規則正しすぎるハッカソン『ZenHack』 建長寺から"食"のイノベーションを!

2015.07.16 08:30

鎌倉の由緒ある禅寺「建長寺」にて一泊二日のハッカソンが開催された。その名も「ZenHack」(禅ハック)。禅の修行とハッカソンを融合しイノベーションを創出する試みにSENSORSが訪問した。

ZenHack 会場の様子

「ハッカソン」。特定の課題に対してアイデアを考案し、短期間でプロトタイプを実装して競い合うというイベント柄、エナジードリンクの空き缶と宅配ピザの空箱の山が築かれる光景はおなじみだ。

ところが「ZenHack」はその真逆。建長寺で実際に行われている禅修行の体験と並行してハッカソンが進行する。机の上には緑茶と大豆菓子(SOYJOY)。食事は精進料理を意識したもの。21時消灯、3時起床、4時坐禅...。実に規則正しいスケジュールで進行するハッカソンだ。

■世界中の経営者が取り組む「禅」と「マインドフルネス」

「禅」は世界中の多くの経営者が実践している。インターネット普及による情報伝達の速さ、情報ボリュームの増大により様々なストレスに追われる現代において「心の健康」の大切さが以前に増して重要視されている。座禅を組む時間は、自らの呼吸に意識を集中し、心を落ち着かせるのに最適だ。座禅を終えた後は脳内がスッキリした感覚になり、集中力が向上し、その後の仕事が劇的に捗る。ストレス対策にも有効であり、プレッシャーを感じている時や感情が高ぶっている状態を鎮めるためにも「禅」は有効だ。このように「禅」の要素から抽出した心の健康を保ち、集中力を高めるメソッドを「マインドフルネス」といい、GoogleやIBM、インテルといった企業が社内で推奨しているものでもある。

この「禅」とハッカソンを組み合わせた「ZenHack」も、一般的なハッカソンと比べて、より落ち着いた心で効率的に開発に臨むことができる効果が期待できるものであるが、その開催の根底にあるのは建長寺という由緒ある禅寺で一泊二日の禅修行の体験を通じて「禅の考え方」を習得し、人の内面を変えていくということだ。

■禅の価値観を取り入れ「食」をハックせよ

ZenHack WEBサイト(http://www.zenhack.jp/ )

「禅とITで世界の課題解決に挑む」を軸に、今回で3回目の開催となる「ZenHack」を主催するのは、鎌倉を愛するイノベーター達が集う「カマコンバレー」。若者応援に意欲的な高井正俊総長が賛同してくれたことで、建長寺でのハッカソンイベントが実現できた。 「ZenHack」運営チームを牽引する今村泰彦(いまむら やすひこ)さんは開催の意図を次のように語る。

今村:
「ZenHack」で目的としているのは、自己の内面を見つめる「禅の体験」を通じて、人が自ら変わるきっかけをつくることです。人が変わると、人が生みだすプロダクトが変わる。人が生み出すプロダクトが変わると、世界が変わる。そのような状態で、世界の課題解決に挑む。テーマとして、私たちの生活で最も身近な「食」を選びました。身近なものを小さく変えることで、世界を大きく変える取組みに挑戦しています。

今回のZenHackのテーマは「食」。飽食と呼ばれる現代も「食」にまつわる課題は山積みである。私たちの体は「食」で出来ている。そもそも良い食とは何だろうか。各々のチームで「食」に関する課題を見つけ、その課題解決に挑み、競い合う。

審査基準は下記の通り。
・禅の価値観が反映されているか
・世界に影響を与える事ができるか
・実行計画が練られているか
・完成度の高さ
・プレゼンで人の心をつかめるか

■規則正しすぎるスケジュールでの進行

会場の建長寺 photo by Mashup Awards Twitterアカウント( @mashupaward) より

集合は朝9:00。小雨が降る早朝の建長寺に約60名ほどの参加者たちが集まった。小学生のお子さんを連れて参加している父子の方や、ご年配の方の参加も確認することができた。

オリエンテーションでは課題に関する説明の他、臨済宗建長寺派総務部長の村田靖晢さんより「禅の食」についての法話も行われた。

仏教徒然の歴史をたどりながら、修行の中での「食」とはなにか。「いただきます」、私たちは何を"いただく"のか。私たちが「食べる」ことができるのはその過程に至る様々な方の働きがあること。自分の命を生かすために、他の命をいただくこと。そして、「食べること」も立派な修行である。

その後、個人でアイデアを練り、各々のアイデアに共感した人同士でチームビルディングを行い、12チームで開発をはじめる。

精進寿司と自然薯そば

ナスとピーマンの利休煮丼

「ZenHack」の食事は精進料理を意識して提供されている。1日目昼食はフードコーディネーター大瀧麻美さんによる野菜料理。1日目夕食は、鎌倉の老舗「鉢の木」さんより精進寿司と自然薯そば。2日目の朝食は、建長寺の修行にならって静寂の中お粥をいただく。2日目の昼食は、大瀧麻美さんによるナスとピーマンの利休煮丼。いづれの料理も実に美味しく、素材に込められた意味の解説もあり、一つ一つ噛みしめながらいただいた。美味しい精進料理をいただいた後、はりきって開発を行う。

そして1日目も終了の時間へ。ZenHackの夜は早い。18時には開発を終了し食事へ。食事後は多少の作業時間はあるものの、入浴と寝床の準備を済ませ21時には完全消灯。男女別部屋ではあるが、これだけの人数が一つの部屋で寝るとなるとさすがに壮大な景色。筆者も宿泊をしたのだが、あまりにも規則正しすぎる生活のため、消灯時間になってもまった眠くならず、結局一睡もすることができなかった(笑)。次回以降参加される方は、事前に多少の生活リズムの調整をおすすめする。

禅を組む参加者

警策を持つ村田さん

ZenHackの朝も早い。起床時間は日も昇らない午前3時。寝床を片付け、お堂にて約40分の「坐禅」を行う。雨の音が心地よいほど静寂の時間が続く。警策で打つ音が響き渡る。

発表に向け大詰め

そして4時過ぎより開発を再開する。この時間が一番脳が冴え渡る瞬間だ。食事を挟みながら13時半が締切となる。

■「食」の無駄を無くすアイデアが続出

審査員のみなさん

いよいよ成果物のプレゼンの時を迎える。審査員は、臨済宗建長寺派総務部長 村田靖哲さん、鎌倉市長 松尾崇さん、Gengo CEO Matthew Romaineさんなど、「禅とIT」に精通する10名が務める。

プレゼンの様子

味覚を直感的に表現し、世界中の人に共有するアプリ。ソーシャルを使って各自が材料を持ち寄り大鍋を一緒につくるアプリ。食材を咀嚼して食べることが意識できるようになるシステム。自分が食べたものを動物や植物のリアルな写真に換算するアプリ。 食べ物の「五味」をデータ化するシステム。畑版Airbnb。廃棄野菜の共同購入アプリ。 こうしたアイデアが飛び出し、全体として食材の無駄を無くすためのソリューションを提案するチームが多かった。

禅の世界に無駄なものは存在しない。それを象徴するのが2日目の朝食の作法だ。お粥を中心とした食事を食べ終える際、「たくあん」を一枚だけ残しておく。そして食べ終わった食器にお湯をそそぎ、たくあんを用いてその食器の中を洗うのだ。洗いに使った湯を別の食器に移していき、同じ手順でたくあんを用いて洗う。最後に、たくあんを食すると同時に、お湯を飲み込む。食材を無駄にしないこと、食事に関わる全ての事象への感謝、そうした禅の価値観を各チームが成果物に反映している姿が印象的だった。

■準優勝は「捨てないエコシステム」を構築するためのアイデア

プレゼンの様子

チーム「捨てない」

準優勝はチーム「捨てない」の作品「捨てないエコシステム」。食べられる食材が捨てられている現状をどうにかできないかという点からアイデアを着想。「捨てない食材DB」にスーパーや廉売所の余剰在庫を登録する。それに地元の居酒屋等が問い合わせ、購入できる仕組みとその最適な配送網をつくるというもの。各飲食店余った食材のみを使用して調理した惣菜屋「今日のオカズ屋」をつくるという構想も飛び出した。プレゼンターは電波少年でおなじみ、現在はLIFE VIDEO社( http://www.lifevideo.jp/ )社長の土屋敏男(つちや としお)氏だ。

■優勝は「感謝の輪廻」を生み出すアイデア

プレゼンの様子

チーム「いただきました」

見事、優勝に輝いたのはチーム「いただきました」の作品「輪廻」。私たちの身体は誰かの作った食べ物でできている。生産者への感謝の気持ちを持つことは大事なこと。「輪廻」は、生産者DBを構築し、消費者がこれから食べる食材の生産者へのお礼メッセージを送ることができる仕組み。消費者は自分の身体が誰が生産した食べ物で構成されているのかをビジュアライズする仕組みもある。

■「ZenHack」は心を清める修行

1泊2日の行程を終えて、自分の「食」の対する価値観が少し変わっていることに気づく。「ZenHack」は単なるハッカソンではなく、ITクリエイターのための、内省の場なのだとも思う。都心を離れ、緑溢れる鎌倉の地で、自分の内面や日常の何気ない一つ一つの動作を見つめながら「ハック」の楽しさを再認識する。世の中の革新のヒントは「禅」にあるのかもしれない。

取材:石塚たけろう

ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、EIR(=客員起業家)として複数の大手企業、スタートアップの新規プロジェクトに参画。Webデベロッパー。@takerou_ishi

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