月間100億PV Yahoo!ニュースの公共性×編集×テクノロジー【前編】"プッシュ通知"と"見出し"の役割とは

2015.10.07 17:00

9月17日、Yahoo!ニュース(news HACK)とエンジニアtypeの共催で行われたイベント「公共性×編集×テクノロジー〜ニュースメディアに求められる使命に、開発者はどう応えるのか〜」。第一部では「公共性を支える編集とテクノロジー」、第二部では「ニュースのUI/UX大激論〜ユーザビリティとアクセシビリティ〜」をテーマにディスカッションが行われた。前編では第一部の模様をお送りする。(【後編】ネットニュースにとっての最適なUI/UXを語る

「日本におけるポータルサイト」といえば、Yahoo! JAPANといっても異論ないだろう。月間総ページビュー(PV)数は約600億を超え、日本のインターネットユーザーのうち、約80%がYahoo! JAPANを利用している。
特にトップページのYahoo!トピックスは約300の媒体社から提供されるニュースを集約し、各メディアにとっては圧倒的な流通経路となっている。

【左から】伊藤健吾氏(エンジニアtype編集長)、苅田伸宏氏(Yahoo!ニュース編集部)、庄司和正氏(Yahoo!ニュース開発部)

これほどの規模になると不可避的にメディアとしての公共性を帯びていく筈。 公共性が求められるサービスにおいて、開発者や編集者に求められることは何か?職種を超えたチームワークはいかにあるべきなのか?

エンジニアtype編集長伊藤氏をモデレーターに、Yahoo!ニュース編集部・苅田氏、開発部の庄司氏がディスカッションを行った。

伊藤:
まずはじめに簡単な自己紹介をお願いします。
苅田:
Yahoo!ニュース編集部の苅田と申します。前職は毎日新聞で12年半ほど新聞記者の仕事をしていました。2013年にYahooの方に参りまして、Yahoo!ニュースの編集業務をやっています。具体的にはトップページにある8本のニュースを選んだりとか、各記事に添付している関連リンクといった、そのニュースの理解を深めるようなリンク集、情報のパッケージを作るといった作業をしています。
伊藤:
編集チームは何人くらいいるんですか?
苅田:
約25人くらいいますね。大きな災害が起きて、東京が機能しなくなったときに備えて、東京・大阪・北九州・八戸と4つの拠点に分かれて業務をしています。
伊藤:
前職は新聞記者さんということですが、やっぱり前職で報道に関わっていた方は多いんですか?
苅田:
そうですね。半分くらいでしょうか。もともと記者や編集者として報道の現場にいたり、マスコミ業界にいたメンバーがいます。
伊藤:
続いて、開発チームの庄司さんお願いします。
庄司:
Yahoo!ニュース開発部の庄司です。前職は塾業界でエンジニアをやっておりまして、2007年に中途でYahoo!JAPANに入社し、3年ほど前にYahoo!ニュースに本格的に入りました。
伊藤:
同じ質問で開発チームは何人体制なんですか?
庄司:
開発部所属だと50人弱でしょうか。
伊藤:
編集部の倍ですか。庄司さんはいわゆるバックエンドと呼ばれるプラットフォーム側の方というお話だったのですが、チーム内ではどういった役割分担でYahoo!ニュースの担当になっているのでしょうか?
庄司:
大きく分けるとフロントエンドとバックエンドというのはもちろんあります。例えばYahoo!ニュースと一口に言っても色んなページがあるので、機能ごとに大体プロジェクトがある感じです。

■メディア(媒体)が変わればユーザーのニーズも変わる〜スマホにおける"プッシュ通知"ニーズの高まり

伊藤:
それでは今日の本題に入ります。まず「ニュースに求められるものと、ネットニュースに求められるもの」に関するユーザー調査の結果を取り上げます。苅田さん、解説をお願いします。
苅田:
一般的なニュースに関しては"正しさ"。つまり誤報がないことというのが一番上にきていますね。二番目は記事の内容が公平であること。対してネットニュースの方は重大なニュースが確実に通知されることが上で、次に最新情報が掲載されるのが早いということが来ています。
特にスマホシフトによって重要なニュースを手元に早く届けてほしいと調査結果から、プッシュ通知へのニーズが高まっていることも分かります。
苅田:
ニュース流通のサービスをやっている人間としては、プッシュ通知が非常に大きな武器になると感じています。上記は実際にプッシュ通知を打った例です。ここに挙げたものが重大ニュースであることに皆さん異論ないかと思います。
伊藤:
こちらが通知をした際のサーバーの負荷量ですね?(下記図参照)
苅田:
これは去年の衆院選のときのものですね。
伊藤:
プッシュ通知一回でこれだけ...。Yahoo!さんだったらスケーラビリティとか万全なのかと思っていましたが...さきほど(本番前に)伺ったら、色々しんどかったというお話を聞きました。。

■24時間"ヤフトピ砲"を受けている状態でも、人命に関わることもある号外プッシュは落ちることを許されない

庄司:
こういう号外プッシュが打たれたときは落とせないですよね。人命に関わることもあるので、負荷対策というのはもちろんやっています。"ヤフー砲"(編註:ヤフトピに掲載されることでアクセスが急速に伸びること)という表現をされることがありますが、Yahoo!ニュースはあれを24時間受けている状態なんですよね。その負荷に耐えるべく、単純に横にサーバーを並べて負荷分散をしたりだとか、万が一震災でデータセンターがつぶれたとしても、他の拠点でカバーできるような構成になっています。
伊藤:
プッシュ通知の失敗例ということではどのようなものがありますか?
苅田:
プッシュ通知では大事なニュースを打つということを心がけているのですが、例えばプロ野球選手の大記録を達成した時に配信をして、もちろんこれも重要なものに違いないんですが、この結果アンインストールが非常に増えてしまうという苦い1日でした。
伊藤:
今日のテーマの一つに"公共"というものがありますが、どう公的な情報をピックするのかというのは一つありますよね。
苅田:
素晴らしい記録であることは間違いないのですが、それはやはりスポーツの(分野に興味があるユーザーに限られた)話で、関心のない人にとってはあまり欲しいと思っていないニュースなのかと、このとき学びました。これを一つの教訓にプッシュ通知の間隔であるとか、1日における通知の本数を調整したりとか、その後生かすようにしました。
伊藤:
プッシュ通知に関して他に課題はありますか?
庄司:
テクニカルではないのですが、現状プッシュを打つとアプリを使っている全ての方に送られてしまうんですよね。例えば九州の大雨のニュースを北海道の人がプッシュを受け取るべきなのかという点はあります。この点は課題ですね。
苅田:
「これだけは、読まれなくても届けるべき」だという(重要な)情報というのはあるはずで、そこに対する編集側の知見の磨き込みはやっていかなければならないと思っています。

■︎A/Bテストで仮説検証は行うものの、最終判断はあくまで編集サイドで行う

伊藤:
編集サイド、テクノロジーサイドで協働して良い塩梅を探していくというところだと思うのですが、A/Bテストで仮説を立てて検証をしながら、線引きを作っていくという手段が一つあると思います。
苅田:
トピックスは13文字の見出しになります。文字数が苦しい場面もあるのですが、どんな見出しでどれくらいクリックされているかをリアルタイムで追えるような環境をエンジニアの皆さんが整えてくれているので、その数字を追っています。加えて、A/Bテストのツールができてからは同時に3本の見出しを走らせることができるようになりました。
庄司:
これは完全にオリジナルで作りました。Yahoo!ニュースの規模があれば、トピックスは1本あたり2, 3時間くらい上がっているんですね。Yahoo!ニュースのボリュームをリアルタイムでさばいて、かつ裏側で分析もかけてやるのでオリジナルで作っています。
伊藤:
聞いたところによればバズフィードはタイトルを15くらい出して、アルゴリズムで最適化しているという話なのですが、これはテクノロジーで可能ですよね。でもYahoo!さんは最終的には編集部がどれを出すかの判断をするということなのですが、その理由は何ですか?
苅田:
仮に見出しでいくら数字が取れたとしても、その見出しが結果的に釣り見出しになってしまっていることもあり得ます。あるいは何か誤解を招くような要素が入っているからたまたま押されている可能性もあります。それを排除するために最終的には人間が判断するということで、今はやっています。
伊藤:
3つの見出しのうち一番クリックされるタイトルがあったとしても、ミスリードする恐れがあるものは採用しないことになるわけですか?
苅田:
それもあり得るということですね。例えば、これはダルビッシュ有選手の例です。
苅田:
ダルビッシュ選手ってよくスポーツ新聞で"ダル"って略されますよね。13文字という制限がある中で非常に使いたくなるんですが、それで伝わっているんだろうかという議論はずっとありました。これで結果的に一番クリックされたのは一番上の「ダルビッシュわずか12球降板」だったんですね。読まれた・読まれないというところを分析して以後に活かすということに、このA/Bテストツールがとても効いていますね。
伊藤:
見出しを含めて、公共性を担保することに関して編集サイドと開発サイドでどのように議論されているんですか?
庄司:
Yahoo!ニュースの大方針、ポリシーなのですが、テクノロジー一本でやって行く気はないというのがあります。とはいえ、もちろん最新技術はどんどん取り入れていきますし、テクノロジーを捨てるわけではないです。ただ、機械って"100%"が保証できないんですよね。人命に関わる誤報だったり、人権侵害があったときに機械一本では対応できないんです。100%にならない限りは最終判断はやはり編集サイドにやっていただくと。
その一方で、取り組んでいることは編集さんの頭の中というか、ナレッジを解析するということ。今までは職人芸になっていたものをなんとか機械学習してテクノロジーで再現しようとしています。

■︎公共を担うメディアとしてのコメントとの付き合い方

伊藤:
最後にお聞きしたいのが、Yahoo!さんが公共的な性格のあるメディアというところでいくと、記事の下につくコメント、通称"ヤフコメ"ですよね。これはどういったスタンスで取り組まれているんですか?
庄司:
機械学習を入れて、人種差別であったり、罵詈雑言といったものを検知しています。もちろん技術的には見つけ次第、即刻削除することもできるんですが絶対にやりません。理由はもちろんYahoo!ニュースは社会にこれだけインパクトが大きいので言論統制と捉えられてしまうリスクもあるので。なので、消すのではなくて、一般のユーザーの目の届かないところに移動してもらうようにしています。
伊藤:
順番が変わるということですか?
庄司:
そうですね。順番が変わったり、ファーストビューでは罵詈雑言が出ないようにはなっています。「なんとかしてほしい」というお客様からの声も多くいただいているので、そういった声を組んで改善していきたいですね。

【後編】「ネットニュースにとっての最適なUI/UXを語る」では、開発からデザインに話を移し、"ユーザビリティ""アクセシビリティ"をキーワードにUI/UX視点からみた最適なニュースメディアの形をディスカッションする。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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