような良質な本を、手間と暇をかけてお金もしっかりかけてコンスタントに出していくということも、当然しっかりとやっていきたいと思っています。

「現場」と「在宅」に対する考え方は、宇野氏による所信表明「〈現場〉と〈在宅〉の壁を突き崩すメディアを――2016年PLANETSの所信表明」もチェックしてほしい。
10周年を迎えた「PLANETS」(出版)を軸に、様々なメディアを横断しながら活動する宇野氏。その活動の前提には『魔法の世紀』のような書籍を生み出し落合陽一氏の考え方を世に出していくこと、若い頃の自らと同じ「在宅」の立場に立つこと...などと、自らが共感する人・立場を後押ししていきたいという想いを、端々で感じることが出来た。宇野氏によるメディアを通しての発信とともに、その裏にある"想い"にも注目していきたい。

取材・文:市來孝人

SENSORS Managing Editor
PR会社勤務ののち、かねてより旅行でよく訪れていたロサンゼルスに在住。帰国後、福岡やシンガポールのラジオDJ、東京でのMC・ナレーター、ライターとして等の活動を経てメディアプランナーとして活動中。また、タレント・企業トップなど個人に特化したPR・ブランディングにも携わっている。

Twitter:@takato_ichiki
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