クリエイティブが変える、広告の定義と未来像

2015.03.21 16:00

溶け合う広告とテクノロジーとテレビ、そしてビジネスセンス

ネット・デジタルの普及、またそれらを活かしたクリエイティブは、様々な領域の垣根を無くしている。 先日、クリエイティブエージェンシーSIXの開発した「Lyric Speaker(リリック・スピーカー)」がSXSWアクセラレーター・ファイナリストとして日本企業初選出され、話題となった。広告をつくる会社が、自社で製品を開発する。広告も垣根が無くなっている業界の一つなのであろう。垣根を越えて、広告・メディア業界は今後なにをつくるのだろうか。
「SENSORS IGNITION 2015」では、世界的に活躍するクリエイター、朴 正義(株式会社バスキュール)、野添 剛士(株式会社SIX)、中村 洋基(株式会社パーティー)と、三枝 孝臣(日本テレビ放送網株式会社)をモデレーターに、「クリエイティブが変える、広告の定義と未来像」について語られた。


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左から 朴氏、野添氏、中村氏 



■ 高まるクリエイティブへの期待感


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モデレーター・三枝氏


三枝:クライアントに最近求められる課題解決ってどんなのがあるんでしょうか?


中村:よく言われるのが、"デジタルの駆け込み寺"。「デジタルが流行っているから何かしたいんだけど、ネット上にコンテンツをUPするだけじゃダメなよう気がして、何していいかわからないから何とかしてください!」というような。だから、まず課題を明確化することから始めます。


野添:僕はマス広告から入ってきた人だから特に新鮮に感じるのが、「モノや商品が無いオリエン(依頼)」が増えてきていることですね。商品になる前段階の状態で依頼が来ます。先日も、クライアントの研究所に行き、活用用途が見えない技術の説明をたくさん受けて、「これらを、生活者の"あったらいいな"というモノに一緒に変えていって欲しい。」というようなオリエンを受けました。


朴:デジタルクリエイティブへの期待はとても大きいですよね。それは、今までのような面白キャンペーンサイトだけじゃ中々見てもらえなくなってきたこと。その中でスマホは、365日24時間帯同する特異なメディアなので、それを使って永続的なコミュニケーションを取りたがっているように思います。



■ 広告費が生活者に還元される時代


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SIX 野添氏


三枝:最近広告がコンテンツ化して、その垣根が無くなっているように思うのですが、この動きは今後加速するのでしょうか?


朴:広告がコンテンツ化するというよりも、電話や時計など、普通のモノの中にデジタルが入り込んでいったように、『コンテンツ・プロダクトの中に広告が入り込んでいく』ような気がします。例えば、Kindleの漫画1巻無料というのも、ついつい見てしまう。


中村:今僕らは広告をつくっている実感が無くて、コンテンツをつくっている。例えば、企業が広告のためにつくったアプリは1万DLされればいい方なのですが、「しずかったー(http://www.toyotown.jp/sizukatter/)」という、ツイートを綺麗な言葉に直してくれるアプリは、150万DLを記録しています。これは、僕が酔っ払っている時に、流してはいけないツイートをよくしてしまう体験から、自動で綺麗に変換してくれるアプリが欲しいなと思ってつくりました。だから、広告というよりかは、『ツールの中に広告が入っている』イメージです。


野添:SIXでも以前、子供が96%の確率で泣き止む動画(http://lotte-cafca.jp/movie/)というのを、お母さん向けに企業広告でつくったことがあります。


朴:LINEのスタンプもそうですよね。広告が、コミュニケーションの助けになっている。


三枝:ユーザーの課題解決になるようなモノを提案していくと、素直に受け入れられて、コミュニケーションに繋がるということですね。


野添:先日、電通さんが2014年の日本の広告費について6兆1,522億という調査結果を出していたんですが、そういったお金が課題解決に繋がる広告に使われていくことで、これからどんどん生活者サイドにも還元されていけるような時代が来ると思っています。



■ テレビメディアはもっと遊べる。クリエイターが寄せる期待


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テクノロジーの進歩により様々なサービス・常識がアップデートされていく中で、テレビやCMは今後どのように変化していくべきなのか。クリエイター3名は、そのアイデアと期待を三枝氏に寄せた。


三枝:テレビCMにはどんな変化が必要だと思いますか?


野添:一回ルールを忘れて、素直に「何が面白いか、今の技術でどんなことができるのか」という視点からCMを作らせて欲しいですよね。


中村:ルールでいうと、CMって5営業日前納品なんですけど、そういうのやめればいいと思うんですよ。映像の出力の仕方もPCからできるようになれば、15秒・30秒のCMもインタラクティブにできたりして、可能なことが沢山増えると思います。


朴:そういう意味では、新しいCMがつくりたくて、番組のCM枠を買ってバスキュールがCMを流したことがあります(笑)「この番組の提供は、バスキュールです。」のような感じですね。ただ、1時間の番組を買うと6分のCM枠がもらえるのですが、6分のCMをつくるお金も無いので、「1分でいいや」って、あとの5分は返してしまいました(笑)


三枝:すばらしいクライアントですね(笑)


中村:企業が何千万とつぎ込んで買うCM枠を要らないから返した?!(笑)それでどんなCMをつくったんですか?


朴:実際の30秒のCM放送中に、スマホからリアルタイムでユーザーの反応を取得して、それを映像の上にテロップで載せる、ということをやりました。結果、4000人くらいの人が反応してくれました。


朴:あとは、時間軸で考えなくてもいいと思うんです。例えば、このSENSORS IGNITIONは、番組をリアルタイムで観てない人も大勢来ていて、テレビとは時間軸も場所も違うところでメディアが成立している。その上テレビがその流れの加速材になっているという側面もあって、テレビの新しい可能性を垣間見た気がしました。


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バスキュールが放送したCM。



■ 「この業界には、もっと"大人"が欲しい。」無邪気さとビジネスの両立


 

 


野添氏が代表を務めるSIXが開発を手がけた、音楽と同期して歌詞が透過スクリーン上に自動生成されるスピーカー「Lyric Speaker」。デジタルデバイスで音楽を聴くようになってから失われた「歌詞カードを握りしめながら音楽を聴く体験」。テクノロジーが進歩した今、もう一度その体験を蘇らせたかったと語る、野添氏。同製品は、先日のSXSWアクセラレーターでファイナリストに日本企業から初めて選出され、「Best Bootstrap Company」に選ばれた。
広告を生業とする企業が、製品開発でイノベーションを起こすのか。しかし野添氏と中村氏は、クリエイティブの人たちがモノを開発する上での課題点を話した。


野添:昨年、「Lyric Speaker」を発表したんですけど、実は製品化はまだ考え中なんです。というのも、僕らはクリエイティブの人なので、テクノロジーを用いたアイデアを考えたりすることは得意なんですけど、ビジネスプランを考えるというところは実際あまり得意でない。だから、まだまだ素人感が強くて。


中村:わかります。僕らも時折開発して作ったりしているんですが、ビジネスのことをまともに考えられる人があんまりいないんですよ。ここはスタートアップと違うところですよね。
僕らが2年前に「OMOTE 3D SHASHIN KAN(オモテサンドウシャシンカン)」 (http://www.omote3d.com/)を立ち上げた時は、権利問題やビジネス的な側面を何も考えずに発表したら世界中からパクられました。そこで初めて弁護士さんとかに相談したんですけど、「もうどうしようもない。手遅れ。」って言われまして。

野添:SIXが「Lyric Speaker」を完成させた時も、何も考えずにネット上にポンって載せたんですよ。そしたら詳しい人達から、「これってビジネス強度はちゃんとできてる?」って聞かれて、「え、ビジネス強度ってなんですか?」みたいな感じになりました(笑)


朴:UBERやAirbnbなどもそうですけど、真新しいビジネスよりも、既存のビジネスに現代ならではのクリエイティブを取り入れれば、何兆円にも化けるということがあり得る時代。だから、そういったクリエイティブのノウハウを元々持っている広告代理店やテレビ局にビジネスの分かる人がいないのは勿体ないですよね。


三枝:ビジネスプロデューサーをちゃんと育てたほうがいいってことですね。


野添:育てる時間が無かったら、例えば商社などの外の企業と組んでいくのもいいと思います。


三枝:面白いものができたら、クリエイターはついつい「すぐに見せちゃおう!」となりがちですからね。子供が「工作できた!」みたいに。だから、ちゃんと工作ができたら、「どこが良くて、どうやったら売れるのか」まで考えて先生に提出してください、と。


中村:そう。それで子供がそのまま出しちゃったから、「OMOTE 3D SHASHIN KAN(オモテサンドウシャシンカン)」は世界中からパクられて泣きじゃくった。この業界には大人がほしいです(笑)



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PARTY 中村氏



■ 垣根を越境した先に未来はある


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バスキュール 朴氏


三枝:広告業界には今後どのような人材が必要なのでしょうか?


朴:野添さんのスピーカーもそうですが、領域を横断して取り組んだ際に新しいモノが生まれるということがある。だから、そうやって「勇気を持って垣根を越境していける人材」を採りたいと思ってます。もちろんさっきの話の流れでいう、ビジネスの分かる人も今後入ってくることを期待します。


[登壇者プロフィール]


朴 正義(ぼく・まさよし)
株式会社バスキュール 代表取締役/クリエイティブディレクター。言語や世代を超え、多くの人に楽しんでもらえるインタラクティブコンテンツを生み出すことを目標に、2000年にバスキュールを設立。数多くの企業やブランドのデジタルプロモーションを手掛けると共に、テレビ×インタラクティブという新しいライブエンターテイメントに挑戦する。


野添 剛士(のぞえ・たけし)
株式会社SIX 代表取締役/クリエイティブディレクター。博報堂のクリエイティブディレクターとして活躍後、2013年に5人のクリエイエティブディレクターとSIXを設立。「ブランドの課題解決」と「世の中への良質な未体験の提供」が両立するキャンペーンを常に目指し、国内外の広告賞受賞、審査員歴も多数。最近では、自社で開発を行ったプロダクト「Lyric Speaker(リリック・スピーカー)」がSXSWアクセラレーター・ファイナリストに日本企業として初選出されるなど話題となった。


中村 洋基(なかむら・ひろき)
株式会社パーティー クリエイティブ・ディレクター。電通を経て、2011年にクリエイティブラボ「PARTY」を設立。斬新なデジタルキャンペーンを手がけ、国内外200以上の広告賞を受賞。最近の仕事では、TOYOTOWNのデジタル全キャンペーンや、モーターショーの総合演出、レディーガガの人間型試聴機などを制作している。


三枝 孝臣(さえぐさ・たかおみ)(モデレーター)
日本テレビ放送網株式会社/SENSORS クリエイティブディレクター。慶應義塾大学卒。89年入社後、『THE 夜もヒッパレ』『DAISUKI(ダイスキ)』『さんま&SMAP! 美女と野獣のクリスマススペシャル』『スッキリ!!』『ZIP!』などの演出・プロデュースに関わってきた。



(SENSORS編集部 取材・文:小林智久)




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