コミュニケーションがコンテンツビジネスに迫る再定義、その先にある未来とは

2015.03.19 11:00

インターネットが人口に膾炙してからはや20年以上が経過し、先月電通総研により発表された「日本の広告費」によればインターネット広告費が初めて1兆円の大台を超えたという。世のコンテンツのタイプを大別すると、マスメディアを中心としたいわゆる完パケ納品が基本の「売切型」に対し、WEBではより長期的な「運用型」が主流である。「SENSORS IGNITION 2015」では森永真弓(株式会社博報堂DYメディアパートナーズ)をモデレーターに加藤貞顕氏(株式会社ピースオブケイク)、片桐孝憲氏(ピクシブ株式会社)、篠田真貴子氏(株式会社東京糸井重里事務所)、青木耕平氏(株式会社クラシコム)、古川健介(株式会社nanapi)ら様々なバックグラウンドを持ったキーパソーンたちがコンテンツ・ビジネスの未来を占った。

■新時代のコンテンツビジネスを牽引するそれぞれのキャリアとバックグラウンド

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左からモデレーターを務めた森永氏、加藤氏、片桐氏、篠田氏、青木氏、古川氏


加藤:僕は元々、最初はアスキーという会社、その後はダイヤモンド社で編集者をしていました。『もしドラ』なんかはダイヤモンド社でやった仕事なんですけれども、電車の中でもみんなスマートフォンを見ているのが当たり前になったので、その中でコンテンツを作る仕組みがないとまずいと思い会社を立ち上げました。「cakes」というWebメディアと「note」というサービスを運営しています。どちらもこだわっているポイントは、コンテンツを売る仕組みが付いているということ。Webベースでコンテンツを売買できて、ファンとつながることができる特徴があります。


片桐:「Pixiv」はユーザーがイラストを投稿して、見せ合うサイトで月間32億PV以上、会員は1300万人います。日本でいうと、24番目くらいの規模のサイトです。他にも「Cure」というコスプレサイトや「アニメイト」というアニメグッズショップの取締役もやっています。


篠田:東京糸井重里事務所では1998年の6月より約17年間「ほぼ日刊イトイ新聞」というWebサイトを毎日更新し続けています。サイト内のコンテンツは全て無料でお読みできるようになっていて、一般のテキスト中心サイトとは違いバナー広告のようなものは一切表示していません。なのになぜ70名もの社員がいるのか。収益はオリジナルグッズの企画・通販からなっています。「ほぼ日手帳」が主力商品でして、昨年2014年度版は50万冊売り上げました。これはカジュアル手帳の分野ではおそらく日本で一番売れている手帳だと思います。私自身はネットビジネスに全く縁のないキャリアを送ってきました。どちらかというと金融ですとかコンサルティング、それに製薬や食品といったオールドエコノミーのB2Bの世界でやってまいりました。今は縁あり、糸井事務所で楽しくお仕事をしています。


青木:クラシコムでは「北欧、暮らしの道具店」という雑貨のECサイトを運営しています。今日ここに呼んでいただけた理由の一つは、我々がEコマース事業でありながら、広告をほとんど使わず、お客さんに楽しんでいただけるコンテンツをたくさん生成し、それを提供することで集客を実現できているからではないかと思います。一般にEコマースの事業を急速に伸ばそうと思うと、大体売上の20%は最低でもマーケティング費用を突っ込まなければいけないと言われています。我々の場合は、コンテンツに注力することで、毎期平均約1.6倍ずつくらい伸ばしつつ、広告費は1%前後で抑えています。WEBにコンテンツを投稿していくことに加え、隔月で数千部の紙媒体リトルプレスを発行したり、子会社で手作りのジャムを作る会社もやっています。こういったことも含め、コンテンツだと考えています。規模感としては1000万PV、Facebookのファンが30万、あるいはInstagramのフォロワーが10万人という形です。ビジネスの規模としては今期、大体8億弱といった具合です。


古川:「nanapi」は、Wikipediaのハウツー版を作ろうというところから始まったものです。ようは、「〜のやり方」を集めているサイトになります。投稿は一般の方から主婦、はたまたプロのライターが書いたものまで多岐にわたります。他にも「アンサー」という中高生がコミュニケーションをするアプリをやったりですとか、このイベントと同じ名前の「IGNITION」という海外メディアをやっています。会社の特徴としてはメディアとコミュニケーションを両軸でやっている点です。


■それぞれにとってのテクノロジーとコンテンツの関係性

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Pixivにとってテクノロジーはなくてはならないものだと語る片桐氏(ピクシブ株式会社 代表取締役社長)


篠田:私どもは今回登壇されている方の中でも、最もテクノロジーから遠いインターネットカンパニーかもしれません。インターネットが日本で拡がり始めた1998年から運営しているわけですが、長らくシステム担当者は社内に一人しかいませんでした。社員も増えたのですが、あまりにも周りで彼らが何を話しているのか分からず、宇宙人が宇宙語を話しているようだということで「宇宙部」という部名がつきました。私が管理部門を統括しているので、組織管理規定を作成したときに、正式名称として「宇宙部」と記載しました(笑)私たちも普通の生活者と同じようにテクノロジーは使いますが、それ自体で人を喜ばせるというよりも、テクノロジーがなくても普遍的に人が喜ぶもの、楽しめるものに軸足を置いて、自分たちがマネージできる範囲でテクノロジーを使うというスタンスで今のところやっています。


加藤:僕が元々いた出版はテクノロジーからかなり遠い業界なんですよね。日本の出版社って大体100年前に立ち上がったビジネスなんですけど、その頃の一番最初の盛り上がりは雑誌でした。雑誌で何をしていたかというと、「投稿」だったんですね。日本中の色んな人達が自分の意見を投稿して、その中から作家が生まれて、その中の選りすぐりの人が書籍を作り、そこに流通網ができる。現在のネットはその状況にとても近似しています。みんながコンテンツを発表しあっている。そこで経済が回っていく仕組みを作るのがちょうど今ではないかと思っています。「テクノロジーとは」ようするにクリエイティブをビジネスに変える仕組みを作るための道具っていうのが僕の答えですね。


青木:我々は可愛らしいインテリア雑貨を扱う会社なので、外側からはテクノロジーから距離があるという見られ方が一つあります。しかし実際はクリエイティブを支えるのがまさにテクノロジーだと思っていて、やはりテクノロジーの力で圧倒的に生産を高めた上でしか時間・労力・工数は生み出せないので、生産性の上にリッチなコンテンツを作るための原子は生まれるのだと思います。Eコマースのシステムをロボットで喩えるならば、「Amazonは人間を不要にするAIロボット。対して楽天の世界観は人間ができることの一部を代替するラジコンロボ」。僕らが構想すべきシステムはモビルスーツのようなものではないかとよく言っています。コアシステムに人間がいて、人間ができることを拡張してくれるシステム。


古川:我々にとってのテクノロジーとは、「人間をより人間らしくするもの」と考えています。当たり前ですが、スマートフォンの画面をみる前後にもユーザーさんの生活があるわけで、そこまで考えていかないといけないというのが一番中心にあります。分かりやすい例がルンバ。ルンバのおかげで掃除の時間が減るので、その時間を家族と話しましょう、自分の趣味に使いましょうというようにテクノロジーによって人間がより人間らしいことができるようになるというのが我々の観点です。さきほど紹介した「アンサー」というアプリだと、ヘビーユーザーは寝る時間以外の20時間くらい使っていたりするんですね。これはやっぱり不健康だと思っていて、例えば30分以上やったら「そろそろ休憩しましょう」とか、テストを控えた学生には「テスト期間中はアクセスしないように」っていう通知を送ったりしています。やはりそこまで踏み込んでサービスを提供したいと思っています。


片桐:前提として成功しているインターネット企業って全てテクノロジー・カンパニーなんですね。「Pixiv」というサイトも一見、人が絵を描いてそれを見るだけのサイトなので、全くビジネスとかなさそうに見えますよね。ビジネスがないサービスで儲けようと思った場合、すごい数のトラフィックを超安価に捌かないといけない。広告単価が安くても、インフラコストがめちゃくちゃ安いので、その差で利益が出る。なので、僕らは昔からインフラテクノロジーに関しては相当力を入れています。それによって、安くできるから利益が出る。そういうインフラ技術(=テクノロジー)がなかったら、Pixivっていうビジネス自体が存在しえない。不可欠なものですね。
余談ですが、Pixivを創業した当時に全然お金がなかったので、僕が消費者金融で借りたお金を元手に、秋葉原で買った部品でサーバーを組み立てたりしていました。会社の中で犬がおしっこをして漏電、止まってしまうなんてこともありました(笑)


■当たり前を当たり前にこなすことの重要性

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「北欧、暮らしの道具店」を始める前の経緯について語る青木氏(株式会社クラシコム 代表取締役)


森永:青木さん、篠田さん、加藤さんはもともと別のビジネス、業界にいらして、その知見をバックグラウンドに持った上で、インターネット・ビジネスをやっている。逆に片桐さんと古川さんはずっとネットに軸を置きながらやられている。この辺りのお話を伺えればと思います。


青木:クラシコムを始める前は、共同経営で不動産の建築設備の管理やメンテナンスの会社をやっていました。そこで賃貸不動産の直接取引ができるEマーケットプレイスを開発したのが、実はこの「クラシコム」という名前なんですよ。ところが力量がなく、箸にも棒にもかからず、「このままでは会社がつぶれる」と思い、急に雑貨屋さんになったという...そういう経緯なんですね(笑)インターネットと直接の関わりはなかったのですが、もともと会社の建て付けを整理整頓して効率化するという業務をやっていたのですが、その経験が生きています。僕は妹と一緒に起業したのですが、「こういうの素敵だよね」っていうのを担当する妹とそれを整理整頓してきちんとビジネスとしてスケールする形に持っていくのが僕の担当という形になっています。 もともとEサイトをやるつもりは全然なかったのですが、行きがかり上やることになったので、まずは業界の情報をキャッチアップする必要がありました。とりあえず本屋さんに行って、「10日で激売れ◯◯」っていう一番薄い本を買って、その中に書かれていたことを一つずつ全て実践していきました。同業他社の状況をみたときに、意外に全てを実践しているところがなかったんですね。当たり前のことを当たり前にやればなんとかなるというふうに経験上思ってきたので、始めたというのがあります。


森永:さきほど加藤さんの話の中で、出版の黎明期の雑誌が出てきました。「歴史は繰り返す」とありますが、そういった知見上、狙っているターンってありますか。


加藤:編集者の仕事って本を著者さんと「作る」というのが一つあるのですが、もう一つは「売る」っていうことなんですよね。そっちも結構重要なんですが、売るに当たって書店が減っているわけです。みんなが見ているコンテンツもスマートフォンに移っているので、その流れで止むに止まれずデジタルをやりだしたという経緯があります。そんな中で、「編集」のスキルは少なからず生きるのではないかと思っています。今までネットはとにかく綺麗に載せるとか、まずウェブページを作るとか、なんとなくソーシャルだとか、いわばインフラ整備が主題だったと思うんですが、今後はいかに作り込むとか、コミュニケーションするのかっていう部分が重要になってくるというのが僕のサイドから信じたいところです。とはいえ、以前よりもコミュニケーションの粒度が細かくなって、流れやすくなっているので、そこはケアしつつキャッチアップしていく必要はあると思っています。


■老舗ウェブメディア「ほぼ日」の起源と思想

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「ほぼ日」の思想を「銀座通り」に喩えながら説明する篠田氏(株式会社東京糸井重里事務所 取締役CFO)


森永:ソーシャルメディアが出現し、毎日自分たちで運用する必要が出てくると、逆に人材として「編集」の能力が重要になってくると思っています。その意味で、そういった印象が一番強い「ほぼ日」はどのような仕組みで運用しているのでしょうか。


篠田:それでいうと、なぜ糸井重里が「ほぼ日」を始めたのか、その経緯をお話するのが解答になる気がします。糸井は70年代、80年代にコピーライターとして仕事をしていました。90年代に入り、世の中も不況になると、広告の役割がたんに「安いです」っていうことさえ言っていれば良いという風潮に変わってきたというように糸井は感じていたと聞いています。そこで心が少しずつ離れていった。このように悩んでいた時期があり、97年に初めてインターネットに触れるんですね。スポンサーの意向に関係なく、生活者、一般の人と自分が直接やり取りできる。あるいは出版社がGOサインを出さずには持てなかった雑誌の連載も、自分が面白と思ったものや良いと思ったものは皆さんに直接お届けできる。ここに大変な可能性を感じ、インターネットを始めて1年後にはウェブサイトを立ち上げたわけです。それが49歳のときなんです。
ようはコンテンツとは、アイデアが形になったもの。形は文字かもしれないし、動画や商品、あるいはイベントも全てコンテンツ。それでお客さんに喜んでもらい、「ほぼ日」に時々来ようかなって思ってもらえるような場所になればいい。老若男女に来てもらえるような場所になることが本質だったので、そういった考え方・姿勢が共有できる方が「ほぼ日」を支えてくださっています。糸井が17年間毎日書き続けているのも、これが動機になっています。外部で書いてくださる方も、多くの方がノーギャランティで書いていただいています。ブログのはるか前からあるウェブサイトなので、今とは感覚が違うかもしれないですが、よく「銀座通り」に喩えることがあります。銀座通りにはたくさんのお店がある。けれど、全体としては「あ、銀座だな」っていうのと同じように、「ほぼ日」にもたくさんのタイプの商品やコンテンツもあるけど、全体としては「ほぼ日」のままなんですね。


森永:古川さんにお聞きしたいのですが、逆にずっとネットでやっているからこそ、こういうコンテンツ作りをしたらいいのにっていう発想ってあったりしますか?


■「顧客はドリルではなく、穴が欲しい」は真実か?

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独特のマーケティング論を披露する古川氏(株式会社nanapi 代表取締役)


古川:目的がまずあって、その手段としてインターネットをやっている人と、手段が目的になっている人の二つの軸があると思います。僕はインターネットを使って何かをするっていう手段を目的化しています。偉いマーケティングの人が「顧客はドリルが欲しいんじゃなくて、穴を開けたいんだ」って言ってたりしますが、僕はこの人マーケティング・センスないと思っています。かっこいいドリルだから買う人って絶対いるんですよ。僕や片桐さんは近いと思うんですが、とにかくインターネットすごいと。これで何かをしたいと思っていて、できたものの一つが「nanapi」なんですね。なので、何かコンテンツを編集して届けたいというよりも、色んな人の頭の中にあるハウツーの知見を外に出せるように、みんなが使えるようにすると良いんじゃないかと思ってやっています。


森永:片桐さんはインターネット・ビジネスをやるうえで、心がけていることなどありますか?


片桐:僕コンビニのバイトをしてたくらいダメで、生きていく上で、一番簡単だったのがインターネットだったわけです。「Pixiv」を作る前も、超人気があるサービスを作れば勝手にビジネスになるのではないかと思っていました。そうすれば後で勝手に広告とかが入って、ビジネスになるんじゃないかと。いくつか作っているうちに、Pixivがある意味勝手にできました。やっぱり褒めるっていう行為ってテキスト化しずらいんですよね。たとえば「絵上手いですね」って言われても、「本当に分かってるのかな」みたいな(笑)しかもネガティブなことの方がテキストになりやすいので、そういうコメントを付けずらくするとか、工夫はしました。


森永:nanapiでも同様のことは意識されているんですか?


古川:元々コミュニティ運営をしていたので、そういった知見を使っているという側面はあります。最近、「アンサー」をやっている中で気づいたのですが、人はとにかく反応があれば嬉しいんですね。コミュニケーションの二類型として、「パケット型」と「グルーミング型」があると思っています。いわゆる情報のやり取りが欲しいという「パケット型」。これはわりかしありふれているのですが、本当に求められているのって「グルーミング型」なんじゃないかと。ようはグルーミングって猿が毛づくろいするみたいな行為なんですが、アレってお互いに敵意がないという意思表示なので、生存本能に直結してるんですね。なので、何か投稿した時に一瞬で返ってくるってすごい安心感があったりして、人にとってすごく気持ちいいというのが分かってきました。最近だと何かを伝えるよりも、とにかく反応を早くする方に注目しています。


■コンテンツの二類型 マスの「売切型」vs ネット「運用型」

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「マスとネットでコンテンツの扱い方が違う」と問題提起をする森永氏(株式会社博報堂DYメディアパートナーズ)


森永:広告やマスメディアだと、反応がすぐ来ると怖いっていう発想が根強かったりするので、新しい観点だと思いました。ここからあえて、マスメディアとネットメディアでコンテンツの形が異なるという仮説の元、話を進めてみたいと思います。マスメディアではいわゆる完パケという一発「売切型」が中心であるのに対し、ネットでは時間軸の上に長期的にクリエイティブを育てていく「運用型」が大勢なのではないかという点です。


篠田:インターンの大学生が何人か弊社にも来てくれているんですけど、インターンの機会を知ったキッカケがほぼ全員先生かご両親なんです。17年もメディアを運営していると、「ほぼ日」を初期から見てくれている読者は、お子さんが大学生になっていて、ついにファミリーメディアへの途が拓かれたかなと。長らくやっている個人商店、間に卸しを挟まないB2Cのビジネスをやっている方であれば感覚は近いと思うのですが、「ほぼ日」では、ゆるく"嫌じゃない"感じというか、究極的には「信頼」というものをベースに運営しています。私どもはネット通販もやっていますし、無料でコンテンツも提供しています。連絡先の情報なども持っていますが、それをデータマイニングしたりそのビッグデータを活用するなどということは一切やりません。ダイレクトメールもほとんど出さないです。なぜかといえば、一回お買い物した後、お客様が私たちのことをどう思っているのかって、個別には分からないですよね。広く薄いけれども、「ほぼ日」対その方の信頼関係はたくさん作れる、それはすごい考えてやっていると思います。


青木:僕そもそもがですね、お隣にいる「ほぼ日」さんのストーカーというか(笑)「ほぼ日」を徹底的に因数分解して、それを自分達だったらいかに再構築できるかっていうことを何年もしてて。糸井さんが実は「ほぼ日」を始められる前に、「通販生活」で連載をされていたという事実に気づきました。「『通販生活』の中に『ほぼ日』のエッセンスのコアな部分があるんじゃないか」と研究を始めたんです。通販って基本的に数千点、場合によっては1万近くの商品ラインナップを載せるのが普通なのに、『通販生活では』200商品程度しか出てないんですね。しかもその中のかなりの商品は何年も変わらず売られている。なぜそれができるのか。「リライト(書き直し)」なんですね。例えば、使っている有名人が違うとか、「お風呂場の脱衣所を暖めるオイルヒーター」と言っていたかと思えば、次回は「寝室用のヒーター」っていう切り口に変えていたり。一つの商品情報を毎回、手を替え品を替え紹介している。
僕らEC事業者としてはお客さんのために、常に新商品を投入しなければいけないというのが宿命として一つあるんですが、一方で新しい商品を出し続けるというのは無制限にやれば在庫をどんどん増やしていくことにもなります。だとすれば、在庫リスクを増やさず、リテンション率を高めるのに『通販生活』のリライトは有効だなと。というわけで、EC事業者としてはけっこう珍しいと思うんですけど、我々は積極的に過去に売った商品を何度も何度もリライトし、撮影もし直して、「商品ページをリニューアルしました」っていうと結構売れるんですね。


森永:セッションの前に、雑談で青木さんが「写真も撮れて、文章もそれなりに書けて、あと経理もできる」みたいなマルチな人を採っているというお話をされていましたが、こういう人が欲しいみたいな、求めている人材像ってありますか。


■今コンテンツ・ビジネスに求められる人材とは

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コンテンツ・ビジネスに求められる新しい人材像について語る加藤氏(株式会社ピースオブケイク 代表取締役CEO)


古川:最近よく言われる「コミュニティ・マネージャー」のような像はよく考えます。例えば、InstagramやFacebookなどグロースハックに強い企業では、「毎日なにしてるんですか?」と尋ねると、「毎日ユーザーと飲んでます」って言うんですね。それが圧倒的にグロースに効いているということで、これは面白いなと。やはりコミュニティ・サイトで肝要なのは、ユーザーさんと一緒に育てていくこと。なので最初からクオリティが高いのはダメなんですね。結構、オールドメディアの方に限って、読者さんと会ってなかったりするんですね。一方で、Instagramみたいなところは毎月何百人と会ってたりとか、食べログさんも上位のレビュアーとは全員会ってたり、クックパッドさんもレシピを書いている上位何百人の人にも全員電話して話してるんですね。こうやってユーザーと共にコミュニティを育てていけるのが良い人材かなと思っています。なので、Pixivさんとかも絵を描いてる人をオフィスに呼んでイベントをやったり、絵を描いてるっていうだけでオフィスに椅子をあげたり、そういうことがないとインターネットのユーザーさんが作っていくサイトはできないと思いますね。


片桐:そもそもウチの会社に入ってくるような人は、ほとんどユーザーなんです。会社でお絵描き大会をやったり、普通にカードゲームの大会をやったりして、イラストレーター同士、ユーザー同士で活発に交流しています。あと毎週水曜日に全員でやっているランチも7年くらい続いています。社員と開発チームでユーザーを囲んで、開発チームに「こういう機能が欲しい」とか「あの機能は要らない」とか言われながら、開発してますね。


加藤:皆さんの話とも被るのですが、さきほどの時間軸の話で、わりとスタティック(静的)な完成品の話と、もうちょっとコミュニケーションに寄った話があります。ようするにネットはコンテンツを作るコストが安いので、時系列が短くなっているわけですよね。古川さんがおっしゃっていたグルーミングのところから究極は、彼氏にLINEを送るみたいなところまでいくわけです。ただ、その間にもグラデーションのように、めちゃくちゃ作り込んだコンテンツからゆるいものまで色々ある。前の編集者やCMのクリエイティブ・ディレクター、あるいは映像プロデューサーとかだったら、作り込んだものをバンと作るっていう仕事だったわけですが、そのギルドが小さくなってコンテンツを作ったりするんだけれど、そこではユーザーとコミュニケーションもするし、クリエーターの小間使いもする。なんていうか、そういう総務的な仕事をする人が一番必要ですね。コミュニティ・マネージャーのような。


篠田:私どもが最も大事にしているのは、プロの技能よりも、嘘をつかないということ。もちろん意図的に嘘をつかないのは社会人として当たり前ですが、人って意図せざる嘘をつくんですよ。我々でも例えば、「『ほぼ日手帳』が良いですよ」って言った時に、手を替え品を替え表現できるのがプロとされる世界もあるとは思います。実態を超えてセンセーショナルに言うことや、本当は書き手が思ってもいないことを技術としてそういう表現を使う癖がある人はダメです。それはさっき申し上げた長期の信頼を損なうように働くという経験値があるからです。なので素直に生活者として、メタ視点から自分の行動や気持ちをみることが重要になってきます。第三者的に「なぜこのお味噌汁をつい飲んでしまうんだろう」とかいうことに気がつくことがすごく大事です。生活の中で見過ごされている価値を再発見して、それをプロデュースしてお客様に価値あるものとしてまた見ていただけるような力をつけていきたいと思ってらっしゃる方が欲しいです。資質としては技術よりも、自分の動機に素直になれるかということです。


森永:みなさん「うんうん」と頷きながら話を聞いていて、私も「なるほど」と思いました。うまく篠田さんに締めていただいた形ですね。このセッションでは技術への考え方、それぞれのバックグラウンドの活かし方、スキルではなく人間性で人材を選ぶこと、コンテンツビジネスにまつわる色んなお土産をみなさんに残せたのではないかと思います。今日はありがとうございました。


「Content is King.(コンテンツは王様)」という有名な言葉がある。WEBの興隆と共に、映像・出版・音楽をはじめ全領域でコンテンツを取り巻いていた中央集権体制がなし崩れとなった。コンテンツよりもプラットフォームが短命になりつつある時代に、デジタルの先にあるコンテンツビジネスとは如何なるものか。今回のセッションで浮かび上がった鍵は「コミュニケーション」と「コミュニティ」であった。「Content」「Communication」「Community」この全ての接頭語(com-, co-, con)には「共に」という共通の意味がある。「共同性」「相互性」「双方向性」はネットの誕生からウェブ2.0まで滔々と語られてきたことだが、それは人間に生来具わる社会性の裏書に他ならない。コンテンツビジネスの未来を占うことは、人間の本源を見つめ直すことそのものなのかもしれない。


取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh



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