『宇宙兄弟』担当編集者の描く、作品への"愛"を育むコミュニティ作りとは

2015.12.24 09:30

漫画家・小説家などのクリエイターのエージェント「コルク」で『宇宙兄弟』著者の小山宙哉さんや作家・平野啓一郎さんを担当する仲山優姫さん。仲山さんは"コミュニティプロデューサー"として、担当作家のファンを増やすべく、オンライン・オフラインで幅広く活動を行っている。
仲山さんが、作家の頭の中を"パブリッシュ"すべく日々行っている、ファンのコミュニティの育て方とは?かねてから夢だったというエンタメ業界に携わる中で、まだ定義されていない"コミュニティプロデューサー"という職種ならではの役割を日々模索しながら奮闘する仲山さんに、クリエイターとファンの架け橋として、どのような仕事をしているのか、じっくりお話を伺った。

SENSORSがコルク・仲山さんのことを知ったのは、11月に行われた「TOKYO DESIGN WEEK 2015」のトークセッションにおける塩谷舞さん(PR・Web編集者)の言葉からだった。コルクのプロジェクトにも多く関わる塩谷さん。『宇宙兄弟』のメールマガジンの原稿を書いた際に「塩谷さんをどうか愛させてください。読み終わったあと、塩谷さんを好きになりたいです」という戻しをしたのが、この仲山さんだったそうだ。作品のファンも数多く購読しているメールマガジンの中で、ファンがその世界観を愛せるように、塩谷さんの書く文章もその世界観の中で愛してもらえるように...そうして上述の戻しを行った仲山さん。(詳しくは「クリエイターの為に」表現を続ける、Web編集者・塩谷舞の流儀 参照)

物語の世界観を大切にしながらファンのコミュニティを育てていく。漫画家・小説家などのクリエイターをエージェントする「コルク」の中で、コミュニティプロデューサーとはどんな役割なのか。今回は、作家たちを陰で支えファンのコミュニティを育むことに全身全霊をかける仲山優姫さんの人物像に迫りたい。

仲山優姫さん(コルク コミュニティ・プロデューサー。担当は『宇宙兄弟』小山宙哉氏、作家・平野啓一郎氏)

■「作家の頭の中をパブリッシュする」コミュニティ・プロデューサーとは?

--"コミュニティプロデューサー"という、聞き慣れない肩書きでお仕事をされていますよね。実際に日々はどんな業務をされているんでしょうか?

仲山:
まず、編集者としての仕事はすべて行います。作品について調べたり、原稿を取りに行ったり、入稿作業をしたり。さらにSNSの運用、ファンクラブイベントの開催、ムック本やグッズなどの企画販売、小山宙哉に関わるあらゆることを仕事にできます。例えば『宇宙兄弟』だと、「宇宙」に関わることは何を企画してもいいんですよ。

小山宙哉公式サイトは現在、最新27巻特別仕様となっている。(http://koyamachuya.com/

--大きな目的としては、小山宙哉さんや『宇宙兄弟』のファンのコミュニティを育てるということですよね?

仲山:
そうですね。それが最も大きな目的ですが、今はまず小山宙哉公式サイトに人を集めることからはじめています。サイトから登録できるファンクラブにメール配信で情報を届け、その中で楽しんでもらえるイベントを企画します。すると、『宇宙兄弟』を好きな人が集まるコミュニティができ、さらにそのコミュニティが盛り上がることを考え、場を育てていきます。まだ構想中ですが、掲示板を作り、感想だけでなく、ファンの方が感じたことを表現できる場所をつくることも考えています。

--そこのサイトにつながるような施策を、どんどん打っているということでしょうか?

仲山:
「作家さんの頭の中をパブリッシュする」ということをコルクは掲げています。作家さんが持つ世界観というのは必ずしも作品の中だけではなく、その作品から派生するもの全てが(作家さんの)頭の中にあることだし、選ぶものも、好きなことも、全部作家さんから出てくるものですよね。作家から創り出されるモノとファンの方をつなぐというのが私の役目です。
"コミュニティ"とは何か?というのは今も模索中です。自然発生するものなので、統制しようという気はさらさらなくて、『宇宙兄弟』というタイトルをいろんな楽しみ方で接してほしいんですね。そこで生まれる作家とファンのグループが、コミュニティと呼べるかもしれないです。

■ファンの声を大切に、ヒントはAKB48

--塩谷さんがイベントでおっしゃられていた、仲山さんのメルマガに対する戻しの「塩谷さんをもっと愛させてください」という言葉の真意も、コミュニティの雰囲気や空気感を保つためだったのでしょうか?

好きな漫画は『ハンターハンター』、『よつばと!』、そしてもちろん『宇宙兄弟』

仲山:
塩谷さんは形式ばった記事よりもSNSで人の目を引くようなものを作るのが上手いという認識を持っていました。塩谷さんにはアルマ天体望遠鏡の取材とレポートもお願いしていたのですが、メルマガで宇宙兄弟のファンの方とアルマの記事をつなげるのはけっこうセンスが必要なことなんですね。楽しんでもらいながら、一見小難しいアルマのことを知ってもらわないといけないからです。はじめ原稿を見た時に、塩谷さんのいつもの愛らしいキャラクターがもっと出て、ファンの方が「このレポートを書いてくれてありがとう」と思えるような文章にしてほしいなって思ったんです。いいモノを作るために、作家さんにしても、デザイナーさんにしてもその人がやる気になって、テンションが上がるような頼み方をすることは心がけています。そっちの方がいいモノができる可能性はあがるし、なにより楽しいですしね。

コミュニティを育んでいくために欠かせないのは、「何をしてほしいのか?」ファンの希望に耳を傾けることだという。仲山さんが参考として挙げたのが、プロデューサーの秋元康氏がしばしば劇場に自ら足を運び、ファンの人の声を直接聞いていたという初期のAKB48だ。

仲山:
もちろん漫画家とアイドルは仕組みは違うんですけど、ファンの人が喜んでくれるように、意見を聞くことはします。例えば『宇宙兄弟』に出てくる「絵名」というキャラクターが妹にヘアピンをもらうエピソードがあるのですが、LINEで1万人くらいから返事が来たアンケートでダントツこの"絵名のヘアピンが欲しい"という声が多かったんです。実際にあったら本当に可愛いだろうなと「絵名の惑星ヘアピン」として作ったところ、非常に好評でした。

アイテム化され大好評だった「絵名の惑星ヘアピン」(©Chuya Koyama)

■「面白いことを、面白い人と」今後も"ココロが跳ねる瞬間"を追いかけていく

--コルク採用ページでのインタビューで「物欲よりもエンタメ欲」という話をされていたことが印象に残っているのですが、そういった価値観に至るまでの原体験はあったのでしょうか?

仲山:
原体験は、自分自身が漫画で救われたことですね。小学生の頃はすごく冷めた子だったので、「なぜ、みんなそんなに必死に縄張り争いをしているんだろう」と悩んでいた時期もあったんです。でも『こどものおもちゃ』という作品を読んだことが私を救ってくれました。元気なキャラクターが主人公なんですけど、実は抱えきれないようなものを背負っていて...全員それぞれに悩みがあるんだなって。私は悩みを抱え込んでしまうタイプだったのですが、紙に書くことで整理する方法も学んだし、そもそも自らを知り、心を人に見せることの大事さを教わりました。作品を読んで以来、人に対する見方も変わったし、その作品と、この作品をつくった作者の方にすごく感謝したんです。「漫画はすごい」という思いが今でも根底にあります。

私自身、すごく好きなものを摂取している時間に味わう幸福感に非常にこだわっていて、基本は"平均のもの"に興味がないんです。世の中のモノは「すごく好き/ある程度」の二つにしか分けていなくて、エンタメにしてもすごく好きな映画・漫画・アーティスト、そうでもない映画・漫画・アーティストという風に二つに分かれます。私はそのすごく好きな方に関わっていたいし、その人たちとモノを作りたかったというのが根本的に思っていたことですね。

--「ココロが跳ねる瞬間」を求めてコルクに入社したということでしたが、今まで働いてきて特に印象的だった場面を教えてください。

27巻ラストシーン、せりかが宇宙に浮遊する様子を書き直す作者・小山宙哉氏。

仲山:
『モーニング』に掲載されてから単行本にする際に、小山さんは原稿の直しをされることがあるんですね。こちらとしては時間もないし、できるだけ早く原稿作業を進めてほしい思いもあるのですが、27巻最後のシーンを描き直すというんです。宇宙の無重力空間を漂うせりかの"浮遊感"を出すために徹底的にこだわり抜くことで、このシーンのせりかをもっと人に伝えたい、感動を届けたいと小山さんは描き直していく。仕事場に行ったときに偶然その様子を見たんです。一度描き上げたせりかの姿を、もう一パターン描かれていました。このエネルギー量に触れたときに「きっとこれが一流なんだろうな」と思いました。そのエネルギー量で描かれている『宇宙兄弟』をもっと伝えられるように、これからも色々なことを企画していきたいですね。

ファンであれば、自分が敬愛するアーティストやクリエイターの頭の中を覗き込み、いつまででもその世界観や物語性に触れていたいと望むものだ。コルクが掲げる「作家の頭の中をパブリッシュする」というコンセプトはまさしくそうした願望に応えようとするスローガンに他ならない。仲山さん自身は"コミュニティプロデューサー"という職種の役割について、まだ答えを模索している最中だというが、今回のインタビューを通じてその職種の像が輪郭を持って浮かび上がった。
作家とファンそれぞれに寄り添い、リアルとWebを自由に横断していきながら、同じ物語の中にいる両者が共有できる心地のよい空間を提供していくことが"コミュニティプロデューサー"という存在なのかもしれない。

今回取材した仲山さんは、実は今の仕事に至るまで意外な経歴をたどっている。続編では、その仲山さんのパーソナルな部分にフォーカスする。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。好きな漫画は『最強伝説 黒沢』、『島耕作』シリーズ、『ハンターハンター』、『宇宙兄弟』等。
Twitter:@_ryh

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