「VR元年」から「VR新時代」へ--業界トップランナーによる2016年総括と2017年の展望

2017.01.14 21:45

2016年はPlayStation®VR、Oculus Rift、HTC Viveなど様々なVRデバイスが登場し、「VR元年」と様々なメディアで語られた。そんな昨年末、国内外のVR最新情報を発信する「Mogura VR」と新しい東京をつくるビジネスプラットフォーム「HIP」の共催により、2016年の総括と2017年以後のVRの展望を占うイベントが行われた。「PlayStation®VR」の開発キーマンの吉田修平氏、「VR ZONE」仕掛け人の田宮幸春氏、「ハコスコ」代表・藤井直敬氏、『VRビジネスの衝撃』などの著書で知られるよむネコ代表・新清士氏が登壇。『Mogura VR』編集長・久保田瞬氏がモデレーターを務めたディスカッションのダイジェストと、イベント終了後に登壇者に行った個別インタビューをお届けする。

2016年は「ハコスコ」や「Google Cardboard」といったローエンドデバイスに加え、「Oculus Rift」や「HTC Vive」といったハイエンドデバイスが発売されたことで消費者のVRに対する関心が一気に高まった年になった。その中でも一際注目度が高かったのが、10月にようやく発売となった「PlayStation®VR」(PS VR)だろう。 これまでは10万円以上だったハイエンドユーザー向けのVRが、その半額程度という価格で実現し、発売からすぐに売り切れ、予約待ちとなった。

一方で、Googleが発表した「Daydream」といったスマホVRプラットフォームや、半年間限定ながら大盛況を博したVRエンターテインメント研究施設「VR ZONE」などデバイス以外でもVRの裾野が広がる動きが多くみられた。

VR元年を締めくくる昨年末、VR界を牽引するトップランナーたちがその未来について語り合ったディスカッションをダイジェストでお送りする。

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昨年末、虎ノ門ヒルズで行われた『HIP』と『Mogura VR』共催によるイベント「VR元年に何が起こったのか?」2016年のVR業界を総括的検証

■各者が振り返る「2016 VR元年」

ハードデバイスを開発する事業者、VRエンターテインメント研究施設の仕掛け人、ジャーナリスト、VRメディア編集長という様々な立場でVR業界の発展にコミットする登壇者たちによるディスカッション。まずは個々の立場で2016年を振り返ったときに、得られた感触、今後の課題はいかなるものだったのだろうか。

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新清士氏(株式会社よむネコ代表)
1970年生まれ。Oculus Touchに合わせて発売したVR脱出ゲーム「エニグマスフィア~透明球の謎」の開発会社のよむネコ代表。また、Tokyo VR Startups取締役、デジタルハリウッド大学大学院准教授、ジャーナリスト。5月に発売した『VRビジネスの衝撃 「仮想世界」が巨大マネーを生む』(NHK出版新書)を発売し、Amazonの「IT」部門で1位を獲得するなどの大きな反響を得ている。

新:
1年前はOculusとVive、PS VRの三つのハードにすべてフォーマットが収斂していくと思い描いていました。ところがARといった方式が出てきたり、同時にMicrosoftがVRに参入したり、中国からも様々なVRが登場したことで独占的な状況にはなりませんでした。コンテンツを作る側からすると少々大変なのですが、これが現在の市場の状態だと思います。
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吉田修平氏(ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント)
1993年に旧ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)設立メンバーとして参加。以降、「プレイステーション」プラットフォーム向けに発売された数々のソフトウェアタイトルをプロデュース、2000年にアメリカへ赴任後、ゲーム制作部門を担当。2008年5月、ゲーム制作部門であるSCE (現SIE)ワールドワイド・スタジオ プレジデントに就任、代表的な制作担当作品は、「ゴッド・オブ・ウォー」、「アンチャーテッド」各シリーズなど。 2016年10月に発売したバーチャルリアリティシステム「PlayStation®VR(プレイステーション ヴィーアール)」の開発メンバーの一人。

吉田:
「PlayStation®VR」はおかげさまで予想をはるかに越えた結果となっています。当初は2016年の上半期に発売する予定でしたが、増えている需要に応えられないことを考えて、10月に延期することになりました。それでもまだまだ足りない状態で、いま一生懸命製造を増やそうとしているところです。

スマートフォンを使ったボトムエンドデバイス「ハコスコ」。VRプロモーションという形で、順調に事業は推移しているという。(SENSORSでも二年前の時点で藤井氏にインタビューを実施した:「VRの主戦場はスマートフォンへ、『ハコスコ』藤井直敬の先見」)

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藤井直敬氏(株式会社ハコスコ 代表取締役 / VRコンソーシアム代表理事)
東北大学医学部卒業後、同大大学院で博士号取得。1998年よりMIT、McGovern Instituteにて研究員。理化学研究所脳科学総合研究センター象徴概念発達研究チーム副チームリーダーを経て、2008年より同センター適応知性研究チーム・チームリーダー。主要研究テーマは、適応知性および社会的脳機能解明。

藤井:
現在、3期目の半期が終わったところで、2年半やってきました。初年度から一年で売上が倍になり、今年の半期で去年の倍以上になっています。このままいけば、去年比で4倍になる見込みです。ハイエンドですごくいいコンテンツを楽しみたいという需要もあれば、VRを全然知らない人たちに向かってとりあえず最初の一歩を踏み出してほしいというアプローチもあります。幸い、スマートフォンというVRの入り口に立つための最低限の機能を持ったデバイスはみんな持っているので、そこでハコスコが使われているというわけです。

昨年4月から10月まで約半年、お台場で運営されたVRエンターテインメント研究施設「VR ZONE」。一人3,000円という値段にも関わらず、累計3万7,000人の来場があったのだとか。

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田宮幸春氏(株式会社バンダイナムコエンターテインメント AM事業部 VR部VRコンテンツ開発課 マネージャー)
東京大学工学系研究科にてロボット工学を研究し、1998年にナムコ(現バンダイナムコエ ンターテインメント)入社。以降企画開発担当として「ドラゴンクロニクルシリーズ」や 「ドラゴンボールZENKAIシリーズ」など業務用ゲーム機を中心に手がけながら、家庭用ゲームソフト、ネットワークコンテンツまで、幅広く携わる。中でも新規企画のコンセプト立案に参画することが多く、2015年からはVR技術でエンターテインメントの未体験領域を開拓するプロジェクト「Project i Can」にて各VRアクティビティのディレクションを担当し「タミヤ室長」として活躍中。

田宮:
計画していた当初は、比較的高い有料の施設でどれほど集客できるか全く想像がつきませんでした。内心不安だらけでスタートしたわけですが、結果として最後の最後まですべて予約満員で突っ走ることができました。その意味で、想定以上の反応をしていただくことができましたね。

■︎VRがなくてはならないものになるのは2020年?

︎前段の議論として、各者が手応えをつかむことができたという総じてポジティブな2016年の振り返りだった。さらにVRが一般消費者の間に普及し、日常生活に浸透するまでにはどのようなプロセスが考えられるのだろうか。

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モデレーター 久保田瞬氏(株式会社Mogura代表取締役/Mogura VR編集長) (左)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、環境省に入省。環境白書の作成等に携わる。ECベンチャー勤務を経て、現職。現実を進化させることができるVRに無限の可能性を感じ、身も心も捧げている。これまでに体験したVRコンテンツは展示、配信合わせて500作品以上。VR業界の情報集約と提供、コンサルティングに強みがある。また、海外の主要なVRイベントでは必ず現地に足を運び、取材やネットワーク構築を行っている。

久保田:
将来的にVRはどのように普及していくと思われますか?VRが「あたり前なもの」になるかどうかという点をうかがわせてください。
田宮:
VR機器やコンテンツは普及していくと思います。施設業の立場としては、非日常の場所を作ることでお客さんに来ていただくことになります。手段としてVRを使いたいと思っているので、手段としてのVRは当たり前になると思います。一方で、そこで展開されるエンターテインメントや体験は当たり前ではない形で、もっと面白くできてくるという意味で、我々は当たり前ではないコンテンツを常に作っていくことになります。
吉田:
生活の様々なシーンや局面で、ツールとして普通に使われるようになると思っています。それがVRという意識がなかったとしても、役所やお店に行ったりしている間に、知らず知らずのうちに使いましたという形になっていくのではないでしょうか。ARやMRなど現実に様々なものを投影するタイプのものが入ってくることで、こうした流れはより顕著になるかもしれません。
藤井:
空間を拡張する技術として、様々なところに溶け込んでいくでしょうね。
新:
正直にいうと、VRは非線形的なジャンプですので、「予想ができる」といえば嘘になります。「スマートフォンを持ち歩いて、日常的にニュースを読むようになる」と予想できたと思う方がいらっしゃるかもしれませんが、それは後付けのバイアスに過ぎません。でも技術としては、どんどん安価になっていき、手元で簡単にアクセスできるようになっていくと、様々な形で日常に入っていくのは間違いないかと思います。ただし、それがどういう形で入るのかということを正確に予測することはできないということです。

■VR体験の認知が広がった2016年は間違いなく重要な年

セッション終了後、SENSORSでは独自に吉田修平氏、新清士氏、久保田瞬氏の三名に個別インタビューを行った。

--「VR元年」振り返っていかがでしたか。

吉田:
「VR元年」と期待された一年に、何年も頑張って準備を進めてきた「PlayStation®VR」を発売することができました。コンテンツについても、発売日に水口哲也さんの『Rez Infinite』やバンダイナムコさんの『サマーレッスン』など、たくさんのVRの特徴を活かしたゲームコンテンツを最初から用意いただきました。我々だけで考えてもいい年でしたし、業界全体でみても「VR ZONE」をはじめ、様々な形でVRをより多くの人に体験できる機会が多かったのではないでしょうか。
新:
一般に発売されているハードが揃ったという意味でものすごく大きなインパクトを持った年だったと思います。一方で、Oculusなどが販売上、製造の問題を抱えていたことも影響し、予想に比べると少し販売のペースは伸びませんでした。「PS VR」も同様で、逆に生産が足りなくてなかなか手に入らなかったという意味では、期待していた膨らみに対して思ったよりもスタート数が小さかったという気がします。一方でこれはネガティブな意味ではなく、世の中の期待の高さの表れでもあります。VR体験自体が認知され、それを欲しがっている人が沢山いるということが改めて証明されたということです。「VR元年」が次へとつながっていく大きな流れになる、重要な年だったと言えると思います。
久保田:
『Mogura VR』は2015年2月にスタートしました。VR自体に注目し始めたのは2014年の4月頃なのですが、そのときと比べると明らかにすべてが変わったという印象を受けています。デバイス性能が上がり、体験自体が全く違うものになりましたし、メディアの立場では、1年前は1日1本でネタを探すのも大変だったくらいのが今では1日に10〜15件くらいのニュースやインタビューが組まれ、事例の紹介をはじめVRに関するあらゆる情報が増えています。

■2017年はハード以外の面に注目が集まる

--2017年のVRの展望を教えてください。

吉田:
VRのコンテンツの年になると思います。VR元年は家庭用向けにハイクオリティな体験ができるシステムが、初めて一般の方の手に届くような価格で発売された年でした。こうした機器が世の中に普及していく中で、コンテンツを作る方々がそこでビジネスにチャレンジできる年になるのが2017年ですね。
新:
ハードの生産が安定してきて値段も下がり始めるので、ハードが供給されていくし、ソフトウェアに目が向けられるようになるでしょう。どういったアプリを提供していき、それを使うことで便利になる、有利になるということが注目される年に変わっていくのではないでしょうか。
久保田:
VRに何ができるかであったり、活用事例がどんどん増えていくはずです。そこが2016年と一番違うところだと思います。2017年はデバイスの話題よりも、実際にそれを使ってそれを楽しむかであったり、口コミで広めていくのかどうかといったあたりが成果として出てくるのではないでしょうか。

--「VR×◯◯」で面白い動きはありますか?

久保田:
:建築であったり、医療、教育あたりでしょう。こうした分野はもともと3Dのデータを持っている業界だからです。建築業界であれば設計図を描いて、そこからソフトを使って建物の図を3Dデータで作ります。医療ではCTスキャンで人体の3Dデータがあります。教育も教育教材として様々な映像を3Dで作っています。もともとある3Dデータを平面でみるのではなく、その中に入っていく。例えば、象であれば象を見上げるのが強烈な体験になります。3Dデータを持っていればすぐにVRに転用できる分野から徐々に活用され始めています。
新:
エンターテインメント、特にゲームが中心を占めるのは間違いないです。各プラットフォームがなぜゲームを中心にビジネスをしようとしているかといえば、新しい体験を求めてゲームユーザーが、歴史的に一番新しいテクノロジーに比較的高いお金を払うという習慣を持っているからです。次の段階に一般に広まっていき、価格が安くなるというプロセスを繰り返してきています。

そのあとに付随する形でBtoBのビジネスが登場し始めてきます。久保田さんがおっしゃられた建築はその顕著な例です。次に放送が挙げられます。VRは圧倒的な臨場感があるために、例えば何か大きな事件があったときはVR空間の映像でみたほうが事件を強烈に感じることができます。すでにリオオリンピックではBBCやサムスンを中心にオリンピックの番組が流れたのですが、それでみるとそこにいるかのように感じられます。アメリカの企業はテレビ局に対して、新しい技術としてVRに投資をしています。この流れは日本でも同様に起こりつつあり、2020年のオリンピックまでを一つのキーとして動き続けるだろうと思っています。こうした意味で、予想できない以上に産業の広がりがあるということが今回のVRの新しい理由です。

最後に新氏から気になるキーワードが出たので紹介したい。デバイスの浸透を規定するかもしれない、グローバルプラットフォームの動きに注目する必要がありそうだ。

新:
現状、VRのアプリケーションを作るのはかなり面倒です。GoogleとFacebookが競争関係に入っているのは、WebブラウザをVRで起用できるようにしようとしている点です。例えば、かつてブログはHTMLを手で打ったりものすごく面倒だったのが、今ではブログパーツを適当に選べばブログになります。これと同じくらい簡単な感覚で、VRのコンテンツを作れる状況が始まるでしょう。簡易的に自分の写真をシェアするのにVRを使うことが簡単になるんです。だとすれば、ハイエンドのものではなく、ローエンドでそれを簡単にみるという環境が生まれてくるということが予見されます。「Web VR」は2016年の秋くらいから注目を浴び始めましたが、GoogleもFacebookもそれぞれに対応したサービスの準備を始めています。おそらく日本でも注目され始めると思います。

これまでのテクノロジー、ゲーム史のパターンから推論するに、「PlayStation®VR」の登場は間違いなくハードからソフトへの分水嶺となるだろう。最後に新氏が言及した「Web VR」のように、コア技術、コンセプトの主軸を「VR」に置きながら、ハード/ソフトに限らず、あらゆる経路からVRが生活に浸透していくことになるだろう。

構成:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。リクルートホールディングスを経て、独立。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集/ライティング。『PLANETS』や『HIP』では構成を行う。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。修士(学際情報学)。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

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