WEB生まれの若き編集者が、本屋で描いた新時代の"編集" [後編] 拡張を続ける「編集」の本質とは

2015.04.13 10:00

今、"編集"の定義が大きく揺らいでいる。WEBメディアが多様化するなかで、キュレーション、バイラルメディアなどPV至上主義が広がり、いま改めてビジネスモデル、コンテンツ、メディアのあり方に問いが投げかけられている。先月25日、下北沢B&Bで行われた有料イベント「ウェブ生まれの編集者が本屋で語る、これからの編集・メディア論」はチケットが完売し、会場は編集者・ライターを中心に満員となった。紙メディアに出自を持たない20代の編集者が再定義を試みた「編集」の行く末とは。後編では海外メディアの動向を追い続けてきた佐藤氏の最新事例を交えたレポートも交え、刺激的なディスカッションが行われた。([前編]編集に正解のない時代をいかに生きるか

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■ヒト・モノ・コトを動かす「ブランドメディア」をいかに構築するのか

前島:では、後半戦の一冊目は『ブランド「メディア」のつくり方』に入ります。


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(嶋浩一郎編『ブランド「メディア」のつくり方―人が動く ものが売れる編集術』誠文堂新光社、2010年)


佐藤:これは僕が繰り返し読んでいる本で、先ほどのチャートというか図でも出てきた嶋浩一郎さんが編集されています。紙やWEB、フリペなど色んなメディアの編集長のインタビューだったり文章が集められた本ですね。 アンバンドルの話もあったように、WEBメディアではなかなかトップページから読まれず、どうしても記事単位になってしまいがちです。WEBではブランド作りが難しいというところで、この本はヒト・モノ・カネが動くみたいなメディアを「ブランドメディア」と位置付けて、その作り方に迫ります。WEBメディアの人こそ一読を勧めたい本ですね。本当に様々な媒体の人が出ているので、自分と照らし合わせながら読めるのが良いですね。


小川:僕も何回も読みましたが、良い本ですよね。各種の媒体におけるマネタイズのジレンマが書いてありますよね。


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佐藤:本の中で中川淳一郎さんが挙げられている読まれるコンテンツ10法則というものがありました。


小川:最近はこれに加えて、「猫」がありますね。


佐藤:初版は2010年ということで、5年前に出た本はあるんですが、WEBに限っては未だに当てはまる法則というか、要素ではあります。


前島:ここから状況ってどういうふうに変わっているのかっていうところを、マネタイズ的な文脈も含めて佐藤氏にレポートしていただきます。


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佐藤:普段から「メディアの輪郭」というブログで、海外メディアや国内のメディアを見ているので、ザックリではありますが紹介したいと思います。まずはシンプルですが、「高PV×広告」というよくあるWEBメディアのモデルと「コミュニティ×課金」というのは応援でお金を集めるモデル。大別するとこの二類型かなと。最初から挙げるのが海外メディアで申し訳ないんですが、「バズフィード」というニュースメディアで月間訪問者数(MUU)が2億にのぼるそうです。何が新しいのか、何がさっきの5年前の法則と違っているのか。当時は圧倒的に、ヤフーやライブドアといったポータルが強かったんですね。色んな出版社や媒体社からコンテンツが一箇所のポータルに集まっていた。今は状況が変わりつつある。バズフィードはTwitter、Facebook、SnapchatなどそれぞれのSNSプラットフォームに最適化したコンテンツを流している。


前島:動画も再生できるようになってるよね。


佐藤:Facebookでも自動再生されるようになっていますよね。これは「分散/プラットフォーム最適型」って言われたりしてて、自社サイト(=.comサイト)に呼ぶのではなく、外部サイトで読んでもらう。ちょうど先日、Facebookがニューヨークタイムズやバズフィードと提携してオリジナルコンテンツを配信する交渉をしている報道がありましたよね。


■巨大プラットフォーム以外はメディアからコンテンツメイカーへと追いやられていく?

小川:アドじゃなくて、コンテンツで?


佐藤:コンテンツと併載で広告も載っけて、その広告も媒体者に一部還ってくる。Facebookがオリジナルコンテンツを載せるということは、自社サイトの意味はどんどん薄れていく。


小川:Facebookがメディアに取って代わっていくということだよね?


佐藤:そうそう。それに賛同するかは別として、ユーザーが10億人以上いるので、そこに配信した方が読まれるよねっていう考え方。


小川:ということは、ニューヨークタイムズはもはやメディアじゃなくて、コンテンツ制作会社ということですよね。


佐藤:そういう流れがきてますね。でもプラットフォーム、流通の部分を取った後に問われるのは、そこに何を載せるのかということ。お皿の上の料理をどう作り、どう乗せるのか。バズフィードなどでもオリジナルの編集者やジャーナリストがかなり雇われつつあるので、コンテンツを強化していくのは必然の流れかと。


前島:極端な話でいうと、Google以後の検索に最適化された形のサイトになってくる可能性も?プラットフォームがあって、コンテンツをどう載っけるかという。


佐藤:そうですね。検索とは真逆のあり方というか。


小川:バズフィードは自社サイトのUUも多いですけど、分散したときにマネタイズはどうなっていくんですか?


佐藤:やっぱりネイティブ広告ですかね。ツイッターでいうスポンサードポストのような。各媒体やプラットフォームに馴染んだ広告。なので、バズフィードの場合は、Facebookの投稿一個が広告かもしれない。YouTubeはもうやっているんですけど、動画が実は広告だったりする。いわゆる外のプラットフォームの中でも単体で生きれるコンテンツ。


小川:タイアップコンテンツが主軸っていうことですね。ニューヨークタイムズまでもが制作会社化されるとしたら、メディアをやっているやりがいやプレゼンテーションしたい旧来の意気込みみたいなものはどこで担保されるんでしょう...。


佐藤:バズフィードの場合は動画が強いんですが、YouTubeに投稿している動画広告には最初にバズフィードのロゴが出たりします。おそらくWEB記事よりもブランドの認知はされやすいんじゃないですか。


前島:そうだね。テキストと写真よりも動画の方が時間をコントロールしやすいし。


■国内での注目事例はコミュニティ・サポート型メディア

佐藤:そのへんが海外の新しい事例かと思います。国内では、個人的にはコミュニティに関心があります。学生時代にライターインターンをやっていたグリーンズはもともと有限会社、その次に株式会社、そして現在のNPO法人っていう道筋を来ている。


小川:もともと株式会社だったんですね。完全にNPOのイメージしかない。


佐藤:会社だと営利も出さないといけない、すると広告モデルに縛られる。だとするとちょっとやりたいことから遠ざかってしまう。 グリーンズのメンバーって千葉にいたり、鹿児島、京都にいたりするんですよ。編集長二人が東京にいないメディアなんです。


小川:編集会議が基本Skypeなんですよね?


前島:それで経営が成り立っているのがすごいよね。


小川:普通は対面ですよね。それでトンマナが整っているのがすごい。


佐藤:NPOになってからは、今もやってはいると思うのですが、広告の色は薄まってます。寄付会員から集金するモデルになっていますね。


小川:言ってしまえば、ファンクラブのようなものですよね。


佐藤:やっぱりコミュニティ・サポート型ということで、農業でいうCSA(Community Supported Agriculture)に近いものがあります。これは農作物を作っている人と消費者が直接お金のやり取りをして農家を応援する仕組みですね。グリーンズでやっているのはCommunity Supported Media。コミュニティが支えるメディアの形を目指していて、今までのPVといった指標だと読者の濃淡って分からないですよね。スケールはそれほどしないかもしれないけれど、もっと読者の顔も見えて、作り手の顔も見えた関係性の中で、ある程度濃いコミュニティの中で読者が支える仕組みというのは日本の中でも象徴的な事例なのではないでしょうか。


前島:二人ともオンラインサロンに登録しているそうですが。


小川:梅木雄平さんのサロンに入っています。Facebookのクローズドグループなのですが、先ほど挙げた田端信太郎さん、gumiの国光さんなど経営者の方も多くて、面白いです。数百人がいて、一つのコミュニティを形成している。梅木教祖を奉っているっていうよりも、ひな壇芸人的にツッコミを入れたり、あるいは梅木さんが突っ込まれたり、一つのコミュニケーションが成り立っている。


前島:サイレントマジョリティーというか、見てるだけで議論に参加しない傍観者はどれくらいいるの?


小川:潜在層はよく分からないけど、普段からたくさんコメントしているのはおそらく数十人。残りはロムセン(見ているだけの人)ですね。僕もコミュニケーションの舞台に上がるよりは、観客席にいたいというのがありますね。よく漫画である地下闘技場みたいなイメージです。


前島:「のぞき見願望」というか、すごい人同士のやりとりを見ているので満足っていうのは普通にあるよね。トークアプリの「755」も近いよね。


■「多対多の関係性」有料オンラインサロンに見られる新しいコミュニケーションの形

佐藤:有料サロンのプラットフォーム「Synapse」の代表・田村さんに先日インタビューしたときも「多対多の関係性」についておっしゃっていました。これまではソーシャルメディア上で影響力のある人にファンがつくみたいに一対多のコミュニケーションが多かった。


前島:今は、いわゆる「プロシューマー」になってきていますよね。ユーザー同士がプロデューサーであり、コンシューマーであるという。Wikipediaやニコニコ動画みたいに。


小川:ユーザーがコンテンツを作り上げていくということですよね。僕の好きな言葉に「突っ込まれビリティ」というものがあります。これは"炎上体質"に言い換えられるのかもしれないけど、ようは突っ込まれる余地を残しておく能力のこと。WEBにおいてある種の引火体質、突っ込まれビリティは一つの鍵になるんじゃないかと。


前島:ようするにあるキッカケやその場でどう振る舞うべきかといったコミュニケーションのプロトコルを与えるということですね。


佐藤:WEBの性質かもしれませんが、対照的に紙のコンテンツって全部完璧でツッコミどころないですもんね。


小川:紙に突っ込んでも返事こないですしね。


佐藤:WEBだとタイトル付けもそうですけど、突っ込ませて、読者がリアクションすることによって完成する記事みたいな部分もあるので、突っ込まれビリティや隙を意図的に作ることは大事ですよね。Synapseでいうと、場に参加する権利を買ってるみたいなイメージがすごく強い。


小川:地下闘技場に入るチケット。


佐藤:入る権利ですよね。コミュニケーションには参加してもしなくてもいい。僕けっこう音楽フェスに行くことは多いんですが、一日券を買ったとしても、お目当以外は観てもみなくてもいい。全部の時間帯は観ないけれど、ちょくちょくつまみ食いできる。そういった使い方の自由、時間や場の自由度は重要なのかなと思いますね。


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■コンテンツビジネスの正解が放題系サービスだったという説

前島:最後の「読み放題系サービス」とは?


佐藤:個人的に「〜放題」系のサービスに注目しています。例えば、docomoさんがやっている「dマガジン」や日テレさんのHulu。音楽でいえば、Sportify。なぜ注目しているのかというと、出版社がWEBメディア化を渋ってたことがあると思うのですが、実は雑誌のWEB化って何の答えでもなかった説っていうのを個人的に感じていて。読み放題系のサービスって大手のキャリアがやっていることもあって、実際に読者もいるしお金も返ってくる。100万人以上ユーザーがいるところもあるので、アプリにして、単体ではなく束としての読み放題サービスに参加した方が結果的に多くの読者に読まれるし、お金も返ってくると思うんですよね。


小川:これは権利購入型の話につながっていて、いつでもアクセスできるWEBの特権として、ググる感覚に近いんだけれど、例えば講談社でいえば何年か前の『FRYDAY』をすぐに引っ張ってこれる。そっちの方が大事ですよね。


前島:作り手側から言っても、WEBで売っちゃうと、こちらとしては大事だと思っているのに読まれない記事があったりして。そういうものを総体として売れるようになりますよね。雑誌とか新聞の良さってそこじゃないですか。定額課金で売れて、読むのも読まれないものも含めて買ってもらえる。雑誌がコンテンツの束だとすると、アプリでは雑誌の束として売れるということですよね。廃刊になる可能性のある雑誌も総体としてアプリで何百冊含めて買ってもらえる。


小川:dマガジン的なもののアーカイブがもっと整って、OCRのような文字認識技術を使って見出しが全部デジタル文字化されれば、検索できるようになる。そうすれば例えば「浜崎あゆみ」の10年前のインタビューをすぐに開くことができたりする。そうなれば、今読まれない記事も蓄積してあげていく意味も出てきますよね。


■ジャーナルクラウドファンディング「クレドア」とは

前島:未来に対しても可能性が拓ける。ここで、このイベントのためというわけではないのですが、先日リリースしたサービスを紹介させてください。これまでの話とも関連するのですが、WEBメディアの新しいマネタイズにチャレンジしようかと思っています。「クレドア」というサービスです。"ジャーナルクラウドファンディング"という造語です。何か記事を書きたいというときに、調査なり取材なりのための費用をクラウドファンディングで募ります。


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3月24日に株式会社kairoよりα版がリリースされたジャーナルクラウドファンディグサービスCredo:Re(クレドアhttp://credore.me


前島:プロジェクトはまだ二つしかないのですが、これから増やしていきます。現在はツイートとシェアで支援ができるのですが、後ほど資金での支援もできるようにします。リターンとして執筆された記事をユーザーさんに届けるサービスになっています。


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小川:公開企画会議みたいなイメージですよね。


前島:そうです。いずれコメント欄も設けるつもりなので、フィードバックをももらえます。ぜひプロジェクトを投稿してみてください。


小川:Campfireでもニューヨークのメディア事情を探るメディアツアーの資金を募るプロジェクトがありましたよね。


前島:クレドアは完全にそこに特化しています。ログインしてもらうと分かるのですが、各々のユーザーさんのマイページ宛に記事が届くようになっています。


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前島:なぜこれをやっているかというと、WEBメディア、特にニュース系媒体だとたくさんの人に読まれるためには色のないものを出していけない。あとはリリースするまで評価が分からないんですね。特に広告だけを収入源にしていると、出してみてPVが出るまで評価が分からない。そうすると、どんどんチャレンジできなくなっていく。より安価にかつ確実に読まれる動物やアダルトに流れちゃう傾向があって...。そうなると、資本的な体力がある大きな会社しか生き残れない。そういう状況で我々はどうすればいいのかと。リリースと取材・執筆っていうのを裏返そうと。書く前に評価してもらって、お金をもらって、ちゃんとしたコンテンツを届ける。


小川:全くエロくないし、全くスキャンダラスじゃないけど、なぜか「いいね」が集まったから記事化しますってことですよね。


■編集の本質は「企画を立て、人を集め、モノをつくること」

前島:宣伝はこれくらいにして、最後に取り上げる一冊『はじめての編集』にいきたいと思います。


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(菅付雅信『はじめての編集』アルテスパブリッシング、2012年)


小川:この本は僕が1年弱アシスタントを務めた編集者・菅付雅信が書いた本です。WEB・紙・テクノロジー、色んなものが多様化している中で"編集"が分かりずらくなっている。編集の定義、あるいは今までの先例や歴史を扱った本って実はすごい少ない。手前味噌ではないのですが、これは僕が菅付さんと知り合う前から読んでいた本で、一層編集者に憧れるキッカケになった本でもあるので、ぜひ読んでいただきたいです。


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小川:本の中で"編集"の定義として、「企画を立て、人を集め、モノをつくる」ことが定義として述べられています。一見ザックリしてるんですが、とても本質的で過不足ないと思います。これ以上広げると編集から外れるし、これ以上狭めると編集の本質は衝けない。今の現状で特に大事だと思うのが「人を集め」の部分。なぜかといえば、キュレーションメディア、SNS、バイラルメディアは人を集めてない記事がすごく多い。YouTubeの面白動画を見出しを変えて作るというのは、本来の企画を立てるという意味ではないと思うんです。こういう切り口にしたら面白いだろうというのはたしかに企画の一部ではあるけれど、そもそも無から有を生み出すのが企画だと思うんです。企画には目的があって、こういう人にこういう思いをしてほしいとか、こういう社会問題をこういうコンテンツで解決したいとかっていうところがあるはずで。今あるものの包装だけを変えても、コンテンツの本質は変わっていないし、人も集めていない気がする。このイベントの以前からキュレーションメディアなどにはこういった違和感を持っていました。今一度この本を読み返したところ「ああ、菅付さんが言っていることは核心を衝いている」と、「人を集めてないから編集じゃない」と、自信を持って言えますね。


前島:大物編集者でさえも人の調整や、企画立てみたいなことに相当な時間を使っていることを二人とも言っていたよね。


小川:菅付さんの話ですが、僕が深夜2時くらいに「菅付さん、原稿できました」ってメール送ると、今50歳ですけど、すぐに返信がきます。ずっと返信してます、本当に。編集者の仕事って実は「返事」だと思ってるんですよ。「すぐ返信することが大事」と実際に菅付さんからも教えられているんですけど、実際そうしないと人が集まらないんですよね。


佐藤:世に出てる編集本ってけっこう綺麗な部分を書きすぎている節があると個人的に考えていて、いわゆる編集カッコイイだったり、かっこいいプロダクトをどうやって作るのかみたいな部分はすごくフォーカスされているけど、実はもっと泥臭く地味な調整が大事だったりするんですよね。


小川:難しい部分でデフレスパイラルというか、悪循環ってありますよね。お金が儲からないから企画を立てられない。企画が立てられないから、お金が入らない。取材記事は特にそうですよね。WEBで地方に取材に行くとか難しい。Credoではどうですか?


前島:おっしゃる通り。一度回り始めないと良い循環が起こらない。良いコンテンツで読者が集まらなくて、悪いコンテンツしか作れないからブランドも育たない。これに関連して編集自体の定義が揺らいでいると思っています。その背景にはWEBメディアの勃興、アルゴリズムに則した編集がある。機械的にコンテンツを収集してそれをつなぎ合わせたものがユーザーに届く世界になってきている。今改めてこれからの"編集"について話をしていかなければいけないんじゃないかという。


■拡張を続ける「編集」とそれを取り巻くテクノロジー

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佐藤:最近、"編集"の概念が拡張していますよね。場の編集もそうですし、イベントの編集もそう。変容というか拡張に近い。WEBメディアの方面から見ても、Facebookのアルゴリズムをはじめいわゆる人工知能のようなテクノロジーが成否を握るようになっている。SmartNewsがワールドビジネスサテライトに取り上げられていたとき、「人工知能が編集長」って言っていて、それがすごく印象に残っています。それが明らかだとすれば、人は何をすべきなのかということも明らかになる。


小川:それでも僕ら編集者は食っていかないといけないですからね。理想論ではなく、何が一番稼げるのかを考えていかないといけないですよね。一つに、編集者はサービス業だと思っています。100年後、200年後にはサイボーグがホテルマン並みの素晴らしいサービスをしてくれるかもしれないけど、僕が生きてる間はおそらくそれは無理だと思います。すごい具体的な話でいうと最近、撮影仕事やスタディツアーを通して思ったのが「ケータリング」の大切さ。超コアな話ですけど、これって実はどの編集本にも書いていない話で、ケータリングで全部変わります。イベント、撮影、楽屋裏。だって、美味しいものを食べればみんな機嫌良くなるじゃないですか。


前島:たしかに僕らも今ビールを飲みながら話してますけど、テンションとかは変わってきますよね。


小川:僕もサブウェポン的な存在だと思っていたんですけど、実際これで雰囲気が変わる瞬間を最近立て続けに目撃して。ここればっかりは編集の徒弟制度が変容しつつも受け継がれる部分じゃないでしょうか。やっぱり人間のコミュニケーション。それを仕事で言い換えるとサービス業的なノウハウ。これは人を集めるためにも今後必要だと思います。


前島:徒弟制度のように暗黙知的に受け継がれるものがあると。


小川:サービスということにフォーカスすると、電話の取り方もそうだし、電話のかけ方もそう。ケータリングなどの食事をどこのお店で選べばいいのか。そもそもどうやって現場みたいな難しいところに呼んでくるのかも含めて。


佐藤:どうやってこれから食っていくのかというところで、答えはないのですが、WEBメディアをやっていると逆に道は見えやすい気はしています。キュレーションやバイラルと言われるようなメディアだとテクニック寄りだったり、どうすれば稼げるのかっていう道はなんとなく見えてるじゃないですか。どうやって記事を拡散して、お金をもらうかみたいな。そこって効率化とか機械化みたいな文脈につながると思っていて、道が見えているからこそ、そこから外した方が僕は編集者としてのバリューが出せるんじゃないかと。それがすごくありがたくも思うんです。みんな草もないちゃんしたコンクリートの、同じような道を行っているけど、僕は藪を行きたい!みたいなイメージです。


前島:それはすごく良く分かります。WEB編集って参入障壁がものすごく低いですもんね。


小川:Wordpressでブログを立ち上げた瞬間、独自ドメイン取った瞬間みんな編集長ですからね。


佐藤:コンテンツ作りでどんどん無駄を省くようになっている。けれど、紙の媒体を省みても、誰かにとってのノイズが、また別の誰かにとっては意味のあるものかもしれない。実はそこが重要だったりするのかもしれない。


小川:サービス業の話にちょっと付け加えると、僕の尊敬する編集者3〜4人が共通して言ってるのは、「インタビュー」が編集者の基本だということ。ある種ライターの仕事だと思われがちなんですけど、実はインタビューってすごく編集スキルが必要で、人とアポイントメントを取って、一時間なり二時間話を聞く。その人が持っているコンテンツを全て引き出すということにはものすごくサービス業的なスキルが問われる。そういった積み重ねが大きな企画になると思っていて、尊敬する編集者はたくさんのインタビューをやっていることが確かに多くて、基本スキルだと思っています。


前島:泥臭いメール対応とか、その人の人生の知見のどこを取って組み合わせるのかはまさに「編集」だなと思います。


小川:あとは何を言ったら怒らせないか。あとは、人と人の組み合わせ。


■若き編集者が思い描く自身の未来とロードマップ

前島:では、最後に三人それぞれにとって「これからの編集とは」、どうなりたいかも含めて、編集者としてどのように生きていきたいかという話をしていただけたらと思います。


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前島:まずは僕から話させていただきます。はじめに編集の定義なんですけど、「編集=創造性の創造」と書きました。編集者自身が何かを作るっていうよりは、人と人の組み合わせだったり、コンテンツ同士を組み合わせて、そこで何か創造性を生み出していく。僕は一応WEBが専門なので、そこに文脈を合わせてお話しすると、WEBってよく都市工学と対比して語られることがあるんですね。都市には人が暮らしていて、人をコンテンツ、都市をプラットフォームとしてWEBの比喩として見ることができる。たとえば、建物の設計や配置のあり方で街並みが形成され、それによって人の流れが決まる。振る舞いも決まってしまう。プラットフォームによってコンテンツのあり方が規定されてしまう部分がある。これってすごくWEBと似てるんですね。こういう議論は60年代以降、日本が急速に都市化していたときに、語られてきたと思うんですよ。都市構造によって、人間の振る舞いがすごくつまらないものになる。決まったパターンが固定化されるし、決定論的になってくる。こういう流れの中でコンテンツの面白さを追求しようという動きが出た。大きくは二つあって、一つは建築や都市の設計を意図的に意味不明なものにすると。荒川修作や磯崎新のようなプラットフォームの側から変えていくということですね。


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小川:六本木ヒルズとかそうですよね。わざと迷いやすいような設計になってる。


前島:そうですね。本来は最適化されて、行きたい場所に行けるはずのところを、わざと変える。ズラすといいますか。一方でコンテンツの側がある作られたプラットフォームを読み替える。赤瀬川原平や寺山修司のように街に出て、演劇をする。街を暮らす場所ではなく、演じる場所にする。この議論の文脈でいうと、二人はコンテンツの側の何かを組み合わせて実際にプレイする方だよね。僕はどちらかというと建築の側だと思っていて、二人がどう気持ち良く振る舞えるのかっていうプラットフォームを作る。クリエイティブを決定論ではなく偶然性によって生み出されるものと定義すると、偶然性が生まれる土壌をつくる。これは学術用語でいうところの、「アーキテクチャー」ですね。人間の振る舞いを明示的に強制するのではなくて、自然に振る舞っているのになぜかいい感じになっている。というわけで、僕は役割としては徐々に編集長からは退いていこうかなと。現在、「Credo」では編集長を募集中です!


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佐藤:僕にとっての編集とは「新しい関係性を見つけて、それを提案すること」なのではないかと思っています。さきほどの佐渡の話にもつながるのですが、佐渡と朱鷺という太くて強いイメージがあります。そうなったときに違う関係性とは何だろうか。ヒト・モノ・コトの内に新しい繋がりを見つけて、それをまだ知らない人たちに文脈や導線を作っていくというイメージを持っています。コンテンツを作る際は、一歩先ではなく半歩先をいき、新しいんだけど懐かしい、ちょっと知ってるみたいな部分を混ぜるようなものを作りたいと思っています。3つ目の「期待に応えて、予想を裏切る」というのは三谷幸喜さんの言葉なんですけど、読者の期待にも答えつつ、予想を裏切ったり、「ああ、こんな世界があったのか」と思わせるようなコンテンツを作りたい。最後の時代に合わせるというのは、読者が何を求めているのかを把握して、そういう方に届けつつも、自分が来ると思っている時代を引き寄せたいと思っています。


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小川:菅付さんの話で言い忘れたんですけど、彼が僕らアシスタントに口を酸っぱくして言うのが「オペレーターにはなるな」ということ。オペレーターかクリエーターか二種類だということで僕も本当にそう思うんです。クリエーターとしての編集者が作った本は属人性が高い本になるし、オペレーターが作った本はおそらく自動キュレーションアプリだとか、パーソナライズされた検索結果だとかで、そこで人は生きていけない。まだ社会に居場所がないヒト・モノ・コトをサービスで形にしていく。この点で僕は慶一君と違っていて、流行っているものには興味がなくて、今社会では流行っていないけれど、提案していく。社会に居場所がないものの居場所を作っていくことを企画力、つまり人がいるからこそ提案できる大きな企画、あるいは予想もしなかった切り口、あるいはサービスで実現したい。これは先ほど申し上げたケータリングでもいいし、メールでもいい。ようは気遣いですね。それを価値にしていきたいと思っています。
機械だけが支配すると、今までググった結果だけで予定調和的に「あ、君はMr.Childrenが好きだから、ミスチル的なメロディーのアーティスト好きでしょ」みたいな話になってくる。これは分断化、タコツボ化を招いていくので、それをかき乱したい。かき乱すというのはおそらく人間にしかできないから、人を集めるからこそ起こりうるファンタジーみたいなものを紙面なり、WEBサイトなりに現実化していって、次の流行なり、提案するコンセプトを現実化させていきたいと思っています。


メディアの最前線アメリカで今起こりつつあるというコンテンツプロバイダーと巨大プラットフォーマーの合従連衡。幅広い読者を獲得するためにブランドメディアとしての独自性をトレードオフすることは不可避なのか。ビッグデータを基軸にした人工知能は生身の編集者を淘汰していくのか。それを断定するのは性急にすぎるだろう。なぜなら人工知能が成否を判断するアイデアの種の部分、クリエイティブを担うのは当面のところ人間に他ならないからである。
NewsPicks佐々木編集長によれば、アメリカではオールドメディアのスタープレイヤーのWEB移籍が加速しているという。(NewsPicks 佐々木紀彦の挑戦|3人が出版業界を飛び出した理由とは?)日本でも紙とWEBそれぞれにルーツを持つ編集者の共創が増えていけば、「編集」の新たな可能性が発現するだろう。


[前編] 編集に正解がない時代をいかに生きるか


取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

[登壇者プロフィール(2015年3月時点)]
佐藤慶一| KEIICHI SATO
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1990年生まれ。新潟県佐渡島出身。学生時代にNPO法人グリーンズが運営するウェブマガジン「greenz.jp」のライターインターンやコンテンツマーケティングを手がけるメディア企業での編集アルバイト経験を経て、フリー編集者として講談社「現代ビジネス」の企画編集・ライティングをおこなう。ブログ「メディアの輪郭」を運営。


小川未来| MIKI OGAWA
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1991年生まれ。慶應義塾大学4年。アシスタントエディターとして、(有)菅付事務所でアートブックや新書の編集に携わる他、livedoorポータル上のタイアップ記事制作をサポートしている。講談社現代ビジネスにて就活コラムを連載中。


前島恵| KEI MAEJIMA
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作家・編集者。 1988年生まれ。東京大学修士2年。株式会社kairo代表取締役 credo編集長(http://credo.asia/)

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