「マツコロイド」監修者・奇才 石黒教授が語った、科学と人の未来[後編]人は、より哲学的に

2015.02.10 11:23

人間そっくりロボット「Geminoid」や、マツコ・デラックスさん等身大のアンドロイド「マツコロイド」の監修を務めたことでも知られる日本のアンドロイド研究の第一人者・石黒 浩 大阪大学教授。石黒氏は昨年12月、現在日本科学未来館(東京)で開催中の企画展「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」の関連イベントとして、チームラボ代表・猪子寿之氏とモデレーターの内田まほろ氏とともに、「僕らのつくりたい、未来の人間」についてのトークイベントを行った。「世界の100人の生きている天才」にも選ばれた石黒氏。その原点と未来とは?

左 チームラボ代表 猪子氏 右 石黒浩 教授

前編(「マツコロイド」監修者・奇才 石黒教授が語った、科学と人の未来[前編]アイデアの原点とは?)はこちら

■理解は求めてない。人を置いてきぼりにして、もっと面白い世界に行きたい

石黒:
猪子ちゃんのアート展の作品って、もっと極端に芸術的にいけると思ったんだけど、やっぱり人々に受け入れられて、ビジネスができるようにバランスはとっているの?
猪子:
そりゃ、とりますよ。僕の興味は、アートによって人類の価値観が変わったり、それによって一歩前に進めることだから、自分のために創っても仕方が無いんですよね。
石黒:
猪子ちゃんは、人を見てるんだね。アートをつくる人にしても技術をつくる人にしても、人を見る人と、自分の中の答えしか探さない人がいて。猪子ちゃんは前者だけど、僕はどっちかっていうと後者。サイエンスや技術なんてものは、世の中の10%の人達だけが理解していて、そういう人達が先導すればいいっていう考えがいつもある。
だから、サイエンスの方向性に関してパブリックコメントがあったりするのですが、専門的な知識が無い人の平均とって、本当にやるべきことを決めていいのかって思うんですよ。皆が目指したいところっていうのもわかるんですけど、行ける方向とか行っちゃいけない方向とかあるわけで。だからね、猪子ちゃんがやりたいことも、もっとエクストリームに行っていいと思う。
猪子:
でも、サイエンスだったら普及されるのが100年後でもいいわけじゃないですか。もしくは、研究を引き継ぐために10人が理解できればいい。それはアートと違いますよね。
石黒:
新しいことは直感から始まって理屈がついて、理屈がついたら技術になる。だからサイエンスとか技術の最先端やっているのは本当にアーティスティックな感覚で、そういう意味ではアートなんだよね。
内田:
石黒さんは、自分のジェミノイドを自分に似せるために、ビタミン剤とかで整形手術したりとか、自分を自分のロボットに似せてるんですよね。
で、その話なんか聞くと、"生きてるアート"だなって思ったりもしますね。
石黒:
ピカソもそうだけど、本当に価値が理解されなくても、社会的には認められることもある。それだったら、僕は人を置いてきぼりにして、もっと面白い世界に行きたい。

左 石黒教授 右 石黒教授そっくりのアンドロイド「ジェミノイド」

ジェミノイドとは,モデルに酷似した外見を持つアンドロイドの総称であり、石黒氏は自分そっくりのジェミノイドをつくり話題となった。時折、講演や記者会見に、自分ではなくジェミノイドを登壇させることもある。

石黒氏が所属するATR (国際電気通信技術研究所)が2011年に開催したジェミノイドサミットでの写真。真ん中が石黒氏がモデル、右はデンマークの大学教授 Henrik Scharfe氏がモデル。右は女性がモデルとなっているが、名前は無い。

■"科学という宗教"と"主観の集合の世界観"をつくりたい

内田:
お2人は、今後創ってみたいものとか何かありますか?
猪子:
新しい大規模なディズニーランド創りたいですね。で、さらに次のステッップとしては、いつか街そのものをつくりたいなって。
石黒:
いいね。僕も小さい頃は、国そのものをつくりたいって思ってた。まあ、僕はつくらない方がいいと思うんだけどね(笑)

僕は、今後やりたいことは2つあって。一つは、5年後くらいをめどに、「意図」と「欲求」をちゃんと理解出来る"対話能力"のあるロボットをつくりたい。今までは、どうしても一問一答で、壊れた対話にしかならなかったけど。

もう一つは、"中途半端なモラル感"とか"アカデミアの基準"みたいなものに縛られた世界じゃなくて、"科学という宗教"を大事にできる、そういうグループや世界をつくりたい。今は、大学が自分にとって生きるためのお仕事なんですよね。そこは新しいものを発見したり創ることが最も重要視されているわけじゃない。でも、教師というお仕事以前にやるべき使命が僕にはあるわけじゃないですか。世の中どうなるか分からないのに、使命感に向かって取り組むというのは、ある種、宗教団体みたいなものだけど、そういうものをつくりたい。

そしてその先には、「主観の集合の世界観」をつくりたいと思っている。今まで客観性が重要視されてきたわけだけど、実際は"一人一人の主観"が社会を生み出しているわけで、今までの科学のような"客観的で単純な一つの法則"を探すのではなく、主観の集まりとして、社会や人間がどうなっているのかということを知りたい。絶対的な客観というのは無いから。主観の集まりとして社会が成り立っているところの原理が見つかると、なぜ皆が猪子ちゃんのようなテーマパークを楽しいと思うのか等、もう少ししっかり説明できるようになると思う。
内田:
猪子さんの「超主観空間」っていうのもそういうことですよね。
猪子:
今までは"人間以外の物理的な現象"に対してサイエンス的なアプローチがとられてきたけれども、主観的だとされて分断されていた領域にも、抽象的で再現性のあるものを発見できる、と僕も思いますね。
石黒:
「心」や「感情」についてもそうだけど、今までの物理法則に従った科学では説明出来ないことは沢山ある。僕が今やってることは技術の延長線上みたいなことなんだけど、いつかはしっかりそこをサイエンス的なアプローチで見たいと思ってる。

■テクノロジーの進化は、人をより"哲学的"に、"創造的"に

内田:
先ほど"冒頭"で「30年後には職業が変わっている」というお話がありましたが、どう変化しているのが理想だと思いますか?
猪子:
普通の仕事のほとんどが、"創造的な仕事"になっていくと僕は思う。
あまり創造的でない仕事は、ロボットや人工知能みたいなものが代行していくから。皆が創造的になって色んなモノをつくって、他人の作品によって自分自身も新しい発見をすることができる。そういう社会がより早くきたらいいなって。そっちの方がより人間らしいと思うし、楽しいと思う。
あと、色んなものが情報化されていく中で、人はより物質から解放されていくと思う。例えば「所有」って概念がこの10年で変わった気がしていて、以前は写真を撮ったら物質的な"モノ"に変換されないと所有している気がしなかったけど、今はデジタルやネット上にあれば所有しているのとほとんど変わらなくなった。
物質から解放されれば、人々を苦しめていた有限概念からも解放される。
戦争だって、有限なモノを奪うために行われてきましたよね。でも、人間が有限だと思っていることの多くが、実は有限ではないかもしれない。だから情報化によって、人は、自らをおぞましくしてきた有限概念から解放されていくんじゃないかな。
内田:
石黒さんはどう思いますか?
石黒:
僕は、人はより"哲学的"になっていくと思う。技術の進化は、人間の定義を変え、制約を取払い、今まで考えて来なかった問題をもっと考える余裕をつくると思うので。
人は、遺伝子だけでなく、技術によって進化していると思うんです。火を持ったときから動物と人間の差は出来ていて、技術は"身体の延長"なんです。だから、技術は人の定義を変えていき、制約を取り払う。そうすると、生活が楽チンになって、自分に問いかける時間が長くなっていく。

そもそも人間の脳がこれだけ大きいのも、自分の事を客観視して考えるためにあるような気がする。犬は、「犬とは何か」とは考えてないような気がするけど、人間は唯一してしまう。それ以外に存在価値が無いとさえ思うんです。
人は、「人とは何か」と考えるために生きていて、技術の発展によって皆がそういうことを出来るようになる。良いか悪いかは分からないですよ?そんなのそのときの価値観によるもので、急に変わったりするから。でも、進化した自分の生活や身体を見ながら自分について考える、それが未来であり、理想だと思っています。

猪子氏と石黒氏の言動を聞くと、"変人"だ、と思ってしまうかもしれない。しかし、トークセッションを通して彼等のモノの見方や考え方に不思議と共感できる部分も多々あったのではないだろうか?素直さを保つことは時として難しいが、彼等は素直に自分たちの「疑問」や「感情」に向き合い続けることができる。そのことが彼等を"異質者"たらしめているのかもしれないが、それを貫く覚悟こそが未来を切り開くのだろう。石黒氏と猪子氏の"素直さ"がつくる未来に、今後も目が離せない。

文:小林智久

おすすめ記事

最新記事