「身体のデザイン」はファッションなのか? 「バイオ」と「ファブ」のクリエイターが見据える、ファッションの未来

2016.09.28 12:00

テクノロジーの進化によって姿を変えるファッションの未来を体感するイベント 『SENSORS SHIBUYA FASHIONCODE WEEK』。8月19日のセッション「ファッション x バイオ 拡大するFABとバイオがもたらすファッションの未来。」は、ロフトワークが主催する「YouFab Global Creative Awards 2016」とのコラボで行われた。バイオテキスタイル、ゲノム編集、3Dプリンタといったキーワードからファッションの変化を探っていく。

■拡大するFabがキーワードに

3Dプリンタやレーザーカッターに代表されるデジタルファブリケーションと、ゲノム編集などのバイオ領域における新しいテクノロジーは、ファッションのあり方をどう変えるのだろうか。

本セッションを企画した「YouFab」は、FabCafeが主催するデジタルファブリケーションのアワード。3回目の開催となる「YouFab Global Creative Awards 2016」では、拡大するFabをテーマに。今までのようにプロダクトやアートの枠にはまらないFabが、バイオとつながっていくと考察している。本セッションは「YouFab Global Creative Awards」委員長の福田敏也氏がモデレーターをつとめた。

メディアアーティスト、カイコ研究者、そしてファッション紙の記者......当日のセッションに登壇した、バイオやデジタルファブリケーション領域の4人のキーパーソンを紹介する。

■ファッション領域における2つのイノベーションとは?

横山 泰明氏

最初に紹介するのは、『WWDジャパン』記者の横山泰明氏。2014年にWWD JAPANでは特集『2020年 1億総ファッションデザイナー』を組み、3Dプリンタなどのデジタルファブリケーションによって変わるファッションの未来を予測した。横山氏は2014年の段階では「パーソナルファブリケーションは大きな話題でしたが、誰もがファッションデザイナーになる時代はまだ来ないだろうなと考えていたそう。しかし、ファッションの領域で2つのイノベーション――「プロセス・イノベーション」と「マテリアル・イノベーション」が起きているそうだ。

ファッションにおける生産プロセスにまず注目したい。洋服の品種やパーツの多さゆえに、従来は手作業でつくってきたものが、島精機の編み機の開発で1プロセスでつくれるようになった。今後は、3Dプリンタがその製造プロセスを大きく変えていくという。横山氏は2017年に操業予定のadidas「ロボット工場」の事例を紹介。adidasが現在アジアで手作業で行っている靴の生産を、ドイツ国内の本社に近い場所に建設した工場で行うといったものだ。同取り組みを「スピードファクトリー」と呼ぶ。これが洋服の生産における「プロセス・イノベーション」の変遷だ。

「マテリアル・イノベーション」の領域で大きな変化をもたらしているのは、世界初の人口クモ糸繊維を開発したSpiberだ。これまで服の素材としてメジャーだったのはコットンやポリエステルであったが、Spiberはタンパク質を原料にしてポリエステルのような糸をつくることの成功。横山氏によれば、1953年にポリエステルの工業利用が始まり、Spiberが人工クモ糸「QMONOS」の量産化に着したのが2013年。マテリアルの領域では約50年ぶりのイノベーションだという。Spiberは工場生産をベースとしているが、もう少し身近なカイコの量産からも新しい動きが登場している。

■遺伝子組み換えカイコがつくる"新しいシルク"

瀬筒 秀樹氏

農研機構カイコ機能改変技術開発ユニットでユニット長をつとめる瀬筒秀樹氏。遺伝子組み換えカイコによってシルクの新しい姿をデザインしようとしている。

まず最初にカイコの特徴についていくつか挙げてみよう。カイコの繭は1300メートルから1500メートルの1本の糸が連なってできたもの。できたシルクはタンパク質の繊維であるため服をつくろうと思った時に、石油を使わない、二酸化炭素排出量が少ない、土に還るといったサステイナブルな特徴を持つ。

瀬筒氏は、2000年に世界で初めて遺伝子組み換えカイコの開発に成功。その際に「光らせることで細胞の機能を調べやすい」と考え、遺伝子組み換えマーカーとして蛍光タンパク質を使用した。その後、カイコの目を光らせることで光るシルクが誕生し、ひいては「光る服」をつくることが可能になった。

他にも蜘蛛の糸をカイコの遺伝子に組み込むことで、1.5倍切れにくい「クモ糸シルク」をつくったり、カイコの糸を2.5デニールから1.5デニールに変え、世界で一番細いシルクでストールをつくった事例も存在する。

では、遺伝子組み換えカイコをアートやファッションの領域でどのように活用しているのだろうか。メディアアートのスプツニ子!氏とコラボし、グッチ新宿店で「エイミの光るシルク」展を開催。他にも、バイオアートの父であるジョー・デイビスともコラボ。遺伝子組み換えカイコを金属と融合し、金のシルクを生み出す「Bombyx chrysopoeia」というプロジェクトを行っている。

■バイオロジストが注目する「バイオテキスタイル」とは?

清水 陽子氏

現代芸術家でバイオロジストの清水陽子氏。大学では生物化学を学び、その過程で「美しい自然現象や科学的な事象をアートやデザインの分野で生かせないか」と考え、作品づくりを行っている。代表作として、2つの作品を清水氏は紹介した。

1.Photosynthegraph

ギャラリー内に設置された植物ラボ。印刷用フィルムを取り付けて育成される植物たち。日光や植物工場用LEDの照射により、葉緑体はグラフィックパターンに沿って光合成を行う。生命活動によって作られるその図形は儚く神秘的で、地球上にはまだ新しい表現の可能性が無限に存在することに気づかされる。

2.The Clean Room

ギャラリー内に設置したクリーンルームの中でカラフルに増殖する命。細胞群はやがてコロニー(集落)を形成し、集団でさまざまなパターンを創り上げながら、成長・繁栄・衰退を繰り返す。シャーレの中のミクロの世界で生命の神秘と集団社会について考えるインスタレーション。

「芸術と科学の融合」をテーマにバイオアートを生み出してきた清水氏が、ファッションの分野で注目するのは「バイオ・テキスタイル」の領域だ。清水氏はNYブルックリン在住のファッションデザイナー、スザンヌ・リーを紹介。

彼女は、セルロースを生成する微生物を使って、発酵液の中で生地を育てている。お茶、砂糖、バクテリアを混ぜることで繊維ができ始め、最終的には折り重なったセルロースのシートができあがる。そのシートを乾燥させることでパピルスのような質感の素地ができあがるという。

同氏がクリエイティブ・ディレクターをつとめるNYのスタートアップ「Modern Meadow」では、遺伝子組み換え細胞を創り出すことで「動物を殺さない革製品」の開発に成功。生物の細胞を培養するなど、バイオロジカルな素材によってプロダクトを生産する手法を「Biofabrication」と呼んでいる。

清水:
生き物がファッション素材を生み出すバイオマテリアルの多くは、生産物や生産工程がエコロジカルであることも注目されています。バクテリアやカイコに素材をつくらせる「バイオ・テキスタイル」の手法は、最先端のテクノロジーなのにどこか有機的で自然なもの。生き物に近いアートをつくれる時代になったんだなと感じています。

■「身体のデザイン」はファッションか?

SUN JUNJIE氏

最後に紹介するのは、クリエイター、アーティストとして多方面で活躍するSUN JUNJIE氏。東京大学工学部建築学科在学中に、東京大学総合研究博物館と共にアートと科学を横断するプロジェクト 「mode-and-science project」を主催。これまでにダイハツ「コペン」の着せ替えパーツを3Dプリンタでつくる「Effect Skin」プロジェクトや、水泳帽とゴーグルが一体化され、硬質なマテリアルと軟質なマテリアルを組み合わせた形状機構によってどんな頭の形の人にもフィットする「Triton Gear」のデザインを担当した。

また、SENSORSでも以前取り上げたファッションデザイナー中里唯馬氏のデザインパートナーをつとめている。「Yuma Nakazato 2014 Collection」では、「バスケットボールが進化した架空のスポーツのためのウェア」をテーマに、3Dプリンタを活用し、試合をするためのスタジアムとバイク、プレイヤーのスタイルを象徴したボディアクセサリーを制作。

また、「Yuima Nakazato haute couture 2016-2017」では、3Dプリンタを使ってモデルの腕を制作。中里氏はSENSORSのインタビューで以下のように語っていた。

テーマは「UNKNOW(未知なるもの)」です。未来のクチュール(クチュール=仕立て服)のあり方を表現しました。元来オートクチュール、クチュールは体にあわせて裁断します。私が考える未来はファッションデザイナーが身体改造も行ない、体自身をデザインするようになると考えております。よって今回のショーでは、モデルの両腕も3Dプリンターで作りました。腕も長いものもあれば、折れ曲がっているものもある、透明のものある。身体さえも自由にデザインすることが未来のクチュールだと考えました。

主にファッションの文脈でデジタルファブリケーションを活用してきたSUN JUNJIE氏。バイオの領域で注目するのが、MITメディアラボ教授ネリ・オックスマンの作品「Wanderers」だ。酸素や食料を生み出すバクテリアが服に組み込まれ、水と食料を同時に生成することで宇宙でも生きられる服というコンセプト。本作品は、ストラタシス社の3Dプリンタによってつくられている。

SUN:
ストラタシス社は3Dプリンタを用いて実物に近い臓器の3Dモデルをつくる取り組みも行っています。医療現場において、医者が手術の練習に使用し、実際の手術の成功確率をあげることが狙いです。心臓ひとつとっても柔らかい部分と硬い部分があって、実際の心臓の硬さに合わせて3Dプリンタで出力できるようになってきています。

福田 敏也氏

その後、話題は3Dプリンタの様々な活用法へ。

福田:
臓器の3Dモデルを実際に3Dプリンタでつくる動きとともに、人間の皮膚や器官を3Dプリンタで出力する研究も今後進んでいきそうですよね。皆さんの専門領域であるバイオやファブにおいて、最先端ではどのようなことが行われているんですか?
清水:
現在、リコーなど様々なプリンタ機器メーカーがバイオ3Dプリンタを開発しています。怪我や病気で臓器移植が必要な人のためのもので、細胞の塊を積み重ねることで、皮膚や臓器、血管をつくろうとしています。
瀬筒:
私の場合は、3Dプリンタの樹脂をカイコのタンパク質に変えてプリントしてみたいとずっと考えています。例えば、シルクで心臓の形をラフにつくって、シルクを足場としてiPS細胞をそこに生やして心臓をつくるようなことをやってみたいです。タンパク質やシルクは身体に埋めると自分の組織に入れ替わっていく、リモデリングの特徴があるので再生医療に活かせないかなと。
福田:
先ほど3Dプリンタを使ってモデルの腕を制作した事例であったり、陸上選手が義足を使って高い身体能力を発揮したりと、人間の肉体を拡張する話があったじゃないですか。服は肉体性の延長にあるものなので、「私たちが身につけている服は、皮膚の上にあるもう一本の皮膚である」といった考え方をすれば、デザインの対象に肉体そのものも入っていきますよね。
SUN:
そうなんですよ。積極的に腕を切ったりくっつけたりしようとは思わないんですが(笑)、遠い未来には「身体をデザインする」ことも起こり得ると思っています。遠い未来の話として身体をデザインする。装飾品を身にまとうのではなく、体ごと装飾品にしてしまうような世界が来るのではないかと。
横山:
関連した話をすると、最近では「ゲノム編集」という技術が出てきています。遺伝子を改変することで、顔や体型から性格や知能まで望み通りに変えてしまう技術です。今後10年で、遺伝子改造や人体改造を人間に対して行っていいのか、倫理的な側面からの議論も盛んになりそうですね。

「ゲノム編集」や「バイオテキスタイル」といったキーワードひとつとっても、その先端事例には「ここまで時代は進んでいるのか」と驚かされるばかりであった。ファブやバイオにおけるイノベーションがファッションの領域に入っていくとどうなるのか。その最先端を体感できるトークセッションになっていたのではないだろうか。機械と生物、身体と服の境界が曖昧になる中、今一度ファッションの本質に立ち返ることで、そこから未来が見えてくるだろう。

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取材・構成:岡田弘太郎

1994年生まれ、慶應義塾大学でデザイン思考/サービスデザインを専攻。「SENSORS」「greenz.jp」「Biz/Zine」などの媒体で執筆しています。 主な取材領域は、音楽、デザイン、編集、スタートアップなど。

写真:松平伊織

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