「個人の創造力」がバーチャルYouTuberの多様化を進めるーーVRジャーナリストがVTuber最新動向を解説

2018.06.14 18:00

Facebook傘下で開発されたヘッドセット「Oculus Go」を筆頭に、全世界的な盛り上がりを見せるVRシーン。世界的トレンドの中、日本では"バーチャルYouTuber"が独自の発展を遂げている。

バーチャルYouTuberとは、3DCGで合成された2次元キャラクターがYouTubeでチャンネル放送を行なっているもの。人間が声を吹き込んでいたり、実際の人間の挙動をカメラで撮った素材をもとに身体の動きが生成されている2次元キャラクターもあり、非常にリアルである。

本記事では、バーチャルYouTuberの最新動向をリポートする。バーチャルYouTuberが誕生した経緯から、実際にバーチャルYouTuberになるための方法までリサーチを行なった。

バーチャルYouTuberシーンは、モーションキャプチャ技術などテクノロジーの発展により参入コストが下がり、"攻めた"企画が実現しやすい環境になりつつある。このリポートを通じて、新たなエンターテイメントの可能性について探求していきたい。

バーチャルYouTuberをはじめとしたVR事情に精通している、VRジャーナリストの広田稔氏からのコメントもいただいた。

2016年以降、水面下で活動を続けてきたバーチャルYouTuber

2018年になってはじめてバーチャルYouTuberを知った方も多いだろう。Googleトレンドで調査すると、昨年末から年初にかけて急激に検索回数が増えていることがわかる。

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突如として発生した現象かのように見えるバーチャルYouTuberだが、実は2016年頃から水面下で脈々と育ってきたカルチャーだ。

2016年11月、バーチャルYouTuber界のトップをひた走る"親分"ことキズナアイが活動を開始。バーチャルYouTuber第一号が誕生した瞬間だ。

以降1年以上かけて、水面下で徐々にバーチャルYouTuberカルチャーが醸成されていく。2018年に差し掛かる前後から一気にメジャー化し、メディアや企業、さらには政府にまで脚光を浴びるようになった。

パイオニアかつトップランナー、"親分"キズナアイの独壇場



バーチャルYouTuberのパイオニアかつトップランナーは、"親分"こと「キズナアイ」。"バーチャルYouTuber"と初めて自称したキャラクターで、ハイクオリティなデザイン・音声に、畳み掛けるように喋り倒す濃いキャラクター性が特徴的だ。

2016年11月の活動開始後、突出して業界のトップをひた走り続けている。2018年5月現在、本アカウントとゲーム専用アカウントを合わせると250万人ものファンを擁し、総再生回数は1.5億回を超える

最近ではYouTubeの外にも活動範囲を広げている。2018年3月には六本木でリアルイベント「A.I.Channel Fan Event 2018」を開催、2018年4月からはBS日テレで冠TV番組『キズナアイのBEATスクランブル』がスタートするなど、その勢いは止まる所を知らない。

社会現象化した人気ぶりには政府も注目しており、2018年3月には日本政府観光局(JNTO)ニューヨーク事務所がキズナアイを訪日観光大使に起用。日本観光プロモーションサイト「Come to JAPAN」を開設し、日本のカルチャーに関心の強いアメリカのミレニアル世代へのアプローチを推進している。

バーチャルYouTuberをはじめとしたVR事情に精通しているVRジャーナリストの広田稔氏は、キズナアイについて以下のようにコメントしている。

「キズナアイは、世界にバーチャルYouTuberという存在を広めた先駆者です。彼女の影響で活動をはじめたバーチャルYouTuberも多く、非常に影響力の強い存在。訪日促進大使に選ばれたり、ライブで小林幸子さんと共演するなど、バーチャルタレントとしての活動の場も日々広がっています。」

キズナアイ以外も人気アカウント多数。バーチャルYouTuberは群雄割拠の時代に。



最近はキズナアイの他にも注目すべきバーチャルYouTuberが続々と出てきており、群雄割拠の様相を呈している。特に人気を博しているのが、王・キズナアイに続いて確固たる地位を築いている"四天王"ーー「輝夜月(かぐや るな)」「ミライアカリ」「シロ」「ねこます氏」だ。

輝夜月は、キズナアイに負けず劣らずの濃いキャラクター性で人気を博している。首を絞められたハムスターを連想するか細い声で、酩酊しているかのような浮遊感のある喋り方をするため、"首絞めハム太郎"、"見るストロングゼロ"などの異名を持つ。また、キズナアイの後続として2017年6月から活動しているシロ、初音ミクのデザイナー・KEI氏がデザインを手がけたミライアカリも、輝夜月に迫る人気ぶりだ。

四天王の中でも異彩を放っているのが、"バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん"ことねこます氏。おじさんという名称のとおり、声は男性だ。金髪の美少女キャラクターが、成人男性の声で丁寧に語りかけている様子はかなり印象的である。

四天王以外にも、多数の魅力的なキャラクターが現れている。ねこます氏と同じ男性キャラクターだと、筋骨隆々としたシルエットで角刈りの源元気が人気だ。気味が悪いほどハイクオリティなCGに宇宙人のような奇怪なシルエットのミソシタ、音声認識ゆえのたどたどしい誤変換が人気ののらきゃっとなど、個性的なプレイヤーが次々と頭角を現している。

広田氏は、こうした群雄割拠的な状況について以下のように分析する。

「アイドルには、バラエティアイドルやグラビアアイドルなど数多くのジャンルが存在しますが、バーチャルYouTuberの多角化もそれと同じです。ユーザーの興味・関心にあわせて多様な切り口でのキャラクターが出現しつつあります。」

またYouTuber同様に、"事務所化"も進行しているという。

「プレイヤー単位でなく、所属事務所という"箱"単位でファンがつく時代へとシフトしています。ENTUM.LIVEにじさんじホロライブなど、バーチャルYouTuber事務所の影響力がが高まっているのです。」

2022年には300億円規模に。バーチャルYouTuber市場への投資も加速

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YouTuber界におけるバーチャルYouTuberの存在感も高まっている。2018年1月、株式会社エビリーは、自社で独自に保有するデータをもとに「2018年にブレイクするYouTuber予想ランキングトップ20」を発表。同ランキングでは、トップ10のうち半数をバーチャルYouTuberが占めていた。

同ランキングと、2022年に国内YouTuber市場が579億円規模に達すると予測した調査をもとに考えると、バーチャルYouTuber市場はその半数の300億円規模に成長するポテンシャルを秘めているといえる。総務省の報告によると、2015年のインターネット上のオリジナル映像コンテンツの国内市場規模が2,104億円なので、バーチャルYouTuber市場が300億円規模まで成長することのインパクトは想像に難くない。

こうした市場規模の拡大を受け、2018年4月には、グリーが総額40億円のバーチャルYouTuber支援ファンド、サイバーエージェントがバーチャルYouTuberに特化したプロダクションを設立。バーチャルYouTuber市場への投資は加速している。

観るだけではなく演じる楽しみも味わえる。バーチャルYouTuberになる方法とは

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視聴するだけではなく、自身がバーチャルYouTuberとして演じる楽しみも比較的簡単に味わえる。なぜなら制作支援ツールが多数存在しているため、開発リテラシーがそこまで高くなくてもプレイヤーになれるからだ。

バーチャルYouTuberになるためには、キャラクターの声・表情・挙動という要素が必要だ。実現のための方法・ツールは多種多様で、コストも全く異なるので、開発者コミュニティでは日々試行錯誤が繰り広げられている。

まず声だが、実は本記事で紹介した人気バーチャルYouTuberのほとんどは、声優を起用している。ただ、ヒトの声を使わずにバーチャルYouTuberになる方法もある。タイピング音声を喋ってもらう「ゆっくりMovie Maker」のようなツールもあるし、音声認識技術を活用することもできる。ただ音声認識については、開発者コミュニティではトライされているが、のらきゃっとのようにまだまだ誤認識が多いのが現状だ。

表情については、Face Rigなどのソフトを使えば、Webカメラでヒトの顔の表情の動きを読み取って、そのまま2次元キャラクターに反映してくれる。これを使えば、自分の表情をそのままキャラクターに埋め込める。

ヒトの挙動をそのままキャラクターに移植できるツールも現れている。VRゴーグルとハンドコントローラーによって挙動をキャラクターに反映できるバーチャルキャストが代表例だ。ドワンゴとインフィニットループが共同開発したもので、他のバーチャルYouTuberの配信にも参加できる。

制作支援ツールが充実している状況について、広田氏は「非常に望ましい状況」と評価している。

「特に個人のバーチャルYouTuberの増加が後押しされることを期待します。ウェブカメラさえあれば簡単にニコニコ動画の"生主"やYouTuberになれたのと同じように、VRゴーグルなどモーションキャプチャ機器を買うだけで簡単にバーチャルYouTuberになれる時代が来るはずです。

また現状はモーションキャプチャツールと配信支援ツールが主流ですが、今後はMiiやアメーバピグのようにパーツを組み合わせて好みのキャラが作れるモデリングツールが求められることでしょう。」

今後はキャラクターの多角化が進展。制作コストが低下し、より"攻めた"企画が実現可能に

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今後のバーチャルYouTuber業界について、広田氏は「キャラクターの種類の多角化」が進むと展望。

「いまバーチャルYouTuberムーブメントが起きているのは、制作コスト低下によるところが大きい。モーションキャプチャ技術が低価格化し、もともとテレビ番組制作やゲーム制作なみの機材費が必要だったのが、数万円〜20万円程度の機材で制作できるようになったんです。もちろんCGや番組の制作費は別途かかりますが、機材費だけみると大幅にコストが下がっています。

その結果、より攻めた企画を実現しやすい環境になりつつあります。今後はいま主流の美少女キャラクター以外にも、ご当地キャラ・ゆるキャラなど続々と多様なキャラクターが出現する可能性が高いです。

子供向けのキャラクターもバーチャルYouTuberと親和性が高いでしょう。子供たちはみんな、タブレットやスマホでYouTuberの番組を食い入るように観ているので。

バーチャルタレントとしてのニーズも高まっているので、芸能人のようにモデル・芸人・アナウンサー・リポーター・コメンテーター・知識人・歌手・ダンサーといった役割のキャラクターも現れるはずです。」 


バーチャルYouTuberは、テレビ番組やゲームといった従来のエンターテイメントの枠を軽々と飛び越える可能性を秘めている。エンターテイメントに地殻変動が起こるのは、飛び抜けた才能を持つクリエイターが出現したときだけではない。バーチャルYouTuberのように、最新テクノロジーの登場で、個々人のクリエイターの表現の幅が爆発的に広がるケースもあるのだ。

img:kizunaai.com,Google Trends,Pixabay,Virtual Cast,Pixabay

構成:小池真幸

93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。
Twitter:@masakik512

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