ミシンを捨てデジタルファブリケーションを武器にパリコレに挑む、ユイマ ナカザトの挑戦

2016.08.19 13:00

モリハナエ以来のパリ・オートクチュール・コレクションにチャレンジした日本人(12年ぶり)がいる。彼の名前は中里唯馬(ユイマ ナカザト)。彼はファッションデザイナーの名門校アントワープ王立芸術アカデミーを卒業し、由緒正しきファッションの教育を受けつつ3Dプリンター等デジタルファブリケーションを駆使した新しいファッションのあり方を提示している。ファッションをアップデートする目的を持ちテクノロジーを活用チャレンジするその姿は美しい。中里氏にパリコレクションへのチャレンジ、テクノロジーをファッションに活用すること、人間とファッションの未来を伺った。

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パリ・オートクチュール・コレクション終了後のユイマ ナカザトを取材。彼の背景にはコレクションの服が、手前にはモデルが着用した3Dプリンターで作った腕がある。

パリコレクションは"オートクチュール"と"プレタポルテ"があるのだが、最近の動向では、プレタポルテよりもオートクチュールに参加するブランドの増加率が向上している。それは消費者が大量生産(プレタポルテ)よりも個別最適化された衣服(オートクチュール)を好むようになってきている時代背景があると中里氏は語る。デジタルファブリケーションはマス・カスタマイゼーションという流れも加速させる。ファッションデザイナーとして中里氏はこの時代の流れ、テクノロジーの進化をどのようにとらえているのだろうか?

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ユイマ ナカザトのパリ・オートクチュール・コレクション。
テーマは「UNKNOW(未知なるもの)」。Photography by SHOJI FUJII

■日本人として12年ぶりにパリ・オートクチュール・コレクションに参加した中里唯馬

--パリ・オートクチュール・コレクション成功、おめでとうございます。今回の挑戦を教えてください。

中里:
今回私が挑戦したパリ・オートクチュール・コレクションは、老舗ブランドが常連でおり、新参者は参加が難しいショーです。狭き門なのですが毎回数組ゲストとして招待してもらえます。今回、私もありがたくその1ゲストブランドに選ばれました。ただ、無名に等しいのはうちだけで・・・裸一貫敵陣地に飛び込む勢いで挑戦しました。ただ、結果としてはショー終了直後のバックステージにメディアが多く駆けつけ、パリコレクション終了後に世界中のメディアで紹介され、一ヶ月経ったいまでも取材が入るのでかなり手応えを感じております。

--どのような作品を紹介されたのか教えてください。

中里:
テーマは「UNKNOW(未知なるもの)」です。未来のクチュール(クチュール=仕立て服)のあり方を表現しました。元来オートクチュール、クチュールは体にあわせて裁断します。私が考える未来はファッションデザイナーが身体改造も行ない、体自身をデザインするようになると考えております。よって今回のショーでは、モデルの両腕も3Dプリンターで作りました。腕も長いものもあれば、折れ曲がっているものもある、透明のものある。身体さえも自由にデザインすることが未来のクチュールだと考えました。

■身体をデザインすることが未来のクチュール

--モデルの身体の一部(今回は腕)もファッションデザイナーがデザインしてしまうのですね。

中里:
本当はモデル自体3Dプリンターで作ろうとおもったのですが、さすがに生々しさが消えてしまうので諦めました。どれだけ精巧な3Dプリンティングやロボティクスの動きがあったとしても人間のモデルの表情はまだまだ出せないかな、と思っています。
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ファッションデザイナーがモデルの身体もデザイン。ユイマ ナカザトは腕を3Dプリンターで作った。Photography by SHOJI FUJII

--ロボットの進化も目をみはるものですし、臓器が作れる3Dプリンターも出ていたりしていますが、ファッションモデルとしてはまだまだなのですね。

中里:
今回モデルには重量のある3Dプリンティングの腕を付け、高いヒールの靴でランウェイを歩いてもらいました。モデルにとってはとても過酷なショーです。その過酷な環境でランウェイを無表情で歩いて欲しいと依頼したのですが、彼女達モデルが転ばないように緊張しながら歩く、その空気感もショーのひとつなのです。これが3Dプリンティングや精巧なロボティクスでやってしまうと、その空気感が出せないのでやはり生身のモデルにお願いしました。
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3Dプリンティングの腕を付け、高いヒールの靴でランウェイを歩く。
Photography by SHOJI FUJII

--何故中里さんは身体の一部をデザインしようと思ったのでしょうか?

中里:
3Dプリンティングの腕だけではなく、今回服そのものも細胞をイメージしております。そしてミシンをほとんど使わずに3Dプリンター、カッティングプロッター、UVプリンターだけで服を仕上げました。なぜ身体性にこだわったかというと、今後個体差が曖昧になっていくと思っています。整形に近い話ですが、医療やテクノロジーの進化によりコンプレックスがなくなる時代になると思います。そのような時代にはファッショントレンドは着用する服だけではなく、身体そのものにも影響すると思っています。今年流行の腕の長さにあわせて腕の長さを変える、といった感じに。ただ、個体差がなくなると羞恥心もなくなるので、人が服を着る原始的な欲求(裸を見られたら恥ずかしい)が不要になるのではないか?ということも考えられます。個体差が無くなれば、誰の体も一緒だから見る方も見られる方も差異がなくなりますからね。

何故私が「身体の一部をデザインしようと思った」のか? それはファッションデザイナーとして来るべき未来に「ファッションがどこまで必要になるのか?」ということを追究したかったからです。今回のパリコレクションを機会にとことん追究したかったのです。さて、コレクション終了後の現時点での私の出した結論は、人間はやはり身体の個体差がなくなろうとも「美しくいたい」という欲求は消えないのではないか?ということ。よって、美しくなるためのファッションの需要はなくならないと信じています。

■異業種コラボを行うことがファッションの未来を創る

--中里さんはミシンをほとんど使わず3Dプリンターやカッティングプロッター、UVプリンターを活用し、そしてアルミ工場の方と組んで靴を仕上げられています。そのようなことはファッションの学校で学んだのでしょうか?

中里:
いえ。ただ、積極的に異業種の方とお話をするように心がけています。例えばファッション業界にずっといる方に相談すると「そのテーマは10年前に誰それが取り組んだテーマだね」と過去のファッションアーカイブからの回答となってしまうのですが、同じ質問を建築家やエンジニアに投げかけると別の形で回答が来る。それが新しいアイデアとなる。私は服を糸、素材から作りたいという欲求もあります。その欲求に素直に従うと、素材を作っていたり新しいパターンを作れそうな異業種の方々とのコラボレーションが必要になってきます。
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不自然な腕、と見られるがファッションにあわせて"腕を仕立てる"時代も来るだろう。
Photography by SHOJI FUJII

--今回のショーでも異業種の協力含め数百人規模が関わっているとお聞きしております。どうやったら異業種コラボレーションを成功させられるのでしょうか?

中里:
私のチームは少人数で、そして予算もけして潤沢ではありません。ただ実現したい世界を作るためには異業種の専門家に協力を仰がなくてはなりません。その際に心がけているのは実現したい世界を、こちらも手を動かして伝えること、そして相手の立場や仕事をリスペクトし理解した上でお話に行くということです。例えば今回のショーで利用した靴はアルミ工場に協力を仰ぐ必要がありました。その際には、彼らのビジネスを理解した上で我々としてもプロトタイプをいくつか実際につくって持ち込みました。彼らが仕事しやすくなるように、協力しても価値があるとおもう取組にするためにはこちらが準備をしていく必要があります。

--今後異業種コレボレーションが必要になる時代に参考になります。また、テクノロジーから遠いと思うファッションデザイナーがデジタルファブリケーションンを使いこなしているのも驚きです。

中里:
表現したいものを形にするためにデジタルファブリケーションツールが必要だったから使ったのです。ただ、本当は既成品の3Dプリンターを使うのではなく、ファッションのための3Dプリンターを作りたいと思っています。目的をもったツールやテクノロジーが次の世界を作ると考えているので、「3Dプリンティングのための3Dプリンター」ではなく、ファッションのための3Dプリンターが必要だと思っています。テクノロジーの無駄遣いはもったいないと思っています。

--中里さんに活用してもらいたいと願うテクノロジーは沢山あると思います。本日はありがとうございました。

中里氏と筆者との関係は彼が2016年7月のパリ・オートクチュール・コレクションにチャレンジする半年前に始まる。ファッション専門メディア「WWDジャパン」記者の横山氏が「正統派ファッションデザイナーなのにテクノロジーを積極的に活用する中里氏を紹介したい」という紹介から始まった。デジタルファブリケーションのツールである3Dプリンターやレーザーカッターなどは施設が充実し扱いやすくなってきている。ただツールを使うことを目的に作品を作ってもどうしてもアウトプットクオリティがイマイチになってしまう。今回取材した中里氏はファッションデザイナーとして新しい服のあり方を提案する、というゴールのもとテクノロジーを活用することにより、世界中のメディアが注目する作品を仕上げた。今回の取材を通じて筆者が学んだことは「目的をもってテクノロジーを活用することが真にテクノロジーをアップデートさせる」「異業種とコラボしながらモノづくりをするためには、相手を理解し、自分も汗をかいて努力を見せる必要がある」ということである。テクノロジーだけが進化するのではない。我々が目的をもってテクノロジーを進化させるべきなのである。異業種コラボは誰かが進めてくれるのではない。自分が汗をかいて相手を理解し、理解してもらう努力をしてもらう必要があるのだ。

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※関連イベント:ユイマ ナカザト氏のパリコレクションへの挑戦の様子は伊勢丹新宿店本館2階のTOKYO解放区で8月22日までチェックできるそうだ。

ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後外資系企業のフィールドマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブ会社のプロデューサーを経て2014年株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集、ベンチャー向けのメンターを行う。Mistletoe株式会社フェロー。

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