宇野常寛が語る"落合陽一の思考"の読み解き方--SENSORS 評論家と語る未来

2018.09.06 18:00

「評論家と語る未来」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは評論家の宇野常寛氏だ。

全4回にわたってお届けする第3弾記事の前半では、MCのお二人とゲストに、宇野氏が編集を担当した落合陽一の新著『デジタルネイチャー』について議論してもらった。宇野氏は、「『デジタルネイチャー』は、言語では解釈できないことを、テクノロジーを活用して非言語的に実装することについて書かれた本だ」と語る。

後半では、今後日本がより面白くなっていくためには何が必要かを考える端緒として、「メディアアートへのアプローチ」について語ってもらった。宇野氏は、「従来のアートとは別の文脈で、日本固有のアートを追求する潮流が必要だ」と提言する。日本固有の価値をつくり出すため、いま落合陽一やライゾマティクスはどんな役割を果たすべきなのか、徹底的に追求していく。

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(左より)齋藤精一、落合陽一、黒田有彩

日本を代表する知識人・落合陽一による、総合的な社会評論『デジタルネイチャー』

--続いて、先日発売された落合さんの新著『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』について。この本は、宇野さんが編集担当で、PLANETSから発売されています。まず本の内容について簡単にお伺いできますか?

落合陽一(以下、落合):
本の帯にも書いてあるのですが、一言でいうと、我々が"デジタルの自然"と"ナチュラルな自然"を区別できなくなり、人間にとっての「自然」の概念がアップデートされていく、という話が書いてあります。

まず前提として、もともと生物は、DNAや神経系の仕組みにデジタル演算プロセスを含み持っています。そういった自然な演算プロセスが、半導体によるデジタル演算プロセスと区別がつかなくなってきている。人工知能や自動生成された画像と、自然界でランダムに生まれた生物の区別ができなくなっているということです。すると、そもそもの「自然」の意味合いがアップデートされていく。ざっくり言うと、そういった内容です。
黒田有彩(以下、黒田):
ありがとうございます。私も読ませていただいたんですが、非常に難しかったです(笑)。
落合:
そうですね、相当難しいと思います。3年かけて、頭がおかしくなるくらい、何度も何度も編集しているので、かなり内容が凝縮されています。ググりながら丁寧に読んでいただけると嬉しいです。
黒田:
そうなんですね。宇野さんは編集者としてこの本の制作に関わっていらっしゃいますが、どういった点がポイントなのでしょうか?
宇野常寛(以下、宇野):
まずこの本を出した意図からご説明します。2015年に刊行された、落合さんの処女作である『魔法の世紀』も、僕が編集担当でPLANETSから出版しているんです。『魔法の世紀』は、メディアアーティスト兼研究者として、彼がひとつのジャンルを作り出した本でした。いわば専門書です。
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宇野常寛氏

宇野:
対して『デジタルネイチャー』は、『魔法の世紀』刊行以来の3年間で日本を代表する知識人としてのポジションを確立した彼が、トークンエコノミーや人工知能を含めた社会全般について論じた本なんです。だから『魔法の世紀』に比べて、総合的な内容になっています。

日本を代表する知識人である彼が、その教養を余すところなく総動員して書いているので、内容は非常に難解です。丁寧にググりながら、背伸びして読んでもらえると嬉しいですね。100人読んだうちの5〜10人でも、何かを感じ取って、次の時代で面白いことをやるきっかけにしてもらえれば、僕は満足です。

考えるな、感じろ。感じるな、考えろ。ーー難解極まりない『デジタルネイチャー』の読み解き方

齋藤精一(以下、齋藤):
僕はまだ『デジタルネイチャー』を読めていないんですが、難しい本に悶々とする経験は大切ですよね。僕が昔好んで読んでいたドゥルーズ・ガタリなどの思想書も、何度読んでも答えは書いてないんですよね。ただ、答えがないまま悶々とすることによってのみ得られるものがある。落合さんの本でも、そういった類の体験ができるんじゃないかと期待しています。
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落合:
悶々とするというか、「考えるな、感じろ。感じるな、考えろ」といったブルース・リーのような本だと思います。言語で考えるのと、非言語的に感じることを交互に繰り返さないと理解できない。
宇野:
『デジタルネイチャー』は、言語では解釈できないことを、テクノロジーを活用して非言語的に実装することについて書かれた本です。20世紀後半のフランス現代思想は、言語では解釈できないものを、頑張って言語で表現しようとした結果、詩的な表現をするしかなくなってしまった。それを、もはや言語を介さずに表現しているんです。

言語ってものすごく切断的なんですよ。ある事象を言語で表現しようとすると、極端に情報量が少なくなってしまう。しかしテクノロジーを使えば、要素を削ぎ落とさずにそのまま解釈することができます。
黒田:
前書きは、特に感覚的なエッセイ表現が使われていますよね。普段自分が使わないような表現なので咀嚼するのが難しいんですが、何度も読み直していくうちにフッと風景が思い浮かんでくることがありました。
落合:
それは、ちゃんと非言語的な体験ができていますね(笑)。
宇野:
あのエッセイではじまって、作品紹介で終わる構成は結構美しいんじゃないかと思っています。非言語的なものを言語で表現しようとしている前書きと、非言語的なものを非言語のまま表現した作品を紹介する最終章の間に、言語的な理論である本篇がサンドイッチされている。
黒田:
そんな仕掛けがあったんですね。ちなみに、制作中に苦労したことなどはありますか?
宇野:
全体通して、ものすごく苦労しました。落合さんは、全然原稿を書いてくれないにも関わらず、すごい凝り性なんですよ(笑)。ギリギリになるまで書かないのに、ギリギリになると無限に直してくる。普通は本って第2,3稿で完成するんですが、『デジタルネイチャー』は第5稿くらいまでかかっています。あれはしんどかったですね。

本の後半に、「インターネットの普及によって締め切りという概念は消失した」と書かれているのですが、あれを初めて読んだときは全力で「いや、あるから!(笑)」と叫びたくなりました(笑)。赤入れしようかと思いましたよ(笑)。

西洋近代的価値観から抜け出し、日本固有のアートを追求することが必要だ

--続いて、多分野に精通する宇野さんと一緒に、今後日本がより面白い国になっていくために何が必要かを議論していきたいと思います。まずは「メディアアートへのアプローチ」。日本発の面白いアートを生み出すためにはどうすればいいのでしょうか。

落合:
そもそも日本は、アートに対する独自のスタンスがないですよね。明治初期に欧米から押し付けられた価値観を、今でもまだずっと守っている。対して欧米では、アートの定義は断続的に変わり続けています。

僕やライゾマティクス、チームラボさんの作品が、国内よりも海外で評価される傾向にある原因もそこにあると思います。アートの概念をアップデートする意識がなく、いわゆる西洋近代的なアートの価値観だけで作品を見ているから、なぜ僕らの作品が評価されているのかが理解できない。
宇野:
だからこそ逆に、僕らが当たり前のように感じている日本のポップカルチャーが、グローバルで見るとものすごいガラパゴスで異色に思われて、評価されることもある。アニメや「Kawaii」はまさにそうです。
落合:
日本でも、たとえば千利休なんかは固有のアートを追求していたんですけどね。近代以前は、欧米の文脈とは離れたところで、オリジナルなアートが追求されていた。いまの日本は、改めてそういった考え方をとり入れるべきだと思っています。
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齋藤:
一度海外で評価されたものは国内でも評価されやすいんですが、日本の中だけで評価されるようなものをつくる土壌がないですよね。
宇野:
個人的には、西洋近代的なアートもあっていいとは思いますけどね。ただそれと並行して、トラディショナルなアートの外側にいる人間が、全く別の文脈で日本的な美を追求する必要もあると思います。役割分担ですよね。

そして、そういった日本的なアートを追求する役割を担っているのが、落合陽一であり、ライゾマティクスやチームラボなんだと思います。
落合:
僕の個展を見に来た美術批評家の人が、「落合陽一はアート的に考えていないのではない。古典的なアート概念とは全く違う哲学によってアートが成り立っているんだ」と仰っていて、全くその通りだなと思いました。
宇野:
落合さんやライゾマティクスのような存在が、もっと密に連携して大きな潮流をつくっていってほしいですね。

続く第4弾「衰退するテレビと教育の未来に、宇野常寛からの提言 --SENSORS 評論家と語る未来」の前半では、本記事に引き続き、MCのお二人とゲストに、今後日本がより面白くなっていくためには何が必要か議論していただく。

前半では、「テレビというメディア」について徹底討論を行う。宇野氏は、「今のテレビ業界は、全力で撤退戦を戦っている。現代的ライフスタイルを前提としたビジネスモデルに転換すべきだ」と語る。

そして最後は、大学教育に携わっている立場でもある三人が、「面白い人物の育て方」のディスカッションを行う。落合氏が「過剰な指導をしないこと」の重要性を語る一方で、宇野氏は「無批判に飲み会と女遊びのことしか考えないのではなく、学生発の独自カルチャーを生み出すべきだ」と提言する。これからの未来を作っていく若手世代が、いかにして世界を「面白く」していくのか、徹底的に議論する。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一はキズナアイがお気に入り!?ゲスト:宇野常寛(評論家と語る未来 3/4))

構成:小池真幸

93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。
Twitter:@masakik512



編集:オバラミツフミ

1994年、秋田県出身。2016年からフリーランス。各種メディアでのインタビュー連載・ブックライティングがメイン。
Twitter:@obaramitsufumi

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