旅行体験のフリーマーケット『Voyagin』が大手旅行メディアとのコラボを実現した道のり

2015.04.03 10:00

「Voyagin」は旅行体験を提供したい現地の人と旅行者をつなげるプラットフォーム。旅行者は現地の人が考案したオリジナルの旅行体験を楽しむことができ、世界中にホストが存在している。そんな「Voyagin」は、世界各地の観光情報を発信する創刊36年の旅行ガイドブック「地球の歩き方」とコラボレーションし、訪日外国人を対象とした日本の旅行体験の販売サービス「Good Luck Trip "Experience in Japan"」を展開している。気鋭のスタートアップと大手旅行メディアとのコラボはいかに実現されたか。Creww株式会社の石井こずえがコラボの裏側を取材した。


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写真右が「Voyagin」CEO高橋理志氏。写真左が「地球の歩き方」弓削貴久氏。


「Good Luck Trip」はダイヤモンド・ビッグ社・地球の歩き方が発行する訪日外国人向けのフリーマガジン。日本を旅する魅力を世界に向けて発信している。今回のコラボでは、ただ情報を発信するだけでなく「Good Luck Trip」が取材した先で提供できる旅行体験を「Voyagin」を通じて販売しており、読者を来日へのアクションに繋げやすいように設計されている。「Good Luck Trip」は「Voyagin」にコンテンツの提供、「Voyagin」は「Good Luck Trip」に販売プラットフォームを提供し、共同でインバウンド観光事業を行う座組みとなっている。2020年の東京オリンピックのムードも追い風に、成長が期待できる分野だ。


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「Voyagin」上で13,100JPY(円)で販売されている日本庭園での茶会体験。その他にも、スタイル同伴の東京買い物巡りや、多摩川上流のトレッキングツアーなどがある。「Good Luck Trip」で掲載されたコンテンツの体験ができる。


■なんでもやるという覚悟でまずはトライしてみる。事業の勘所の探索や、付き合い方のノウハウを得るきっかけに。


「Voyagin」が「地球の歩き方」とのコラボを行ったきっかけはCrewwだった。Crewwは1600のスタートアップが登録するコミュニティサービス。Crewwでは、大手企業が登録するスタートアップに対して、自社とのコラボ案の募集を行っている。「地球の歩き方」は協業案を海外旅行というテーマを置きつつも幅広くでスタートアップに募集していた。エンターテインメント・キック株式会社(Voyagin) CEOの高橋理志(たかはし まさし)氏はその時のことを次のように語る。


高橋:「地球の歩き方」のコラボの募集を見かけたのは、僕がまだ会社を作って間もない頃でした。大きい会社とのプロジェクトの進め方も学びたいとも思っていたし、自分達と事業シナジーがありそうな旅行系だったので、超本気でコラボを実現させようとしていました。ちょうど弓削さん達が訪日外国人を対象としたインバウンド事業に力を入れようとしていたこともあり、僕らが展開している事業の延長線上にあるものだったので、コラボを推進していくことになりました。


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「Voyagin」は東京や香港、ホーチミンなど現地の人が考えたオリジナルのツアーや旅行体験を提供している。


若いステージのスタートアップは既存事業に全勢力を注いでおり、協業のために別のサービスを開発するなどに時間を割くことは本末転倒になりかねない。協業のためのリソースをどのように捻出したのか。


高橋: 結果的には、「Voyagin」のプラットフォームに「Good Luck Trip」の取材先を掲載するということだったので、本業上でのコラボレーションなり、リソースの配分という意味では困ったことはありませんでした。しかし、仮に違う形でのコラボレーションでなったとしても、ある程度リソースを割いても良いのではないかと思います。ほとんどのスタートアップは既存の事業を運用している中でも「何が正しいのか」を常に探している状態です。正しいことを探す過程の中で、大手企業と一緒に新しいものを作ってみる価値はあると思います。


この手の話に出てくるのが、「スタートアップが大手企業のイノベーションの下請けとしていいように使われるだけなのではないか」、「両社はあくまで対等関係」という議論だ。 そこに対して高橋氏は現実的な意見を述べる。


高橋: 僕は大手企業と提携する時は、スタートアップは下請けでもいいという覚悟を持って臨むべきだと思います。 本業がしっかりしていくまでは大企業と一緒に成長していくという選択肢はアリです。今回は結果的には下請けにはなってませんけど、そもそも無名や実績の無いスタートアップを信頼してくれというのは難しい話だと思います。いい話があるのであれば、小さなことからでもまずはやってみて、信頼を築き、仕事の仕方を学んでいく。それが若いスタートアップが大手企業の付き合っていくための正しい考え方だと思います。


■提携先との信頼関係をいかにして構築するか。


高橋氏が「地球の歩き方」との協業を通じて学んだ大手企業との上手な付き合い方とは何だろうか。それは「信頼の築き方」とも言い換えることができそうだ。


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高橋: そもそも大手企業とスタートアップではパワーバランスが違います。スタートアップに"乗っていただている"状態です。協業において必要なものは全部こっちで準備をして、先方には気持ちよく乗っていただくことが大事です。また、大手企業の担当者の不安もしっかりと取り除く必要もあります。「Voyagin」の場合、現地ガイドの質はどう担保されているか、旅行者にトラブルがあったらどう対応するか、などをしっかりとご説明して、納得いただきました。それが私たちと組んでいただくという英断につながったのだと思います。


■事業シナジー以外に、会社としての信用力の向上も。


細かな配慮によって実現した「Good Luck Trip "Experience in Japan"」であるが、実際に大手組んで「Voyagin」はどのようなメリットを享受できたか。


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取材後、その場で弓削氏とのディスカッションが開始された。


高橋: 「Good Luck Trip」のコンテンツ20~30をVoyagin上に掲載できたのはとても大きかったです。僕らが持っていないようなコンテンツをたくさん持っていたので、たとえば奈良の酒蔵や河童橋の居酒屋を体験できる旅など、すごくバラエティが増えましたね。あとは、弊社の他社へのプレゼン資料に、「地球の歩き方」さんとの事例も実績として掲載できるようになったので、会社としての信頼度も向上したと思います。EXITのことは現段階としては意識していません。もっと遅いステージになったら話は違うかもしれませんが、自分達の得意不得意をしっかりとまずは理解して、欲しいものを持っているところと組むという考え方でいい。


アーリー~ミドルステージのスタートアップは大手企業とどのように付き合うべきかというヒントが随所に見受けられた。なんでもするという覚悟をもって、小さなコラボからを行い、成長の方向性の模索、仕事のノウハウの獲得、信用力の向上のために活用するという考え方。2020年のオリンピックに向けてさらに、訪日外国人を対象とした産業の盛り上がりが予測できる。取材は終わったその場で高橋氏と弓削氏は次の施策に向けてのディスカッションをはじめていた。今後の展開がさらに楽しみだ。


(インタビュー:Creww株式会社 石井こずえ、構成:石塚たけろう)

石塚たけろう:ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、大手企業とスタートアップ共同の事業開発やジョイントベンチャー設立の支援を行う。フロントエンドエンジニア。


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