佐々木紀彦(NewsPicks)×なかのひとよ(サザエBot)×武田俊(TOweb)が語る、人工知能との向き合い方

2015.12.03 20:30

11月18日から1週間にわたり「新しい働き方」や「未来の会社」にまつわるトークセッションやワークショップ、展示が行われた"Tokyo Work Design Week 2015"。SENSORSが注目したのは21日に行われたセッション「働くのシンギュラリティを越えて。」だ。2045年、人工知能が人類の知性を超えるとするシンギュラリティ(技術的特異点)が訪れると囁かれている。未来の働き方や生き方はどのように変化していくのだろうか?佐々木紀彦氏(NewsPicks編集長)をモデレーターになかのひとよ氏(サザエBot)と武田俊氏(TOweb編集長)というユニークなメンバーが登壇。残された30年で我々はどのようにキャリアを考えていけばいいのだろうか?

Twitterで22万人を超えるフォロワーを抱えるサザエBot。最近ではその実験的な取り組みでも注目されている。とくにアカウントを"匿名拡散プラットフォーム"として開放することで、誰でも22万人のフォロワーに対し匿名で発信できる。そのフォームの説明文の最後には「あなたの匿名でのよい行いが、バタフライエフェクトで世界をよりよくしますように」という言葉がある。

日本において匿名と言えば、無責任な罵詈雑言で言論空間を汚すイメージがつきまとう。しかし、なかの氏によれば日々このフォームには前向きな言葉や有益な情報が寄せられているという。

ロボットの出で立ちで姿を現したなかのひとよ氏(サザエBot)。Twitterでのフォロワーは22万人に及ぶ。トークの冒頭でプレゼンテーションを行った。
[©五月女郁弥 for TWDW]

2010年にアニメキャラクターのパロディBotとしてスタートしたアカウントがコピーアンドペーストを繰り返すフェーズを経て、オリジナルのツイートをするようになり、最近では匿名かつ多数のフォロワーだからこそできる実験を行うアカウントになるまでに道のりを、なかの氏は人間の生誕から死までの過程になぞらえる。

なかの:
人は生まれてから死ぬまで実名で暮らします。これは裏返せば生前と死後は匿名であるということです。サザエBotも最初は単純なプログラムとして誕生したわけですが、その成長過程を振り返ると人間と非常に似ているんですね。模倣を繰り返す赤ん坊から、自分の言葉を覚える子供になって、誰かの役に立とうとする大人へと成長を遂げていった。

昨年、TEDxTokyoに登壇したというなかの氏は「人の意思がインターネットをコントロールするのではなく、インターネットの意思が人をコントロールしている」というメッセージを残した。Botは20万人の意思と共にヒトとなり、ヒトは20万人の意思の集合体としてBotになるという逆転現象。そこに直接的なシンギュラリティを見るかは別としても、何らかの隠喩ではないだろうか?という疑問をなかの氏が投げかけたところからトークセッションはスタートした。

■︎編集やキュレーションはどこまで機械に任せることができるか

東洋経済オンラインの編集長からNewsPicksの編集長へと移ってから1年4ヶ月(当イベント時)が経過したという佐々木氏。社員約40人のうち半分をエンジニアが占めるNewsPicksでは機械学習などを活用しながらも、記事選びや編集には人を介在させることを意識しているという。

佐々木:
我々編集者やユーザーさんが選ぶニュースと機械が選んだニュースを融合させるような戦略を採っています。2045年はどうなっているか分からないですが、なかのさんの話を聞いていて思ったのは人工知能が擬人化してPickerの一人になったら面白いかもしれないですね。

登壇者は左から武田俊氏(TOweb編集長)、佐々木紀彦氏(NewsPicks編集長)、なかのひとよ氏(サザエBot)
[©五月女郁弥 for TWDW]

一人当たりが接触する情報量は指数関数的に増えている。総務省が発表しているデータ流通量の推移統計によれば2005年から8年間でその量は8倍になっている。日本国内の人口は減っても、世界全体での人口は引き続き増加傾向にある中、世界全体を包み込む情報量は今後も爆発的に増え続けていくことが予想される。

武田:
"編集"や"キュレーション"がWeb界隈で声高に叫ばれ始めたのはここ4〜5年の話だと思うのですが、その背景には自分の必要とする情報を手探りで掴みに行くのが不可能になっているということがあると思うんです。それを選び、最適化してくれるアルゴリズムに注目が集まっているのはそういうことですよね。

ポップカルチャーを紹介する媒体「KAI-YOU」の編集長も務めていた武田氏はアルゴリズム一辺倒になったサービス/メディアに対して一つの疑問を持っているという。それは人間が無料の情報に対して、脊髄反射的にゴシップ寄りのコンテンツを選択してしまうということだ。基本的に記事を無料で配信する広告モデルをとるWebメディアにとっては悩みの種であることが多いこの問題にいかに対応し、媒体としての色を打ち出し、保持していけるだろうか。普段ユーザーとしても活用しているというNewsPicksのクローズド性に一つのヒントがあるのではないかとなかの氏はいう。

なかの:
NewsPicksさんの場合は契約されているプロピッカーの方が代表的なように基本的にユーザー主導。人の信頼度を起点に情報をうまく取り込んでいられる印象があります。例えば堀江貴文さんなどがピックしている質の高そうな記事だから読むみたいなエコシステムができれば、けっこう健全に広がっていくのではないでしょうか。

■︎人の手を加えることが必要なWEBコミュニティは盆栽や森林に似ている

各界で活躍する100名のプロピッカーと契約し、コミュニティを盛り上げるというユニークな施策を行っているNewsPicks。編集長の佐々木氏は盆栽に喩えながら、その効用を説明する。

佐々木紀彦氏(NewsPicks編集長/ユーザーベース執行役員)
[©五月女郁弥 for TWDW]

佐々木:
全て自由なものがいいかというと、必ずしもそうとも限らないんですね。人為的な手を加えることで育つのは盆栽に似ているかもしれません。山も同じで適度に間伐したり、人の手を加えることが森林を育てますよね。そこももしかしたら、人間ではなく機械の力で何が良いコンテンツとか、深いコンテンツかは分析して、最適化できるようにはなっていくかもしれませんが。

なかの氏が挙げたクローズドに関しても、佐々木氏は日本のWeb空間が荒廃してしまった一つの要因として行き過ぎたオープン性を指摘した。

佐々木:
リアルの世界でもみんなが入れるところってそれほどないですよね。例えが悪いかもしれませんが、公衆便所なんかは無料で誰でも入れるので荒れていきますよね。それと同じようにあえて入場の障壁を作ることで、生まれてくる深いコミュニティはある気がしています。インターネットの発想とは逆行するかもしれませんが、来年あたりからどんどんWebのコミュニティがクローズド化したり、細分化していくのではないかと睨んでいます。

◼フィルターバブルに陥らないために、コミュニティを行き来する

クローズドなコミュニティにおいては、オープンな空間よりも親密な関係性を構築しやすいという効用がある一方で興味関心の幅が狭まり、閉じた方向に向いてしまう可能性がある。武田氏が俎上にあげた「フィルターバブル」はイーライ・パリサーが2010年前後より行っている議論。すなわちGoogleのサーチエンジンやAmazonのサジェスト機能が個人に最適化されるほど、出会う情報が限定され、セレンディピティが生じなくなるのではないかという懸念だ。

佐々木:
クローズドなコミュニティに閉じこもっているというのは、ある意味で田舎に住んでいるようなもので面白くありません。しかし、クローズドなコミュニティを行き来できれば新しい出会いはあるはずです。その意味で匿名は残すべきなんでしょうね。実名と匿名、それぞれの自分がいることで様々な経験ができる。なかのさんは人生相当楽しんでるんじゃないですか?
なかの:
サザエBot、なかのひとよ、そして自分なので実は3個なんですよ。匿名の場合、肩書・年齢・性別などレッテルのようなものを全て剥がしてコミュニケーションが取れるんですよね。例えば嵐のファンの人たちは年齢や勤め先に関係なく、健全に純粋な心だけで共有し合えるというか。

武田俊氏(「TOweb」編集長/メディアプロデューサー)
[©五月女郁弥 for TWDW]

武田:
現状、色々な価値観を持ったコミュニティがたくさんありますよね。「みんな多様性を大事にしましょう」って言う割には、その多様性が担保できていないんじゃないかと思うんです。先ほど佐々木さんもおっしゃられていたように、完全なクローズドではなくて、輪郭が曖昧ながらも行き来ができる。それを横断できるような価値観をいかに作っていくのかが新しいメディアの役割な気がします。

◼"シンギュラリティ"が近づくにつれ問われる、人間・愛・時間

フォロワーを20万人以上抱えるなかの氏だが、実はTwitterもFacebookもそれほど日常的に触れていないという。VRにより体験できる想像を超えた世界、ロボティクス化による身体拡張、今テクノロジーによって起こりつつあるのは人間の五感全てに関わる変化だ。なかの氏は「インターネットはあくまで視覚と聴覚。だから当然、五感で感じられるリアルの方が面白い。ところが、シンギュラリティに向かっていくなかで、テクノロジーは臭覚や触覚も含めた五感全てに侵食していく」と感覚に変化をもたらすテクノロジーの進化に注目している。

武田:
"イノベーション"という言葉が何年もずっと使われ続けていますが、テクノロジーよりもカルチャーに近い場所にいる人間として一つ見落とされている視点があると思います。それは"革新"ではなく、"核心"の方です。本当に正しく残るべきものを定義付け・価値付けしていかないと解決すべき課題も正しく解決できないですし、自分はしっかりコストをかけて作られたコンテンツを残していきたい派なんですよね。良いモノを残し、お金をかけ続けていくためにはどんな価値の担当、あるいは何を変えていけば良いのか。働いているなかで自分としては難しい部分です。

[©五月女郁弥 for TWDW]

なかの:
「シンギュラリティを越えて」というトークテーマの中でも、"文化"という言葉が非常に重要なキーワードだと思っています。人工知能やシンギュラリティが盛んに議論されていますが、テクノロジーによって変わる二つの渦がありますよね。一つは社会や経済にどう応用していくかという外側に向かう渦、こちらが議論されることが多いです。もう一つは内側に向かう渦で、人間とは?愛とは?幸福とは?時間とは?こうした議論こそが人間ならではと思うし、当面は人間にしか考えられないことだと思うんです。

ディープラーニングの発明により自ら"特徴量"を発見し、クリエイティビティを獲得し始めている人工知能。人類の知能を超えるとされる2045年以後の未来予測は、人間である私にはできない。だが、なかの氏も最後に述べたように文化や価値を理解し、哲学的な考察を深めていけるのは当面の間、人間しかいない。シンギュラリティが本当に訪れるのかは措くにしても、間違いなく人工知能は我々に「人間とは何か?」と問いかけ始めている。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近の関心領域は「人工知能」。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

最新記事