あの『地球の歩き方』がスタートアップとのコラボで新たな挑戦

2015.03.30 12:00

「地球の歩き方」は世界各地の観光情報を発信する創刊から36年の伝統ある旅行ガイドブック。そんな「地球の歩き方」は、旅行体験のフリーマーケットを展開する「Voyagin」とコラボレーションし、訪日外国人を対象とした日本の旅行体験の販売サービス「Good Luck Trip "Experience in Japan"」を行っている。大手旅行メディアとスタートアップのコラボレーションはいかにして実現したか。Creww株式会社の石井こずえがコラボの裏側を取材した。


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写真左が「Creww」石井こずえ、中央が「地球の歩き方」弓削貴久氏、右が「Voyagin」高橋理志氏。


「Good Luck Trip」はダイヤモンド・ビッグ社・地球の歩き方が発行する訪日外国人向けのフリーマガジン。日本を旅する魅力を世界に向けて発信している。今回のコラボでは、ただ情報を発信するだけでなく「Good Luck Trip」が取材した先で提供できる旅行体験を「Voyagin」を通じて販売しており、読者を来日へのアクションに繋げやすいように設計されている。「Good Luck Trip」は「Voyagin」にコンテンツの提供、「Voyagin」は「Good Luck Trip」に販売プラットフォームを提供し、共同でインバウンド観光事業を行う座組みとなっている。2020年の東京オリンピックのムードも追い風に、成長が期待できる分野だ。


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「Voyagin」上にて3200JPY(円)で実際に販売されている奈良の酒蔵訪問。その他にも東京・合羽橋の大衆居酒屋訪問や、長野の雪山にニホンザルを見に行く旅などがある。「Good Luck Trip」で掲載されたコンテンツの体験ができる。


■外部の新しい風を取り入れることで既存事業のさらなる活性化を目指す。


どうして「地球の歩き方」はスタートアップとのコラボを行ったのか。ダイヤモンド・ビッグ社メディア・マーケティング事業本部副本部長の弓削貴久(ゆげ たかひさ)氏に訪ねた。そこにあったのは、一般的に言われるような紙vsデジタルの構図ではない「攻め」の姿勢だった。


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「地球の歩き方」が発行する「Good Luck Trip」。日本の芸能や文化を海外に向けて発信する。


弓削:おかげさまで「地球の歩き方」は現在も順調に売れています。しかし、それに甘んじず、外部の方の斬新な意見を取り入れていけば「地球の歩き方」をもっともっと活性化させることができるのではないかと考えていました。そこでスタートアップコミュニティのCrewwさんを通して、私たちと協業するスタートアップを募集するに至りました。その時点では協業のテーマは具体的には定まってなく、スタートアップのみなさまからの提案を楽しみにしていました。


Crewwは1600のスタートアップが登録するコミュニティサービス。Crewwを使えば大手企業は多くのスタートアップにコラボ案を募集することができる。「地球歩き方」のコラボ募集は結果的に30案以上の応募があったそうだ。その中からいくつかのスタートアップにプレゼンテーションの機会が設けられ、プレゼンの場には「地球の歩き方」の社内からは社長を含む15人もの参加があったという。「Voyagin」との提携の決め手となった理由を弓削氏は次のように語る。


弓削: ちょうど私がこれから外国人を日本に観光客として呼び込むインバウンド事業を推進していく立場であったことが大きいです。「Voyagin」はまさに事業の相性がぴったりでした。すでにいくつかの実績もあって、海外の方にもリーチできています。だったらぜひご一緒しようということに。


「地球の歩き方」と「Voyagin」は結果的に外国人を日本に呼び込むインバウンド領域での協業を実現しているが、当初協議されていたのは、いかに日本人の海外旅行者を増やすかということに注力したアウトバウンド領域のものであったという。日本人の若い旅行者が減っているという「地球の歩き方」の問題意識があり、日本語の学習経験や日本への留学経験がある外国人と日本人旅行者をつなげるというのが「Voyagin」の当初の提案であった。しかし、コラボの担当であった弓削氏自身が訪日観光の事業を手がけることにったのきっかけに、「Voyagin」の本来のサービスに近いインバウンドでのコラボが実現した。


■スタートアップと組むことにリスクは無い。「新しいこと」と「失敗すること」に対して寛容な社内風土。


弓削氏が裁量権とリーダーシップを持ってコラボを推進できた背景には、ダイヤモンド・ビッグ社の社内風土がある。スタートアップからのプレゼンの場に社長が自ら出席するほど「新しいこと」に対して寛容な空気感があるというのだ。新しいことに寛容であれば、「Voyagin」のようなサービスも自分たちの手で立ち上げることもできたのではないか。そこで、あえてスタートアップとのパートナーシップを結ぶ理由をこう語る。


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弓削貴久氏。とても気さくにインタビューに応じてくださった。


弓削: もちろん自社でやることも検討しました。しかし、新しいことをはじめるのにも人やコストなどがかかってしまう。自分達がやりたいと思っていることが、既にあるのであればそれを使うべきだと思います。その方が立ち上げのスピードが圧倒的に速いし、コストもそこまでかからない。スタートアップは私たちが持っていないものを持っていわけですから、それを存分に活用して新しいことをはじめていくべきではないでしょうか。


コストやスピードの面がスタートアップとのパートナーシップを結ぶ理由。しかし、大きな実績や知名度のないスタートアップと組むことに対しての不安や社内の反対は無かったのか。


弓削: 「Voyagin」の高橋さんが私たちの疑問点に対してしっかりと説明いただいたこともあり、不安も反対もそんなにありませんでした。スタートアップとの協業といっても、そこに対するリスクはほとんどないと思っています。


想定している以上の失敗は無い。想定できる失敗であればあらかじめ対処法を考えておくことができる。弓削氏のようなマネジメント層の人材がこのようなマインドを持ち、リーダーシップを発揮できる環境が整備されていることが、大手企業とスタートアップが創る「オープンイノベーション」には必要な要素なのではないだろうか。


弓削貴久×高橋理志インタビューの後編では、Voyagin CEO高橋氏が、スタートアップの視点から大手企業と組むことについて語る。


(インタビュー:Creww株式会社 石井こずえ、構成:石塚たけろう)

石塚たけろう:ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、大手企業とスタートアップ共同の事業開発やジョイントベンチャー設立の支援を行う。フロントエンドエンジニア。


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