月間100億PV Yahoo!ニュースの公共性×編集×テクノロジー【後編】ネットニュースにとっての最適なUI/UXを語る

2015.10.08 13:00

9月17日、Yahoo!ニュース(news HACK)とエンジニアtypeの共催で行われたイベント「公共性×編集×テクノロジー〜ニュースメディアに求められる使命に、開発者はどう応えるのか〜」。第一部で「公共性を支える編集とテクノロジー」を、第二部で「ニュースのUI/UX大激論〜ユーザビリティとアクセシビリティ〜」をテーマにディスカッションが行われた。後編では第二部の模様をお送りする。(【前編】"プッシュ通知"と"見出し"の役割とは

日本最大のポータルサイト"Yahoo! JAPAN"はネットメディア界において、公共性を担う主要プレイヤーと言える。

前編では編集/テクノロジーサイドの双方がいかに協働し、"公共性"を支えるのかについてディスカッションが行われた。後編ではニュースのUI/UXという視点からユーザビリティ、アクセシビリティをキーワードにディスカッションが行われた。

【左から】伊藤健吾氏(エンジニアtype編集長)、深津貴之氏 (THE GUILD)、重森泰平氏(日本経済新聞 デジタル編成局編成部次長)、宇野雄(Yahoo!ニュース)

第二部に登壇したのはUI/UX設計の業界でトップランナーとして著名な深津貴之氏(THE GUILD)、深津氏と共に日経電子版アプリのリニューアルをリードした重森氏。そしてYahoo!からはニュース事業本部のUIデザイナー宇野氏が登壇。

■"アクセシビリティ"からみた、媒体の特性に合わせたニュースアプリとは何か?

伊藤:
今日のテーマは"ユーザビリティとアクセシビリティ"ということなのですが、そもそも「アクセシビリティとは何か?」というところを深津さんに解説してもらいましょう。
深津:
"アクセシビリティ"には専門的なものから分かりやすいところまで色々な意味があります。ざっくり言うと、情報にアクセスできるかどうか、どれだけアクセスする間に邪魔なものがあって、しんどいから外しましょうっていう話だと思います。例えば、ページの階層が深くてその情報に届かないということも"アクセシビリティ"ですし、あるいは色盲や色弱という方もいるので、緑の文字と赤の文字を組み合わせないように注意して作りましょうということも"アクセシビリティ"です。
伊藤:
最初のテーマとして、「媒体の特性に合わせたニュースアプリとは?」というところで、日経新聞さん、Yahoo!さん、両者のアプリで何を重視して開発されているのかお伺いしたいと思います。日経新聞さんは新聞業界の中でも早々と電子版に移行されて、今度はアプリも内製していくということで、まずは何を大事にしてアプリを作られているのかという話をお聞かせくださいますか?
重森:
そうですね。電子版になって5年経つのですが、多くのネットニュースさんと異なるのは有料媒体であるということです。月額4,200円なので、その価値を感じていただくということで様々な機能をアプリに詰め込もうとするのですが、その度に深津さんには「アプリはそういう世界じゃない。シンプルの杖を振れ」とアドバイスを頂いています。
深津:
僕はとりあえず、何か新機能があったらボツにするのが仕事みたいなところがあります。UIデザイナーは外から見て、「この人が入ってから機能が増えなくなったよね。仕事していないんじゃないの?」と思われるくらいの方がいいなと思っています。
重森:
これも一つポイントなのですが、開発者がいちいち「このボタンを何にしよう?」と迷わないように色んなプロダクトを統一したデザインガイドを監修していただき作りました。そのおかげで比較的早く色々決めることができたと思います。
深津:
ガチガチのグラフィック系のガイドラインというよりは、iOSとAndroidのルールの違い、Webと紙の世界観の違い、全部が共存して喧嘩しないようにするためのルール作りですよね。色や機能含めて、減らしていこうという根本的な原則10か条のようなものを最初に作りました。
伊藤:
過去3, 4年で"スマホ最適化"が進んでいますよね。改めて、深津さんがおっしゃられているデバイスごとに起点を変えるというか、ポイントを分けていく必要性について理由をお聞きしてもいいですか?
深津:
僕がアプリ畑だからというのもあると思うのですが、やっぱりiOSとAndroidは完全にOSが違うものですよね。例えば、iOSはバックするときに左上にバックボタンがあるけど、Androidだったら左下の方に物理ボタンとしてバックボタンがある。"戻る"の挙動が根本的に違うんですね。それぞれのルールで最適かつ使いやすいものにしないといけないと考えています。
伊藤:
媒体の特性に合わせたアプリ作りを前提にガイドラインを決めていったというところですよね?
深津:
僕個人の中で注意しなければいけないと思っていたのは、もともと紙の歴史やWebの歴史が長かったので、Webからスマートフォンに持ってきたときに弱点になりそうなものはできるだけ削るというのはすごく意識しました。
伊藤:
例えばどんなものがあったんですか?
深津:
例えば、Webでは細かいことをやりたければカテゴリーを増やして、どんどん階層を深くしていっても大丈夫なんですけど、それは検索やツイッターのおかげで外からダイレクトに入ってこれるからなんですね。ですが、アプリの場合だと外部からアプリに飛んでくることはないので、入り口のトップページからできるだけ階層を浅くしないといけない。4階層のところは3階層にするべきだし、3階層のものは2階層にするべき。

■︎「特色を持たないことが、特色になる」。デザインにみるYahoo!の公共性

伊藤:
アプリと言えば、Yahoo!さんもリニューアルなさいましたよね。背景としては何を重要視していたんですか?
宇野:
Yahoo!ニュースというのは自らニュースを基本的には配信しませんよね。コンテンツプロバイダーさんからニュースを頂いて配信している。そうすると、本来はコンテンツが主役なわけですね。Yahoo!ニュースはデザインも含めて、よく言われるのが"超普通"。まさしくそういったところが"公共性"を表しているのかとも思うのですが、特色を持たないことが特色になるって十分にあり得ると思うんですよね。
深津:
そうですね。UI系は特に目立つことよりも透明であることがわりと重要で、本当に良いUIってそもそも話題にならなかったりもするんですよね。あまりに馴染んで、何も引っかからないで使える。学習しないで使えるから新しい感覚もなくて、むしろ話題がコンテンツの方に集中しているというか、そういう風になるのがニュースアプリのUIとしては理想なんじゃないかと思います。
伊藤:
次のテーマとして、UI/UX視点でみたときのKPI、PDCAをどこに置いているのかをお伺いしたいと思います。宇野さんはYahoo!アプリではどの辺りに置いているのでしょうか?
宇野:
最終的には継続率一点だったりします。当然、CTRも含めてUIのA/Bテストはものすごくします。施策に対して細かくどういう効果が上がったかは見ますが、最終的なゴールというのは継続率を上げること。なので、仮に継続率が下がってしまったら、例えどんなに押される良いボタンでも良い施策ではないということになる。あくまでユーザーさんに長い間使ってもらえるそういうアプリを目指すということですね。
伊藤:
日経新聞さんもPDCAを回すということに関しては、こだわりがあると聞きました。
重森:
内製ですごいスピードでグルグル回せるようになったので、改善はしっかりやっていかないといけないと思っています。課金のコンバージョン率をはじめとしてデータを山ほど取っています。例えば、マイニュースというパーソナライズの機能を使っている人は、そうではない人に比べて解約しにくいということが分かったら、その機能を改善しようとかですね。
伊藤:
提供側がユーザーに使ってほしい機能を詰め込むと、失敗するという定説があります。ビジネスとしてそれをやらないと、課金率・遷移率・継続率などが果たせません、そんなときにどのようにUXを考えていけばいいと思いますか?
深津:
これはUXの一般論というか、個人的な持論なのですが、頭の良い人が最初にビジネスモデルを考えてからユーザーを集めるのってすごく難しいと思うんですよね。必ず「こんなはずじゃなかった」という不測の事態とか、テクニカルな壁とか、Appleのアップデートによる方針転換が生じたりするんですよね。僕がオススメするのはユーザーをとにかく観察して、行動を理解し、ユーザーが集まるものをまず作る。その後で、マネタイズするためのビジネスモデルを頭の良い人やMBAを取ったような人が考えるほうがよっぽどやりやすいんじゃないかと。
伊藤:
ようはGoogleをセルゲイ・ブリンが作って、その後にエリック・シュミットが来ます、みたいな?
深津:
そうです、そうです。あくまで僕の主観ですけど、最初にビジネスモデルを作ってしまうと、その通りにはなかなかいかないので。

■︎UI/UXデザイナーとして、OSのバージョンや機種といかに付き合うか

伊藤:
アプリの重要な課題の一つとして、OSのバージョンとどう付き合っていくか、また機種とどう付き合っていくかというものがあります。まず初めに深津さん、一般論を解説していただけますか?
深津:
iOSはiOS、AndroidはAndroidで国家というか、言語が違うと考えて、それぞれのデバイスに対してローカライズしていくのが一番良い。どうしても予算、スピード、マンパワー的な問題でどうにもならないときには最大公約数的なところを狙っていくんですが、どちらにも矛盾しないで、どっちのガイドラインもクリアしているということを優先するのが良いと思います。
OSのバージョンに関してはUIデザイナー視点でみたとき、ユーザー的な事情と開発的な事情のバランスをどうするのかが大事です。ユーザー的に見れば古いiPhoneでもできるだけ使いたいと思うので、それに応えてあげたいとは思います。ただ、開発者的な視点からみると、応えてしまえばしまうほど、最新機能を生かせないとか、何かを導入できないという問題が発生します。全体の統計で3%くらいのユーザー層のために、残りの97%の人たちにフルスペックの何かを提供できないという事態になるので、どこかのタイミングで進んでいかないといけないと思います。

■︎プラットフォーマーも参戦−新しいニュースの見せ方とは?

伊藤:
ここから新しいニュースの見せ方について話していきたいと思います。iOS 9以降、広告排除の動きなども出てきていますが、今後の動向はどのようになっていくと思いますか?
深津:
ニュースの見せ方としては、ポジティブな話とネガティブな話があると思います。まずポジティブな話としては、ニュースがツイッターに近づいていく。もっと一目瞭然で明快な見出しだけで分かるとか、見出しの下にある3行くらいのものがニュースであって、それを一気に眺めて今日のことを把握する。もっと知りたいときにだけ、もっと深く掘るみたいに。
伊藤:
livedoor ニュースのような?
深津:
そうです。すごく良くできていると思っています。瞬間で把握できるものにどんどん特化していって、情報量に多様性が出てくるという潮流になると思います。逆に心配していることとしては、様々なニュースメディアが一箇所のストリームに集約されていくので、今までよりも釣りに近いセンセーション合戦が始まってしまうリスク。さらには、ポリシーを持った見出し付けをしている会社があっても、似せた後追い記事にトラフィックが流れてしまう恐れ。こういったことが課題になると思います。そことどう戦っていくか。
伊藤:
Appleが発表したニュースアプリ「News」は触ってみてどうでしたか?
深津:
こちらも、すごく良くできていると思っています。特に下のタブバーの設計がよくできていますよね。

iOS 9から新登場したApple公式のニュースアプリ「News」(http://www.apple.com/news/

深津:
ニュースアプリでタブを作るときは、5種類の違うタブ機能を割り振ってます。「はい、終わり」みたいな設計が多いのですが、Apple Newsの一番面白いところは左下の一個に全力投球しているところですよね。一番左下にオススメ記事があって、その隣に自分で手動で入れたものに関するニュースがある。さらに隣に色んな雑誌が載っているものがあって、その隣に検索フィルターがある。左から美味しいものが降っていく設計になっていて、右にいくほど自分で探して、調理していくような設計になっているんですね。

■︎ユーザビリティ、アクセシビリティの究極型

伊藤:
私見でも構わないので、ユーザビリティ、アクセシビリティの究極型のゴールとして考えていることについてご意見を伺えますか?
深津:
読むとか、読まないじゃなくて、朝起きたら知っているというのが良いですよね。そこがベストプラクティスにはあるけれど、テクノロジーとか時代の限界でまだ達成できないので、それにどれだけ近づくのがいいかというのが今起きていることだというふうに思います。
重森:
深津さんのように遠い将来のことは何も言えませんが、経済メディアとして、ユーザーさんが情報を消費してお終いではなくて、我々が"生産材"と呼んでいるものを得ることによって意思決定を支援するような情報の出し方をしたいと思っています。
重森:
深津さんがおっしゃったように「朝起きたら知っている」状態って素敵ですよね。でも僕らは広告モデルをとっているので、それをやると潰れてしまいます。ならばいかにユーザーさんに広告のストレスを感じさせないかにかかっていると思います。最終的に僕自身はUIデザイナーなんて職業はなくなってもいいと僕自身は思っているんですよ。デザイナーに求められているものって今までもめちゃめちゃ変わっていますよね。iPhoneだってまだ6年目とかで、6年前にスマホのデザイナーなんてこの世にいなかったわけですから。
重森:
UIデザイナーというか、デザイナー全般は問題を解決することなので、UIがなくなっても他の問題を解決してばいいかなという気がします。

Yahoo! JAPANほどの大規模なスケールのサイトになると、UI/UX設計において"アクセシビリティ"や"ユーザビリティ"といった視点が不可欠になる。Yahoo!ニュースのUIデザイナーである宇野氏は「特色がないことが、特色となる」と語った。"無色透明であること"がオリジナルコンテンツを配信しない公共的なプラットフォーマーであることの一つの証左なのかもしれない。

ネットニュースの潮流として、深津氏は3行で内容が把握できるlivedoor ニュースを例に挙げていたが、確かに最近支持を集めるLINEニュースをみてもその潮流は認められる。Appleという巨大プラットフォーマーがニュースに参入した今、次なるニュースメディアの形はいかに変わるのだろうか。

【前編】「"プッシュ通知"と"見出し"の役割とは

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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