スタートアップと大手企業の連携が生み出すイノベーションの形とは

2015.03.17 19:20

オープンイノベーションは、自社のリソースに外部の技術や人材を掛け合わせることで新しい事業や体験の創出をする手法だ。昨今のスタートアップ・ブームを追い風に、斬新なテクノロジーやアイデアを持つスタートアップと、膨大な資産やノウハウを持つ大手企業がタッグを組み新しい『コト』をつくる取り組みが目立ってきている。「SENSORS IGNITION 2015」のセッション「スタートアップと創るオープンイノベーション」の模様をお届けする。


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登壇者はWiL 松本真尚氏、Creww 伊地知天氏、三越伊勢丹 北川竜也氏、Voyagin高橋理志氏、モデレーターはSENSORSプロデューサー加藤友規。それぞれの立場から大企業とスタートアップが手を取り合うことの必要性が語られた。


■オープンイノベーションの世界的な潮流、大企業や行政によるアクセラレーターの実施


Creww伊地知氏によれば、大手企業とスタートアップがタッグを組んでイノベーションを創出していく事例が世界的に増えているという。その最たる例がコーポレート・アクセラレーター。アクセラレーターは、資金や資産を提供することで、スタートアップを短期間で育成する。Ycombinatorの成功にはじまり、世界中の都市でアクセラレーターが開催されているが、近年ではディズニーやナイキ、ウェルズ・ファーゴといった名だたる大企業が自分たちでアクセラレーター(=コーポレート・アクセラレーター)を実施するケースが増えている。最近では、ローマ教皇がアクセラレーターの実施を宣言しており、国や行政がスタートアップと共同でイノベーションを起こそうとする流れが生まれてきている。


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Creww株式会社 CEO 伊地知天氏


こうした流れの背景にあるのは、インターネットによってあらゆる産業が民主化していることだと伊地知氏は指摘する。UberやAirbnbに代表されるシェアリング・エコノミーの流れに加え、AWSやクラウドファンディングなどで新しいビジネスが立ち上がり、また一方ではプロダクトをつくるためのコストが低下している。あらゆるモノにインターネットがつながる時代が実現に近づいてきて、既存のどの産業もインターネットやスタートアップの存在を無視できなくなっているという。


■日本のオープンイノベーションの課題とは?


世界的に大手企業とスタートアップが手を組んでイノベーションを起こそうとする流れがあるが、日本ではどうだろうか。松本氏によれば、従来、日本の大手企業がイノベーションをおこすための方法論は、自社の中で全てを完結させようとする「クローズドイノベーション」だった。しかし雇用創出や経済的価値の創出など、スタートアップが社会に与えるインパクトを考慮した上で、これからは、日本企業もイノベーション活動に外部スタートアップを取り込み、人材の交流を図ったり、活動のスピードを早めていくことが大事だと言う。


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日本のオープン・イノベーションの課題を語る株式会社WiL 共同創業者・ジェネラルパートナー松本真尚氏(中央)


すでにスタートアップの可能性に気づき、CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)の設立や社内ベンチャーコンテストの開催などオープンイノベーション的なアプローチを開始する大手企業も出始めている。しかし、そうしたアプローチが上手く機能していないことを松本氏は指摘する。出資額も少額かつリターン重視で、事業シナジーの追求は二の次であり「スタートアップ」を活用するという発想が無く、社内ベンチャーコンテストをはじめるも運営ノウハウが不足している。一方、スタートアップ側の課題としても、優秀な人材が大手から流動しないことや、世界ではなく国内市場に集中しがちなこと指摘していた。


■大手企業の中でも「新しいことの否定」はほぼ無い、必要なのは「異端」の存在


三越伊勢丹ホールディングはeコマースのプラットフォームを提供するスタートアップ「Origami」などとの協業を実現してきた。その背景にはあるのは、北川竜也氏の存在だ。 北川氏は2013年に三越伊勢丹に入社する前までは、NGO勤務や、クオンタムリープにて大手企業の事業創出やスタートアップ企業の支援、自身で事業の立ち上げ行っていた等の経験を持つ。北村氏が自称する、大手企業からすれば「異端」な人物だ。


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株式会社三越伊勢丹ホールディングス 経営戦略本部 市場開発部 マーケット開発担当 マネージャー 北川竜也氏


北川氏は大手企業が持つ圧倒的なアセットについて指摘する。三越は創業から340年、伊勢丹は創業から127年。長い歴史に裏打ちされた流通や販売網などはスタートアップが数年で築くことは不可能。こうしたアセットの活用していくことが大事だと語る。さらに北川氏は「実は大手企業の中にも新しいことを否定する人はほとんどいない」という。しかし、具体的に話の内容が詰まってくると態度が変貌する。新しいことを導入するためには、これまでの仕事のやり方を変える必要性が生じ、その際に生まれる手間や痛みを嫌がる人がほとんど。そんな状況を跳ね除け、馬力を持ってイノベーションを推進するために「自分のような異端な人間が加わることもオープンイノベーション」と北川氏は語る。大手企業の中の煩雑な手続きを突破して画期的な製品を市場に送り出すプロセスを繰り返し実行できる人材を「シリアル・イノベーター」と呼ぶが、大手企業にもまさに北川氏のような「異端」が求められているのかもしれない。


■お金を絡めずに、まずは「やってみてること」が大事


スタートアップの立場からすれば、大手企業と提携をすることは、ただの下請けになるだけなのではないか、と危惧する声も聞こえる。若いスタートアップであれば、プロダクトのクオリティアップに全勢力を注ぐべき段階に、協業実現のためだけに大きな時間が割かれてしまうことも考えられる。旅行体験のフリーマーケットを展開する「Voyagin」は「地球の歩き方」やWiFiの「テレコムスクエア」などと協業を実現している。高橋氏は「とりあえずはじめてみる」ことの必要性を指摘する。


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エンターテイメント・キック株式会社(Voyagin)CEO 高橋理志氏


ほとんどのスタートアップはまだ「何が正しいのか」を、プロダクトの改善を通じて、絶えず仮設と検証を繰り返している状態だ。プロダクトの正しい方向を調べるためにも大手企業とお金を絡めることなく「とりあえずやってみること」が大事だと高橋氏はいう。若い起業家であれば、大手企業との付き合い方や仕事の進め方を覚える意味もある。いきなり大きな提携を結ぶのでなく、「小さなコラボ」からはじめてみるのもいいのかもしれない。


大手企業とスタートアップの「オープンイノベーション」の現状が垣間見れ、その課題や、課題解決のためのアクションについてヒントが得られるセッションであった。「着眼大局・着手小局」、世界的な潮流や自社の状況と他社の状況をマクロ的に俯瞰する大局観を持ちつつ、まずは「異端」の人材の採用や、小さなコラボからでも"とりあえず"はじめてみるなど、小局からオープンイノベーションを実践してみてはどうだろうか。


(協力:Creww株式会社 構成・文:石塚たけろう)

石塚たけろう:ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、広告会社にてスタートアップと大企業の共同事業開発モデルであるコーポレート・アクセラレーターの運営に携わる。フロントエンドエンジニア。



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