体験だけが、自分を変える。"Want to"の人生を歩むために必要な「出会い」とは?--小橋賢児×草野絵美 #EmisSensor

2018.06.20 10:00

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SENSORS MC草野絵美が、今をときめく気鋭のクリエイターピックアップし、インスピレーションの源泉を紐解いていく新連載「#EmisSensor」。第一回のゲストは、日本最大級の都市型ダンスミュージック・フェス「ULTRA JAPAN」の日本上陸の立役者であり、未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」等のイベントを手掛ける小橋賢児氏だ。

ULTRA JAPANが日本で実現した背景には、小橋氏の原体験による「"Have to"より、"Want to"の人生を歩みたい」という想いがある。

「自分に嘘をついていた」俳優時代のエピソードから、人々の想像を超えるクリエイションを生み出す"逆転思考"まで、小橋氏のインスピレーションの源泉を紐解いていく。

"俳優・小橋賢児"の人生を変えた、アメリカ旅行とULTRAとの出会い

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リアル株式会社 代表取締役 小橋賢児氏

草野絵美(以下、草野):
これまで会社員をしながら歌謡エレクトロユニット『Satellite Young』として活動していたのですが、27歳のときに独立しました。小橋さんも27歳で俳優業を辞められたとお伺いしていて、「27歳」は人生の"転機の歳"なのではないかと思ったんです。
小橋賢児(以下、小橋):
若い頃から「男は30歳が勝負だ」と思っていた記憶があります。なので、27歳の頃は「そろそろ動き出さないといけない」と、無意識に思っていたかもしれません。

芸能界でお仕事をしているうちに「周囲から見た自分」を気にするようになり、「小橋賢児はこうあらなければならない」と、自分の心の欲求に従って生きることができなくなっていたのです。自分に嘘をつく人生を続け、気づけば30歳が目の前に迫っているーー。逃げ出すように、俳優を辞めてしまいました。
草野:
現状を打破したかったんですね。そこから、イベントプロデュースの道に進まれたのですか?
小橋:
いえ、まずは語学留学を目的にアメリカへ行きました。その際に、二つの目標を定めたんです。一つが「アメリカ人と英語で喧嘩ができるくらいの英語力を身に付けること」、二つ目が「アメリカを横断すること」です。
草野:
「英語で喧嘩をする」のは、ハードルの高いことですね。どちらも達成されたのでしょうか?
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小橋:
アメリカ人の友人ができ、彼とアメリカ横断を行いました。毎日一緒にいますから、喧嘩もします。その際は英語でしたね。なので、アメリカ横断が終わると同時に、二つの目標を達成できました。

また、横断旅行のゴールがマイアミだったのですが、そこで偶然DJをしていた友人に出会ったんです。彼がいうには、「ULTRAという大きなフェスが開催されているから、行ってみなよ」と。ULTRAに参加するのは初めてのことで、全身の毛穴が開くような体験をしました。

この体験が、ULTRA JAPANのクリエイティブ・ディレクターを務める最初のきっかけです。

"Have to"より、"Want to"の人生を。小橋賢児が届けたいのは、人生を変える「ちょっとした奇跡」

草野:
ULTRAと出会い、そこからはもうトントン拍子で...?
小橋:
それが、失敗ばかりを繰り返していました。アメリカでたくさんの人に出会い、刺激を受けていたので、自分はなんでもできると思っていたのですが、そんなことはなくて。帰国後にチャレンジをしても、全くうまくいきませんでした。

しまいには仕事を失い、お金も底をついたころで、生死の淵を彷徨うほどの病を患ってしまって。「男は30歳が勝負だ」と思っていたのですが、その節目が3ヶ月後に迫っていた頃でした。
草野:
どのようにして、現在のポジションまで登りつめたのでしょうか?
小橋:
人生のどん底で思い出したのが、「俺も若い頃は夢を持ってたんだけど、病気で諦めたんだ」という先輩の言葉です。自分は諦めるのか、それとも病気を理由にせず再び挑戦するのか、と考えました。

ただ、当時の僕には失うものすらなかったんです。迷うことなく挑戦する道を選びました。しかし、お金も全くないので、何をするにも動きようがない。そこで思いついたのが、自分のバースデーを、お金をいただけるレベルにイベント化することでした。

「もてなされるより、もてなせ」をテーマに、参加してくれた人が「お金を払う価値がある」と思えるくらいに感動するパーティを開こうと考えました。
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草野絵美

草野:
もがき苦しむなかでたどり着いたアイディアが、「イベントプロデューサー」の道につながったんですね。
小橋:
ULTRAに参加して分かったことで、音楽には"新しい人生のきっかけ"があるんです。リストラにあって落ち込んでいる人も、心が晴れ、明日からまた新しい一歩を踏み出そうと思える。"Have to"ではなく、"Want to"の人生を手に入れられるきっかけがあると思っています。

僕は、そのような「ちょっとした奇跡」を起こしたかったんです。僕自身が少しずつ変われたように、僕以外の誰かが新しい人生を歩むきっかけ作りがしたくて、その手段としてイベントをプロデュースしはじめました。

アイディアは、"違和感"によってもたらされる。伝統を進化させるイノベーション思考

草野:
今年の未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND 2018」に参加させていただいたのですが、ああいったアイディアはどのようにして着想を得られるのでしょうか?
小橋:
世の中に対する違和感から生まれることが多いです。最先端のテクノロジーとパフォーマンスを融合したエンターテイメント・STAR ISLANDのアイディアは、「伝統は守るだけでは廃れるのではないか?」という違和感から着想を得ています。
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小橋:
伝統を守るのは大事ですが、進化しないことには、その文化は廃れてしまいます。というのも、花火はかつて、大きな熱量でクリエイションしたイノベーションだったからです。過去のイノベーションを「伝統」で括り、そのまま継承するだけでは、いずれ見向きもされなくなってしまいます。

若い人からすれば、古いものを見せつけられているだけじゃないですか。つまり、文化を継承するためには、新しい才能や最先端のテクノロジーを融合して新たな文化を紡がなければいけない。変化しても、オリジナルが廃れることはないのです。
草野:
歌舞伎ファンの裾野を広げた「スーパー歌舞伎」にも、同じようなことが言えそうです。
小橋:
おっしゃる通りだと思います。昔から歌舞伎を愛している人には「けしからん」と批判的なことを言われることがあるかもしれませんが、そもそも歌舞伎はイノベーションだったはず。進化させなければ、廃れていくのは明瞭です。
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草野:
エンターテイメントの醍醐味は、時代性を反映していることにあると思います。STAR ISLANDには時代の最先端テクノロジーが駆使されていますが、小橋さん自身は「テクノロジー」をどのように解釈されているのでしょうか?
小橋:
テクノロジーの役割は「自分の感覚を呼び覚ます」ことだと思っています。STAR ISLANDにも利用した「3Dサウンド」も、そうした役割の一つです。

STAR ISLANDを共に手がけた3Dサウンドデザイナー・katsuyuki setoのスタジオを訪れたときに、真っ暗闇の中で音を聞きました。すると、暗闇なのにも関わらず目の前に映像が流れたのです。つまり3Dサウンドとは、"目に見えないものを見させる技術"なのです。

僕は、情報を手にすることではなく、それによって動き出すことの方が大事だと思っています。なので、テクノロジーは浸るものではなく、誰かが行動を起こすきっかけになることが大事だと考えているのです。
草野:
イベント当日は会場に足を運ばせていただいたのですが、慣れ親しんだ「花火」にあれほどまでに熱狂できたのは、過去にない音を感じることができたからだと思いました。私の子供は花火を見ながら「夢みたい!」と連呼していて、帰りの電車では知らない人の膝に座ってずっと仲良く会話をしていたほどです。
小橋:
嬉しいです。草野さんのお子さんがそうだったように、やはり体験しなければ得られない高揚感があると思います。情報を摂取するだけでは、行動を喚起することは難しい。デジタルが当たり前の時代だからこそ、リアルの価値が見直されているのです。

両極を知れば、本質が見える。小橋流"自我を剥ぐための逆転思考"

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小橋:
先ほどのお話に共通することで、昨年のULTRA JAPANで「体験することの価値」を再認識したことがあります。「台風が直撃するかもしれない」と予報が出ていて、人が来てくれるか不安視していたのですが、蓋を開けてみたらその日がもっとも人が入っていました。

「普段とは違う何かが起こるかもしれない」と身構えることで、それを乗り越えるためのマインドセットになるんですよ。
草野:
わざわざレインコートを着て、臨戦態勢に入っているわけですもんね。
小橋:
その光景を目の当たりにし、「FUJI ROCK FESTIVAL」が伝説的フェスになっている理由が分かったんです。フジロックは、開催初年度から雨でした。普通なら最悪なコンディションですが、その不遇を乗り越えるためのエネルギーが、今もなお続く所以だと思うのです。

参加する人も、豪雨に打たれ、化粧が取れて...そんななかで熱狂するわけです。新しい自分に出会える瞬間ですから、それは忘れられない体験になりますよね。
草野:
たしかに、アクシデントが起こると団結するので、その分印象深い思い出になることはよくありますもんね。

そうした熱狂の瞬間を体験することで人が変わっていくことが往々にしてあると思うのですが、今後何かを成し遂げようとする若者に、何かメッセージをいただけますか?
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小橋:
「何かを成し遂げたい」と思ったときこそ、"好きじゃないこと"に挑戦してみてください。僕は違和感によってアイディアや実現したいことを見いだすのですが、その違和感は、本当にフラットな状態でしか得られない感触です。

同じ視点ばかりでは、盲目的になってしまいます。両極を知るからこそ、本質が見えてくる。今、慣れ親しんでいる環境の反対側に目を向ければ、自分の感覚が研ぎ澄まされると思います。
草野:
ちなみに、今後も人々が"Want to"の人生を歩むための仕掛けを構想されていますか?
小橋:
STAR ISLANDは海外からもオファーをいただいているので、世界各地で開催して行く予定です。また7月には、プラネタリウムを絢爛な花火で染め上げる「STAR ISLAND IN PLANETARIUM」を開催します。

まだ自分が知らない内なる感覚に気づいてもらい、「もっといろんな世界が見たい」と思っていただける仕掛けを、これからもしていきたいと思っています。
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場所:コニカミノルタプラネタリウム"満天" in Sunshine City
上映期間:2018年7月6日(金)~ 2018年7月16日(月)
上映時間:21時の回にて期間限定特別上映
オフィシャルHP
https://planetarium.konicaminolta.jp/manten/program/planetarium/starisland/
■ULTRA JAPAN 2018
https://ultrajapan.com
■未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」
http://www.star-island.jp/

SENSORS MC:草野絵美

草野絵美 Sensors MC: 1990年東京出身。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス環境情報学部卒業。元広告代理店テクノロジー専門プランナー。歌謡エレクトロユニット 「Satellite Young」として活動中。再構築された80'sサウンドに、ポストインターネット世代の違和感をのせて現代社会を歌う。スウェーデン発のアニメ『Senpai Club』の主題歌提供、米国インディーレーベル「New Retro Wave」からのリリースにより、欧米を中心にファンを増やし、2017年には「South by South West」に出演。
Twitter:@emikusano

写真・構成:オバラミツフミ

1994年、秋田県出身。2016年からフリーランス。各種メディアでのインタビュー連載・ブックライティングがメイン。
Twitter:@obaramitsufumi

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