『あらゆる既存産業がディスラプトされる時代が来る』大企業がスタートアップとの共創に乗り出すワケとは?~Scrum Ventures宮田氏インタビュー【前編】~

2015.03.02 22:33

大企業自らが、短期間でスタートアップの育成を行うプログラムである"アクセラレーター"を運営するケースが増えている。こうしたアクセラレーターは、【コーポレート・アクセラレーター】と呼ばれ、既にディズニー、ワーナー、ナイキといった有名企業が実施しており、世界的なトレンドになりつつある。その背景をScrum Ventures代表の宮田拓弥(みやた たくや)氏に訪ねた。


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Scrum Ventures宮田氏。自身の経験からか発する言葉の一つ一つに力強さがある。


宮田氏は日米両方で起業経験を持ち、米Googleへ事業を売却した実績を持つ。現在はシリコンバレーでベンチャーキャピタルを立ち上げ、投資家として現地のアクセラレーターのDemoDayに数多く足を運んでいる。そんな宮田氏は、大企業がアクセラレーターを実施することをどのように考えているのか。大きな背景にあるのは、起業環境の向上である。


■新規事業をやるなら大企業よりもスタートアップ。空気を吸うのと同じくらい起業をすることが簡単になった。


宮田:今は、アイデアと気持ちさえあれば、会社を作ること自体が息をするのと同じくらい簡単になっています。2000年代にもスタートアップ・ブームは起きましたが、その時と大きく違う点としてあるのは、コストです。2000年くらいはサーバーを確保するためだけでも、億単位の資金が必要でしたが、今は、例えばモバイルアプリを作りたいとなっても、AWSやオープンソースなどを活用して、ほとんどコストがかからずにインフラを揃えることができます。会社をつくること、プロダクトをデプロイすることへのハードルが劇的に下がっており、既存のビジネスが守られていた部分が少なくなっています。


新規事業を立ち上げる際、資金面や人材面などを考慮し、企業内で立ち上げることの方が都合が良い面もある。一方で、大企業になるほど、組織内のしがらみの多さ、計画の作成から実際にプロダクトローンチまでに膨大な時間を要するなどの問題もある。ところが、今はイノベーターやアントレプレナー達にとって、組織内で事業を起こすよりも、スタートアップを始める方が簡単かつ合理的であるという環境が生まれているようだ。


■ほとんどの既存産業がスタートアップにディスラプトされる未来。「闘い」か「共生」か。迫られる大企業の選択。


起業環境の向上により、日々多くスタートアップが登場している。それは大企業に何をもたらすのであろうか。


宮田:すごく大げさに言うと、ほとんどの大企業は既存事業が無くなるリスクを感じています。多くの上場が持つ既存事業も、将来的にディスラプト(≒創造的破壊)される時代が確実に来ます。インターネットは、もはやインターネットの中だけで完結するものでなく、あらゆるビジネスや生活を変えてきている。これまでは「メディア業界」においてその傾向が顕著でした。新聞やテレビのライバルとなるのが、GoogleでありYahoo!であったわけです。しかし、IoTなど、私たちの生活空間とインターネットが切り離せなくなっており、メディアだけでなく、ほとんどの産業がネットビジネス化されてきている。Software is eating the worldという言葉にも象徴されますね。そうした背景で、既存の古い企業(≒大企業)は、スタートアップと「闘う」か「共生」するかという選択が迫られています。


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スタートアップコミュニティを運営するCreww(クルー)株式会社では、日本の大手企業とスタートアップを結びつける取り組みを行っている。


革新的なビジネスを始めようとするのであれば、現代において大きな変化をもたらしているソフトウェアを無視することはできない。アイデアと情熱と機動力を持つスタートアップが、大企業の領域を徐々にディスラプトしてきている。この時、大企業は「闘う」ことを選択するのでなく、「共生」することを選びはじめている。その共生の一つの形こそが、コーポレート・アクセラレーターなのだ。投資実行によるキャピタルゲインの獲得よりも、 スタートアップと既存事業との具体的なシナジーを獲得することを目的に実施されることが多い。


■「サラリーマン」にスタートアップのメンターは務まるか?


一方、日本でも、大手通信キャリアを筆頭に大企業がスタートアップと共生するための仕組み作りが既に行われてきている。シリコンバレーを中心とした欧米のコーポレート・アクセラレーターと比較して、日本企業の取り組みの課題を訪ねてみた。


宮田:日本のアクセラレーターとシリコンバレーのアクセラレーターと比較したときの大きな違いは【メンターの経歴】です。よく日本でシリコンバレーをつくれるのか、つくれないかという議論があるが、僕は日本でもシリコンバレーみたいなシステムは、将来的につくることができるという可能性はあると思っています。ただ、シリコンバレーでは、1960年代には半導体、80年代ではパソコン、90年代でインターネットと、80歳代のおじいちゃんで元アントレプレナーというのがゴロゴロいるんです。アントレプレナーのボリュームや、経験の深みがまったく違う。


宮田:例えば大手広告会社のR/GAが実施するアクセラレーターには、129人のメンターがいます。その内訳は、先輩起業家やベンチャーキャピタリストですが、これ以外が面白い。コカ・コーラやサムスンなどの重役がメンターとして加わっているんですよ。インキュベーションチームにアサインされたサラリーマンではなく、起業家と専門VCと大企業のトップレベルのエグゼクティブがメンターに入る。




宮田:大企業が運営するアクセラレーターといっても、大企業の中に起業経験者がたくさんいるんですよ。なので、メンターの質が圧倒的に違う。日本の大企業のアクセラレーターでは、起業経験に乏しい人材がメンターとしてアサインされることがあるようですが、サラリーマンの仕事の延長上としては決してメンターは務まりません。経験が無いのであれば、起業家と最後まで伴走し切るという覚悟が必要でしょう。


■欧米ではアクセラレーターが乱立し、過当競争に突入。TechStarsによる差別化としてのコーポレート・アクセラレーター。


大企業が自力でコーポレート・アクセラレーターの仕組みを整えることは難しい。実はディズニーやナイキ、R/GAなどのアクセラレーターは、【TechStars】というY combinatorと並んで評価の高いアクセラレーターと共同で運営している。なぜ、TechStarsは大企業と共同でアクセラレーターを運営しているのか。それには、「アクセラレーターの過当競争」があるという。


宮田:客観的な意見になりますが、理由の一つとして、アクセラレーターの過当競争がはじまっていると考えています。最初のアクセラレーターであるY combinatorが2005年にはじまり、今となっては、大学と同じように、1都市に10個くらい、どこにでもアクセラレーターはあります。一流の人たちはY combinatorを受け、滑り止めで500 Startupsを受けるという世界になってきている。明らかにクオリティに差がついてきてしまっています。そこで差別化や味付けが必要になってくる。


宮田:それがなぜ、コーポレート・アクセラレーターという形になるのか。僕はほとんどのPowered by TechStarsを、アクセラレーターのDemoDayを見てきているが、価値はすごくある!ディズニー・アクセラレーターはとても良いと思った。ディズニーはキャラターやテレビ、テーマパークなどのアセット(資産)をすごく持っています。それらをスタートアップが触れることができる。スタートアップは技術やイノベーションという価値をつくらなければならなかった。けれども、例えばHuluなどで普通のユーザーが求めているのは、仕組みよりもコンテンツが面白いかどうか。でも、スタートアップがコンテンツをつくることは難しい。スタートアップの勢いや技術と、大企業が持つコンテンツが混ざり合わうことは既存のアクセラレーターやインキュベーターにはできなかったことです。


テクノロジーの進化が起業環境の向上を生み出し、起業環境の向上がアクセラレーターの過当競争を生み出し、ある意味の歴史の必然の中でコーポレート・アクセラレーターという形態が生まれているのかもしれない。


後編では、具体的なトピックとして「ディズニー・アクセラレーター」がどのように運営されているのか、そして、エンターテインメント・ビジネスの未来について、宮田氏のインタビューを掲載する。


(協力:Creww株式会社 取材:石塚たけろう)

石塚たけろう:ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、広告会社にてスタートアップと大企業の共同事業開発モデルであるコーポレート・アクセラレーターの運営に携わる。フロントエンドエンジニア。@takerou_ishi


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