クリエイター 高崎卓馬氏が語る未来の広告とエンターテイメント[前編] ネット・ネイティブ vs 帰国子女 vs 鎖国民

2014.12.19 15:29

映画でも広告でもないブランデッド・エンターテイメント作品「タイムスリップ!堀部安兵衛」で企画・脚本を担当した高崎卓馬氏。広告業界におけるトップクリエイターの一人である氏が語る未来の広告論からみえてきたのは、変わりゆくテクノロジーと、変わらない人間へのまなざしだった。

高崎卓馬氏

■インターネットが古い広告手法に「破壊」をもたらした

--2014年、私たちの生活にとって、インターネットはなくてはならないものになっています。ネットの普及で、広告はどのような変化をみせてきたのでしょうか。

高崎:
インターネットが登場したばかりの頃、広告に限って言えばマスの補完として使われる場でした。
15秒で入らないことをここで全部言っておきますからって。そういう小狡い使い方をする人がほとんどでした。変化が起き始めたのは、回線速度が上がり、動画がストレスなく観られるようになってからです。皆さんご存知の「続きはウェブで」のような手法が開発されたのもこの頃です。

それを融合と言うかは別として僕たちの世界で今も面白いものを作っている人たちはみんなその頃からwebとの関係は意識しているひとが多かったと思います。映画やドラマは耐久性が高いのに対して、広告は代謝がはやい。新しいテクノロジーにわりと敏感なのは、できるだけ鮮度の高いところで勝負したいという気持ちがあるからじゃないでしょうか。>モノが売れて、フレッシュな感動を与えることができるなら、何をやってもいい、それが広告の本質。

とはいえ、インターネットの隆盛は従来までの広告をぶっ壊したという感覚を持っています。大人数にいっぺんにコミュニケーションをするマス広告が、インターネットの充実よって変容せざるを得なくなったというか。ただ私はそれを比較的ポジティブにとらえていて、劇的に仕事の質が変えるチャンスがきたというか、もうひとつすごい武器を手に入れたという実感がありました。

■ネット・ネイティブ vs 帰国子女 vs 鎖国民

高崎:
変化にいかにアジャストしていくかという姿勢は常に持っている一方で、かなわないなあと思うのはその変化を変化なんて一ミリも思っていないところからやってくる人たちがいるということ。CDも知らなければ、レコードなんて知る由もない。データでやりとりするのが至極当たり前の人たちがこれからバンバン出てくる。彼らが考えるインターネットと私が考えるインターネットは根本が違うはずです。そこにはネイティブと帰国子女のような差がある。そういう人たちがつくりだすもので生まれる新しい感動はとても興味があります。

自分がやりたくてもできないものだろうから猛烈に嫉妬しますが。一方で、広告業界には鎖国をしている人もたくさんいる。日々の仕事の根本から変えるのは非常に体力がいりますが、もうそんなことを言っている時期は過ぎちゃったんじゃないでしょうか。そういう意味では、開国派の人たちのなかにちょっと前まで根強くあったインターネットとマスを新旧文脈で語ったりする空気、そして融合させようという意識ももしかしたらもう古いのかもしれませんね。

--ネットに対するネイティブ、帰国子女、鎖国という話でいうと、テレビにも同様な変化が起きていると思いますが、高崎さんはどうお考えですか。

高崎:
家で"タイムシフト機能"を使うようになってからテレビとの関係が劇的に変わりました。朝に夜の番組を観たり、今日誰かが「面白い」と言っていた番組を帰ってみたり、ツイッターで誰かが呟いていたものを30分遅れ、ほぼリアルタイムで観終える。ようするに、自由にコンテンツに触れるようになったんですね。この機能を使うようになってから、「テレビが超面白い」と思いました。

■紙の本がなくならないように、テレビもまたなくならない

高崎:
電子書籍は登場してから普及が進んでいますが、未だに紙の本は消えていません。これはテレビにも通じる話だと思っています。タイムシフト機能に出会うまで、テレビって終わりなんじゃないかと思っていました。どういうことかというと、コンテンツメーカーとしては必要だけれど、デバイスとしてはいつか必要なくなるのではないかと。ですが、そんなこともないなあと。ひとつの箱として異常に面白さを発揮したんですよね、タイムシフトというテクノロジーで。今の放送業界はなかなかそれを普及はさせられないでしょうけれど。

新しいテクノロジーは便利であると同時に価値の再発見の機会でもあります。電子書籍はたしかに便利ですが、紙の本のような"重さ"がないですよね。「あと10ページでこの話が終わるんだ」って思ったときの重さの関係と「10ページでこの物語を著者が終わらせるんだ」っていう感覚情報。そこが読書のエンターテイメントだったりするわけですが、電子にはその部分が欠けている。たしかに電子には何万冊も入る便利さはありますが、その便利さは面白さの何かを損なうかもしれない。これって全てのことに言えることではないでしょうか。だから進化が絶対的に正しいわけではないし、メリットの裏にはデメリットが必ずあると思うんです。

インターネットとテレビの関係にしても、必ずやどちらかが支配するということでもないはずなんです。ただし、意味や価値は変わっていきます。なので、SENSORSでやられていることもなにかの答えというよりは、可能性の試行錯誤というふうに映ります。いろんなことをやりながら感覚的に気持ち良い答えを探している場に見えます。とても勉強になります。

--高崎さんが思い描くネット時代の理想のコンテンツとはどのようなものでしょうか。

高崎:
先日、NHKラジオの生放送に出演しました。高校生相手に私がシナリオを課題として出して、最後の一言をツイッターやメールで募集するという内容でした。送られてくるセリフを役者さんにやらせて生ラジオドラマを何回もやったんです。そこでネットの反応を生の放送にすぐ還元する、"生"を刈り取る面白さに気づいたんです。生はやっぱり面白い。参加性が面白いんじゃなくて参加するという行為で発生する生感がコンテンツを魅力的にする。そう思いました。理想のコンテンツはその生感のあるものです。感情がゆさぶられるということもその生感だと思います。だから冷静でいられなくする何かをもったコンテンツこそが価値があるのだと思います。昔はそれを表現の技法でつくりだしていたのですが今はもう少し外側からつくりだすことができる、ということなんだと思います。

■広告は「コンテンツ」にならなければならない

--一方でさきほどの話にあったタイムシフト機能のように、テレビの観られ方が変わっていくのと並行して、テレビCM自体がみられにくくなっている現状があると思います。くわえて、ネット動画も年々盛んになってきています。このような環境にあって、クリエイティブ面でトライされていることはありますか。

高崎:
「広告自体がコンテンツ化しなければダメだ」とずっと言い続けています。高いお金を払って枠を買って、その15秒で商品名を連呼しても効く時代ではない。探してでも観たいとか、もう一度観たいとかっていう要素を持っていないものはダメだと思うんです。広告、映画、小説、ドラマ、そこに差はないんです。「アレみた?」って言いたくなるものは一緒なんですよ。極端なことをいえば、流れる場所がテレビであれ、どこであれ構わないんです。

たくさんの人の目に触れる最初の弾が1発なのか、100発なのか、10,000発なのかという違いはあります。1でも、それを10に、10を100に......そして1億にというように増やしていくのが理想のクリエイティブ。フェイスブックでシェアすることをみんな急に目的のように言いますが、そんなの10年前から変わっていなくて、CMでも同じ気持ちでやってきました。面白いものは必ず話題になる。僕らはそれをただひたすら目指す。でも、映画みたいな広告に意味はないんです。映画にはできないことをやって人を揺さぶり、冷静ではいられなくする。それが今の広告の使命です。そういう意味でただ言いたいことを連呼しているようなものはもはや無意味で、コンテンツ力の高いものしかつくる意味がないという気すらしています。もうひとつ、シェアされるものがいい広告というひとがいますが、それはもうはるか昔からみんな表現をつくってきたひとはごく当たり前に目指していたと思います。本質はなんら変わらない。

■人が動いたとき、それは広告になる

--そうすると、ネットの利用が広がってもコミュニケーションの本質は10年前からそれほど変わっていないということですか?

高崎:
基本はもっと前から絶対に変わっていないはずです。面白いドラマは、次の日「アレみた?」ってなるし、影響も受けますよね。たとえば、キムタクがモンクレールを着ていると、モンクレールが流行る。それが欲しくなって、人が動く。高倉健さんのタバコの吸い方がカッコイイから、タバコを吸う人が増えたっていったらそれはもうタバコの広告ですよね。それが15秒だから広告っていうことはなくて、その商品が人を動かそうと思って、動いた。それさえ作れれば、その動いた結果を"広告"と呼べばいいだけの話なんじゃないでしょうか。今回は10分あったからそれをやる。2時間使って、それをやる。

全部同じ原理でやっています。色々なものが変化していくなかで、みんな変化の話ばかりしますが、世の中がすごい勢いで変わっているときは、変化の方をみるのではなく、変わらない部分をみた方がいいんだと思います。天邪鬼なので。

後編(~数字と戦うことがコンテンツメーカーの宿命~) へ続く


取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

◆高崎卓馬氏が企画・脚本を担当した「タイムスリップ!堀部安兵衛」はHuluでご覧いただけます。

Hulu 「タイムスリップ!堀部安兵衛」はこちら

おすすめ記事

最新記事