『宇宙兄弟』担当編集者が、一般企業勤務〜アルバイト経験を経て"エンタメ業界"に飛び込むまで

2015.12.25 10:00

漫画家・小説家などのクリエイターのエージェント「コルク」で『宇宙兄弟』著者の小山宙哉さんや作家・平野啓一郎さんを担当する仲山優姫さん。仲山さんは"コミュニティプロデューサー"として、担当作家のファンを増やすべく、オンライン・オフラインで幅広く活動を行っている。

前編「『宇宙兄弟』担当編集者の描く、作品への"愛"を育むコミュニティ作りとは」では、"コミュニティプロデューサー"としての現在の活動について伺った。

今はかねてから夢だったというエンタメ業界で働く彼女だが、実は新卒ではまったく異なる業種(人材会社)に就職、退職後は副業としてアルバイトを行う時期を経て、まずは「無給でもいい」とコルクに飛び込み、インターン期間を経て正社員となったという独特な経歴を持つ。続編となる今回は、そのキャリアについてじっくり振り返って頂いた。"夢だった"という仕事に飛び込むまで、こんな道のりもあるーーそんな仲山さんのストーリーをお届けする。

yuhi_nakayama_2_1.JPG

仲山優姫さん(コルク コミュニティ・プロデューサー。担当は『宇宙兄弟』小山宙哉氏、作家・平野啓一郎氏)

■「鼻もへし折られたし、頑張ることがダサいと思わなくなった」新卒時代

--コルクに入社されるまでの経緯を、改めて伺えますか。

仲山:
もともとエンタメ業界に行きたいとは思っていたのですが、実は新卒で入社したのは、人材系の会社です。そこではバリバリの営業職で、コンサルのような形で企業さんの採用の方針などを伺いながら、求人情報を載せてもらうという仕事をしていました。

--もともとエンタメ業界に行きたかったという思いの中、新卒で人材会社に入社されたというのが異色のキャリアだなと、コルクの採用ページでのインタビューを拝見した時に印象に残っていました。その当時は、どういう思いで毎日過ごされていたのでしょうか?

仲山:
もともとは二、三年で転職しようと思って入ったのですが、どうやら性格診断テストをするとストレス耐性が強いという結果が出たようで、すごくハードな部署に入ることになりました。その分すごいスピードで様々なことを学ぶことができ、結果思っていたより早く転職を決意できました。
新入社員が先輩に付き添ってもらう4月の時期に「仲山ちゃん行けるでしょ」と、現場に投げ出されていましたね(笑)。
新卒では第一志望のエンタメ業界に行くことが出来なかったんですが、当時は面接がすごく苦手で、うまく喋れなかったんですね。だから「伝えることをもっと訓練しないとな」と営業を選んだということもありました。

さらに今までの人生を思い返すと、全部80%位の力でしか頑張ってこなかった気がしていて、そんな自分が嫌で、社会人一年目のタイミングの今、変わらなきゃなって強く思っていました。その時、新人の中で圧倒的な業績を残すともらえる新人賞があることを知り、だったらこの賞を獲れるくらい頑張ろうと、それこそ100%の力で挑みました。一番になったら転職するときにも「私はこの会社で一番だったので、あなたの会社でも働けますよ」と言えるようになるので説得力も出るだろうなと。

--新卒として入ってすぐなのに、勇気ある覚悟ですよね。

仲山:
生意気だったと思います。でも、すごく理解をしてくださる上司で、じゃあ賞を取るためにこういうスケジュールを組もうかと一緒に考えてくれて。そこからは修行僧みたいな生活でしたね。折れそうになったときは想像するんです「また80%位の力しか出せず、やりたいことにたどりつかない自分を...」。すると、すごく怖くなってきて。でもそれがパワーになるという、そんな時期でした。

それまでは頑張ると疲れるし、ほどほどに生きてきたんですが、上司にも恵まれ「やりきる」ということを徹底して教えてもらいました。染み込むくらい...。すると頑張ることがダサいと思わなくなったし、やったらちゃんと結果って出るんだということもその時に学んで。鼻もへし折られましたし。

--鼻をへし折られたというのは、例えばどんな時にですか?

仲山:
一個上の先輩にとにかくボキボキにされました。私は、考えてから行動する、今思うと理屈ばっかりの頭でっかちなタイプだったのですが、その先輩には考える前にとにかく行動しなさいと言われました。よく言い合いをしましたが、指摘されることは間違っていないんです。結局は自分が間違っていることばかり。先輩に指摘されたことの修正を繰り返す内に気づけば、圧倒的な行動量が成果に結びついていました。先輩に言われたことを信じて、動いてみる。理屈ばっかりで行動しないことのリスクを体感しました。もし当時の経験がなかったら、今、代表の佐渡島とも喧嘩ばかりしてたかもしれないです(笑)。
yuhi_nakayama_2_2.JPG

--今お話を伺っていてもすごく物腰柔らかな印象ですし、塩谷さんとのチャットワークのエピソード(「「クリエイターの為に」表現を続ける、Web編集者・塩谷舞の流儀」参照)なども含めて、すごく相手のことを考えてコミュニケーションを取られているのかなと感じるのですが、当時はもっとガンガン言っていく感じだったんですか?

仲山:
当時はたぶん尖っていましたね。でも、今は絶対的に自分が正しいと思うことはなくなっています。そう思うようになったのは、人材会社を辞めてからコルクに入るまでの間、飲食店のアルバイトもしていた時期があって、その経験も大きいです。

--新卒での会社を退職後、コルクに入社されるまで、さらにそういった時期も経ているんですね。

仲山:
(人材会社を辞めた後)「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の著者・岩崎夏海さんの元で半年間動画制作のディレクター職をしていたんです。その間、副業でアルバイトをしていました。
中目黒の飲食店なのですが、場所柄、広告代理店・メーカー・IT...本当に様々な方が来られるんです。けど、そのお店では肩書きは関係なく「お客さん」ですよね。一方で私も「ただの店員」になるわけだし、相手が偉い・偉くない関係無しに、ちゃんと対話していかないといけないわけです。色んな人と色んなお話をする環境の中、本当に様々なお話を聞くことが出来たので「自分が想像出来ることって、実はそんなにないな」と思うようになりました。つまり、絶対的に自分が正しいなんて思っちゃうと、自ら視野を狭くして世界をみていることになる。極端に言うと明日何が起こるか分からないし、それだったら今出来ることをやろう、という考えを持つようになっていました。

--ちなみにもともとは、コルクという会社を知ったのはいつ頃ですか?そして、アルバイトも副業としてやっていた頃、コルクに飛び込もう!と思ったきっかけはなんですか?

仲山:
社会人1年目(2013年)の5月頃ですね。「これからの編集者はこうなる」というような記事を読んで「ああ、こんな風に働きたいなーと漠然と思ってたいことがそのまま書いてあるな」と印象に残っていたんです。
最初は、せめて社会人で3年は働いて3〜4年後とかに行けたらと思っていました。ただ、アルバイトも副業としてやっていた頃、「社会人になってから突き進んできたけど、本当に好きな事出来るのかな」と考え始めていた時に、改めてコルクを調べてみたら、その社会人1年目の5月の時の同じ印象を持ったんですね。

こんなに自分のやりたい事と近いなら、「そこにまずは属そう、いつ行っても一緒だな」と。何年経って何が変わるかも分からないし、とりあえず入れたら入ってダメだったらしょうがないなって、インターンとして無償でもいいから、とコルクに入りました。今思うと、逆にそれが良かった。
一旦給与は度外視しても、作家さんとお仕事出来ることはは本当に嬉しかったし、目の前にあるできることをしていき、飛び込んでから三ヶ月後位には正社員にというお話を頂いて、今に至ります。

■「なんか面白いことをしたいな」と思った時に、実現出来る人でありたい

--紆余曲折を経て、元々行きたいと思っていたエンタメ業界で活躍する今、楽しさは予想通りですか?予想以上ですか?

仲山:
予想通りに楽しいです。予想以上というところでいうと、やっぱり平野啓一郎さんと小山宙哉さんと想像以上のスピードで仕事を出来ているということは刺激的です。あとは、そのお仕事を通して新たな方と出会えることですね。『宇宙兄弟』のTwitterアカウント運営を通じて、すごく美しい写真を撮られる写真家のKAGAYAさんとご連絡を取るようになり、公式サイトで連載して頂けるという出会いがある。この人とこういうことをしたら面白いかもしれないと考えて、実際に企画として実現出来ることは楽しいですよね。もちろん、そのためには結果と信頼が必要ですが。
社内でも、とある目標があって、それを達成したら好きなことを一個していいよと言われていて、『宇宙兄弟』を担当しているから「NASAのあるヒューストンに行きたい」と言ったら、実際に達成してしまったので、「じゃあ、今度取材として行って来なよ」という話になっています(笑)。
yuhi_nakayama_2_3.JPG

--今、エンタメ業界の最前線にいらっしゃる仲山さんが、今後なっていきたい理想像があれば、お聞かせ頂けますか?

仲山:
そうですね...「なんか面白いことをしたいな」と思った時に、実現出来る人で常にありたいです。例えば担当している作家さんが「個展を開きたい」という事になった時、その方がどんな担当者とパートナーになるかで大きく結果が変わると思います。その時に、サイトも作れるし、ディレクションもできるし、その活動を広めるためのプロモーションも出来ます、というように、作家さんのやりたいことを実現する為には、私も実績を積んでおかないといけないし、表に出て発信していかないといけないし...。何かしらの分野で担当が活躍するほど、作家さんもあらゆる分野でよりお仕事がしやすくなるとは思っているので。

特にいまは「コミュ二ティづくり」について模索中です。小山宙哉であれば、小山宙哉を「世界的な漫画家にしたい」というファンの方の声を集め、コミュニティを作り上げていくでもいいですし、ただシンプルに小山さんの作品を楽しむファンの方のコミュニティを活性化する仕組みをつくるでもいいと思うんです。その作品を楽しんでくださっている方々が何を求めているかを知った上で、そのコミュニティを盛り上げていけるように、私は動いていければと思っています。

取材からこの記事公開までの間も、『宇宙兄弟』と映画『オデッセイ』とのコラボレーションが発表された。今も、精力的に担当作家の世界観を拡げていくべく、奔走している仲山さん。
かねてからの夢だったというエンタメ業界に身を置きながらも、お話を伺っていると「作家さんの頭の中を表現していきたい」「ファンの方に喜んでもらいたい」と、地に足をつけしっかりと今やるべきことを見据えている印象を受けた。
その背景には、きっとこれまでの異業種での経験も活きているのだろうと、あえてこれまでのキャリアにフォーカスして"続編"として公開させて頂いた。「こういったステップアップの仕方もあるかもしれない」と、一つのヒントになれば幸いだ。

取材・文:市來孝人

SENSORS Managing Editor
PR会社勤務ののち、かねてより旅行でよく訪れていたロサンゼルスに在住。帰国後、福岡やシンガポールのラジオDJ、東京でのMC・ナレーター、ライターとして等の活動を経てメディアプランナーとして活動中。また、タレント・企業トップなど個人に特化したPR・ブランディングにも携わっている。

Twitter:@takato_ichiki
Instagram:@takatoichiki

最新記事