クリエイター 高崎卓馬氏が語る未来の広告とエンターテイメント[後編]数字と戦うことがコンテンツメーカーの宿命

2014.12.24 10:01

映画でも広告でもないブランデッド・エンターテイメント作品「タイムスリップ!堀部安兵衛」で企画・脚本を担当した高崎卓馬氏。広告業界におけるトップクリエイターの一人である氏が語る未来の広告論からみえてきたのは、変わりゆくテクノロジーと、変わらない人間へのまなざしだった。

高崎卓馬氏

■テクノロジーは変わっても、人は変わらない

高崎:
電車のなかでみんなスマホをいじっているのが気持ち悪いってずっと思っていました。でもよく考えると昔だってみんな新聞や雑誌を読んでいたわけで。それが外側がスマホというものになってみんながひとつのことしかやってないように見えているだけなんですよね。動画を見ているひともいるし、新聞を読んでいるひともいるし、ゲームをしているひともいるし、メールを見ているひともいる。みんな違うことをしているけど、外から見るとみんなスマホいじってる、になってしまう。>そのぐらいのことなんだなあと最近気がつきました。

変化にばかり目をむけていると大切なものを見失う。こういう時代だからこそ変化しないものは何かを深く考えたいんです。それは人の感情です。心という目にみえないよくわからないものを僕たちはさわりにいっているだけなんです。やり方は変わるけど、目的は変わらない。昔の映画を観ても感動するし、本質的な部分では変わっていない。ようはたくさんの人にみてもらうためのツールが今はすごく面白くなってきているんだというふうに理解しています。

一方で、テクノロジーがなかったら成立しないような、今までにみたことのないようなメディア・アートは、ものすごくアリだとは思いますが、10年後にみたらおそらく古くみえるものがほとんどじゃないでしょうか。でもその本質にむきあって作られたものは時代が進んでたとえテクノロジーそのものが古く稚拙なものになったとしても、きっと感動できるものにまでなっているんじゃないかと思います。そういうものを常に目指していたいですね。

■数字と戦うことがコンテンツメーカーの宿命である

--人間の本質が変わらないのであれば、その行動の数値が可視化されやすいネットという場はどのように捉えられるでしょうか。

高崎:
私は意外と効果測定慣れしているので、数値化って全然嫌じゃないです。やっぱり数字っていう恐怖と戦うっていうのはコンテンツメーカーの宿命としてありますよね。テレビでいえば視聴率、映画でいえば観客数や興行収入がそれにあたります。

ただし、広告ってそうじゃないんですね。効果測定がしずらいから、モノが売れなければ何かのせいにできたりする。「商品が悪かった」とか「タイミングが悪かった」とか。これまでそこに甘えてきた部分が多分にある気がします。映画をやったときに、「広告の人は客席を埋めるのがどれだけ大変なことか考えていない」と言われたことがあります。雨が降ったら観ない。友達から電話があったら観るのをやめる。簡単な理由でひとは映画以外の選択肢を選んでしまう。それをいかに「いやいや今日は映画を観るからさ」と言わせるか。数字に晒されている人たちが作るコンテンツって、やはりひと味違うんです。僕ら広告の人間は逆にそれを学ばなければならないとずっと思っています。コンテンツ化させるということは、数字と向き合って、もっとそういう意識を強く持つことなんです。

ドラマや映画に取り組んだ経験は僕にそういう回路をもたせてくれました。いろんな国の帰国子女になれたというか。数字の話でいうと、詩人の谷川俊太郎さんが以前面白い話をしていました。谷川さんは「いいね!」は無意味な数字の集まりでしかない。気にする意味はそこにはない。とおっしゃっていました。たしか「文化は優れた批評が育てる」っていうお話の文脈でおっしゃられてて、「いいね!」の数はそういう意味の批評にはあたらないという意味だと思います。「詩には批評がない。だから孤独だ」と、その一方映画には批評があるからカルチャーとして育っていて、うらやましいとおっしゃっていました。広告にいい批評があるか。広告賞はそういう機能を果たしているか。いいね!ばかり気にして、業界全体が自己模倣を繰り返していないか。気になります。

■タイムライン化を打ち破るためのクリエイティブとメディアの活用

--今回、高崎さんが脚本・企画でつくった「タイムスリップ!堀部安兵衛」についてお話を聞かせてください。三井不動産レジデンシャルさんの広告的な表現になぜ映画の手法を取り入れたんですか。

高崎:
じつは不動産ってネット向きなんです。自分が物件を探すときって、ネットで街のことを調べ、周りの情報を収集し、物件のことを調べますよね。それと不動産広告って知られていないのですが規制が結構あって言いたいことを言えずに我慢してきたんです。それをなんとかしたいなあというのが大きな始まりでした。ちょっと前までインターネットの最大の欠点は"閉じた場所"であるということでした。

どういうことかというと、ある場所で盛り上がっていても、そこから1ミリ離れると誰も知らないというような「タイムライン化」が生じていたんです。対して、渋谷にいない人も渋谷で何かやっているっていうのを知っている状態を作り出すのがマスの良いところだったわけで。それを拡散によって壊すというか、良質なコンテンツを作ることによって、越えていくというのが企画で一番大切なポイントだったんです。ですが最近はその呪縛から離れつつあるなと。そのタイムラインを壊すための告知媒体としてマスを使おうと決めました。普段だと少し欲張っていいCMにしようとCMの文脈での成功を考えるんですが、厳密にメディアの意味を作り替えて、テレビの仕事を予告だけに絞りました。これはクライアントの英断だったと思います。

今回、ずっと言い続けたことは「面白くなければ、広告だと人が気づいた瞬間に観なくなる」ということでした。広告なんだけれども、広告とみえなくすることが最大のポイントなんだと。

■"本物"の覚悟を持ってつくるということ

--他に戦略的に工夫した点はありますか。

高崎:
ウェブの動画って5分以上だと観ないっていう通説がありますよね。ウェブの動画にはテレビや劇場でみるものに比べてつまらないというイメージが根強い。そのマイナスの印象をまず克服する必要がありました。

スタジオに京都から持ってきた武家屋敷をセットで組んで、映像は35mmの映画用のカメラで撮影しました。横で撮影していた女優さんが遊びに来て、「これは良い雪だ〜!!」とか言ってたり(笑)是枝監督が「このセットの一角で、僕の映画作撮らせて」というくらい本格的なものでした。本物の覚悟を持って作るということと、リリースするときに「ウェブ動画」って言ったら絶対にダメだというルールを作ったんです。第一印象で人が映画っていうふうに思うことがアウトプットの一番大事なポイントですから。なぜかというと、映画って基本的に2時間くらいです。第一印象で映画だと誤解したひとには35分って短いものに見えるんです。

対してウェブ動画って頭にあると、35分はすごく長く感じます。映画だと思い込んでいる身体から、誤解は簡単には抜けません。でも映画という印象を最初に植えつけると土俵が違うので、5分の壁がスーッと乗り越えられるんですね。

--舞台挨拶で、大森南朋さんが「スーツに髷。違和感があったけど、5分で慣れた」というお話をされていました。視聴者であるコチラも最初はおかしいと思いつつ、すぐに慣れていました。その違和をなくすための仕掛けはどこにあるのでしょうか。

高崎:
やはり本格感だと思います。ゆるい作りだと違和感ってノイズのまま残って増幅していくけれど、「あ、この人たち本気で作ってるんだ」って思った瞬間に純粋に観てくれるというか。とくに最初のタイトルワークのアニメーションなんかパワーをかけて作ったので、警戒心が解けるポイントかもしれませんね。あとは脚本ですね。30分というのは難しくて、2時間ならなぜここで働くことになったかとか、なぜこんなに好きなのか、っていう部分を丁寧にやれるんですが、30分だとそこができない。だからやっぱり脚本上、3箇所くらいズルをしてて。脚本の粗に気付かれないように、いい音楽をかけたり、大森さんの顔芸で乗り切ったりとか(笑)

--脚本を書くために、具体的に工夫したことはありますか。

高崎:
赤穂浪士が討ち入りした後に歩いたコースの地図を手にいれて、その人達が歩いた通りに4時間くらいかけて両国から泉岳寺まで歩きました。体のなかにリアリティをつくってからやろうと思ったんです。もしこれが映画だったら絶対やると思うことは全部やったんですね。お祓いもみんなでやりました。そういう覚悟のようなものは、どこかフィルムにうつるものだと思っています。じっさいに足を動かすというのは、脚本を書く上でも有益なんです。直木賞作家の木内昇さんが作品を書く際に、編集者と連れ立って浅草を歩き回ったという話をしてくれたことがあります。ここからあそこまで下駄で走るとかいう文章を書くときに、あそこの川沿いまでは少し勾配があるというのを身体で感じているから、描写力が上がると。体験に裏打ちされた文章は豊かになるとおっしゃっていたので、その話を聞いてからはだいたい僕もそうするようにしています。体験に基づいた空想のほうが圧倒的に強いですから。

--最後に高崎さんにとってテクノロジーとはどのようなものなのでしょうか。いま注目されているテクノロジー、もしくはこれからクリエイティブに取り入れていきたいテクノロジーがあれば教えて下さい。

高崎:
このあいだ、「インターステラー」という映画を観たんですが、すごく感動して3時間ずっとスポンジのように泣いてしまいました。じつは、アレってすごくアナログな手法で結構できているんです。その時、新しくなきゃいけないってことはないんだとあらためて思いました。カメラ一つをとってもフィルムの限界まで味わい尽くせているのかとか、昔からある技術を意外と私たちは極めていないんじゃないかと。今、ドローンが出てくるとみんなドローンを使うじゃないですか。それってみんなで結局その技術をただ消費してしまうだけなのかもしれない。ブームになっちゃうと、すぐに終わってしまうので、すごくもったいないと思います。

つくりたいものがあって、それに近づけるために一番どのテクノロジーだったら飛距離が出るのかっていうのを考えて、選んでいくっていうのが一番大事だと思います。私の場合は、デジタルのテクノロジーよりも、ストーリーテリングで飛距離を伸ばせるタイプなので。ただ、ラジオがツイッターで息を吹き返しているように、テクノロジーがいろんな場面で混ざるのは面白いと思っています。テレビも、ネットも、これから変わっていく。これからおもしろくなっていくんだろうと思います。この時代にこういう仕事をさせてもらえる幸せをよく感じます。


インタビュー前編(~ネット・ネイティブ vs 帰国子女 vs 鎖国民~) はこちら


文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

◆高崎卓馬氏が企画・脚本を担当した「タイムスリップ!堀部安兵衛」はHuluでご覧いただけます。

Hulu 「タイムスリップ!堀部安兵衛」はこちら

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