"香港生まれ・インターネット育ち" 綿めぐみ--「音楽業界のIDEOを目指す」レーベル・Tokyo Recordingsが送り出す新星

2016.02.18 16:45

綿めぐみさん

「大体汗水たらして エルメスなんて もう幻想でしょ」そんなキラーフレーズで、早耳の音楽ファンを虜にした楽曲「災難だわ」から1年7ヶ月。綿めぐみ初の全国流通盤『ブラインドマン』が2月2日に発売された。

「音楽業界でIDEOのような立ち回りをしたい」と語る、平成生まれだけで結成された新進気鋭の音楽レーベル・Tokyo Recordings。既存の音楽産業のリフレーミングを目指し、2chまとめサイト風歌詞サイト日本初の簡易VRミュージックビデオなどユニークなプロモーション方法を取ることで知られているレーベルで、水曜日のカンパネラの「ナポレオン」を手掛けたことでも知られ、東京で今最も注目されているレーベルのひとつ。

そのTokyo Recordingsが、「香港生まれ・インターネット育ち」「アニメ・漫画が大好き」という謎多き美少女・綿めぐみ『ブラインドマン』を世に送り出した。綿めぐみの楽曲では主に、Tokyo Recordingsの小袋成彬が作詞を担当し、酒本信太が作曲を担当している。綿めぐみとTokyo Recordingsはどのように出会い、そしてタッグを組むようになったのだろうか。

■いきなりカラオケに行くことになり、アニメの曲をいっぱい歌った

ーーまず、綿めぐみさんとTokyo Recordingsの出会いを教えてください。

綿:
小袋さんが当時女性シンガーを探していたみたいで、共通の知人を通じて知り合いました。確かまだTokyo Recordingsという名前すら決まっていなかった立ち上げ期でした。そこで、「とりあえずカラオケに行ってみよう」という話になりました。カラオケでは、私はアニメの曲しかわからないので、アニメの曲をいっぱい歌っていたんです。

私、アニメの曲を歌う時は今歌っているような楽曲とは違うアニメ系の声なんですよ。なので、新しい声質を出せないかと言われて、いきなり聴いたことなかった相対性理論の曲を入れられてしまって(笑)、なんとなくで歌ってみたんですが最後は小袋さんが歌ってました(笑)。

ーーでは、もともとミュージシャンを目指していたわけではないんですね。

綿:
実は最初、このプロジェクトは期間限定だと思っていたんです。なので、あんまり深くは考えていなかったんですね。

ーーTokyo Recordingsの皆さんの当時の印象はいかがでしたか?

綿:
怪しい男のひと二人がいきなり来たと思いました(笑)。お互いのこともよく知らず、いきなり音楽活動を一緒にすることになったので、最初は不安しかなかったです!

ーー今はどういった印象を持たれていますか?

綿:
Tokyo Recordingsの皆さんって、音楽オタクなんですよ。自分の好きなものを追求している姿がキラキラしていて、良いなと思っています。

■生まれた時からアニメ・漫画が大好き

生まれた時からのアニメ・漫画好き。初恋の男性は『るろうに剣心』の緋村剣心さんと語る、綿めぐみさん。アニメ・漫画を通じてインターネットの世界に没頭していった、綿めぐみさんにとって、インターネットはどういうものだったのか。

綿:
私が唯一生きていける場所でしたね。リアルの次元では色々と諦めていたので(笑)。当時はmixiでオフ会が毎週のようにあって、それに参加していました。

そんな綿めぐみさんのTwitterはアニメの実況とアルバムの告知ツイートが入り混じり、カオスなことになっている。アニメ・漫画好きの綿めぐみと、アーティストとしての綿めぐみをどう捉えて、使い分けているのだろうか。

綿:
Twitterではアニメ・漫画が好きな私と、アーティストとしての私が共存しているんです。はじめてTwitterを見た人は、「この人は何をやっている人なんだろう?」と疑問に思うかもしれないんですが(笑)、誰かに求められてツイートしているわけじゃないので、気の向くままにツイートしています。Twitterのプロフィールには「ツイートの9割アニメ漫画の話です。」と書いていますし(笑)。

■綿めぐみが盲目の男と出会う、ストーリー仕立ての新作



『災難だわ』に続き、2作目となる『ブラインドマン』は、「ルサンチマンからの脱却」をテーマに置き、綿めぐみが盲目の男「ブラインドマン」と出会うストーリーを描いたコンセプトアルバムとなっている。「小袋さんに『幼少期の体験を代わりに歌ってほしい』と言われて、今作は歌いました」という綿めぐみさんの言葉通り、Tokyo Recordingsの小袋の幼少期の体験がアルバムの背景にはあるそう。リード曲「ブラインドマン」のMVでは、糖尿病で視力を失ったブラインドマンと小袋が出会い、ブラインドマンを期間限定で伴走者として助ける。そして、普通に生活している中では見えない光や色が、夢の中では色づくというストーリーを描いている。

ーー「ルサンチマンからの脱却」がコンセプトになっている理由は何ですか?

綿:
実は、いきさつはまだよくわかっていなくて...ネット上での綿めぐみに関する記事を読んでも、まだ100%理解し切れていないんです(笑)。

ーーこのアルバムにおける設定を元に歌う・演じる時に苦労したことはありますか?

綿:
「エモーショナルに歌って」という指示があったんですけど、感情を表に出して自分をさらけ出すのが苦手なので、それが怖かったです。でも、歌ったのは小袋さんの体験であり、そこから描かれたストーリーなので、自分のストーリーを歌うよりは、できあがっていたストーリーに感情移入して歌うほうが楽だなとは思いました。

ーー『ブラインドマン』の中で一番気に入っている曲を教えてください。

綿:
「ラン!ラン!ラン!」が一番好きです。レコーディングした時にキャッチーで好きだなと思っていたら、まわりの人もこの曲が一番好きと言ってくれて、嬉しかったです。

ーーでは、気に入っている歌詞やフレーズはありますか?

綿:
「インビシブルマン」の歌詞が気に入っています。私、お母さんがすごく好きなんですよ。「インビシブルマン」の歌詞には「昔よく食べた母の弁当を」や「与えた愛だけ、抱えた痛みだけ」というフレーズが出てくるんですけど、この曲からは無償の愛を感じていて、共感するし、感情移入できました。

ーー今作『ブラインドマン』での綿めぐみさんの役割は何だと思いますか? 

綿:
私は音楽オタクと相反する存在なので、実は歌っている本人が楽曲のことをよくわかっていないのかもしれません(笑)。でも、それが自分では良いと思っていて、"わかっていない感じ"をむしろ守って歌っています。

ーーなるほど。では、綿めぐみさん自身が伝えたいことや歌いたいことはありますか?

綿:
それも特にないんです。アーティストになる方は自分の歌声をきいてほしい、世に伝えたいことがあるといった理由でアーティストになると思うんですけれども、私自身には特に伝えたいことはないんです。ただ、Tokyo Recordingsの方はとても才能に溢れている。その才能を世に出していくお手伝いができたら良いなという思いで歌っているんです。

ーー最後に、綿めぐみさんからみて、『ブラインドマン』の魅力を教えてください。

綿:
最初に出したアルバム『災難だわ』は、一曲一曲を全て理解して歌うよりも、メロディーをきちんと歌うことを重要視していました。いきなりアルバムをつくることになって、戸惑いの中で歌っていたんですね。でも、『ブラインドマン』はノンフィクションのコンセプトアルバムで、その中に起承転結のストーリーがある。私自身も、小袋さんの実体験をどう魅力的に伝えられるのかをずっと考えて歌っていたので、すごく丁寧につくったアルバムです。

■自分の歌が誰に届いているのか、不安でした

ーーアルバム発売前にワンマンライブも開催していましたよね。

綿:
そのワンマンではじめて、新作の歌を披露しました。皆さん金曜日の夜にわざわざ私のライブに来ていただいて、変なことできないというプレッシャーでちょっと具合悪くなりました(笑)。

ーーはじめてワンマンライブを実施されて、どうでしたか?

綿:
その日は『ブラインドマン』の先行発売をしていて、一人ひとりにサインしていたんです。その時に「あのアニメ観てますか?」と話しかけてくれる人がいたり、自分の歌を聴いてくれている人とコミュニケーションを取れたのがはじめてだったので、嬉しかったですね。

ーーこの前のライブまでは、どういう人が自分の曲を聴いているかわからなかった?

綿:
全くわからなかったです! なので、どういう人に歌が届いているのか、不安でした。

ーー実際にファンの方はどういった方が多かったですか?

綿:
私と同じような匂いのする人。アニメオタクじゃなくても、何かに対してこだわりを持っている人が多かったです。親近感を持っちゃいました(笑)。

ーーでは、綿めぐみとして、今後どういう活動をしていきたいですか?

綿:
まずひとつ目は、今までTokyo Recordingsの皆さんが手がけてくれた楽曲と、真逆のイメージの曲にもチャレンジしてみたいですね。キラキラしているディスコっぽい感じの(笑)。また今後は声優さんであったり、絵を描くのが好きなので雑誌の4コマ漫画を書いてみたり、音楽以外のジャンルのことにも挑戦してみたいです。

アーティストなのか、ミュージシャンなのか、それともアイドルなのか。そんな垣根を超越し、新時代の音楽をつくる、綿めぐみとTokyo Recordings。"音楽オタク"のTokyo Recordingsのふたりが徹底的にこだわってつくる楽曲を、綿めぐみさんがポップな歌声によって多くの人に届ける、そのタッグが生まれたからこその今作なのではないだろうか。綿めぐみとTokyo Recordingsがつくりだす『ブラインドマン』の世界観にぜひ触れてみてほしい。

取材・文:岡田弘太郎

1994年生まれ。『SENSORS』や『greenz.jp』で執筆の他、複数の媒体で編集に携わる。慶應義塾大学在籍中で、大学ではデザイン思考を専攻。主な取材領域は、音楽、デザイン、編集、スタートアップなど。趣味は音楽鑑賞とDJ。
写真:永田 大祐

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