「いつか故郷を豊かに」熊本在住の女子大生リモートワーカー大﨑祐子の挑戦とビジョン

2015.07.23 08:30

今回は、これまでもSENSORSで追いかけてきたロボットクリエイター「きゅんくん」のマネジャーを務める女性に注目する。彼女の名前は大﨑祐子。なんと熊本在住の21歳、現役の女子大生。東京から約1300キロ離れた場所から「リモートワーク」という働き方で彼女は様々な活動を展開していた。クリエイターのマネジメントのみならず、企画・広報・秘書業務、そして営業までを、あくまで「熊本」を拠点に、東京の顧客へ向けて行っているという。コミュニケーションツールを自在に駆使しながら、彼女が実践する「リモートワーク」という地理を越境した新しい働き方は、地方で働く女性にとって新しい可能性を呈示するかもしれない。

(2016年1月追記)
2015年人気記事10選」入りを受け、最新コメントを頂きました!

大﨑:
おかげさまで、記事が掲載された後はたくさんの方から「あの記事読んだよ!」と言っていただきました。また掲載後、特に秋からは広島や鹿児島、福岡での講演のお声かけをいただいたり、新しい方向性のお仕事をもらうようになったりと、今まで気づいていなかった自分の可能性を、この記事がきっかけで見つけることができました。
おととしはひたすら「成長すること」を目標としてがむしゃらに行動してきた1年でしたが、昨年は成長するための行動とあわせて、「思考すること」や「言語化すること」に時間をかけることができました。
そして今年はいよいよ社会人になりますが、今までどおり自分としてのありたい姿を忘れることなく、マイペースに笑顔で頑張りたいと思います。

大﨑祐子(おおさきゆうこ):
1993年生まれ、21歳。熊本にいながら東京や海外の人と「リモートワーク」で仕事をこなす"リモートワークを頑張る女子大生"。 ITベンチャーや若手起業家コミュニティの営業や企画を経験後、現在は若手クリエイター「きゅんくん」のマネージャー、 (株)QREATOR AGENT代表取締役秘書、(株)Caster広報・ブログ編集長など、「企画・営業・広報」を大学在学中からリモートワークで実践。

第一回「SENSORS CAFE」(若き女性クリエイター・きゅんくんと近藤那央がロボットに見いだす新世代の感性)、この対談のセッティングを通じて知り合ったのが、きゅんくんのマネジャーで、現役女子大生でもある大﨑祐子だ。
当初海野は対談取材の準備になんの違和感もなく彼女と連絡を重ねていた...ヤリトリを加速させるためにFacebookメッセージを用いる段階になって初めて気づく。「このマネジャー、熊本在住で仕事しているのか!」さらに聞くところによると、クライアントであるきゅんくんとリアルでは一度しか会っていなかった!しかしきゅんくんと彼女の連携は完璧。熊本と東京という距離を越えた鮮やかなリレーションシップに、海野は強く惹きつけられた。そこで、たまたま上京するという彼女の時間を確保してインタビューを申し込んだのだった。

現在はQREATOR AGENT代表・佐藤詳悟氏の秘書、株式会社Casterの広報・ブログ編集長を務めながら、企画や宣伝・広報、さらには営業までもこなす。コミュニケーションツールを活用しながら、地理を越境した働き方"リモートワーク"を実践・発信する自身のブログ「リモートワークを頑張る女子大生のブログ。」は地方の学生を中心に支持を集め、livedoorブログのキャリアカテゴリで1位になった。

地理的障害を軽やかに越えて幅広い業務を自由にこなしながら、新しい働き方の発信にも余念がない彼女。苦労や工夫も含めた「リモートワークとは何か?」にはじまり、自身のキャリア観と今後の展望についてSENSORSクリエイティブディレクター海野が話を伺った。ツールをつかいこなすテクニック論に終始せず、"地方の女性が活躍するための新しい働き方を創る"という志高き彼女の仕事観に迫る。

■高校時代の挫折、ITとの出会い、リモートワークへの目覚め

海野:そもそもどうして熊本を拠点に仕事を始められたんですか?

大﨑:
一番のキッカケは高校時代に遡ります。私は地元の「旧帝大以上に進学するのが当たり前」といわれる進学校で高校時代を過ごしたのですが、なかなか努力が実を結ばず、学力が伸び悩みました。最終的に紆余曲折あり熊本大学に進学したのですが、4年後の就職活動を見据え、早くから自分自身の付加価値を高めなければという意識があり、二年生からインターンを始めました。9ヶ月ほど地方の経営者さん向けの営業インターンを行った後、アパレル関連のITベンチャーにアルバイトで関わることに。当初はITに関する知識もないし、IT業界の人に対して「ギラギラしてる」みたいな勝手なイメージを持ってて、どちらかというとIT業界苦手だったんです(笑)ただ、Webサービスに詳しい先輩がたまたまいて、その先輩に教えてもらいながら色んなサービスやツールに出会う中ですごく面白いなと思うようになり、「最終的に生き残るのは"知識をもったうえで行動できる人"」だと思い始めて。それから日本で今後最も伸びると言われている業界の1つであるIT業界に興味を持つようになりました。

熊本でインターンを始めた彼女だが、東京で参加したイベントをキッカケに「一般社団法人festivo」という若手起業家コミュニティのアンバサダーになった。Facebookメッセンジャーを使いながら、代表とやりとりをし、熊本から仕事をこなすなかでスピード感や交渉のノウハウを蓄積していったという。

海野:きゅんくんのマネジメントはどういった経緯で?

大﨑:
きゅんくんは元々私がマネージャーをやっていたアーティスト/デザイナー・ハヤカワ五味の紹介です。ハヤカワとの出会いは熊本で知り合った四角大輔さんというSuperflyや絢香のプロデュースをやっていた方の紹介。アーティストやクリエイターは右脳タイプの人が多いので、私みたいに左脳寄りの仕事を担ってくれる人が必要らしく、ハヤカワのマネジメントも6月まで務めていました。

■コミュニケーションの基本は"秒返し"

"クラウドソーシング"や"ノマドワーク"など、オフィスに常駐することなく、場所を選ばず業務を遂行するワークスタイルを表す言葉は多い。しかしその多くは記事の執筆や翻訳、プログラム開発、アニメの作画など、どちらかといえばコミュニケーションをそれほど要さない職人仕事というイメージがある。しかし、彼女は一風変わったスタイルを持つ。

海野:今までリモートワークで担ってきたお仕事の領域を挙げてみると...。

大﨑:
そうですね...イベントの企画とか、広報、営業、事務、経理とかですね。

海野:営業までやるんですか!? そしてクリエイターのマネジメントもやっている...大﨑さんが手がけている業務は、人間と人間の対面的コミュニケーションが重要な領域だと思いますが、それなくして成り立つのでしょうか?それがちょっと不思議で...。

取材の合間にも、次々と来る仕事の連絡に「秒」で対応していた。

大﨑:
成立するっぽいですね(笑)。私がなによりも大事にしているのは"スピード感"なんですよ。たとえメッセージのヤリトリであっても1対1で会議してるくらいのテンポ感で、感情の共有までできれば、基本的には問題ないんです。口頭かテキストかという違いなので、「スピード感」と「相手にきちんと伝わるようにテキスト化すること」ができれば支障ないです。

海野:たしかにメッセージのやりとりをしていたときも、リアクションめっちゃ速かったですもんね!(笑)こちらがついていけないほど!

大﨑:
ネット依存症気味っていうのもあると思うんですけど(笑)、常にPCかiPhoneを触ってるので、通知が来た瞬間に返すようにしています。とくにFacebookメッセンジャーは仕事で使うことも多いので、一番速くレスを返すようにしています。

海野:速いっていうのはどれくらいのテンポ感?

大﨑:
ズバリ「秒」(笑)なので友人からは "早押しクイズ"と冗談交じりに言われます。例えば、「いついつ行ったあのお店なんだっけ?」という問いかけに対して、「この前行った...」って来た瞬間に、そのお店を即答したり(笑)

海野:7月からCasterの広報・ブログ編集長という肩書きも出来て、記事取材もしているじゃないですか。そこは出向いていくんですよね?

大﨑:
この前の取材はスカイプでやりました。でそのあと電話とGoogleDriveで原稿を推敲して。

アイデアのブレストはチャットで行い、企画書への落とし込みは同時編集が可能なGoogleDriveを使って共同編集。必要があれば適宜スカイプでミーティングを行うのが基本スタイルとのこと。新しいコミュニケーションツールをフルに活用して、地理的な不利を完全に克服している。

■メールとチャットの文体論 "スピード感"の違いが歯がゆい

月に一度、熊本の新聞社でアルバイトを行っているという彼女。最新のコミュニケーションツールではなくFAX、電話、メールを業務手段として使っている現状にやはり違和感があるんだとか。

大﨑:
マネジメント業務を行う中で、請求書を書く場面も当然あるんですけど、大きい会社さんほど紙面でしか受け付けてくれなかったりアナログなところはまだまだどうしてもありますね。あとは基本チャットではなく、メールを使われることが多い。メールは法的根拠になるのに対し、まだチャットはそうならないそうで。チャットのペースで仕事を行うことが普通になる世界になってほしいですね。

海野:なるほど、日本の商習慣はスピードが足りないのですね(笑)今大﨑さんを取り巻いている人たちは、完全にチャット中心のエコシステムの中で、仕事のペースが合うパートナーの人がほとんどなんですか?

大﨑:
そうですね。そのうえでもさらに相手によって使うツールは使い分けています。相手が一番早くレスポンスできるツールに合わせるというのは意識していて、例えば、きゅんくんならLINEだし、ハヤカワだとFacebookメッセージというように。

普段から新しいコミュニケーションツールはまめにチェックし、大企業だろうと、個人クリエイターだろうと、相手が最も快適に連絡できる手段に合わせることを意識しているという。これからのマネジャーに必要なのは、アンテナを張り巡らせ、数あるコミュニケーションツールに通暁し、どれもそつなく使いこなせることなのかもしれない。

海野:メールは使い勝手としてもう古いですか?

大﨑:
ちょっと面倒ですね(笑)「◯◯様〜お世話になります〜◯◯の件ですが〜よろしくお願いします〜大﨑」みたいな定型文が多すぎる。「お」だけで「お世話になります」と変換されるよう辞書登録してはいるんですけど(笑)

海野:それはチャットとメールのお行儀の話ですね。たしかに違うメディアですからね。「拝啓〜」から始まる封書の手紙とメールが違うように、チャットとメールも違う文体がそこにはあると。

■ブログを起点にネットワーキングも地理を越境

母校・熊本大学にて撮影。PCとスマートフォンは常に持ち歩く生活。

海野:ITを駆使した上でも全く別の次元で、カルチャーギャップとか、お仕事で苦労した場面とか、工夫しなくちゃいけなかった瞬間ってあるんじゃないですか?

大﨑:
後輩にスキルを伝達したりするのはやっぱり難しいですね。あとは自分が丁寧に伝えているつもりでも、相手がそれを面倒くさがって「はい」みたいな感じで返してくると、本当に同意が得られているのか、こちらの真意が読み取れているのか、皮膚感覚で分からなかったりするので、そこのコミュニケーションミスはありますね。

7月からCasterの広報・ブログ編集長でもある彼女。自身でもブログを開設し積極的に情報発信を行っている。これが彼女の活動領域をさらに広げている。

大﨑:
先日、QREATOR AGENTで新しいクリエイターを発掘する一環で、マッチング案件があり、山形と熊本にいる子にそれぞれリサーチをお願いしました。すると、すごく精度の高い成果物が上がったので、やっぱりできる子はどこにいてもできるのだと思います。

海野:山形の人とのネットワークも含め、ここでも人脈が地理を越境していますよね。

大﨑:
これも全てブログからの流入がキッカケなんですね。実は「リモートで仕事を手伝ってくれる学生の子を紹介してほしい」という企業さんと 「地方にいても面白い仕事ができるリモートワークに興味がある」という学生さんのマッチングをしているんですが、どちらからの問い合わせもブログ流入からが多くて。ブログをやっている理由も営業の一環で、インバウンドで案件が入ってくるように仕掛けているというのもあります。

自己プロモーションを戦略的に行いつつ、ブログを流入窓口にマッチング案件を成立させていく彼女のスタイルはまさしくオウンドメディアのお手本と言える。

リンダ・グラットンの『ワークシフト』やDeNA創業者・南場智子氏『不恰好経営』に影響を受けたという彼女。ビジネスの領域で突出した強い女性像に憧れるという。キャリアビジョンの中で、目指すロールモデルはいるのだろうか。

大﨑:
すごく尊敬していて、この人みたいになりたい!っていうロールモデルは特にいません。ただスキルセットごとに真似しようと思う人は何人かいます。セルフブランディングでいえば、はあちゅうさんや、THE BAKE MAGAZINE編集長の塩谷舞(通称"しおたん")さん。すごくお上手ですよね。ライターのモリジュンヤさんは淡々と書く力、Coineyの佐俣奈緒子さんは子育てと仕事の両立。自分が書くブログでは、はあちゅうさんのセルフブランディング的な観点を織り交ぜながら、ちきりんさんの思考展開の方法を書き方の参考にさせてもらっています。

■東京で研鑽を積み、スキルを伝えながら故郷を豊かに

熊本市街にて撮影。育ちは長崎〜大学から熊本。朗らかながら芯の強い九州女性という印象。

現在大学4年生である彼女は、来年、東京の企業に就職するとのこと。しかし、キャリアを長い目で見たときに、必ずしも東京という土地にこだわっていくつもりではない。

大﨑:
地方って本当に仕事が少ないんですよ。私の大学で就職分布をみると、6〜7割の人が公務員になります。東京に出てくるのは1割くらいで。私が東京に出てくる意味としては、人脈を作ることが第一。自分よりも視野が広く、視座も高い人の中で仕事をする方が切磋琢磨できるし、なにより楽しい。一度業界のトップに行き、自分がどこの位置にいるかのを知りたいというのがあります。

海野:いつかは故郷の熊本に帰られるんですか?

大﨑:
正直、土地柄的に東京に永住できると思ってないんです。実家のある長崎を含めて暮らしやすい九州に戻るかもしれない。その時、私みたいな人間が東京の仕事をとって地元に持ってくるようになれれば、東京に比べれば安いかもしれないけど、地方では十分に良い条件で仕事ができたりするのではないかと思っています。

海野:それがキッカケで大崎さんのような働き方をする人が地方に増えて、結果的に東京からお金の流れが地方に分散していくって良いことですよね。

■"リモートワーク"の実践だけではなく発信もして、地方女性のロールモデルになりたい

海野:今後はリモートワークのスキルを前提に、どういったキャリアを進めていきたいと考えていますか?

大﨑:
正直、10年後、20年後のことは分からないのですが、いつか九州に帰ったときに困らないように、人脈形成を含め今のうちからできることはしたいと思って、就職は東京を考えています。実家は共働き世帯なのですが、女性として子育てと仕事の両立はやはり難しいものがあるな、小さい頃から感じていました。私の母は公務員で、とても福利厚生が充実していて女性が働きやすい環境なのでなんとか両立できたと言っているので、民間企業に勤めているときっともっと難しいんだろうなと。待機児童の問題や出産後の女性の職場復帰に対するハードルの高さなど、こうした子育てと仕事の両立の難しさの解決策に現状まだまだ十分なスポットライトが当たっていないと考えています。私が広報を務めているCasterで働かれている方は子育てをされながらお仕事されてる方が多いんですけど、「リモートワーク」が持つ可能性を踏まえ"女性の新しい働き方"を自分がロールモデルになって開拓していきたいという思いがあります。

海野:「リモートワーク」は、女性が結婚や出産というライフステージのステップを歩んでいく上で、有効な武器、またはとても便利なワークスタイルになり得ると考えているんですね?

大﨑:
はい。クラウドソーシングだとどうしても単価が低くて、スキルが乏しい人はデータ入力で1件10円みたいな仕事しかない。一方、私がやっているオンラインのアシスタントサービスであればきちんと給与の面が保証されています。最近IT企業で在宅勤務の動きが広がりつつありますね。でも在宅勤務可能なのは週に1回だったり、月に3日だけだったりする。これが、例えば、産休・育休の復帰前後、1年や半年は"リモートワークでも可"といった制度が広がれば、女性の活用がもっと進むと考えています。

海野:そこを切り拓いているという自負があるんですね。

大﨑:
どうでしょう?(笑)多分実践している人はいると思うんですが、"リモートワーク"をPR・広報していく視点から発信している人はいないと思うので、今後も継続していきたいです。

コミュニケーションツールを駆使しながら、地理を越境した「リモートワーク」で今日も熊本を奔走する大﨑祐子。女性が歩む結婚・出産・子育てといったライフステージと職業の関係、そして、東京と地方の経済的結びつきについて、この「リモートワーク」を通じて独特のビジョンを抱いていることが今回の取材で分かった。東京に一度は出るも、故郷で暮らす可能性を見据えてキャリアを伸ばそうとする志の高さ、そして"故郷への愛情"に、頼もしさを感じる。
なにより一つ一つの行動が手段なのか、目的なのか自分の中で意識的に峻別され、最終的なゴールの青写真にマッピングされているのが伝わってきた。
今後の彼女の挑戦、そして活躍をSENSORSは暖かく見守っていきたい。

聞き手:海野大輔

日本テレビインターネット事業部「SENSORS」クリエイティブディレクター。バブル崩壊世代1973年生まれ41歳。下北沢在住でサブカルチャーと音楽をこよなく愛する。「ズームイン!!SUPER」などの番組制作に携わり、2012年から現職。テレビ番組のデジタル連動企画の立案運営などを担当。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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